Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.150 関西電力の大スキャンダル/原子力政策への影響必至

エネルギー戦略研究所 シニアフェロー  竹内 敬二

 関西電力で前代未聞の金銭スキャンダルが発覚した。「関電の幹部20人が原発立地町の元助役から計3億2000万円分の金品をもらっていた」というもので、にわかには信じがたい事件だ。20人の中には事件発覚時の会長も社長も含まれていた。

 事件への批判はすさまじく、当初、「辞任はしない」といっていた会長、社長も、吹っ飛ぶように辞任を表明した。(社長は第三者委員会の調査後に辞任する)。しかし、何人かの幹部の辞任で収まるような事件ではない。原発マネーが電力会社幹部に「逆流」した悪質な事件だけに、関電が電力業界のリーダーとして進めている原発復活の動きに影響がでるのは必至だ。また、電力自由化の中では、大量の消費者の関電離れの可能性もある。

関電幹部20人が3億2千万円分を受け取る

 福井県高浜町に「吉田開発」という小規模な建設会社がある。昨年はじめ、その会社と関電に国税当局の調査が入った。その過程で吉田開発から高浜町の元助役へ約3億円が渡り、さらにそこから多額のお金が関電幹部に渡っていることが分かった。

 関電は社内調査委員会を立ち上げ、元助役からの金品授受について調べた。調査対象は、過去7年間に主に元助役と接する立場にいた人で、関電グループの在職者という、かなり限定的な調査だった。元助役にもほぼ話を聞いていない不完全な調査だったが、それでも内容は衝撃的だった。

 この調査を記した報告書は昨年9月にできたが、取締役会にも株主総会にも報告されなかった。今年3月には元助役が死去しているので、もう聞けない。関電はその後も報告書を隠し続けたが今年9月、メディアが存在を暴露して、事件が明るみに出た。

現金、金貨、米ドル、スーツ仕立券……

 金品を受領した主な人物と金品の内容は「参考資料1」(関電の報告書から)にある。20人が受けとったとされ、そのうち12人の名前が公表されている。そうそうたるメンバーが並ぶ。八木誠氏は事件発覚時の会長(計859万円分の受領)、岩根茂樹氏(150万円分)は社長。岩根社長は、「就任祝いをもらったが、その下に金貨10枚が敷き詰められていた」と説明し、「時代劇のようだ」と有名になった。受領額が1億円以上も二人いる。

資料1 金品受領・返却一覧
資料1 金品受領・返却一覧

 異様なのは金品が多様なことだ。現金、商品券、米ドル、金貨、小判型金貨、金杯、金(ゴールド)の延べ棒、スーツ仕立券(一着50万円)など。なぜこれほど多様なのかは不明。

関電は「いやいや受領した」というが

 報告書に書かれた「渡す側」と「受領する側」のやりとりはかなり異様だ。元助役は短気で、気に入らないことがあれば、激高したという。「無礼者!」「お前は何様だ」「わしに歯向かうのか」「お前の家にダンプを突っ込ませる」「発電所を運営できなくしてやる」などと怒鳴られた人も多い。金品をもらっても、返そうとすると激高するので、機嫌を損ねないようにするため、自分でもっていた人が多いという。報告書では「返すのが難しかった」というストーリーが強調されている。(資料2 関電の報告書から)

資料2 関電報告書から
資料2 関電報告書から

 「金品を返したら、後に倍額が送られた」「19回返して、29回送られた人もいる」という話もある。金品は、送られた側が喜ぶ(少なくとも本音では)ものであることを考えれば、異常なやりとりといえる。当然、金品はもらったらうれしいものでも、額が上がると、もらうことは「悪いことをしている」という「不安、恐怖」になり、いずれは「完全な弱みの共有」になる。

 高額の金品をもらってはならないというのは、普通のサラリーマンには「理屈以前」の常識だ。しかし、関電幹部は現金だけで計1億4千万円ももらい、中には「一回で1千万円」のケースもあった。多額の金品を受け取った関電の幹部は、「いやいや」であろうがなかろうが、完全に「越えてはならない一線」を越えている。

闇のお金をつくり「逆流」させるシステムは?

 「いやいや受け取った」のであれば、事件が発覚した今、「実は私も…」の告白が続々と出てくるかと思ったが、ほとんどない。「あまり問題になっていないから、黙っておこう」だったのだろうか。金品受領はきちんとしたメモがなく、多くを受領者本人の記憶に頼っているという。それも驚きだ。

 明確なのは、関電が、調査報告書を取締役会にも提出せず、隠してきたということだ。メディアによる暴露がなければ、いつまでも隠し通そうとしたのだろう。本当にそれで済むと思っていたのだろうか。普通の会社の倫理感ではない。「我々(関電)は押し付けられた被害者」という報告書の構図も「話半分」と考えなければならない。

 今後、関電がつくる第三者委員会で追加調査が行われる。知りたいのは、こうした闇のお金を作り、関電に逆流させる秘密のシステムだ。だれもが想像するのは、関電関連の工事費の一部からでているだろうということだ。その具体的な流れを明らかにすべきだ。「ほかに金品をもらった人はいませんか?」などを繰り返す表面的な調査では意味がない。

工事の契約の妥当性、情報漏れの調査を

 発注元である関電や関連会社から、受注企業への情報漏れも想像に難くない。これについての報告書の記述は、ちょっと驚く内容だ。

 「(元助役から)面談要請があった場合、対応者は面談の日時を調整し、面談時に報告する情報がないかどうか確認し、工事概要を取りまとめたうえで面談に臨む」(報告書から)と、特別な対応をしていた。教えたのはあくまで「概要」だという。

 「情報提供と金品の関連について、対応者としては、元助役が情報提供日に限らず、面談時にはかなりの頻度で金品をもってきていたことから、情報提供と金品との連関は意識しておらず、情報提供の見返りとして金品を持ってきているという認識はもっていなかった」

 会うのも、金品を受け取るのもしょっちゅうで、「どれがどれだが分からない状況」だったようだ。情報漏れ、特定の企業への随意契約の妥当性、契約価格の妥当性などを調べる必要がある。

談合助長の風土、かつて公取が摘発

 実は、2014年、関電が発注する送電線工事で、公正取引委員会が談合を認定した。関電の関連会社「きんでん」など76社が独占禁止法違反と認定され、関電は「社員が談合を助長した」とされた。

 関電が発注する送電線工事で、関電は指名競争入札を実施しているのだが、入札前に業者を集めて工事内容を説明する時、関電側が非公表の予定価格を教えていたというものだ。そして談合には業者に再就職した関電OB29人が関わり、うち14人は関電側から予定価格を聞き出していた。

 競争入札的な形をとりながら、実質は談合を助長していた。工事発注に緩い企業風土があったということだ。

キーワード:関西電力、金品受領、原子力