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No.133 グーグルに見る再エネPPA成立の条件

2019年6月27日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 日本では、固定価格買い取り期限切れ発生、再エネ自立化を巡る議論、環境投資を活発化したい事業者の増加等を背景に、大手事業者による再エネ電力調達に対する関心が高まってきている。海外ではグーグル、アップル、マイクロソフト等のITジャイアント等による再エネ調達が活発に行われてきている。今回は世界最大の再エネ調達事業者であるグーグルに焦点を当てて、長期相対取引(PPA)を主に解説する。

1.グーグルが牽引する再エネ電力調達

 グーグル等ITジャイアントは、情報革命・IOT時代のなかで、関連製品に対する需要が急増し、データセンター投資を活発に行っている。データセンター運営に要する電力消費は膨大であり、グロ-バル企業としてCO2を排出しない電力調達は不可欠となる。データセンタの省エネ化はもちろんであるが、クリーンで低コストな電力を如何に調達するかについても長年努力を重ねてきた。

 資料1は、2017年12月末時点の事業者別再エネ調達量であるが、グーグルは300万KWもの容量を確保しており、2位のアマゾンに3倍近い差をつけて断トツ1位であることが分る。技術的には風力が圧倒的なシェアを占めている。

資料1.事業者による再エネ電力調達状況(累計MW、2017/12末)
資料1.事業者による再エネ電力調達状況(累計MW、2017/12末)
(資料)BNEF   (出所)Google Environmental Report 2018

 また、グーグルは2012年に再エネ利用率100%を宣言したが、2017年には数年の前倒しにて実現している。資料2は、同社の電力消費量と再エネ率の推移である。

資料2. Googleの消費電力量と再エネ比率
資料2. Googleの消費電力量と再エネ比率
(出所)Google Environmental Report 2018

2.再エネ調達手段の主役はPPA

 グーグルはどのようにして、再エネ大量調達に成功したのであろうか。資料3は、事業者が再エネ電力を調達する方法(戦略)と卸市場、小売市場の整備状況、そしてコメントを表にしたものである。グーグルの環境レポート等を参考に整理した。

資料3.事業者による再エネ電力調達戦略と市場整備状況の関係(米国を主に)
項目\市場整備等 卸市場 小売市場 コメント
オンサイト発電 容易、量的制約
グリーン証書等 容易、短期、インパクト小
米国RECs、欧州RO
一般的なPPA(注) 自由
ISO等
規制 発電との間でPPA締結、環境価値は分離・償却
米国の一部
直接小売りPPA 自由 自由 発電と小売り両者との間でPPA締結
米国の一部、EU、チリ等
再エネ料金
(Utility-Tariff)
自由
垂直統合
規制 Utilitiesが顧客ニーズに合わせてメニュ―創設
米国の一部

(注)PPA:Power Purchase Agreement、長期相対取引、卸で売り小売りで買う(固定変動スワップ)
グーグルは電力と環境価値を合わせて購入し環境価値は分離し消費量に応じて償却
(出所)グーグル資料等を参考に作成

 事業者が再エネ電力を確保する際にまず考えるのは、事業所サイト内に自家発電として設置することである。屋根置き太陽光発電が典型である。ネットワーク使用(託送)料金は生じないが、量的に限界がある。グーグルは、シリンコンバレーのマウンテンビューにある研究所に大規模な屋根置き太陽光発電等を設置している。

 また、発電に伴い発生する環境価値を証明するグリーン証書を取得する。米国では29州とワシントンDCが、一定の再エネ消費割合を義務付けるRPS(Renewable Portfolio Standard)制度を実施しているが、その価値を証明するものがRECs(Renewable Energy Certificates)である。欧州では、RECsに相当するのはRO(Renewable Obligation)である。これは、市場価格により入手できるが、個別再エネ設備との結びつきが弱いこと、期間が短くなりがちであることから、再エネ開発に係るインパクトは大きくない。

PPAの仕組み

 グーグルは、本格的な再エネ調達を実現するために、再エネ長期相対取引(PPA:Power Purchase Agreement)を考案した。資料4は、このPPA取引を示したものである。

資料4.Googleの再エネPPA取引
資料4.Googleの再エネPPA取引
(出所)Google:Achieving our 100% Renewable Energy Purchasing Goal & Going Beyond

 再エネ発電事業者が開発する特定の設備に関して、グーグルが15~20年の長期間、固定料金にて、RECと併せて買い取り保証をする契約を結ぶ(図中の1)。グーグルは、買い取った電力を卸電力取引市場に短期スポット価格にて売却する(2)。グーグルのデータセンターは、小売事業者から実際に消費する電力を購入する。小売事業者はスポット市場から調達するが、これは再エネ以外の電力も含まれるが、販売価格は通常の料金である(3)。グーグルは、データセンターの電力消費量に合わせてRECを使用(償却)する。

PPAは競争的環境の下で可能になる

 この取引のポイントを解説する。米国では、連邦政府管轄の卸市場は自由化されているが、小売市場は州政府の管轄であり、自由化しているのは13州(注)およびワシントンDCと少なく、他州は規制されている。小売り規制州にデータセンタが立地している場合は、小売事業者からその料金で電力を購入することになる。グーグルは、卸取引で直接再エネ事業者と契約を結ぶことになるが、そのためには卸取引所の会員になる必要がある。当社がゼロエミッションを掲げた2010年当時は、一般事業者は取引所会員に入っていなかった。2011年に連邦エネルギ-規制委員会(FERC)より会員を認められ、再エネ事業者と卸取引を行うことが可能となった。2012年に当社の再エネPPA第1号が実現する。

(注)小売り自由化13州:メイン、ニューハンプシャー、マサチューセッツ、ロードアイランド、コネチカット、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルベニア、デラウェア、メリーランド、オハイオ、イリノイ、テキサス

 契約した再エネ発電の全量をテータセンターが使っている訳ではない。系統を利用する限り物理的に他の発電設備の電気も混じることになる。しかし、発電所とデータセンターが同一市場(系統)内にある、RECが当該発電所由来である証明がある、RECを消費に合わせて償却している等の要件を充たしている場合、契約した再エネを消費していると見做しうる。また、グーグルは、前述のようにRECだけを購入することは行わず、新規に開発される再エネ設備に係るすべての電力とRECを併せて(bundled)、長期間購入する。グーグルが長期間固定料金で買い取り保証することで、その事業のリスクが軽減され、ファイナンス判断が容易になる。その結果、新たな再エネ資源が追加されることになる(「追加性」の担保)。こうした社会的なインパクトを重視している。

 一方で、小売りが自由化されている州、地域ではより効率的な仕組みを採用できる。グーグルは再エネ事業者とPPAを結ぶが、同様な内容のPPAを小売会社との間でも結ぶ。グーグルは、調達した電量を卸市場に売る。一方小売会社は、PPAのスケジュールで発電した量を卸市場から調達し、データセンターに供給する。小売り規制のケースに比べて、より直接的で調整力(バランシング)の調達も容易になる。小売りが自由化されているEUで普及している手法であり、比較的容易に再エネ電力が調達できる。

期待されるUtility-Tariffの普及

 卸市場に制約があり小売りが規制されている地域では、地元電力会社(utility)と公益事業委員会等の規制機関に、PPAに準じた金融商品を作ってもらう必要がある。Utilityが所有する再エネ設備を利用した、あるいはPPAで購入した電力を、その投資や契約内容を反映した料金にて販売する(Renewable-Utility-Tariff)。多くの発電設備や流通設備を持ち、供給ノウハウを有するutilityによる商品化は、事業者にとり本来最も効率がいい調達方法となる。しかし、「既存電力モデルの転換には時間を要する」(グーグル談)ことから、上記PPA等の工夫による再エネ調達が現状では一般的になっている。

3.出現が待たれる「日本のグーグル」

 世界最大の再エネ電力調達事業者であるグーグルの例をみると、卸市場と小売市場の競争環境が整備されている地域ほどPPA取引等による再エネ調達が容易であることがわかる。PPAモデルの普及と再エネコストの低下は相関関係にある。

 翻って日本を見ると、パリ協定発効に伴いグローバル企業を主に環境価値を有する再エネ調達への関心が高まっており、電力会社への商品提供要請も多く寄せられるようになってきている。しかし、まとまった調達は容易ではない。再エネ電力が少ない、価格がまだ高い、FIT制度の環境価値帰属先が曖昧である等が背景としてある。

 しかし、海外で直接調達の主役となっている再エネPPA取引を事実上やれないことも大きな制約要因である。PPA成立条件である市場の競争環境整備が遅れている。卸取引所はまだ整備の途上であり、一般事業者は取引所の会員になれない。小売りは全面自由化されてはいるが、従来料金メニューが主である既存事業者の存在感が強い。この背景として、先着優先制度が残っている発電事業は競争環境にあるとはいい難いことがある。

 グローバル企業の立地条件として、再エネが調達しやすい、PPA取引が容易な競争環境が整備されている地域が注目を集めるようになっている。グーグルは、アジア初のPPA取引を台湾で実現した。台湾はグーグル等の要請に応えて、電力市場改革を実施したのである。

(キーワード:グーグル、PPA、環境価値)