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コラム連載 主要大規模電源となる洋上風力

主要大規模電源となる洋上風力

2017年2月24日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 本コラムは、昨年10月から始まったが、第1回第2回で急激にコストが下がる欧州洋上風力事業の紹介をした。今回は、そのフォローである。エネルギー情勢は急展開しているが、まさにそれを実感する出来事が、その後の入札で生じた。kWh当たりで5ユーロセント前後となる落札価格が相次いで成立したのだ。600~700MWの大規模発電所、設備利用率が5割程度、販売価格が5ユーロセント/kWh(以下、セント/kWhとする)程度となる事業は、主要電源とする以外に呼称があるだろうか。

 第2回では、オランダ政府が実施したボルセラ第1、2発電所700MW規模の入札に関し、2016年6月にデンマークのドンエナジーが15年間7.27セント/kWhで落札、また、デンマークの北海ニアショア事業350MWの入札に関し、スウェーデンのバッテンフォールが約11年間4セント/kWhにて落札したことを紹介した。従来の洋上風力の常識を破る低価格として世界はもとより、風力関係者も驚愕した。これはトレンドなのかフロックなのか不明であったが、トレンドであることが明確になった。以下、昨年11月以降の入札状況を解説する。

【ボルセラ第3、4発電所はシェルが5.5セントで落札】
 7.3セント/kWhを記録した7月から半年後の12月、同じ領域のボルセラ第3、4発電事業は、なんと5.45セント/kWhで決着した。同じ場所、同じ総容量680MW(20MWは新技術用として保留)ながら、落札価格を半年で2割更新した。また、落札したのはシェルグループであり、石油メジャーが本格的に洋上風力に取組むものとしても注目を集めた(資料1)

資料1.ボルセラ沖事業(3、4期):位置と概要
資料1.ボルセラ沖事業(3、4期):位置と概要
(出所)Wind-Power、囲み内は各種資料より筆者作成

 この理由について、専門家はいくつかの要因を挙げる。ボルセラ1、2で相場観が形成された、オランダの5か年計画計3,500MWを織り込んだ場合に想定されるサプライチェーンの強化、資金力に勝るシェルが将来を見越して判断した、シェルグループが風車メーカーとして指名しているMHIヴェスタスが一基9MWもの大型設備を提供する可能性等である。シェルグループには、三菱商事も参加しており、大型風車の開発で実績のあるMHIヴェスタスを風車メーカーとして指名した。

 シェルは、オランダにおいて圧倒的な存在感を有するが、事前に政府と事前交渉し、新たな洋上発電事業計画策定に同意させたとの噂も流れる。年間1,000MWの開発を8年間継続するというものである。これが実現すると、オランダは11,500MWの洋上風力を擁する風力大国になり、(落札すれば)シェルは、再エネ事業に確固たる足場を築くことになる。化石燃料のジャイアントが、再エネを主要事業とする決意を示した案件としても注目を集める。

【バルト海で領海を跨ぐ事業は4.99セント/kWh】
 また、ボルセラ3、4の落札が決着した1カ月前の昨年11月、デンマークがバルト海にて募集したKriegers Flak事業600MWについて、バッテンフォールよる落札が決まった。同事業は、デンマーク、ドイツ、スェーデンに跨る海域での事業で、国際連系線の建設とセットになっている。落札価格の4.99セント/kWhは、5セント/kWhを切る、北海に次いでバルト海での低価格実現、連系線建設効果等で注目を集める(資料2)

資料2.Kriegers Flak 洋上風力事業
資料2.Kriegers Flak 洋上風力事業
(出所)EcoWatch、囲み内は各種資料より筆者作成

 この超低価格実現の理由として、関係者より次のような解説がなされる。バルト海での事業は、スェーデン本社のバッテンフォールの主要活動範囲をカバーしており、様々な相乗効果が期待できる。国際連系線の整備により、相乗効果がより大きくなり、設備の高効率利用にも寄与する。設備利用率に関しては、ドイツとの連系は欧州大陸の需給バランスへのアクセス、デンマークとの連系はノルド市場の需給バランスへのアクセスが可能となり、状況に応じて巨大な両市場を利用できるからだ。

 この国際連系線は、その重要性に鑑み、EU政府が建設を認可し、助成の対象としている。当事業は、ドイツ側の洋上風力発電所バルチック2およびバルチック1と連系し、欧州大陸市場に繋がる。この連系線はドイツの送電会社50Hertzが建設・運営する。デンマーク側の連系線は同国の送電会社エネルギネットが建設・運営する。これらの連系線は、海底ケーブルではあるが距離が比較的短いために交流仕様としている。一方、2大電力系統の接点となるために、巨大な交直変換所を建設することで、両系統の信頼度を確保する。このように、洋上風力自体が国際連系線となり、その巨大なシステムを構築すること自体が革新技術となる。

【デンマーク・オランダモデル】
 以上のように、デンマーク、オランダが実施する洋上風力発電事業の入札で、相次いで低価格での落札が実現しており、トレンドになった観がある。①相当規模とスケジュールを明示した事業計画、②ゾーニング、許認可、環境アセス、インフラ整備に国が責任をもつ仕組み(ショベルレディ)、③産学官等が連携したコスト削減実現のための研究継続により、予見可能性(プレディクタビリティ)を高める。そして競争を促す入札にも工夫を施している。建設から廃止まで30年間の事業保証、11年間(オランダ)と5万時間(デンマーク)の販売価格保証等により、収益に予見性を与えている。デンマークの5万時間は、設備利用率50%を前提とすると約11年間となる。これらの仕組みを総称して「デンマーク、オランダモデル」と括ることができる。

【変貌する再エネ発電の概念】
 2016年運転開始した事業の平均事業規模は520MWである。昨年話題を集めた低価格事業は600MW、700MWが多い。現在計画中のものは、平均で1,000MWと原発並みの規模になる(資料3)。沖合で稼働する大型の風車は、50%程度の設備利用率となり、コストが4~8セント/kWhとすると、これは、既存主力電力に匹敵する。北海やバルト海での事業は、連系線を形成して、欧州の一体化を促進するとともにスカンジナビアの巨大ダムに繋がり、信頼度確保に大きな効果を発揮する。

資料3.洋上風力事業の平均サイズの推移(MW)
資料3.洋上風力事業の平均サイズの推移(MW)
(出所)Wind Europe:The European offshore wind industry key trends & statistics 2016(2017/1)

 ここに来て、再エネの新たな可能性が開けてきた。

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