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No.154 再エネプレミアム制度(FIP)その1
ドイツ10年間の経験学ぶ①:再エネの成熟化と「直接販売」の導入

2019年11月14日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 再生可能エネルギ-固定価格買取制度(FIT)見直しの議論が本格化している。エネ庁では、「再生可能エネルギ-主力電源化制度改革小委員会」を立ち上げ、9月18日に第1回が開催された。年内を目途に案を取りまとめる予定である。再エネのなかで競争力があり量的にも期待される太陽光、風力等は「プレミアム制度(FIP)」への移行が予定されており、委員会でも具体的な議論が行われている。FIT普及の立役者であるドイツでは、既に10年前にプレミアム制度の原型が登場し、一定の時間をかけて制度変更を慎重に実施してきた。FIT後の再エネ支援策であるFIPについてシリーズにて解説・考察していく。

 今回は、ドイツの2012年度までの実施状況を振り返り、「FIP」、FIPと同義ともいえる「直接販売」について、同国の経験をも踏まえて解説する。資料1は、ドイツにおける再エネ支援制度の概要と経緯について、普及状況も含めて示したものである。再エネ普及にはFITだけでなく系統運用や卸市場革新が大きな役割を果たしている。本論は2012改正までの解説である。

 なお、第2回(次週)は2014年度以降の「強制FIP」、「入札制度」等について解説し、第3回は(次々週)はドイツの経験を踏まえて日本でFIPを導入する際の留意点について考察する予定である。

資料1.ドイツの再エネ支援制度の概要とその推移
資料1.ドイツの再エネ支援制度の概要とその推移
(注) 再エネ比率:総発電電力量に占める再エネ比率
FIT:Feed in Tariff、FIP:Feed in Premium、DM:Direct Marketing、GC:Gate Close
EEG:Erneuerbare Energien Gesetz(Renewable Energy Sources Act)
(出所)筆者作成

1.FITの役割:効果と課題

 国産エネルギ-利用、CO2フリー、技術力・産業力の向上等多くの便益を持つ再エネは、欧州では優先的に開発すべきエネルギ-源として包括的な政策支援が採用されてきた。なかでも、適正利潤を基に販売価格を20年間保証するFIT制度は、投資の予見性を確保し、民間主導による設備形成の実現に大きな役割を果たした。

 一方で、FIT制度は需給状況に拘らず稼働が保証されることから、本質的には市場機能の阻害要因となる。すなわち、需給がひっ迫して価格が高くなる時に多く発電することはなく、逆に供給過剰で価格が低いときに稼働を抑えることにならない。再エネのシェアが大きくなると、即ち産業として成熟してくると、市場機能を歪める要素が大きくなる。(市場はまだ外部経済・不経済を反映していないので、FITでCO2を出さない再エネを支援することは市場の歪みを是正する効果があるという指摘もある。)

 FITはどこかのステージで廃止され市場と調和するシステムに改められることになる。これは「市場統合:Market-Integration」と称される。この方法と時期が重要になり、誤ると再エネ普及を止めることになりかねない。ドイツ等再エネ先進国においては「再エネ普及が止まっては元も子もなくなる」との認識のもとに、慎重に進められてきた。

2.ドイツの実績:FIT、優先接続・給電、目標設定、卸市場革新で着実に再エネ普及

 ドイツエネルギ-・環境政策は再エネ普及を柱に据えており、脱原発を決めた2000年には「再生可能エネルギ-優先に関する法律」(EEG:Erneuerbare-Energien-Gesetz、Renewable Energy Sources Act)」が施行され、固定価格買取り制度(FIT:Feed in Tariff)が導入された(なお、FITの原型となる制度創設は1990年に遡る)。東日本大震災直後の2011年12月にはEEGの大改正等により、再エネ普及や省エネ推進等の目標値やスケジュール、FIT改正、再エネの優先接続・優先給電等が実施されている。また、当日市場において短時間商品の投入、市場閉場時間の短縮化を実施し、風力・太陽光等の変動電源の需給調整を支援する仕組みを整えている(資料1)。

 これらの施策が極めて有効に機能し、着実に再エネは普及してきた。輸出を含む総発電電力量(グロスベース)の再エネ比率は、2000年の6.6%から2018年は35.0%に上がっている。2018年の国内消費に占める再エネ割合(ネットベース)では38.1%に達した。国家目標は2020年35%あり、これを既に上回っている(資料2)。2019年上半期では、再エネ比率は41%を記録した(グロスベース)。内訳はシェアの大きい順に陸上風力18%、太陽光8%、バイオマス7%、洋上風力4%、水力3%である。

資料2.総発電電力量構成比推移(ドイツ)
資料2.総発電電力量構成比推移(ドイツ)
(注)*2018年は暫定値
   *輸出量を含むグロスベース。国内消費見合いのネットベースでは2018年再エネ比は38.1%.
(資料) Arbeitsgemeinschaft Energiebilanzen e.V (2018.12.14)
(出所) ドレスデン情報ファイル

3.ドイツの2012年EEG改正:直接販売選択制・FIPの導入

 このように、2000年にFITを導入し、着実に再エネ普及が進んだドイツでは、2010年前後に市場統合に向けた動きが出てくる。ドイツの再エネ普及の主役は陸上風力であるが、バイオマスと太陽光の開発とも相まって着実な普及とコスト低下を実現しており、市場統合の方策とタイミングを図っていた。2009年には、FIPの原型ともいえる制度(プレミアムが不十分な直接販売)が登場する。そうしたなかで、ドイツFIT変革の引き金を一気に引いたのは太陽光発電の急増である(資料3)。

資料3.ドイツ発電容量の推移(単位:GW)
資料3.ドイツ発電容量の推移(単位:GW)
(資料)Fraunhofer ISE 2018 (出所)Clean-Energy-Wire、赤・青枠は筆者挿入

 ドイツのFITは課題が判明する都度見直しがされてきているが、2004年改訂により条件が良くなった。特に太陽光発電は、FIT価格は大幅に引き上げられ開発が急速に進む。FIT導入後は相対的にコストの低い風力が再エネの主役であり、当時は太陽光はまだ高コストであり僅かな導入量に留まっていた。このときに始めて「太陽光バブル」が生じた。本格的な太陽光の時代の契機となったのはドイツのFIT改正であった。

 欧州ではドイツでの効果をみて、相次いで類似のFIT制度を導入した。なかでも2007年のスペイン制度は大胆で、2008年度に需要爆発するがコストも急増した。しかし、遡及的に制度を変え沈静化を図ったことから、翌2009年度は急減した。いわゆる「スペインショック」である。行き場を失った中国製等のパネルはドイツに向かい、2009年~2013年に急増する。なかでも2010~2012年の3か年は年間700万kWを超える太陽光発電が設置されたが、賦課金負担も急拡大した。ドイツは慌ててFIT価格を引き下げるが、コスト低下に追いつかず、バブルが発生する(資料3)。このときの高コスト設備はその後のエネルギ-政策に大きな影響を与えた。

 ドイツは、前述のように再エネ普及策としてFITだけではなく、優先接続、優先給電、送配電増強義務等を含む総合的な支援制度を整備していた。FIT制度は数量を直接制御する手段をもっておらず、買取価格水準を変更することでコントロールする。量については国家目標として節目の年のシェアを決めているが、目標を超えるような急激な増加に、価格調整が追い付かなかった。FIT効果は大きいが、量的調整は容易ではなく、ドイツは様々な工夫を凝らしていくことになる。有名な2014年再生可能エネルギ-法改正(2014EEG)はその集大成であり、個々の手段は2012年改正にて出揃っていた。

【直接販売を選択性として導入:再エネ市場統合の大きな一歩】

 再エネを市場に統合する施策として、2012年改訂は大きな節目となった。ポイントは、「直接販売(DM:Direct Marketing)」を選択制度として本格的に位置付けたことである(資料1)。FITの下では、再エネ電力を送電会社(TSO)が全量を引き取り、翌日卸市場に販売する。再エネ事業者は発電した電気をTSOにFIT価格で売るだけであり、計画値と実際値を一致させる同時同量義務を負わない。市場動向、天候予想を気にしなくてもいい。再エネがニッチの存在であれば問題は顕在化しないが、存在感をもつようになると市場機能の阻害要因となる。

 直接販売制度とは、再エネ事業者が市場に直接販売することであり、同時同量・需給調整に責任を負うことになる。計画値と実際の数値とが乖離すれば、ペナルティとしてインバランス料金を課されることから、需給状況に応じて発電量を自ら調整するようになる。需給に応じて市場価格は変動するか、このシグナルに反応して出力を自ら調整してくれれば効果が大きい。自ら調整力をもつ(ディスパッチャブルな)電源は、利潤極大を目的に自然とそのような行動をとる。

【プレミアム設定は完全市場統合への経過措置】

 しかし、直接販売によって適正利潤が保証されるとは限らず、また価格変動リスクを被ることから、コストが十分に下がっていないうちはだれもFITから変更しない。そこで、FIT価格と市場(販売)価格との差額を補填する、すなわち市場価格に一定水準の補填値(プレミアム)を上乗せる仕組みを導入することになる。これはプレミアム制度、FIP制度(Feed in Premium)と称される(資料4)。これは、他の補助的な支援措置とも相まって、順調に普及していく。

 2011年には相次いで卸取引市場(当日市場)の革新が行われた。1日前にスケジュールが確定するが、その後の予測誤差については当日市場を利用して調整する。2011年3月には市場閉場時間(Gate-Close)が1時間前から45分前に短縮され、12月には1時間商品に加えて15分商品が開発された。

資料4.ドイツの2012・2014EEGスキーム
資料4.ドイツの2012・2014EEGスキーム
(筆者注)・2012EEG:モデル1(FIP)とモデル2(FIT)は選択制
     ・2014EEG:モデル1(FIP)は強制、モデル2(FIT)は小規模(100kW未満)
(出所) Becker Büttner Held

今回のまとめ

 今回は、再エネの市場統合に関し、ドイツの経験を振り返った。FIT制度見直し後に予定されているFIP(プレミアム)制度について、先行して経験を積んでいるドイツを例に解説を行った。再エネ市場統合を進める中で、また太陽光バブル対策として大きな節目とされる2012年度再エネ法改正(EEG2012)について、選択的な直接販売制度を主に取り上げた。ドイツのFITは再エネの普及やコスト低下に大きな効果を発揮し、ポストFIT制度を段階的に導入していく。第一弾として直接販売・FIPをFITと選択できる制度として2012年に導入するが、このときは再エネ比率は23%であった。

 次回(次週)は、ドイツ再エネ市場統合の集大成とされるEEG2014について、強制的な直接販売、入札制度について解説する。

(参考文献)

・「ドイツの市場プレミアムはどう機能するのか」 西村健 佑 2019年10月 京大コラムNo.148
・「ドイツの再生可能エネルギ-推進策の現状と方向」 山家公雄 2017年2月 京都大学学術出版会「再生可能エネルギ-政策の国際比較 第2章」 
・「ドイツエネルギ-変革の真実」 山家公雄 2015年12月 エネルギ-フォーラム

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