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コラム連載 バーチャル発電所(VPP)とは何か?-その2:フレキシビリティ(柔軟性)を供給するVPP-

バーチャル発電所(VPP)とは何か?-その2:フレキシビリティ(柔軟性)を供給するVPP-

2018年4月26日 中山琢夫 京都大学大学院経済学研究科特定助教

 前コラムで指摘したように、ドイツのネクスト・クラフトべルケ社は、物理的な発電施設は一切持たずに、大きなバーチャル発電所を運営している。その方向性は、将来的にも変わらないという。

 彼らが系統に接続して提供しているのは、フレキシビリティ(柔軟性)である。柔軟性に対する需要は、一つは系統運用者から、もう一つは電力スポット市場から求められる。とくに、系統運用者(TSO:Transmission System Operator)から求められるような柔軟性の需要に対して、彼らが接続している様々な電源や資源、いわゆる既存の大規模発電設備以外のあらゆる電源や資源を集めて、柔軟性を提供していくことになる。

 まず、なぜ柔軟性が重要かというと、その前提として、ドイツに限らず世界中において、太陽光や風力といった変動性電源が、最も安い電源になりつつあると同社は認識しており、同時にこれらの電源は環境的にも持続可能ということで、今後さらに大きく成長していくと考えられているからである。

 もちろん、こうした変動性電源は素晴らしい電源ではあるが、欠点もある。そのひとつが、予測が難しいということと、速いスピードで変動するということである。すなわち、従来型電源と比べて、コントロールが難しいということである。

 そこで彼らは、この変動に適応できるような仕組みを提供していくことになる。つまり、彼らにとっては、自身のシステムを通じて、変動性電源の挙動・動作に対してより柔軟性の高いものに切り替えていく、ということが使命になる。

 フレキシビリティには、大きく分けて二つある。第一に短期的なフレキシビリティ、第二に長期的なフレキシビリティである。つまり、秒・分・時間といった単位でのフレキシビリティのコントロールと、より長期(2日間・3日間)での電源の確保である。例えば、風が吹かなくて風力の出力が格段に落ちるということもあり得るので、そういったときに、とりわけ短期的に、どうやって柔軟性電源を確保するかが課題となる。

 柔軟性を用いて系統の安定性を確保するというと、多くの人は、蓄電池や揚水、Power to Gas・Power to Heat をはじめとするPower to X というものを想像するが、彼らは全く違う道を選んだ。これらの新しい施設には、大きな投資が必要だと考えた。つまり、高い。現在の技術ではそれらはまだ容易に入手しにくく、投資コストがかかる。そこで、副産物としての柔軟性を既存の発電所から見つけてくる、ということを始めた。

 こうした短期・長期の柔軟性をいかに確保するかというのは、技術的に大きな課題であるだけでなく、市場経済的にも大きな課題である。彼らは、このうち短期のフレキシビリティに特化してビジネスを行っている。短期的なフレキシビリティに注目した理由は、2009年以降、これが非常に大きなビジネスのチャンスになるということに気づいたからである。まず、調整電源市場の利用が一つであり、そして、当日・前日スポット市場における電力の取引に対応したシステムを構築することがもう一つである。

 そのビジネスは今、大きな成長を遂げている。2017年3月現在、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、オーストリア、ポーランド、スイスとイタリアにおいてビジネスを展開しているが、彼らが見つけた柔軟性電源は、バイオガス、コジェネレーション(CHP)、水力、緊急用の電源、そして、需要家側の管理(DSM)である。これらをつなげる事をまず考えた。

 これらの5つの電源において、調整電源市場を中心に取引される柔軟性というのは、一般的に、それが第一の目的で運営されている訳ではない。例えば、バイオガス、天然ガス(ガスコジェネ)、水力発電というのは、できるだけ多くの電気を作り出してスポット市場で売るということに、最もプライオリティが置かれる。バイオガス、天然ガス(ガスコジェネ)は、熱を作り出して売ることもビジネスの中心になる。

 このような既存電源・熱源・蓄電池に潜んでいる調整力を見つけ出してきて系統に接続して取引することで、社会経済的に安価な仕組みを作り出したことが、彼らの新しいチャレンジなのである。

 緊急用電源とは、病院や大きな設備(工場等)において、地域の一次的なブラックアウトに対して、安定的な電力を供給する設備として設計されている。電力需要家側に作られている発電施設、例えば、自動車メーカーの工場が持っているような自家発電施設は、そもそも柔軟性を提供するようにつくられた施設ではない。しかし、これらの施設からほんの少しずつ、使われていない領域・帯域(バンド)から集めることで、柔軟性を確保できることに気がついた。

 彼らは、新しい施設を建設することなく、こうした既存の施設にコミュニケーション用の機器を取り付けて、アルゴリズムを使って、フレキシビリティを集めて提供している。それらはすべて、デジタル化の恩恵を受けることによって、安い値段で作ることができるようになった。彼らの会社がスタートするときの初期の資本金は、皆が想像するほど大きなものでなくてもよかったのだという。

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