工場見学 2011年度

2011年12月 トヨタ自動車株式会社・工場見学記 3回生 瀧本昌太郎

2011年12月に実施されたトヨタの工場見学のフィードバックとして、個人的な感想を記載したい。

始めに、なぜ私がトヨタの工場見学に参加しようと思ったのかについて述べたい。
以前、他の講義の中でトヨタの製造プロセスの主だった特徴を学ぶ機会があった。その際に最も印象的だったのは、最終組立工程(ひいては顧客のニーズ)を最重視した後工程引取法だ。これは、各工程の作業の効率化に終始することなく、それらをそれぞれ統合化した上で全体的な最適性を追求するという趣旨に基づいている。
私は従来、分析のみならず綜合という視点を有するとともに、部分のバランスを整え全体的に評価するというコンセプトの重視が分析麻痺症候群といった硬直的な経営姿勢を打破するために必要であると考えていた。トヨタの後工程引取法がこのコンセプトと非常に整合的であったため、全体性というコンセプトに沿った具体的な経営手法を理解するためには、トヨタを研究することが有用ではないかと考えたわけである。これが、今回の見学に参加させていただいた理由である。

見学の感想として、特に印象深かった三つの事項を挙げる。一つ目は専門的技術力について、二つ目は労働の疎外について、そして三つ目は綜合的視野の獲得困難性について述べる。

1、専門的技術力

工場併設の見学コーナーには、各工員の専門的な技術力を示す目的で試作品が展示されていた。「ハイテク」なものとして、一般的には高度な情報技術といったソフトなものが思い浮かべられるが、数十年腕に磨きをかけたこれらのベテラン工員が有するハードに対する技術こそ「ハイテク」であると感じた。
自動車産業においては、マーケティングの他に、工程の設計を含む日常的な操業の合理性に特に焦点があてられる傾向がある。しかし、それ以前の問題として、根本的な技術力の高さが求められていることを再確認させられた。

2、労働の疎外

見学に参加した理由のところで挙げたように、私はトヨタの統合力の高さに期待を抱いており、直接工の労働環境の整備やボトムアップのマネジメントにその統合力がどう生かされているのかについて興味があった。
 結論はというと、他の工場との違いはほとんど見いだせなかった。直接工たちは科学的管理法で管理されるのに慣れきったかのように機械的に動いており、その光景はドキュメンタリー映画で観た約一世紀前のフォードの工場と基本的に変わっていなかった。
 考えてみれば、このような機械的反復的作業は大量生産大量消費社会の維持にあたっては当然の前提である。地球環境を考える上でもそうだが、豊かさというニーズの満たし方がここでも問われていると感じた。むろん組立工程の一部分を限られた時間で見学したにすぎないので、早計な判断は慎みたいとも考えている。

3、綜合的視野の獲得困難性

私はトヨタの競争力の源泉や有力な戦略を把握したいと考え今回の見学に同行したが、工場内のみの見学ではその希望は達成できないことに気がついた。これは、企業の競争力というのは、全社的なビジョンと現場の目標、マネージャーと工員、製造とマーケティング、製造部門間、R&Dの分野などの膨大な要素を適切にすり合わせた結果として生まれる抽象的なものであるためである。そのため、その競争力を論理的・直観的に理解するためには、ジョブローテーションなどを通じ分野横断的な経験や能力を積むしかない、ということに改めて気付かされた。

今回の見学は、当初のねらいとは異なるものの、非常に意義深かったと考える。実際に現場に赴くことは、机上の空論に陥らないという意味でも重要であるが、複雑な事象を直接に経験し、そこから独自の見解や解釈を形成する訓練になる点でも座学にはない特長が認められる。これからも積極的に外へ出て、現状の経験的把握に努めたい。 以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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