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コラム連載 送電線投資は誰が負担するか-東北北部エリア募集プロセスへの疑問-

送電線投資は誰が負担するか-東北北部エリア募集プロセスへの疑問-

2018年3月1日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

【個別協議、募集プロセスで開発者が増強工事を負担】
 強い再エネ開発意欲を背景に、多くの地域で送電線の空き容量がゼロとなっており、電源開発のための系統接続ができない状況にある。この場合は、事業者と電力会社とで系統増強費用等について「個別協議」を行い、合意ができれば接続が可能となる。増強された結果送電線に余裕が生じれば、その後の開発者は負担なしに接続できる可能性も出てくる。増強工事を単独ではなく複数の開発予定者による共同負担とする仕組みが「募集プロセス」である。募集容量を上回る応募者がある場合、入札により選別することになる。

 日本では、空容量ゼロの場合基本的に開発事業者が負担するルールになっているが、増強工事は専ら新規接続を希望する事業者の便益になる、との認識が背景にある。当認識の是非は大きな議論を呼んでいるが、ここでは触れない。

【東北北部エリア募集プロセス】
 さて、風力等再エネ資源が豊富な東北地方では、多くの募集プロセスが進んでいるが、なかでも、「東北北部エリア募集プロセス」は、規模が大きいこと、工事期間が長期にわたり完成前でも事故時の出力抑制を前提に接続を認める「暫定措置」が採用されたこと、から注目を集めている。青森、岩手、秋田の北東北3県は特に風力開発計画が多いが、2016年5月末に全域送電線空容量ゼロとなり関係者に大きな衝撃を与えた。

 2016年10月に280万kWの募集を開始し、2017年8月時点では風力を主に1550万kW分の応募があった。2017年12月には募集枠が350~450万kWに拡大されるとともに、増強工事ルートが公開された(資料1)。2018年1月30日の政府の系統WGにおいて、再入札の時期が当初予定の2018年2月から延期されること(その後4月以降と発表)、募集枠が拡大したのは「想定潮流の合理化」により従来の計算ルールの変更によるとの説明がなされた。これは、WGの前日の当講座主催の京大シンポジウムにて、政府および東北電力より説明があった。

資料1.東北北部エリア募集プロセス
資料1.東北北部エリア募集プロセス
(出所)東北電力資料に一部加筆

 前置きが長くなったが、今回は、この東北北部エリア募集プロセスについて、工事の趣旨と負担のあり方について考察する。

【募集プロセスとしての送電線大ループ化工事】
 東北電力は、2017年12月の新エネルギ-小委員会系統WGにて、東北北部エリア募集プロセスの対象工事として、新潟県から山形県を経由して秋田県に至る500kV送電線整備計画を発表した。新潟県北部(新潟変電所、朝日幹線)→山形県南部(朝日幹線、南山形幹線、西山形変電所)→山形県中央・北東部(西山形変電所、八幡変電所)→秋田県沿岸部(八幡変電所→秋田変電所南東の新設変電所)の広範囲におよぶルートである(資料1の右図)。新潟県と山形県は既存274kV線の500kVへの昇圧を基本とする。秋田県内は500kV線を日本海沿岸に沿って新設する。

【大ループ化工事の意義】
 このルートは、東北地方の供給信頼度が向上する上で意義の大きい事業である。新潟を含む東北電力管内7県は、広大な地域を抱える割に需要規模は大きくない。東北電力管内は仙台市、新潟市、福島県主要部、秋田市、八戸市等に需要が集中するが、発電設備もこれらの需要地近辺の沿岸部等に集中立地しており、そこから周辺の需要地に供給するシステムとなっている。特に新潟港、仙台港に立地する設備は、中・北部地域への最大の供給拠点となっている。山形県以北エリアへの安定供給を考えた場合、日本海側と太平洋側、南部と北部を結ぶルートの拡充は非常に重要であり、東北電力にとっても長年の悲願であった。

 南北ルートの拡充は、青森県(上北変電所)から宮城県(宮城変電所)にかけて従来の275kVルートに加えて500kVルートが2011年6月に運用開始している(資料2)。これは、3.11震災による大停電を受けて、当初予定を2年4カ月前倒ししたものである。当時東北電力は「当社管内の北部と南部の連系が増強され、当社管内全域の電力系統の強化が図られるものです。また、これにより、東通原子力発電所の外部電源確保の信頼性向上にもつながるものと考えております。」と説明している。

資料2.北東北4県基幹送電線配置
資料2.北東北4県基幹送電線配置
(出所)京都大学安田・山家

 今回の計画が実現すれば、日本海ルートの500kV化が実現し、東北エリアの500kVループ化がかなりの程度完成することになる。この意義は、以下の東北電力の説明によっても明らかである。

【南山形幹線建設の意義】
 この計画の一部を成す南山形幹線は、西山形変電所と越後から西仙台に至る朝日幹線を繋ぐことで新潟県、山形県、宮城県が500kVにてループ化される核心ともいえる事業である。同幹線は、2015年6月に着工し2017年12月に容量275kVにて竣工しているが、500kV設計としていた(資料3)。

資料3.南山形幹線、系統図
資料3.南山形幹線、系統図
(出所)東北電力

着工時の東北電力の説明は以下の通りである。
引用文
 東北北部エリア募集プロセス開始以前であるが、今次計画と同じルートが既に予定されている。東日本大震災の経験から、東西そして南北連系の重要性が改めて浮き彫りとなり、それを実現する効果が強調されている。これは、太平洋側の500kV送電線と同様に、管内需要家のための工事であり、送電会社が負担する(一般負担)。

【どうして大ループ化投資に再エネ事業者が負担するのか】
 今回の募集プロセス対象工事は、このときの説明と同じルートであるように見える。山形県北部沿岸の八幡変電所から秋田市東南に位置する変電所までの経路は新設である。青森県から宮城県までの500kVルートと今回の計画と合わせると、500kVルートを主とする管内大ループ化の完成に向けて大きく前進する。

 これにより、東北全体の系統が安定化し、再エネ等限界費用の低い供給力が増加し、卸価格が低下し、企業立地が促進することが期待できる。インフラ整備効果であるが、これは幅広いメリットが期待されることから、送電会社の負担で建設し需要家より電気料金で回収するのが道理であろう。東北電力も「系統全体での効果が期待できる良い投資」との認識を持っている。前述の通り、かねてより同社系統整備計画の根幹に位置付けられている。

 然るに、本投資は募集プロセスに組み込まれていることから、投資負担の多くは北東北3県に発電所建設計画を持つ事業者、特に環境アセス準備等により遅れてきた風力関係者が負担することになる。風力は、募集申込み総量1550万kWのうち1250万kWを占め、うち800万kWは洋上である。

 エネルギ-の基本インフラである送電線は、ネットワーク整備であり多様な効果を生む。特に今次計画は、既存基幹系統と広範囲にわたり繋がりループ化し、ネットワークの強靭化に資するものである。青森県から宮城県に至る太平洋側縦断ルート、新潟県から宮城県に至る横断ルートに山形県と秋田県を大容量設備で組み込むもので、供給信頼度向上に大きく寄与する。既設は電力会社が負担したが、今回は北東北に計画を有する主として風力開発事業者が負担する。北東北への新規立地にも資するが、それが唯一の意義とは思えない。需要家や地域全体に効果が及ぶ投資を風力事業者が負担するように見える。電力インフラ投資の意義と負担について原則に立ち返った見直しが必要である。

 なお、北東北募プロに関しては、他にも接続ルールの見直しが行われている最中であること(コネクト&マネージの議論)、秋田・山形両県で開発を計画している事業者が募集対象になっていない、どうして再エネ設備の負担が火力等従来設備より重くなるのか等の重要な論点があるが、機会を見て取り上げたい。

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