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コラム連載 送電線利用率20%は低いのか高いのか-政府等説明への疑問-

送電線利用率20%は低いのか高いのか-政府等説明への疑問-

2018年2月13日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 京大再エネ講座では、電力広域的運営推進機関(以下広域機関)で公表されたデータを基に、上位系統の送電線を実際に流れた量(実潮流)を分析し利用率等を計算したが、その結果を当コラムにおいて紹介してきた。「空容量ゼロ」とされるルートにおいても実際の利用率は1~2割と非常に低い数値となった。その後、政府等は送電線を最大使用しても利用率の上限は50%であることを強調し、1~2割はそれほど低い数字ではなく許容範囲であるかのような説明を展開している。当再エネ講座にも、利用率が低いのか否かに係る質問が寄せられるようになった。今回は、この論点を取り上げる。

【送電線の全国平均利用率は19.4%】
 再エネ講座は、昨年10月には東北北部4県および北海道について発表した(web10月2日)(web10月5日)。この1月には、安田陽特任教授が全国の計算結果を発表した(web1月27日)。全国平均で19.4%、最も高いのが東電管内で27.0%、空容量ゼロの多い北海道と東北はそれぞれ14.5%と12.0%であり、東北は最下位であった。

 これらの結果は正確な数字として認められたようだ。政府(資源エネルギ-庁)、電力業界等から間違っているとの反論は出ていない。元々公表データなので当然ではある。一方で、いくつかの指摘や批判が出ている。代表的なのが以下の2つである。
  • この利用率は年間平均値であるが、貯められない電力において特に重要なのは最大値である。
  • 利用率1~2割は低くないのではないか。送電線は最大利用しても5割である。

 前者については、講座は最大値についても公表している。後者であるが、政府、広域機関、電力会社は以下のような説明をしている。代表的な説明例として12月26日付でエネ庁HPに掲載された「送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?」がある。これについて、考察していく。

【最大利用でも50%、を検証する】
 その根幹をなしているのが、「送電線が1ルート2回線の場合、信頼度確保のために常に1回線分空けている。従って最大利用率は5割である。」との説明である。これ自体は間違っていないが、ミスリードしやすい。

 電力系統では、1回線、1変電設備が故障しても電力系統全体の安定供給を損なわないための所謂「N–1基準」が適用されている。単純な1ルート2回線で考えると、一回線分の電気を事故等の緊急時に他の送電線に流せるようにしているということになり、最大利用率50%は間違いではない(資料1参照)。

【平行4回線の場合は75%】
 しかし、現実には信頼度確保のために多重化、ループ化の投資を実施してきており、単純に1ルート2回線だけで形成されてはいない。ルートが複数ある場合や多重化の場合は、最大利用率は50%以上となる。1ルート並行4回線の送電線の場合、単純計算では最大利用率は75%となる。

資料1. 送電線利用最大50%を強調する図
資料1. 送電線利用最大50%を強調する図
(出所)資源エネルギ-庁:送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?(12/26/2017)

【広域機関が公表している運用容量は何?】
 前述のように、京大が計算した利用率は、分子に実潮流、分母に運用容量を取っており、いずれも広域機関が公表している。ある電力会社の説明によると、「運用容量は、N-1基準を織り込んでおり、2回線の場合は運用容量は1/2になる。」とのことだ。政府等はこの2回線の前提で最大利用は50%としている。しかし、前述のエネ庁HPにおける「北東北の電力系統の利用率」には、「分母は2回線分容量」との記述が出ている(資料2)。分母は2回線分なのか、その1/2なのかとの疑問が生じる。どちらかにより利用率は変わってくる。最大5割とするからには、分母が何なのかが気になるところである。

資料2. 北東北の電力系統の利用率
資料2. 北東北の電力系統の利用率
(出所)資源エネルギ-庁:送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?(12/26/2017)

【海外事例は5割を超える】
 政府等は、「最大50%」が普通であることを補完するために海外の事例を利用する。ドイツの送電会社(TSO)である50Hertzの系統図を紹介し、使用率は全ルート50%未満であるとする。同社は旧東ドイツをエリアとしており、北部に風力発電が大規模に立地し、kWhあたりの再エネ比率が5割を超える。1時間ごとに送電線利用率情報をウェブ上で公開しているが、ある1時点のデータ(2017年4月30日15時)をとっている。その理由は、風力の利用率が最大の時点を取ったとその客観性を強調する(資料3左図)。

資料3. ドイツ北東部の送電線利用状況(50Hertz公表)
資料3. ドイツ北東部の送電線利用状況(50Hertz公表)
(出所)左図:資源エネルギ-庁:送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?
(12/26/2017)、右図:50Hertz

 しかしそのタイミングは、需要地であるドイツ南部の需要が比較的少ないときで、送電線を流れる電力潮流は少ないのである。このウェブをクリックすると利用率が50%以上となるルートが存在する時間帯があることが分かるはずだ。

 資料3右図は、50Hertzが公表した2016年通期の利用状況である。年間5時間以上生じた事象を示しているのだが、明らかに印象が異なる。利用率が50%以上はもとより70%以上も存在する。

 今回は、送電線の利用率を巡る解釈について、考察した。電力系統の正確な理解は、専門性が高く容易ではない。今回は、単純化して強調する政府等に合わせて単純化して考察した。筆者の個人的な考察である。

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