Kyoto University Joint Research Project for Renewable Energy Economics

京都大学公式サイト

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

TOP > コラム一覧 > No.136 フローベース(実潮流)の送電管理・・・東電の試み

No.136 フローベース(実潮流)の送電管理・・・東電の試み

2019年7月11日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 内藤克彦

要旨

 世界は、20年前にフローベース(実潮流)の送電管理に大きく舵を切ったが、我が国の制度の考え方は、依然として20年前の前ICT時代のまま取り残されている。技術的には、我が国はフローベースへの対応能力を持ちながら、フローベースによる管理に関する情報が我が国にほとんどもたらされていないことも一因である。このような状況下で、米国の送電管理への知識を持つ東電のグリッドカンパニーのスタッフがフローベースの潮流計算・送電管理を実際に試み、発表を行った。この結果は、フローベースの送電管理を行えば、現行の送電線でも欧州並みの再エネ接続が可能となるというものである。これを契機として、我が国も世界標準のフローベースの送電管理に転換すべきであろう。

1.世界の潮流から乗り遅れる我が国の送電政策担当者

 フローベースの送電管理が世界の常識となっていることは、既に、本コラムでも述べているところである。20年以上前の米国の電力改革に際して、送電線毎に送電権を割り振るような古典的な方法は、フローベースのリアルタイムの送電管理に取って代わられ、この方法は基本的に欧州でも採用され、今や豪州、中国、韓国、フィリピン等に至るまで、このフローベースのリアルタイムの送電管理が行われている。実際の送電オペレーションの経験者や現役の関係者の何人かに聞いたところ、我が国でも、技術的にはいつでも対応可能であるそうである。にもかかわらず、我が国においては今日まで制度としてフローベースの考え方が組み込まれることはなかった。欧米等で実施されているフローベースのリアルタイムの送電管理の具体的な方法については、我が国においては、極一握りの専門家・実務担当者以外は実際にはほとんど認識されていないことが原因の一つではないかと思われる。現に電力・メーカーの実務担当者に聞いても正確に理解している人は稀なのではないかという印象を持つことが多いが、このような実務担当者は、少し説明すると直ぐに理解する。ところが、彼らの周辺にいる政策担当者や電力の企画・計画担当者、さらに周辺のマスコミや電力以外の学者に話しても、ポイントは中々理解されない。このような状況では、とてもフローベースの送電管理の考え方に基礎を置く制度には手が届きそうもない。かくして我が国の水準だけ20年前の前ICT時代のままに取り残されることになる。

2.東京電力が行ったフローベース管理の試み

 このような状況の時に、東京電力のグリッドカンパニーが、フローベースの考え方を取り入れた送電キャパシティ管理に関する報道リリースを本年5月17日に行った。東京電力のグリッドカンパニーの職員には、我が国では珍しく米国のPJMに派遣され、米国の送電管理の一端に触れて来た職員が何人か存在しているので、このようなことが可能となったのであろう。ところが、東電の発表の意味を正確に理解できたマスコミがいなかったために、正しくマスコミの報道に載ることはなかった。

 本稿では、フローベースの説明に代えて、東電の発表を解説することで、フローベースの考え方と効果の一端に触れていただければ幸いと考えている。

3.ここで注目される送電線

 房総半島は佐京連系ラインという基幹送電線で房総半島とそれ以外の地域と接続されているが、房総半島の東京湾岸には東電の主力LNG火力発電所が並んでおり、千葉県の工場群の需要はあるものの多くの電力が、この佐京連系ラインを通して東京都心等の大需要地等に送られている。一方で、外房方面は再エネの適地であるため、佐京連系ラインの房総半島側に約500万kWの再エネの接続希望があり、房総半島内の需要で吸収できない再エネ電力は、主力LNG火力発電所の電力に加えて、この佐京連系ラインを通して都心等に送る必要がある。そこでこの佐京連係ラインの混雑状況次第が再エネの接続に影響を与えることになるわけである。



 ところが、経産省の示すコネクト&マネージの手法に基づき想定潮流を設定すると「空き容量」はゼロという結果となる。これは、従前からの主力LNG火力発電から佐京連系ラインを東京方向に流れる電力が最大になる時には、これだけで、ほぼ佐京連系ラインのキャパシティが満杯となることによる。

 これは、経産省の示すコネクト&マネージの手法に基づくと、いわゆる「想定潮流」として「最も不利な断面」を想定して「空き容量」を算出して、隙間があれば接続させるという考え方となっているためである。この辺を解説するために、東電は、デュレーションカーブというものを用いているが、この辺からマスコミはお手上げとなり始めるので、デュレーションカーブの説明を簡単にしておく。

4.デュレーションカーブとは何か

 以下の図の左図に示すように、送電線を流れる毎時の電力は、時々刻々の需給の変化により、潮流計算を行うと時々刻々と激しく変化している。この例では、2018年8月一月分の潮流がグラフとなっている。我が国では30分同時同量なので、30分刻みのデータとなっている。これを大きい順に並べ直したのが、右側の図となる。これがデュレーションカーブである。右側の図を見ると最大の電力が流れる時が左端で、最小の電力が流れる時が右端となるように全てのデータを大きい順に並べ直してある。これを見ても分かるように電力の需要期の8月であっても日時により、流れる電力には5~6倍の開きがあり、佐京連係ラインのキャパシティ限界が13000~14000千kwであるので、キャパシティ限界を超えているデータはひと月の間で極わずかであることがわかる。



5.房総半島の送電線で行われた潮流計算

 佐京連係ラインの一年間の実潮流データをこのデュレーションカーブで大きい順に並べ直した図が次の図となる。



 これは、接続希望の再エネを乗せる前の既存の発電施設による佐京連係ラインの実潮流を表している。これを見ると佐京連係ラインが最も混雑するグラフの左端の時に佐京連係ラインの送電キャパシティの限界にちょうど達していることがわかる。経産省の想定潮流の考え方は、「最も不利な断面」の一点評価なので、このグラフの左端の状態で空き容量がゼロという判断をしていることになる。つまり我が国で行われている「最も不利な断面」による一点評価では、再エネを繋がなくとも送電線の限界に来ているので、「空き容量はゼロ」ということになる。しかし、このグラフを見ると年間8760時間のほぼすべての時間で実潮流で見ると「空き容量」が存在し、最も空いている時は90%程度空いていて、平均的にも50%程度は空いていることがわかる。

 つまり、実潮流でリアルタイムで評価すればほとんどの時間は、「空いている」ということになる。

 ここに、佐京連係ラインの房総半島側に接続希望のある約500万kw注の再エネ出力を加えて8760時間の潮流計算した結果が、次のグラフの赤線のラインとなる。



 この図を見ると分かるように、再エネの出力を加えても、佐京連系ラインのデュレーションカーブは、全体として上に少しずれるだけで、佐京連系ラインのキャパシティを超えている時間は、極わずかとなっている。東電に問い合わせたところによるとこの時間は、年間の約1%程度とのことである。東電の潮流計算を正確に評価するには、再エネの組み込み方、気象条件の設定の仕方等まだ不明な点が多く、計算根拠・条件を含む詳細な発表を強く希望するところであるが、500万kWの再エネを乗せても、オーダーとしては、この程度であろうという事は理解できる。

 欧米で行われているフローベースの送電管理では、接続の段階で門前払いや制約は課さずに全て接続させたうえで、毎時毎時の実潮流を見ながらリアルタイムで出力抑制の判断をICT技術を駆使して行っているので、この佐京連系ラインの例であれば、房総半島側の500万kWを全て接続しても、年間1%程度の時間の出力抑制をいずれかの発電所で行えば済むということになる。

 ドイツの送電管理者の一つである「50Hertz」の例では、年間2%程度の電力量の出力抑制とのことであるので、欧州並以下の出力抑制で房総半島の全ての再エネは接続可能ということになる。

 つまり、「最も不利な断面」の一点評価により排除されていたキャパシティの「空き」が、8760時間のリアルタイムのフローベースの評価をするだけで全て有効活用され、欧州並みの再エネ接続を可能とするという事である。

 東電のグリッドカンパニーの発表では、今まで「空き容量が無い」ので接続希望の再エネを接続させるには1000億円規模の投資で送電線の増強が必要とし、接続希望の再エネに対して「回答保留」していたとのことであるが、今後は、再エネの約1%の出力抑制を前提として、このフローベースの計算結果を房総半島における接続希望の再エネに対する回答に反映させていくとのことである。

6.まとめ

 欧米のフローベースの送電管理と比較すると、東電の対応は、依然として既存の発電施設と再エネの新規接続の扱いに差別を設けていて、再エネだけを出力抑制の対象としている点は、公平性の観点から問題があり、本来は、既存発電も含め公平に出力抑制の対象はリアルタイムで決定して行くべきであるが、いわゆる「想定潮流」として「最も不利な断面」における「空き容量」の一点評価を行うという、ICT時代に相応しくない前時代的な方法から、世界標準のフローベースのリアルタイム評価に踏み出したことは、大いに評価すべき点であろう。

 また、米国の送電管理の知見を有する東電グリッドカンパニーが実際にフローベースの潮流計算を行って見せたことは、大きな意味があり、これを契機として、政策立案担当者や電力の企画・計画部門の担当者のフローベースの送電管理に対する理解が進むことを期待したい。

 なお、東電のフローベースの潮流計算の詳細についてはまだ不明な点が多く、今後の我が国の送電管理の「現代化」のためにも、是非、詳細について公表していただくことを強く期待するとともに、6月1日以降の対応の状況についても、その後の経過説明を強く期待するものである。

追記

 本原稿をある送電管理の経験者に見せたところ以下のような感想が寄せられたので、追記、しておく。

 「日本の電力会社はこれまでハード面での信頼度向上に努めて来た。その結果、世界でも有数の停電の少ない国を作り上げて来たことは間違いないところであり評価できる。しかし、その高い信頼度の設備を運用するいわゆる送電管理技術は、人間の手で行っていた部分の自動化に伴う省力化が進んだものの、基本となる技術は20年前からほとんど進化していない。停電が少ないことに安穏としている間に送電管理技術は世界標準から20年遅れてしまった。世界の送電管理技術はAI技術の導入等によりさらに進んで行くことが予想される。我が国は今ここで奮起しなければ、系統運用の中枢である送電管理技術は、前近代的なものとなり、衰退してしまうことであろう。今回の東電の発表を契機として、国益の観点からも送電管理技術が世界標準に早々に追いつくことを期待したい。」

(キーワード:フローベース、実潮流、送電管理、東電発表)