Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.125 調整電源としての熱電併給システム
~我々はデンマークから何を学べるか~

2019年5月9日
京都大学大学院経済学研究科/地球環境学堂教授 諸富 徹

デンマークにおける熱電併給システムの普及拡大過程

 再生可能エネルギーの大量導入にあたって、調整電源の役割が重要になることはよく知られている。だが、典型的な調整電源といえばガス火力発電が思い浮かぶが、熱電併給システム(combined heat & power: CHP,コジェネ)が調整電源として優れた機能を発揮しうることは、もっと知られてよいと思う。

 実際、デンマークにおける再エネの市場統合を語る際に、熱電併給の果たしている役割を無視することはできない(Ropenus 2015)。デンマークでは、地域暖房によるエネルギー生産が1972年の80ペタジュール(PJ)から2012年の140PJへと大幅に増大した。CHP燃料は、かつては石油や石炭が大半を占めていたが、1980年代以降にその比率は急速に低下し、いまではバイオマスや天然ガスが大半を占め、CHPの「クリーン化」が進んだ。

 デンマークで熱電併給が進んだ背景として、熱導管の面的敷設による地域暖房の普及が挙げられる。石油ショックを受けてデンマーク政府は省エネ・エネルギー効率性の改善を促すため、1980-2000年に電力課税を強化し、高い電力料金とも相まって電気による暖房から熱による暖房への切り替えが進んだ。1990年代に入るとデンマーク政府は、天然ガスCHPによる発電を、固定価格買取制度で支援した。このため、CHPプロジェクトの収益性が安定し、投資が進んだ。

 しかし、風力発電比率の上昇とともに電力供給の変動性が高まり、CHPによる発電量が市場価格に反応しないことが問題視されるようになっていった。そのため2006年以降、5MW以上の発電容量をもつすべてのCHPには、卸電力市場の価格で電力販売を行うことが定められた。こうして熱電併給設備の運用者に、市場価格の変化に柔軟に反応して電力供給量を調整する「柔軟性」供給のインセンティブが与えられることになった。もちろん、これはCHPにとっては実質的な収入減を意味したので、政策変更にあたって、政府は電力生産量に比例しない形で彼らに「補償」としての補助金を交付した。

再エネの調整電源として機能する熱電併給システム

 では、熱電併給設備の運用者はどのようにCHPを運用しているのだろうか。我々にとっては耳慣れない言葉だが、ここで「蓄熱槽」の役割が重要になる。蓄熱槽とは、ボイラーで温めた温水を貯めておく巨大な水槽のことである。CHP運用者は、卸電力市場で価格が高い時には電力供給を増やして利潤最大化を図るが、出力が高くなるために同時に需要を上回る温水を創り出すことができる。余剰となった温水は、蓄熱槽に貯めておく。電力価格が下がれば、運用者は発電を控えて運転のランニングコストを節約する。このため熱生産量は低下し、需要を下回ることになるので、蓄熱槽で貯めておいた温水を地域暖房のために供給する。こうして、熱需要をつねに満たしつつ利潤最大化を図るよう市場価格の変動に合わせて柔軟に電力生産を変化させることが可能になる(佐土原 2018,50-53頁)。

 実際、デンマークでは熱電併給設備による電力供給は、きわめて市場価格に感応的になっている。2017年における大規模CHPの電力生産量の推移と卸電力市場の価格推移のデータを重ね合わせてみると、両者は見事に連動していることが分かる(Energinet 2018, p.5, Figure 3)。結果として、CHPが再エネの変動性に対するバッファーの役割を果たし、その変動性を吸収する役割を果たしてくれている。これが、CHPもまた「柔軟性の供給者」になっていると評されるゆえんである。

 日本は、デンマークやドイツほどCHPが普及していない。それは、日本の冷暖房のほぼすべてが電気(エアコン)によって行われること、また住宅やビルなど建物単体で冷暖房を行う仕組みとなっていることと関係している。だがこれは、きわめて効率が悪い。日本の暖房方式では、発電で燃料を電気に変換し、電気だけを取り出して空気を暖める。発電過程で発生する熱は使われずに大気中に捨てられるため、膨大なエネルギー損失が発生する。発電過程で生み出される熱を捨てず、うまく暖房に利用できればエネルギー効率性は大幅に上昇する。これが、熱電併給(CHP)の考え方である。これまでの暖房方式では、エネルギー総合効率は40%程度だが、これを熱電併給に切り替えれば、効率性は80%程度へと倍増する。これが熱電併給の第1のメリットであり、エネルギー効率性の改善を通じて温室効果ガスの排出削減にも寄与する。

 こうして熱電併給は、それ自体としてエネルギー効率性を改善するが、それで地域冷暖房を面的に展開することで、エネルギー効率性のさらなる改善が見込める。現在のオフィスビル単体での個別冷暖房方式のもとでは、各ビルがそれぞれ最大需要に合わせた(オーバースペックの)空調設備を備え付けている。大部分のオフィスビルでは昼間は冷暖房需要が高いが、人のいない夜間は冷暖房が必要ないため、平均稼働率が低調となり、きわめて効率が悪いのが実情である。これを街区単位での地域冷暖房に切り替え、病院など夜間の冷暖房需要も高いビルを取り込んで大型ボイラー/空調設備を、その街区の複数のビルで共有し、ビルの間に熱導管と配電網を敷設すれば、どうであろうか。各ビルが個別に単体で設備保有する場合よりも、大幅に設備容量を減らすことができ、効率性は一挙に高まることは自明である。これが、熱電併給(による地域冷暖房)の第2のメリットである。

 デンマークにおける熱電併給による地域冷暖房の事例は、以上2つのメリットに加え、「柔軟性の供給」という第3のメリットが熱電併給に備わっていることを教えてくれる。再エネ大量導入時代には、大規模火力発電所だけでなく分散型電源である熱電併給設備が、柔軟性供給の一翼を担うことの社会的意義はきわめて大きい。熱電併給設備がこうした社会的役割を果たすためには、それらが街区内だけでなく、街区外に対しても余剰電力を卸電力市場価格で売電することを許容する必要がある。

人口減少時代のまちづくりと熱電併給システムの重要性

 日本はこれまで、冷暖房に関して「電気偏重」でやってきた。だが今後、大幅な省エネ・エネルギー効率性の向上を進めるには、総合エネルギー効率の引き上げは不可避であり、戦略的に熱電併給を促進すべきである。そのためには、熱電併給設備投資への補助、熱電併給による発電への固定価格買取制度の適用、街区単位で大規模ボイラー/空調設備を共同保有し、面的に熱導管や配電網を整備するビル所有者への支援を図るべきであろう。

 面的な地域冷暖房の導入は、東京駅周辺の大手町や丸の内ですでに完了しており、街区熱供給会社が事業を展開している。他にも複数の都市で導入が進められている。静岡県浜松市中区におけるJR浜松駅に隣接した中心市街地では、既存ビルの建て替えにともなって段階的に地域冷暖房を面的に整備することが構想されている。栃木県宇都宮市にではJR宇都宮駅東口地区に、新設されるLRTの停留所を設けることと一体で再開発事業が展開されることになっており、熱電併給設備導入による地域冷暖房の整備が行われる予定である。こうした一連の動きの背景には、エネルギー総合効率性の向上に加え、地震による大規模停電時にも街区の電力を自力で確保するという「レジリエンス」の視点がある。これで街区に立地する病院を停電から守れるほか、災害時にも立地企業のビジネス継続が可能となるため、企業誘致に有利だという考慮も働いている。今後、人口減少が進行すると中心市街地の「スポンジ化」や空洞化が進み、都市の魅力が低下する事態も予想される(諸富 2018)。各都市の中心市街地が魅力を保ち、競争力を維持するには、熱電併給設備を用いたエネルギー面的供給によるレジリエンス確保が、重要な要素になっていくことは間違いない。

 地域冷暖房は、都市だけのものではない。例えば岡山県西粟倉村は、村役場庁舎の建て替えにともなって、村の中心地区に集積する小・中学校、老人保健施設、こども館(新築)などを熱導管で繋ぐ地域冷暖房システムを構築した。熱源は、地域の豊かな森林資源を生かした木質バイオマスボイラーである。今後さらに、この中心地区に村営住宅や農業プラントの整備が行われていく予定である。西粟倉村は、人口減少の中で中心地区への「コンパクト化」を進めるタイミングをうまく捉えて、再エネによる熱供給システムを導入した。この事例は、全国的にも大きな示唆を与えてくれる。つまり、これから人口減少が本格化する中で、地域の活力を維持するためにも自治体は立地適正化計画を策定し、コンパクト化を進めていくことになる。これは何十年に一度しかない、空間再編のチャンスと捉えることもできる。中心地区や他の拠点に集約を図るタイミングで、熱電併給設備を核とした地域冷暖房システムを戦略的に整備すれば、総人口は減っても質の高い生活を維持でき、拠点の魅力は高まることになる。将来的には、その地区にスマートグリッドを整備するのであれば、熱電併給設備は熱供給だけでなく電力需給を調整する中核的要素になるだろう。

 熱電併給による地域冷暖房は、第5次エネルギー基本計画でもそれなりの取り扱いを受けているが、その優先順位は決して高くない。(1)エネルギー総合効率の向上、(2)温室効果ガスの排出削減、(3)再エネ大量導入時代における「柔軟性」の供給源、(4)レジリエンスの向上、(5)人口減少時代における地域魅力/競争力の源泉、といったその多層的な意義に鑑み、次の第6次エネルギー基本計画では、熱電併給による地域冷暖房のエネルギー政策上の位置づけを抜本的に引き上げるべきであろう。そして熱電併給設備を有力な分散型電源と位置づけ、将来的な再エネ大量導入に備え、積極的にその育成を図るべきではないだろうか。

参考文献

・佐土原聡(2018),「スマートシティ実現に資する地域エネルギーシステムのあり方-地域熱供給を基盤とした自立分散型・地産地消のエネルギーシステム」『都市計画』第67巻第6号,50-53頁.
・諸富徹(2018),『人口減少時代の都市‐成熟型のまちづくりへ』中公新書.
・Energinet (2018), Nordic Power Market Design and Thermal Power Plant Flexibility (https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Globalcooperation/nordic_power_market_design_and_thermal_power_plant_flexibili._.pdf).
・Ropenus, S. (2015), “The Danish Experience with Integrating Variable Renewable Energy: Lessons learned and options for improvement”, Agora Energiewende.