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コラム連載 ベース電源切り出しと原発損害負担-混乱情報解説の試み-

ベース電源切り出しと原発損害負担-混乱情報解説の試み-

2016年12月8日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

【新電力に低コスト電力提供?】
 12月3日付け日経新聞朝刊の1面と4面に「新電力に低コスト電力を」という見出しにて、以下の内容の記事が出た。

  • 政府は、以下の方針を固め、来週にも委員会に提示する。
  • 旧電力会社に、原子力・石炭の安いベース電源の1/3程度を、原価を割るコストで、卸売市場に、強制的に供給(切り出し)させる。
  • これを、ベース電源不足に悩む新電力は、オークションにて購入できるようにする。
  • 見返りに、新電力は、福島原発事故損失費用等に係る費用の一部を負担する。

【混在する重要論点】
 この記事を読んだ直後の筆者の感想は、以下の通り。

  • 相変わらず「ベース電源」という古い概念を強調している。
  • ベース電源が低コストであるならば、強制的に原価割れさせる必要はない。強制すると市場を歪めてしまい、「システム貫徹」と矛盾する。
  • 原子力は低コストとされているが、そうであるならば、賠償や廃炉関係の負担は、原子力の原価で吸収できるはず。
  • 新電力は、電力調達に苦労しており、市場が機能するに十分な電力を既存発電会社が出す仕組みを作る必要がある(現状は3%弱のシェア)。卸市場はシステム改革の中核であり、全面自由化の時期に整備が完了しているべき。
  • 既存発電会社から新電力がオークションで調達する、との意味が不明。貫徹委員会では、先渡しの位置付けで「ベース電源市場」なるものを議論しているが、このことか。あるいは、卸市場の主役である前日・当日の取引(スポット市場)のことなのか。前者の印象を受ける。後者であれば、購入は新電力に限定されない。
  • 福島原発の補償負担に関しては、既存発電・小売会社と新電力の得損バーターとしているが、消費者という大きなステークホルダーの視点が抜けている。
  • 原発に関しては、事故損失、廃炉費用等の著しい評価増を誰がどう負担するかという論点である。過小評価した責任主体が負担するのが基本であるが、新電力が託送料金を通じて負担するのは妥当なのか。
  • 重要かつ多様な視点が混在しており、情報も不足している。一般の方がこれを読んでどの程度理解できるのだろうか。

 以上、日経新聞を一読した感想である。どの程度政府の考えを正確に伝えているか不明であるが、オピニオンをリードするマスコミの1面トップであり、事実(に近い)とする。以下、筆者の考えを記す。

【システム改革が目指すのはベース電源観念からの脱却】
 市場が自由化され、再エネ等の分散型資源が増えると、需給調整が中央給電指令による制御から市場取引を利用した調整への変更が加速化する。再エネが主要な電力となり、需要量から再エネ供給量を差し引いたネットロード(残余需要)を指標に、既存大規模電源が応札するシステムに変わる。既存電源は調整用設備化する。この状況ではベース、ミドル、ピークという概念はなくなる。日本のシステム改革もここを目指しているはずであり、「ベース電源」という概念への固執は、「システム改革貫徹」と逆のベクトルになる。これに関しては、当コラムにて別途解説する予定である。

【システム改革の主役は卸スポット市場整備】
 卸市場は、中核であるスポット市場を早急に整備すべき。現在のシェア3%弱から早期に2割程度に引き上げ、先行する欧米市場並みの3~4割を目指す。原子力・石炭の拠出は、「ベース電力市場」ではなく、前日・当日市場とし、スポット市場の厚みを増す。スポット市場は、限界費用(変量費)の水準にて価格が決まるので、「原価割れ」を強制しなくとも、十分に低くなる可能性が高い。世界標準のスポット市場を整備するのが先決である。FIT電源について、頻繁見直しの批判にも拘わらず、送配電会社買取り卸市場販売を原則とした理由はスポット市場の整備であった(はずだ)。

 上記の繰り返しになるが、原子力・石炭の市場取引について、本来、この2品目の中長期取引に限定、買い手が新電力に限定、価格をコスト割れとする等の制約をつけるべきでない。卸市場全体の厚みを増すために既存発電事業者に出力安定電力を先渡し市場に「切り出し」してもらう必要がある、ということであれば、現状では一理ある。しかし、この過渡的であるはずの官制の仕組みが固定化し、スポット市場に石炭・原子力が出なくなることは絶対に避けなければならない。

【原発負担増への対処方策】
 原子力負担増に関しては、報道では、福島事故関連以外の一般的な廃炉費用負担にも触れている。これは、原子力発電事業者と政府の責任を明確にして、事業者の発電コストへの反映や政策の大枠変更を実施すべきである。この論考については、11月24日付け本コラムにて取り上げたところである。

 本件では、福島事故負担がメインテーマであるが、やはり責任の所在、将来に及ぶ負担の説明が不可欠である。東電はもちろんであるが、事故に関し政府も責任を免れないことは、廃炉費負担増問題と同じである。特別な法律を作って東電のファイナンスを支援しており、「前面に立って処理していく」としている。

 そのうえで、国民負担(新電力負担と称しているが)が不可避である場合は、具体策について真剣な議論が必要になる。税金投入、電気料金引き上げ等の選択肢を議論すべきだ。事故、廃炉、使用済み燃料等に係る想定を超える負担増を誰がどのように負担するか。今後の電気料金に反映させる場合は、①将来世代の負担増となる、②自由化後の原発を選択しない需要家にも負担させかねない、③国民全体で広く浅く負担するとしても、ガスや石油料金とのバランスを欠き、エネルギ-市場を歪める等の問題がある。負担増は、財政を利用してでも先延ばしを回避する、せざるを得ないとの視点が重要である。責任もより明確になる。

【供給サイドと得損調整という考え方は時代遅れ】
 ベース電力提供と原発負担に関しては、既存発電・小売会社と新電力の得損バーターとしている。卸市場整備がシステム改革の柱であり、政府公約である。また、原発費用負担は全く別の議論である。従って、バーターにはならないと考える。いずれにしても、消費者という大きなステークホルダーの視点が抜けている。政府と電力会社だけでなく、新電力もバーターの関係者となることは進展なのだろうが、それでも供給側で決めるというスタンスを感じる。

 最後に、マスコミの役割であるが、トップ記事として2面に渡り取り上げているが、政府のリークを丸投げしているように見える。「解説」を期待したい。

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