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コラム連載 送電線空容量問題、その後のその後

送電線空容量問題、その後のその後

2018年6月7日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 4月5日付当講座コラムで電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)の「誤解を招く数値」(2018年3月12日公表資料p.14)について指摘しましたが、その後、4月末に相次いで「地内基幹送電線の運用容量一覧表」などの情報が各電力会社のウェブサイトに公開されたので、本稿で追跡調査することにします。

 これまで筆者らが求めてきた送電線利用率は(年間平均利用率も、ピーク時の瞬間利用率も)広域機関の「系統情報サービス」からダウンロードした運用容量実績値を用いていましたが、ここに「誤解を招く数値」が混入すると利用率の値自体が変わってくる恐れがあります。そこで本稿では、この新たに公開された運用容量を用いて再計算を行い、「誤解を招く数値」の修正前後でどれだけ情報が変化したのかを検証します。

「誤解を招く数値」の修正でどう変わったか?
 本稿執筆時点で確認したところ、広域機関の「系統情報サービス」の運用容量実績値データ(各線路に対して1日ごとに一つの値が与えられる)が過去に遡って修正された形跡は見られませんでした。また、いくつかの線路では4月1日を境に運用容量実績値の値が明らかに大きく変わっていることが確認されています。

 一方、各電力会社から公表された上述の「地内基幹送電線の運用容量一覧表」は、各線路に対してただ一つの運用容量が記載されています。例えば東北電力では「地内基幹送電線の系統アクセス検討に用いる平常時の運用容量値」という表現も見られるので、これらは筆者が用いた「運用容量実績値の年間最大値」に相当すると考えられます(一般に平常時が最大値であり、例外があったとしても稀であるため)。そこで、筆者が2018年1月末時点で用いた運用容量実績値の年間最大値を「修正前」、各電力会社が4月末に公表した運用容量一覧表を「修正後」として、両者を比較することにします。

 図1は修正前(1月末時点)と修正後(4月末)で各電力会社および広域機関から公開されている運用容量がどう変化したかを示したグラフです。図中「容量比」とは、修正前に対する修正後の運用容量の変化率を電力会社ごとに平均値を取ったものです。また、「一致率」とは、各線路で修正前後の運用容量の値が90%以上の(すなわちほとんど変わらない)線路数を各電力会社の基幹送電線数(ここでは広域機関からデータがダウンロードできる線路の数)で割ったものです。

図1 修正前後の運用容量の容量比と一致率
図1 修正前後の運用容量の容量比と一致率

 図1を見ると、東京・中部・北陸・関西・四国はいずれも修正前後の容量比が90%を超えており、修正は軽微であることがわかります。一方、北海道・東北は容量比が50%前後となり、全体的に運用容量が半減と、大きな修正があったことが明らかになりました。さらに一致率を見ると、北海道・東北は0〜数%となり、ほとんどすべての線路で修正があったことがわかります。広域機関によると「誤解を招く数値」の原因としては「1回線熱容量を基本とした運用容量であるべきところ、設備容量値(2回線熱容量)が入力されているものがあった」(上掲資料p.14)とあるので、北海道と東北のほとんどすべての線路がこれに相当したことになります。

 図1で示した2つの指標の相関を取って更にわかりやすく視覚化したものが図2です。各電力会社のプロットは A〜C群と大きく3つのグループを形成し、A群はほとんど修正のないグループ、B群はかなりデータが修正されたグループ、C群はほとんどのデータがすっかり修正されたグループ、と分けられることがわかりました。

図2 修正前後の運用容量の容量比と一致率の相関
図2 修正前後の運用容量の容量比と一致率の相関

利用率は上昇したが・・・。
 このように、利用率の計算の元になる運用容量が変化すると、当然ながら利用率も変わってきます。図3は運用容量修正前と修正後の利用率(ただし、実潮流は2016年9月1日〜2017年8月31日の値をそのまま利用)の比較グラフですが、修正によって運用容量がほぼ半減した北海道と東北(図2のC群)は、それに反比例する形で利用率をほぼ倍増させています。また、図2のA群の電力会社は修正後の利用率も修正前とほとんど変わらない結果となっています。

図3 運用容量修正前後の年平均利用率の比較
図3 運用容量修正前後の年平均利用率の比較

 ここで、データ修正によって結果的に年平均利用率が上昇したので、めでたしめでたし…、というわけにはいきません。送電線空容量問題の深層として筆者が再三訴えているように、問題は利用率の多寡にあるのではなく、意思決定の透明性の問題です。図4はデータの修正前後(ただしここでは2018年1月末と5月末時点での比較)で空容量がどのように変化したかを線路数の比率で示したものです。

図4 修正前(1月末)と修正後(5月末)の空容量の変化状況
図4 修正前(1月末)と修正後(5月末)の空容量の変化状況

 北海道と東北は図2では同じC群(ほとんど修正、運用容量半減)でしたが、図4では空容量の変化状況が正反対になるという興味深い結果となっています。また、中部電力は多くの線路で空容量ゼロが解消されました。北陸電力と沖縄電力は空容量が減少した線路数は多いものの、容量の変化は「微減」に留まっています。もちろん、空容量は必ずしも運用容量だけでなく当該地域の再エネ電源の接続申請状況にも大きく依存しますが、全体的に空容量が増加傾向にあるのは、経産省の推進する日本版コネクト&マネージが少しずつ動き出してきたからだと解釈することも可能です。その中で、北海道のみ空容量ゼロ線路が依然増えているのは特異であるともいえ、この決定がどのようになされたのか更に検証していく必要がありそうです。北海道電力は同社ウェブサイト上で「電力広域的運営推進機関から示された「想定潮流合理化」については、詳細検討の結果を反映させて参ります」としており、今後空容量ゼロがどう解消されていくのか注目されます。

 以上議論したように、ほとんどの運用容量データに修正が必要だったという事実が「誤解を招く」という表現で済まされてよいことなのか、広域機関や当該電力会社の情報公開の信頼性が問われています。系統情報の重要性については、経産省の「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」でも議論が進んでいます。ましてや、空容量ゼロを理由に新規電源の接続が大きく制限されている現状で、単に数値を修正したというだけでは済まされず、今後は更に、運用容量の決定方法や空容量の意思決定過程に高い透明性と説明責任が必要とされるでしょう。

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