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送電線空容量および利用率全国調査速報(その3)

送電線空容量および利用率全国調査速報(その3)

2018年2月28日 安田 陽 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 「その1」「その2」に引き続き、全国10電力会社基幹送電線上位2系統、全399路線の空容量および利用率について分析を進めます。

利用率ヒストグラム
 今回の全国調査で、各電力会社とも年間利用率は10%台〜20%台と若干の幅はあるものの、概して低い値に分布していることがわかりました。一方、送電混雑の発生状況や空容量ゼロと判断された路線の比率は電力会社によって大きなバラツキがあることがわかりました。なぜそのようにバラつくのかについて、引き続き分析を進めます。

 図1は年間利用率および最大利用率(ピーク)に対する各電力会社の分析対象基幹送電線のヒストグラムです。ここでは例として、空容量ゼロ率が最も高かった東北電力と、空容量ゼロ率が比較的低い(かつ太陽光が比較的多く導入されている)九州電力を並べて比較しています。左側のグラフはそれぞれのエリア内の基幹送電線の年間利用率の分布状況を示したもので、横軸は利用率が0%以上20%未満の路線数、20%以上40%未満の路線数・・・という形で棒グラフが並んでいます。また右側のグラフは、最大利用率(ピーク)の分布状況です。

図1 各路線の年間利用率および最大利用率(ピーク)のヒストグラフ
図1 各路線の年間利用率および最大利用率(ピーク)のヒストグラフ

 両エリアとも棒グラフの高さ自体は同じ傾向を示しています。すなわち、年間利用率で見ると、20%未満の路線がほとんどで、年間利用率が40%を超える路線は東北ではゼロ、九州でもわずかであることがわかります。また最大利用率(ピーク)は、20%以上40%未満の範囲が最も多く、100%を超える(すなわち送電混雑を発生させている)路線もわずかに見られるものの、最大利用率が60%を超えるものは相対的に少ないことがわかります。

 興味深いのは、両エリアで「空容量ゼロ」と公表された路線の状況が全く異なることです。すでに「その1図1で九州では空容量ゼロ路線が少ないことが示されましたが、ヒストグラムの分布状況を見ると、年間利用率および最大利用率のどちらの観点からもやはり「実際に空いているから空容量はある」という傾向がはっきりと現れています。一方、東北ではその逆で、年間利用率および最大利用率のどちらの観点からも「実際に空いているが空容量はゼロ」という傾向となります。

年間利用率と最大利用率の相関
 東北と九州の2つのエリアの比較分析を続けます。図2は2つのエリアの今回分析対象となったすべての路線の年間利用率と最大利用率の相関をプロットしたものです。両図から一瞥してわかる通り、年間利用率と最大利用率は比較的弱いながらも相関を持ち、プロットが一定の範囲に固まっている傾向を示します。

図2 各路線の年間利用率と最大利用率の相関
図2 各路線の年間利用率と最大利用率の相関

 ここでも興味深いことに、プロットの分布自体は似ているものの、空容量ゼロ路線の取り扱いが全く異なります。東北では、年間利用率も最大利用率もそれほど高くないところに多くの空容量ゼロ路線が集中しています。実際に混雑が発生しているので空容量がゼロになっているという路線はわずか1路線しかありません。一方、九州は年間利用率および最大利用率ともに低い領域ではほとんど空容量があるという結果となっており、平均利用率が比較的高い領域でもまだ空容量はあるという路線もあります。

 もちろん、各電力会社の電力系統の構成は全く同一ではないので、系統構成などさまざまな条件も加味しなければなりません。しかし、この傾向の大きな違いはなぜ発生するのか?ということは、高い説明責任を持って公表されるべきでしょう。

 一連の分析結果から、再エネの大量導入に対する取り組みや系統運用方法・情報開示方法に関して、電力会社間でも差異が生じている可能性がある、ことが示唆されました。ちょうど本原稿執筆時に広域機関から新たな情報が提供されましたが(第30回 広域系統整備委員会 配布資料)、以前の情報と矛盾している部分も多く、やや錯綜気味です。広域機関および経産省での議論の推移を見守りたいと思います。

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