Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.141 西日本における2030年の電力需給バランス,
再エネ電力比率45%に向けた課題

2019年8月22日
立命館大学 竹濱朝美

キーワード:起動停止-経済運用,電力需給,地域間送電,デマンドレスポンス

1.分析の目的

 気候変動枠組条約のパリ協定は,IPCC報告書を受けて,人為的起源炭素排出量と地球システムの炭素吸収量のバランスを,今世紀後半に均衡させると指摘している.(1) それに従えば,電力部門でも2030年頃には,非化石電源で発電量の45%以上を賄うことが必要になると思われる.本報告は,2030年の西日本地域について,発電量に対する再生可能エネルギー(以下,再エネ)電力比率で45%の可能性を検証し,電力需給バランスに与える影響について,考察する.

 本報告は,電気学会,新エネルギー・環境,高電圧合同研究会にて報告した拙稿(文献(2))の要約である.試算条件の詳細は,拙稿に計算式を示しているので参照されたい.

 本報告は,産業技術総合研究所,歌川学氏との共同研究の一部であるが,このレポートは,竹濱の個人意見であり,解析作業は竹濱の責任によるものである.

2.分析方法

(1)起動停止-経済運用の簡易モデル

 電力需給バランスを解析するために,在来電源発電機の起動停止-経済運用(Unit Commitment with Economic Load Dispatching,以下,UC-ELD)の簡易モデルを作成した.UC-ELDには多くの先行研究があるが(3)(4)(5)(6),今回の報告は,文献(3) を参照して,簡易なモデルを試作した.

 在来電源発電機を,出力上昇下降速度,最低出力下限,LFC調整力の有無に応じて,22種類の発電機サブグループ(subgroup)に区分した.(7) サブグループは,Coal 1,2,3; Oil 1,2,3; LNG thermal 1,2,3; Gas-CC 1,2,3; 独立発電業者1,2,3; 揚水発電,水力,貯水池水力,原子力発電,地域外受電である.なお,揚水,流れ込み水力,貯水池水力,原子力は設備容量を合算している.この試算では,最適化計算は,発電機1基単位ではなく,合算の設備容量による電源サブグループごとの経済運用による簡易モデルである.かつ,有効電力の需給バランスのみを分析しており,電気品質は考慮できていない.

 西日本の軽負荷期として5月,重負荷期として8月の各1か月間について,1時間ごとの燃料費を最小化する最適化計算を行った.最適化計算には,Matlab optimization tool box 線形計画法を使用した.関西管区と中部管区は合算し,融合した管区として扱う.北陸管区は,今回試算には含めていない.

(A)目的関数

 単位時間(1時間)ごとの燃料費用を最小化する.1時間ごとの最適化であるので,24時間でみると,必ずしも最適化になっていない場合がある.

(B)制約条件

 連系線送電に関する制約条件: 再エネ電力は,風力/太陽光発電(以下,PV) の電力も含めて,最優先で地域間送電する.ただし,再エネ電力の予定供給分と調整力の地域間融通を含めて,地域連系線の運用容量の70%を上限として,送電する.

 LFC調整力の設備容量に関する制約条件: 利用可能なLFC調整力の設備容量として,全ての単位時間で,各管区の需要の3%以上を確保する.上げ調整力,下げ調整力ともに,各時間について,利用可能な発電機サブグループ設備容量の5%以上を調整力として確保する.時間(t)における発電機サブグループの出力は,最低出力下限,最大出力限界を確保し,かつLFC調整力を確保できる範囲内で稼働するものとする.石炭火力は,LFC調整力に使用しない.発電機の最低出力下限は経産省データ(8)を使用した.

 調整力と風力/PV出力予測誤差に関する条件: LFC調整力は,リアルタイム1時間前のPV予測誤差と風力出力予測誤差を補てんすると仮定した.需要の予測誤差はゼロと仮定している.PVの1時間前出力予測は,気象庁アメダスの日射データから,重回帰分析により作成した.PVの最大予測誤差は,0.12~0.15 p.u.である.風力出力予測誤差は,1時間前の実績値との差を誤差とした.

 在来電源の出力上昇/下降速度の制約条件: 石炭火力の出力上昇/下降速度は,1~3%/分とした.調整力用火力機の出力上昇/下降速度は,1分あたり変化速度を1時間値に換算した.発電機は,サブグループごとの1時間あたり出力上昇/下降速度の範囲で稼働させる.

(2)Highケースの想定条件

(A)Highケース

 表1に,2030年のHighケースの再エネの導入目標を示す. Highケースは次の条件を想定した.

 ①風力およびPVの導入目標は,文献(4) および「再生可能エネルギー導入拡大に向けた系統整備等調査事業(環境省委託)」(9)を参照して,再エネ比率45%を考慮して,2050年の導入量を前倒しで2030年に導入させる野心的目標値を設定した.バイオマス,地熱,小水力は,2016年の設備容量の1.2倍とした.再エネ出力値は,2016年の再エネ出力実績値に設備容量の増大倍率を乗じた.

 ②電力需要は,人口減少と省エネ対策により,Baseケースから10%削減すると想定した.

 ③原子力は,再稼働の見込みが不明であること,また,再エネ大量導入による需給バランスを確認するため,今回は,原子力稼働ゼロで算定した.

 ④CO2削減のため,石炭火力の稼働設備容量を,昼間稼働停止も含めて可能な限り削減させる.軽負荷期(5月)には,九州,四国,中国管区の石炭火力は,必要に応じて1基のみ稼働とした.

 ⑤昼時間帯に,HP加温とEV充電を行う時間パターンを設定した.各管区の保有乗用車台数の20%をEV車と想定した.

 ⑥LFC調整力も,地域外からも融通させる.変動性再エネ電力の設備容量が拡大すると,予測誤差規模が拡大するため,調整力の必要準備規模が増大するためである.(10)

 ⑦再エネ電力は,風力/PV出力予測(1時間前)に基づき,最優先で地域間送電する.地域間送電は,調整力融通分を含めて,連系線運用容量の70%を上限に送電する.連系線運用容量は,広域的運営推進機関による.(11)(12)

 ⑧関西と中部管区は融合した一つの管区(関西―中部管区)として,合算計算にした.

 ⑨揚水発電は,文献(13)を参照して,PV/風力の合計出力に応じて,昼間に揚水運転,夕方・夜間に発電させる(PV Pump-Upモード).昼間の揚水運転,夕方発電の運転時間パターンは,季節と管区ごとに調整する.揚水のポンプ損失は0.3 p.u.とした.

(B)Baseケース

 Baseケースは,各電力管区の2016年の実績需要と再エネ出力実績値により,現状の発電機運用と系統運用ルールを模擬している.①原子力は全て稼働させる.②石炭火力の設備容量の5%を予備力に取り分け,残りは全て稼働させる.③昼間のHP加温,昼間のEV充電はしない.④再エネ電力の地域間送電はしない.⑤LFC調整力の地域間融通はしない.⑥揚水発電は日ごとに,在来運転(Conventional Pump-Upモード)と昼間の揚水運転(PV Pump-Upモード)を選択する.

表1 2030年のHigh ケースの再エネ導入目標
表1 2030年のHigh ケースの再エネ導入目標

3.九州管区の需給バランス

 図1は,九州管区のHighケースの5月第1週の需給バランスを示す.図2は,8月第1週の需給を示す.帯グラフは,供給力を電源種別に,積み上げ帯グラフで表示している.帯グラフは,Shortage(供給不足.正の値は供給不足),Inter Zone Import(域外から輸入.正の値は輸入),Oil Independent(石油火力+独立発電業者の発電),Pump Reservoir(揚水発電+貯水池水力),Pump Evening Gene(夕方の揚水発電),Hydro Bio Geoth(流れ込み水力,バイオマス,地熱),RE Import(再エネ電力の域外から輸入)である.他方,折れ線グラフは,Heat Pump & EV(HP加温+EV充電.負の値は負荷=電力消費),Oversupply(電力過剰=出力抑制.負の値は電力過剰),RE Export & Zone Export(再エネ電力の域外送電.負の値は輸出=送電),Pump Up(風力/PV出力に応じた揚水発電の揚水運転.負の値は揚水運転)である.なお,折れ線グラフは,積み上げ表示ではないので注意されたい.

 昼間に,再エネ出力に応じた揚水運転,PV電力の域外送電,HP加温とEV充電を行っても,5月には大規模な過剰電力が頻発し,大規模な出力抑制が必要になる.電力過剰の最大規模は,5月で4~5GWになる.

 PVの連系容量の拡大に伴い,夕方の残余需要のランプ上昇が急峻になるため,残余需要の急増,夕方のEV充電抑制,夕方の揚水発電,これらのタイミングを合せることが難しくなる.EV充電負荷は分散的に使用されるEV車の充電行動に依存するため,EV充電負荷そのものが予測誤差を内包している.夕方の揚水発電は,PV出力急減と需要急増,EV充電という複数要素からなる合成の残余需要に,限られた時間で対応しなければならず,タイミング整合は複雑化する.

 再エネ連系容量の拡大に伴い,調整力が不足するようになる.他方,調整力の準備規模を拡大させると,調整力用発電機の最低出力下限のベース出力部分が拡大する(底上げされる)ため,いわゆる「下げ代不足」によって需給バランス確保が困難になる.

 九州-中国間の連系線(中国向き)の送電電力は,今回の試算条件では,5月の月間総時間数の4分の1で,送電上限に達した.関門連系線の容量拡張が必要である.

 表2に,再エネ電力比率を示す.九州管区の再エネ電力比率は,5月ですら36%,8月では31%であった.大量のPV出力があっても,九州―中国連系線の容量制約(中国向き)により,九州管内は電力過剰(=出力抑制)となるため,今回試算の条件の限りでは,再エネ電力比率を40%以上にすることは難しい.

4.中国管区,四国管区の需給バランス

 中国管区では,九州からの域外送電と中国管内の再エネ出力により,5月には,5GW規模で電力過剰=出力抑制が発生する.他方,8月の電力過剰は限定的な規模であり,電力不足のリスクは少ない.中国管区の再エネ電力比率は,5月は46%になるが,8月は36%にとどまった(表3).中国―関西(関西向き)の地域連系線は,5月には,送電容量が上限に達する時間が頻発するようになる.

 四国管区については,図表を省略する.四国管区の再エネ電力比率は,5月は43%となったが,8月は30%にとどまった.四国地域は,利用可能な調整力の設備容量に限りがあり,調整力不足が課題である.

図1 九州管区の需給,5月1-7日(Highケース)
図1 九州管区の需給,5月1-7日(Highケース)

図2 九州管区の需給,8月1-7日(Highケース)
図2 九州管区の需給,8月1-7日(Highケース)

表2 九州管区の再エネ電力比率,CO2排出量,燃料費,5月(上),8月(下)
表2 九州管区の再エネ電力比率,CO2排出量,燃料費,5月(上),8月(下)

表3 中国管区の再エネ電力比率,CO2排出量,燃料費,5月(上),8月(下)
表3 中国管区の再エネ電力比率,CO2排出量,燃料費,5月(上),8月(下)

5.関西-中部管区の需給バランス

 図3に,関西―中部の合算管区の5月第1週の需給推計を示す.中国と四国からの再エネ受電分により,5月第1週には,関西―中部管区でも電力過剰が発生するが,電力過剰の規模は限定的なものである.

 図4に,8月の第1週の需給を示した.ただし,図4は,追加的な省エネ対策を施し,需要を13%削減した場合を示しているので注意されたい.Highケースでは,需要10%減少を想定していたが,原発非稼働にした場合,需要10%削減だけでは,電力不足が発生する.需要を13%削減しても,夕方から宵の時刻に小規模な電力不足の懸念が残るため,需要シフトや蓄電池等のストレージが必要である.8月は,風力出力が少ないため,夕方から夜にかけての需要ピーク時に利用できる再エネ出力が乏しい.供給力がひっ迫するため,夕刻から宵にかけての残余需要の急増,夕方の揚水発電とEV充電を抑制するタイミングを整合させることが難しく,僅かなタイミングのズレで,供給不足が起こりやすくなる.

 表4に,再エネ電力比率を示した.関西―中部管区は需要規模が大きいため,中国と四国管区からの再エネ電力の送電を受けても,再エネ電力比率は,5月で22%,8月では15%という低い水準にとどまった.

図3 関西-中部管区(合算)の需給,5月1-7日(Highケース)
図3 関西-中部管区(合算)の需給,5月1-7日(Highケース)

図4 関西―中部管区(合算)の需給,8月1-7日(13%需要削減した場合)
図4 関西―中部管区(合算)の需給,8月1-7日(13%需要削減した場合)

表4 関西―中部管区(合算)における再エネ電力比率,CO2排出量,燃料費,5月(上),8月(下)
表4 関西―中部管区(合算)における再エネ電力比率,CO2排出量,燃料費,5月(上),8月(下)

6.まとめ

 ①今回試算は,野心的な規模での再エネ導入目標に基づいて,再エネ比率を試算した.しかし,連系線運用容量の70%を上限に,九州,四国,中国管区から,再エネ電力を優先的に地域間送電しても,月間の再エネ電力比率が45%に達したのは,中国管区の5月の46%のみであった.5月と8月の結果から推定すると,今回の試算条件では,再エネ電力比率45%の達成は困難である.

 ②より多くの再エネ電力を収容するには,九州―中国,および,中国―関西の連系線の容量拡大が必要である.

 ③再エネ電力の連系容量の拡大とともに,九州,四国,中国のHighケースでは,調整力が不足するため,調整力の地域間融通が必要である.

 ④関西―中部の合算管区では,夕方のPV出力低下と,EV充電抑制,揚水発電開始のタイミングを合わせることが難しい.特に,8月には,夕方から夜間に利用できる再エネ電力が乏しいため,今回試算条件では,原子力非稼働の場合,需要10%削減では供給不足になる.関西―中部管区の8月の供給不足を回避するには,需要を15%削減する省エネ対策,あるいは,需要シフトやネガワット,蓄電池等ストレージの導入が必要になる.

 ⑤今後の課題として,風力/PV出力は地域偏差と季節変動が大きいため, 5月,8月だけでなく,1年間について検証する必要がある.需給バランスは,試算条件を変えると,少しずつ変化するため,EV充電の時間パターンや蓄電ストレージ,調整力等の条件を変えて,さらに検証する必要がある.

文献

(1) UNFCCC, The Paris Agreement, Article 4, Para.1, (2015). https://unfccc.int/sites/default/files/english_paris_agreement.pdf
(2) 竹濱朝美,歌川学,「西日本における2030年,再生可能エネルギー電力比率45% に向けた課題, 地域間送電とデマンドレスポンスの活用」『電気学会研究会資料,新エネルギー・環境,高電圧,電力系統技術合同研究会』, pp.35-40, (2019).  FTE-19-007,HV-19-074,PSE-19-064.
(3) T. Kato, K. Kawai, Y. Suzuoki, ‘Evaluation of forecast accuracy of aggregated photovoltaic power generation by unit commitment,’ IEEE Power & Energy Society General Meeting, (2013). DOI: 10.1109/PESMG.2013.6672455.
(4) 荻本和彦,岩船由美子,片岡和人,斉藤哲夫,東仁,福留潔,礒永彰,松岡綾子,山口容平,下田吉之,黒沢厚志,加藤悦史,松川洋,「電力需給モデルによる分析(II)」,第36回エネルギー・資源学会研究発表会, pp.175-180, (2017).
(5) R. Komiyama, Y. Fujii, ‘Assessment of post-Fukushima renewable energy policy in Japan's nation-wide power grid’. Energy Policy, 101,(2017), pp.594-611.
(6) 高尾康太,原祥太郎,桐山毅,橋本彰,金子祥三,泉聡志,酒井信介,「電源構成モデルによる再生可能エネルギー大量導入時の電力需給運用評価」,日本機械学会論文集,Vol.80, No. 820, (2014)
(7) Asami Takehama, Manabu Utagawa, “High Penetration of Photovoltaic Energy and Supply-Demand Balance in the Western Japan Grid, with Utilizing Interzone Transmission and Demand Response”, The 8th International Workshop on Integration of Solar Power into Power Systems, 16th Oct. 3A_1_S18_274, (2018).
(8) 経済産業省,第12回 総合資源エネルギー調査会,新エネルギー小委員会系統ワーキンググループ.電力会社提出資料,および,電力各社設備一覧,(2017年10月17日).
(9) 環境省,伊藤忠テクノソリューションズ,「平成 25 年度,再生可能エネルギー導入拡大に向けた系統整備等調査事業委託業務報告書」,環境省委託調査,(2015).
https://www.env.go.jp/earth/report/h27-02/mat01_zentai.pdf
(10) 竹濱朝美, 斎藤哲夫「風力・太陽光電力の出力変動と地域間送電,予備力の地域間融通に関するドイツの経験」, 『第38回, 風力エネルギー利用シンポジウム』, pp.235-238,(2016)
(11) 電力広域的運営推進機関 (OCCTO),第4回運用容量検討会,「2018~2027年度の連系線の運用容量(年間計画・長期計画)」,2018年2月9日.
(12) 電力広域的運営推進機関(OCCTO),第6回運用容量検討会,「2019~2028年度の連系線の運用容量,年間計画・長期計画」,2019年2月15日.
(13) R. Aihara, A.Yokoyama, F. Nomiyama, N. Kosugi, ‘Impact of Operational Scheduling of Pumped Storage Power Plant Considering Excess Energy and Reduction of Fuel Cost on Power Supply Reliability in a Power System with a Large Penetration of Photovoltaic Generations’. International Conference on Power System Technology, (2010)