Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

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京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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代表からのご挨拶~第2期講座の発足にあたって

諸富 徹 このたび、私たち再生可能エネルギー経済学講座では、第1期講座(2013~2018年度)に引き続いて第2期講座(2019~2023年度)を開始することに致しました。第1期では、多くの方々のご参画、ご協力を頂き、研究と政策提言を行ってまいりましたが、その成果を引き継いで第2期ではさらなる発展を目指したいと考えております。

 本講座発足の原点にはやはり、2011年3月に発生した東日本大震災がございます。この地震は、未曽有の原発事故と東京電力管内での計画停電、そして他の電力会社管内での原発停止と節電要請につながり、日本の電力供給システムのあり方について深刻な影響を及ぼしました。とりわけ私たちが強く印象づけられたのは、これまで盤石だと思っていた集中電源による大量送電システムが、地震や津波に対して意外に脆弱だったという点です。他方、分散型電源による双方向型の電力供給システムに移行すれば、そのような脆弱性を克服する可能性があるのではないかという点に、多くの人々に気づかせるきっかけともなりました。

 原子力発電が機能不全に陥った結果、私たちは短期的には火力発電を増やす必要に迫られていますが、他方でパリ協定以降、「脱炭素化」に向けた動きが急速な展開を見せています。2050年に向けては、エネルギー需要を抑制しつつ再生可能エネルギー増やすことで、原発とともに火力発電への依存を段階的に減らしつつ温室効果ガスを削減する困難で狭い途を進んでいかねばなりません。そのためには「再エネの大量導入」、あるいはその「主力電源化」が是非とも必要になります。しかし、再生可能エネルギーに基づく分散型電力供給システムは、費用が高いことや、出力の変動性の問題など様々な課題が指摘され、普及が妨げられてきました。

 私たちは、東日本大震災で引き起こされた惨事を見て、既存のエネルギー供給システムの課題を克服する道筋を見出すこと、そして、そのための政策や社会経済システムを考案することが、震災を受けての研究者としての使命ではないかと思うに至りました。本講座を立ち上げた、講座前代表の植田和弘教授(現京都大学名誉教授)は、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の調達価格等算定委員会委員長に就任されるとともに、当時はまだ経済性がないといわれていた再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、その経済分析の必要性を痛感されていました。そこで本講座は、再エネの経済性に関する研究、そして再エネ大量導入を可能とする新しい電力システムのあり方に関する研究を推進し、技術的側面の検討のみならず、その社会経済評価や、電力産業の将来像の研究を行うことにしたわけであります。第2期講座でも、この精神を引き継いでまいります。

 第2期講座の新機軸としまして、研究部門制を導入することに致しました。【部門A】では再エネの普及促進政策とともに、再エネ中心とする分散型電力システムのあり方を探求していきます。【部門B】では、脱炭素化や再エネ大量導入が、分散型電力システムの構築に繋がり、それが地域活性化につながる方途を見出していきます。【部門C】では、パリ協定を受けて今後、本格化する「脱炭素化」と「エネルギー転換」に向けて、どのような政策手段が必要か、そうした政策手段を導入した場合の経済的インパクトはどうなるのか、制度設計とともに定量評価を行ってまいります。

 本講座もまだ発展途上ですので、皆様のご指導やご助言を得ながら進めてまいりたいと思っております。第2期発足に合わせて講座ホームページもリニューアルいたしまして私たちの研究成果を発表していくとともに、関心をお持ちの多くの方々とのコミュニケーションのきっかけになればと願っております。今後とも何とぞ、よろしくお願い申し上げます。

2019年4月1日

京都大学大学院経済学研究科 教授
諸富 徹