Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.157 TSOとDSO

2019年11月28日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 内藤克彦

1.要旨

 2020年から我が国においても、送配電と発電・小売の分離が実施される。欧米の電力システム改革においても、地域自然独占の性格を持つ電力グリッドの中立・公平化が改革の主眼であるので、中立・公平化を確実とするためにグリッド管理の分離独立が行われている。我が国においても、漸くグリッド運営の公平化に向けた第一歩が始まることになる。

 一方で、欧米の場合は、送電管理と配電管理を分けて、分離独立させているが、我が国の場合は、送配電が一体となった分離独立となっている。本稿では、この送電と配電の分離と今後の我が国の方向性について論ずることとする。

2.米国の送電と配電の関係

 米国は「合衆国」であるために、電力供給は本来地域的な性格を持つことから、電力に関しては州の権限に属している事項が多い。これらの事項については、州法により各州で規制制度が定められている。しかしながら、送電や卸売市場取引になると州境を超えて広域的に行われることも多くなるため、送電と電力卸売市場に関しては、連邦法により、規制権限が連邦エネルギ-規制委員会(FERC)に委ねている。一部の例外として、独立心の強いテキサス州は、州境、国境(メキシコ経由でカリフォルニア州等と繋がらないようにするため)を跨ぐ交流送電線を設置せず、独立した送電体系としたうえで、FERCの権限規定に「テキサスを除く」の一文を入れさせている。同様にFERCの権限から外れている州として、米国本土から物理的に離れているハワイ州とアラスカ州がテキサスと同様の扱いとなっている。

 このような例外はあるものの、基本的には、米国においては、送電管理と配電が制度上、元々分離されていることになる。米国においては、主たる需要地では、電力改革後に連邦法の機関たるISO、RTOが設置され、送電管理はISO、RTOに移管された。結果的に、配電部門だけ相変わらず州法の管轄として分離されて従前のまま残されたわけである。米国においては、国土が広いこともあり、一般に一つの州の中にいくつもの垂直統合の電力会社が存在していたのであるが、送電部門だけはISOとして州全体、さらにRTOとして複数の州をカバ-する広域的な送電管理が行われるようになった一方で、残された配電部門についつは元々の電力会社等の管轄区域にDSOとして分割されたまま残されたわけである。

 米国においては、14.5万Vくらいが送配電の境界となっているので、一つの配電用変電所以下のDSOの管轄区域は、かなり細分化されていることになる。この細分化された区域の数がどのくらいあるかということは、米国で行われているノ-ダルプライシングのノ-ド数を見ると概ね見当が付くと考えても大きく外れてはいないであろう。米国のノ-ダルプライシングのノ-ドは、ISO・RTOからDSOへ電力を受け渡す接点に設置されており、受け渡し地点毎に電力卸売価格を設定するわけである。

図1 全米のノ-ド(ABB資料)
図1 全米のノ-ド(ABB資料)

 一方でノ-ドにおいてISO・RTOから電力を受け取る取引主体は、ISO・RTOとの関係では、ノ-ド毎に管下の需要を一つの取引として取りまとめてISO・RTOと市場取引を行う必要があり、インバランスのペナルティ-等の責任もまとめて引き受ける事になる。つまり、ISO・RTOとDSOの区域が分離することによって、分離点での電力の取引の当事者は、需給バランシングについて一定の責任と管理を行うことが求められるわけである。

 DSO自体がISO・RTOから電力を受け取る場合には、より明確にISO・RTOの行うバランシングの前処理のような機能を持つことになろう。

3.ドイツの送電と配電の関係

 欧州では、EU指令等により電力改革が鋭意進められているが、ここではドイツの例で欧州の取り組みの説明をすることとする。

 ドイツの場合には、電力改革が行われる前は、4大電力会社が全国をカバ-する形で電力供給が行われていた。電力改革に伴い、発電、発送電、小売の分離に加えて、送電会社TSOと配電会社DSOがさらに分離された。米国の場合は、ISO・RTOは、送電管理だけを行う送電線を所有しない非営利・中立団体として設立されているが、ドイツの場合には、TSOは、垂直統合の電力会社の送電部門が分かれて、送電線を所有する営利の送電会社として分離している。一方、ドイツの場合、4大電力会社が全国をカバ-する前は、特に配電の領域については、全国に多数のDSOが地域毎に分立している状態であったものを、大手電力が買収したり、大手電力に管理委譲することで、4大電力会社の傘下に収めてきたという歴史がある。このため、電力改革によるDSOの分離に伴い、元の状態に戻る如く、全国に800以上のDSOができている。基本的に都市ごとにDSOがあるというのがドイツの現状であろう。ドイツのDSOには、シュタットベルケの経営の一翼として取り込まれているところもあり、シュタットベルケとして需給面で独立性の高いものもある。

 ドイツにおいては、TSOからDSOへの電力の引き渡し点は、概ね11万Vの変電所であり、ここが米国のノ-ドのような位置づけとなっている。ドイツの場合、TSOは、このようなTSOとDSOの接点において、必ず少なくとも一つBRP(Balancing Responsible Party)を指名し、TSOはBRPとのみ電力の取引を行い、インバランスの責任もBRPに負わせるということをやっている。BRPには、発電施設やDSO、大口のアグリゲ-タ-などが指名されることがあるようである。いずれにしてもTSOとDSOの境界点においてバランシングの責任者を指名し、TSOのバランシングの前処理の地域バランシングをさせていると考えて良いであろう。

4.我が国の可能性

 我が国も戦前にはDSO的なものが一部存在していたという話も聞くが、戦時中に全て一つの電力会社に統合され、それがそのまま9電力に分割され、その後は、送配一体で運営されてきた。先般の、北海道の停電の際にも、欧米の送電管理を常識と考えている外国人から、なぜ、全北海道一斉停電になったのかとの疑問が呈せられていた。恐らく、DSOの分離している世界では、上記に示したようにDSOに一定のバランシングの能力があり、発電所をDSOの中に抱えていれば、DSO単位で一定の供給が維持できるようになっているのではないかと推察される。近年、我が国においてもドイツの例に倣って地域電力を作り、シュタットベルケ的に運用したいという意欲を持つ自治体が増えているが、我が国においては、DSOが分離していないために、バランシング機能は各電力会社の中央に1点集中している状態である。

 この際、地域電力の設立に合わせて、一定の配電区域を指定して切り離し、地域電力に移管し、DSOのように地域電力にバランシングを一定程度分担させるようにしたらどうかと思われる。

 また、分散型電源の拡大に対応して、欧米に見られるようにノ-ド毎に電力の受け渡しの管理を行うような体制を構築して行くことが今後必要となるのではないかと思われる。この場合にもノ-ド毎にバランシングの管理を行う主体とル-ルを定めて行くことがいずれ必要となろう。

 このような体制を築くことが、災害時のレジリエンシ-の強化にもつながることになる。

5.おわりに

 経済産業省において、地域電力に配電線を移管し、シュタットベルケのような運営を許容するような仕組みが検討されているということが報道された。このような方向の改革が早急に進み、我が国のエネルギ-レジリエンシ-が早急に強化されることを強く期待したい。

キ-ワ-ド:TSO、DSO、送電管理