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コラム連載 大量導入研究会論点整理へのコメント

大量導入研究会論点整理へのコメント

2017年7月13日 山家公雄 京都大学大学院経済学研究科特任教授

 7月4日に、再エネ大量導入研究会にて、論点整理メモの提示があった。委員からは特に異論はなかったと報道されている。この研究会に関しては、本コラムでも、複数のコラミニストが取り上げたところである。今回は、論点整理に関する筆者のコメントである。

1.評価すべき点は多い
 本研究会は、省・新エネルギー部主催とはいえ、資源エネルギー庁開催としては、従来に見られないような再エネ推進に前向きな姿勢を感じた。

【世界標準の受け入れ】
 世界情勢は、取捨選択なくほぼ在りのままに紹介されている。隠し切れない大きなトレンドになった面もあるが、再生可能エネルギーは電源開発の主役になったこと、急激な低下により火力発電並みのコストになったことが紹介されている。コスト問題の焦点は、内外価格差の解消、国内コストをどう引き下げているかに移った。

 「再エネ大量導入」という表現が使われ、再エネ電力の変動を吸収ものとして古い概念の「バックアップ」ではなく「調整力」に統一されている。議論の中では新しい概念である「柔軟性(フレキシビリティ)」が多く登場した。大規模火力発電だけが調整力を持つという従来の議論から連系線、揚水、蓄電池、デマンドレスポンス、熱需要、P2G等の多様な技術が登場している。漸く国際標準的な用語が使われ出した。

【系統制約解消を最大の焦点に】
 系統制約問題は、コスト、自立に次いで3番目の順番だが、論点整理では最大のスペースが割かれた。省・新部主催の公式の議論の場で、系統問題が正面から幅広く取り上げられるのは異例であり、既存設備の有効利用策として「コネクト&マネージ」が大きなテーマとして提示され、前向きに取り入れようとの姿勢が感じられた。これは、現行の先着優先となっている接続方式を、一定の条件下で新規接続を認め、競争による送電網利用拡大を促進するものと評価できる。

 また、インフラ整備等の判断として、再エネのベネフィット(便益)とコストの評価を重視しているが、この視点も評価できる。特に便益として「CO2削減、エネルギー安全保障の強化、燃料費の抑制等」を列挙している。この評価方法の早期確立を期待したい。

【洋上風力を国策として進める方向性を打ち出す】
 太陽光に偏重した開発から多様性を目指す取り組みも焦点になった。「立地制約のある電源」について、規制見直しに加えて、地域で受け入れを議論できる環境整備に政府として積極的に関わっていく姿勢が示された。特に洋上風力に関し、中央政府が全面的に事業環境整備に取り組む「欧州のセントラル方式」を採用し、また海域の利用ルールの明確化を示しているが、これも高く評価できる。

 MHI-Vestas社の山田代表が、参考人として欧州の状況を詳しく解説したが、洋上風力が主役になってきたこと、セントラル方式ともいえるデンマーク・オランダモデルがコスト急減に寄与していることが強く印象に残った。なお、これに関しては、筆者は本コラム(第2回第17回)で解説したところである。

2.卸スポット市場の記述はナッシング
 一方で、首をかしげるものがある。電力卸取引の主役である前日市場や当日市場の記述が全くないことである。何回か「容量市場、調整電力市場等の市場整備」という表現が登場するが前日、当日、スポットという用語は登場しない。

【スポット市場整備は再エネ大量導入の鍵】
 筆者の前回のコラムでも論考を展開したが、卸取引市場とりわけ前日市場が核であり、この価格は先物を含めた市場取引の指標(レファレンスプライス)となる。基本的な需給調整の場であり、競争を促し社会厚生最大化を実現する機能を持ち、価格低下を促す。再エネは発電コストが急低減しているが、燃料費ゼロの電源として市場価格低減に寄与する。

 また、当日市場の革新を通じて、再エネ調整力の創出に寄与する。蓄電池、DR等個別に分断した取引の場を作るまでもなく、前日・当日市場を整備することで、そうしたリソースを集約(アグリゲート)する事業が登場し、調整力が創出される。送電会社が系統状況を監視することに専念できる効果もある。京大の長山教授がデンマーク、ドイツの興味深い具体例を紹介した。

 送電線の利用は、前日までに市場で決められた数量に基づき、低コストの電力が利用することになる。市場取引の中に、送電網を有効利用するシステムがビルドインされている。

 以上の様に、市場取引とくにスポット取引の整備は、価格低下、既存送電網有効利用、調整力の整備といった再エネ大量導入に係る論点を網羅している。海外に既に手本があり、スケジュールを立てやすい。日本でも、既にシステム改革に主役として位置付けられており、着実かつ早急に実行していくことに尽きる。

【容量市場、需給調整力募集を強調】
 「適切な調整力の確保」のために、卸スポット市場ではなく容量市場や需給調整力市場が明示されているが、これらは、本来卸市場を補佐する位置づけである。容量市場は有効性や在り方を含めて、種々議論がある。送電会社による需給調整力の募集する仕組みについても、どの程度織り込むか検討を要する。欧州では、当日市場の革新により、バランシング市場(需給調整力市場)の所要量や価格は大きく下がってきており、送電会社は監視機能の専念できる環境が整いつつあるとの指摘もあるが、これも長山教授から紹介された。

 第2回研究会で、欧州の市場紹介があり、革新が進んでいることに参加者から大きな反響があった。マスコミも大きく紹介した。にも拘わらず、前日、当日市場という用語が見当たらないのは、政府内関係部署間の調整の結果だと推測する。

【自立、活用は卸市場を前提】
 一方で、FIT(Feed in Tariff)制度からの自立が主要テーマとなり、FIP(Feed in Premium)への移行等が議論された。ある程度成熟するまでは自立を急ぐべきではないとの議論があり、中期的な検討課題となった。また、太陽光2019年問題をも視野に、再エネの使い方がテーマになり、蓄電池、VPP、リソースアグリゲーション等の整理も盛り込まれた。これらは、卸市場整備を前提として考えるべきものである。

 自立化や利用拡大は卸市場の存在を前提とした議論であるが、一方でコスト低下、既存送電網有効利用、調整力確保では、表に出ないようにしている。議論の歯切れが悪く、整理が複雑になっており、非常に残念である。

3.系統の透明性向上が当面の最大の課題
 本研究会は多くの論点が議論されたが、最大のテーマは系統制約の解消である。この制約が現実となり、身動きが取れなくなってきている。一方で、基幹送電網を主に「本当に不足しているのか」との疑問を持つ向きが多く、緊急時は止めるから接続させてほしいとの声が高まっていた。

 今回の目玉である「コネクト&マネージ」の提案は、こうした動きが背景にある。それは、課題解決に大きな役割を果たすが、一方で「緊急時はどの程度生じるのか」という見通しがないと、ファイナンスの道が閉ざされる。そこで実潮流等の系統情報の開示が不可欠になる。論点整理でも金融機関やコンサルタント会社のシミュレーション提供への期待が示されているが、それを行う基礎データが必要になる。欧米では、法令によりグリッドオペレーターがほぼ全ての情報を開示する義務を負っている。

 送配電会社は、前日に潮流シミュレーションを行い、送電容量の計算を行っている。前回のコラムでも提案したが、事後的ではあるが、これを開示することが第一歩になると考えられる。日本では17時に翌日の系統容量計算を終了し当日取引に移行するが、欧州では14時である。その面でも、海外の送電会社への早期キャッチアップを期待する。

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