Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.146 電力広域的運営推進機関について

2019年9月19日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 内藤克彦

1.趣旨

 電力広域的運営推進機関においては、日本版コネクト&マネージの検討など、2020年の送配電分離の基礎となる検討が行われている。さらに、東京電力パワーグリッドは、同機関の検討に先行する形で2019年5月17日に千葉系統でフローベースの送電運用による再エネ等の早期連系を試行すべく、国および同機関と相談を開始したとの発表を行った。しかしながら、同発表以降、同機関の広域系統整備委員会においてフローベースの送電運用に関する具体的な議論は進んでおらず、また、発電抑制をすべてノンファーム接続の事業者に課す案としているなど、社会コストの低減よりも既存事業者への配慮を優先しており必ずしも厳密に中立的立場で送電システムの検討を行っていないのではないかと推察されるような状況が見受けられる。ここでは、米国で中立的な送電管理を行っているISOの組織との比較を試みる。

2.電力広域的運営推進機関の任務

 電力広域的運営推進機関は、電力会社間の緊急時の融通や送配電等に係る業務指針の策定、広域需給計画等の策定、送配電等に係る紛争や苦情の処理を任務としている。

 米国のISO、RTOは、送電オペレーションや送電計画の策定を行う機関。送電の運用細則はISOで設定している。

 ISOは、電力会社のグリッドカンパニーの送電オペレーションの役割を持っており、RTOはこれを複数の州にまたがる広域的なものにしたものである。このような意味では、電力広域的運営推進機関は、日本全体をカバーするRTOの機能から、各電力会社内のグリッドカンパニーの送電オペレーションの役割を差し引き会社間連系線のオペレ-ションのみを扱いつつ、広域計画等の策定や送電オペレーションの細則の策定では、電力会社のグリッドカンパニーに影響力を持つという特殊な位置づけとなっている。

3.発送電分離の意味

 欧米で送電が分離されたのは、自然地域独占的な性格を持つ送電部門を小売・発電といった市場競争部門から分離し、競争状態にある全ての小売・発電に対して中立的・公平な送電管理を実現するためである。

 このため、例えば、米国のISOであれば、FERCがOrder.No.888の中で定めたISOの基本原則の中に以下のように規定され、厳密に中立性を維持することとしている。

ISOの基本原則

  1. ISOのガバナンスは、公正かつ 非差別的な方法でなければならない。そのため、ISOは、個々の市場参加者から独立している必要がある。ISOのガバナンスのルールは、あらゆるクラスの参加者による意思決定への影響力の出現、行使を防止する必要がある。
  2. ISOおよびその従業員は、電力市場参加者の経済的パフォーマンスに利害関係があってはならない。ISOは、厳格な利益相反の基準を採用し、施行する必要がある。ISOの従業員は、市場参加者から経済的に独立している必要がある。独立性を確保するために、厳格な利益相反の基準を採用して施行する必要がある。
  3. ISOは、すべてのユーザーが送電システムおよびISOの管理下にあるすべてのサービスに差別なくアクセスできるようにする責任がある。

 また、FERC(Federal Energy Regulatory Commission、米国連邦エネルギー規制委員会)は、OrderNo.888と同時に定めた、情報公開システムOASISに関する規定OrderNo.889において、送電業務に従事する職員は、OASISにおいて公開されていない内部情報等をe-メ-ル等の私的な方法も含めて電力市場取引関係業務に関する従事者に提供することが禁じられている。また、電力市場取引関係業務に関する従事者は、OASISに公開されていない送電情報へのアクセスが禁止されている。一方で、発電・小売関係者が独自に送電シミュレ-ションをするのに必要な関係情報は、OASIS上で開示公開されることになっている。

 つまり、ISO等においては、発電、小売といった市場参加者とは、人事的な繋がりや経済的な利害関係を持たない、「純粋の送電屋」の集団により、意思決定がされ、「厳格な利益相反の基準」により、これが担保されているわけである。また、発電、小売といった市場参加者が送電に関する内部情報へアクセスできないように厳密に管理されている。

4.電力広域的運営推進機関の組織

 電力広域的運営推進機関は電気事業法に規定された法人であるが、組織としては会員から構成される社団法人に似ており、会員総会が最終的な意思決定機関となっている。議決権は、発電、小売、送配電事業者の3つのグループに総数が等しくなるよう配分される。送配電事業者については、発送分離がまだされていない電力会社が発電・小売にも議決権を有することを考慮し、議決権の配分がなされる。

 役員については、定款上、在職中の兼職の禁止・退任後の役員就任の制約などISO同様の規定があるが、職員については、大宗が発電・小売事業者を含む会員からの出向者であり、「一般的な守秘義務」、「特定の利害関係者への差別的な取り扱いの禁止」、「出向元の利害につながる業務における直接の折衝の制約」等の行動規範があるが、ISOのような発電・小売との関係を特に厳格に定める規定はない。

5.電力広域的運営推進機関の意思決定

 電力広域的運営推進機関の意思決定は、会員総会で最終的に為されるが、一般社団法人においても良く見られるように、事務局は会員総会で異論が出ないように事務の遂行に当たっては慎重に配慮するのが我が国の通例であろう。そのために、同機関では、中立者、規制当局、利害関係者などからなる各種委員会等において、事務局の提案に対し、委員会参加者の意見・助言等を踏まえ、最終的に事務局がとりまとめる、という形で合意形成がはかられる。

 ところが、電力広域的運営推進機関の会員構成は、当然のことながら発電・小売といった市場参加者が大多数であり、特に、現時点では小売・発電事業を行わない送電カンパニ-と言える会社は、東電パワーグリッドと北海道北部風力発電・福島送電合同会社の送電事業者3社と特定送配電事業者11社しかおらず、改革される側でかつ影響力の大きい垂直統合の電力会社が9社も会員となっている。会員総数1359社(2019年8月26日現在)のほぼ全ては、ISOではISOへの影響力の行使が禁止されている市場参加者で構成されていることになる。

 以上のような状況で、職員の大部分が会員からの出向者で形成される同機関の事務局が、例えば、厳密な中立性が必要とされる「送電の運用細則」を検討して、本当に公正・中立性が保たれるものなのか、組織論から疑問が呈されるのは、逃れられないであろう。

電力広域的運営推進機関 ISO, RTO
任務 送電管理 会社間連携線 ISO間連携線、ISO内送電線
送電計画 広域送電計画 送電計画、広域送電計画
規則制定 運営細則 運営細則
中立性 ガバナンス 市場参加者の議決権 市場参加者の影響力排除
従業員 市場参加者の出向者 利害関係の利益相反基準
情報 一般的な守秘義務 市場参加者へ内部情報非開示

6.まとめ

 電力広域的運営推進機関も組織の任務が送電管理の一部を担っているという性格を考えると、本来、米国のISO等のように厳密な中立性・公平性が求められるべきであろう。そういう意味では、組織の構成員から市場参加者を排除し、また、職員も市場参加者と利害関係を持たない者(発電・小売出向者は止めて)を採用し、これを米国のISOのように厳格な利益相反の規定で担保するということが必要なのではないかと思う。

 我が国は、未だに電力システム改革の途上にあり、送電管理に精通している人材のほとんどは、垂直統合の電力会社の中に存在しているという事情から、現在のように電力会社からの出向者で電力広域的運営推進機関の運営が進められるのもやむを得ない面もあるが、このような対応は本来は経過的対応として組織立ち上げの1年以内程度までとして、役・職員は、完全に移籍するようなことを考えるのが普通であろう。特に、2020年から送電部門が分離されることを考えると、米国ISO並みの中立性担保の見地から、分離後の電力広域的運営推進機関の組織のありかたには見直しが必要でありそうである。

キ-ワ-ド:電力広域的運営推進機関、ISO、公平性