Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.140 促進区域指定ダービー回顧(裏読み有望区域選定結果)

2019年8月22日
日本政策投資銀行 企業金融第5部 山口祐一郎

 世間はダービーのことなどすっかり忘れ、夏競馬の暑さに心を奪われているところであるが、再生可能エネルギー関係者の間で最もホットな話題は7月30日に経済産業省及び国土交通省が発表した「再エネ海域利用法における今後の促進区域の指定に向けて有望な区域等を整理しました」で間違いないだろう。

 今回の発表内容は非常に興味深い内容だった。何故なら公表されたのは、「促進区域の指定に向けた有望区域」11区域であるものの、同時に4区域については、「有望な区域として、協議会の組織や国による風況・地質調査の準備を直ちに開始する」とされたからである。

 このコラムを読んでいる皆様に対し、いまさら促進区域の指定プロセスを解説する必要はないと思うが、念のため概略を示すと下図の通り。まずは各都道府県が促進区域の候補地を国に提供、提供された候補地の中で、第三者委員会の意見も踏まえ、有望な区域が選定される。今回の11区域の選定はまさしくここまでのプロセスの完了を示している。促進区域の指定にはさらにこの有望区域に対し、①協議会における調整、②国による詳細調査、第三者委員会における促進区域の基準への適合性評価を踏まえ、決定されるというプロセスをたどる必要がある。今回の発表で興味深いのは、この後者のプロセスに進む区域として4区域を同時に発表したことにある。即ち、この4区域が「促進区域候補」であり、実質的に促進区域に内定したと考えてほぼ差し障りないだろう。

図1 促進区域の指定プロセス(出典:経済産業省開示資料)
図1 促進区域の指定プロセス(出典:経済産業省開示資料)

 さて、馬券の達人は、勝っても負けてもそのレースの結果を「回顧」し、それを次の予想に活かすらしい。従って、私もそれにあやかって前回コラムでの私の予想について「回顧」することにしてみたい。なにやら「回顧」が重要だと宣っているのは予想が外れたからだ。前回コラムで私は「促進区域は青森県、秋田県、長崎県から各1区域の合計3区域が指定される」という予想をしたものの、結果的には以下の通り千葉県銚子沖の大外一気の差し足に青森県が差されてしまい、4区域が指定されるという結果だった。

 ・秋田県能代沖、三種町及び男鹿市沖
 ・秋田県由利本荘市沖(北側・南側)
 ・千葉県銚子市沖
 ・長崎県五島市沖

 それでも指定される区域数を含め、本命予想ではあったもののまあまあの結果ではないだろうかと自分を慰めつつ、気を取り直して「回顧」に移りたい。

 まずは環境アセスにも至っていない中、見事な末脚をみせた「千葉県銚子沖」であるが、これについては当該地域での開発を公表している日本最大の電力会社である東京電力と東京電力と提携した洋上風力の世界最大手であるOrstedの騎乗技術、、、、、ではなく、両者への「期待」が先行した結果ではないだろうか?国内区域において、海外での洋上風力に実績のある外資との提携を公表済みの案件は現時点で千葉県銚子市沖のみである。

 他方、最大の謎は大本命であった青森県から1区域も選ばれなかったことだ。これについては発表資料をもう一度読み返してみたい。すると、上記4区域以外の7区域について、何故ただちに促進区域の指定に向けたプロセスに入らなかったのかの理由がきっちり記載されている。これによると、青森県沖日本海側(北側)と青森県沖日本海側(南側)については、「利害関係者の特定及び調整が必要である」とのみ記載されている。実は、それ以外の区域については、それぞれ「地元合意」、「防衛面」、「系統確保」、「世界遺産」といった具体的な理由が記されているにも関わらず、青森県日本海側についてだけは簡易な記載に留まっている。何かあやしい。

 これについては2つの心当たりがある。1つはもともと青森県の海域については「区域に重複あり」となっていたこと。もう1つは8月1日に開催された第22回系統ワーキングで公表された北東北募集プロセスにおける優先系統連携希望者の追加選定である(追加選定自体は7月31日に通知)。特に優先系統連系希望者の前後を比較すると、洋上風力で1件48万kW増加している。これだけでピンとくる方がいらっしゃれば、相当洋上風力に精通した方であるが、ピンとこない方は下図青森県つがる市沖(3区域)をご覧いただきたい。

 ここからは単なる空想にはなるが、今回の有望区域の選定に際し、当然経済産業省と国土交通省は7月31日の優先接続権の繰上げ当選について事前に知っていたはずである。にもかかわらず、これを無視した形で区域選定を行うことはできなかったのではないか?つまり、青森県は有望であることに間違いはないものの、本件発表の直後に青森県つがる市沖の海域での調整事項が増えることがわかっていたのであえて青森県の区域指定を見送ったもしくは調整をペンディングしていたのではないか。そして、繰上げ当選が確定した足元で、改めて水面下の調整が始まっているではあるまいか。

図2 洋上風力発電の導入状況及び計画(出典:経済産業省開示資料)
図2 洋上風力発電の導入状況及び計画(出典:経済産業省開示資料)

 さて、前回はつまらない本命予想で読者の皆様を落胆させたかもしれないが、今回は大穴狙いの予想で締めてみたい。すなわち、メインレースの後には必ず最終12レースがあるように、今回の促進区域指定ダービーの後にも最終レースが用意されている。そして最終レースの予想はずばり、「今年度中に青森県にて促進区域候補区域が追加指定される」の1点勝負。

 実は3月末に公表された洋上風力促進ワーキンググループの中間整理をよく読むと、促進区域指定のための第三者委員会について、「事業者の予見可能性を確保するため、6か月ごとなど定期的に開催する」と記載されている。促進区域の指定プロセスの全体像については「年度ごと」と明記されているが、促進区域指定自体はもともと年度内で複数回指定されることが想定されているのが上記予想の最大の根拠である。加えて、そもそも風況等で従前から有望と言われてきた青森と秋田とで扱いが異なったまま今年度が終了してしまうのはあまりにバランスが悪い。

 ちなみに、鄧小平ではないが、「最終レースは買うな」はよく知られた格言である。。。。。。

キーワード:「洋上風力」、「促進区域」、「有望区域」