Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.163 再エネプレミアム制度(FIP) その5
-政府FIP案解説、「地域活用電源FIT」という制約-

2019年12月19日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

 12月12日の再エネ主力電源化制度検討小委員会において、中間取りまとめ案が提示された。FIT卒業後のシステム設計の方向性と系統制約を克服するためのネットワークシステムの高度化案を提示している。今回はこれの解説である。FIP考察シリーズの5回目であるが、筆者の想定よりも早く政府案が提示されたので、第4回目の「再エネプレミアム制度(FIP) その4 -日本は再エネ拡大のためにFIPとどう向かい合うか」と同日付けで掲載する。

1.中間取りまとめ一読後の印象

 筆者の一読した印象は、以下の通り。「競争電源」のFITからFIPへ移行、プレミアムは固定型と変動型の要要素を加味する中間型はこれまでの議論の流れに沿っている。しかし、肝心のプレミアムの基礎を構成するFIP価格、参考価格の設計ついては調達価格等算定委員会にほぼ丸投げしており、いいとも悪いも判断がつかない。この設定如何によっては、競争型再エネは競争力を喪失してしまうからだ。FIPシステムを前提とした環境価値、インバランス負担等はかなり突っ込んだ議論を展開している。準備しておくのはいいが、根っこのFIP制度が不透明なので、参考情報のように感じられる。FIPについては、メインテーマであるので後に改めて考察する。

地域活用電源はFIT制度の下でも投資できるか

 「地域活用電源」は、まだ競争力がない、コストが下がるのに時間がかかることから、FIT制度が継続する。オンサイト自立の自家消費型とオフサイト自立の地域消費型に分類され、前者は小規模太陽光、後者は小規模の水力、地熱、バイオマスが想定されている。太陽光は、100kW以上は入札となる見込みであることから、100kWまでが想定されてるのであろう。この電力の価値としては、自家消費、地域消費、災害時の稼働(レジリエンス)を評価し、認定の条件とする。

 そもそも、この考え方自体が分らない。電力は系統に繋がっている限り全国どこにも流れる。それが規模の経済を生み、他のエネルギ-源に比べて革新的で高効率だというのが伝統的な説明であった。物理的、技術的な特性であり、無理に狭いエリアや評価に封じ込めると、非効率になりコストが嵩むことになる。電気そして再エネ電気自体が様々な価値を持っているのであり、地産地消、防災はその一部である。どうしてシンプルに「まだ自立には時間がかかる技術なので、FITを継続する」ではだめなのか。この狭い価値をFIT認定の条件となるので、これをどう担保するのか四苦八苦している。条件設定如何では投資が生じないことになる。地域の防災計画に盛り込まれている、自治体新電力が扱う等地域との関連が確認できること等が候補として挙がっている。これは、自治体や地域事業者の意向を確認したのだろうか。

 10年以上も前からマイクログリッド、スマートグリッド、スマートコミュニティ、VPP(Virtual-Power-Plant)、そして最近ではP2Pやブロックチェーンと分散型システムが提唱され、実証事業が続いているが、ローカルレベルでの純粋な商業事業創設は日本では聞いたことがない。報告案でも「地域マイクログリッドは時期尚早で要件としない」と明記されている。分散型システム構築は、重要な課題であり、地域資源活用による創生、新技術開発等今後の課題であるが、時間がかかる。これをいきなりFIT見直しに結びつけて認定条件にする発想に驚く。

 なお、分類上大規模の地熱・バイオマス、中規模の水力、小型風力はどこに位置するのかよく分らない。

次世代ネットワークには期待

 次世代ネットワークは、再エネ主力化に向けた整備に前向きな印象をもった。募集プロセスや日本型コネクト&マネージ等の送電制約への対策を採ってきてはいるが、まだ不十分で課題もあるとの認識の下で、従来ルールを超えるシステムをパッケージで提案している。東電PG方式等の既存設備有効利用だけでなく、効率的なインフラ整備手法、公平でインセンティブを伴う負担方式、長期を見渡した計画(マスタープラン)と揃っている。大いに期待したいところであるが、実施の段階で制約が残るルールとならないことを切に願う。「魂は細部に宿る」である。

2.考察、政府提案とその方向性

 さて、FIPであるが、本件に関しては、これまで4回にわたり解説してきた。第4回(今週、本論と同時掲載)では、日独を比較することで、日本についての筆者の見解を述べた。資料1はその整理表である。

資料1.日本におけるFIP導入に係る論点(筆者整理)
資料1.日本におけるFIP導入に係る論点(筆者整理)
(出所)筆者

 一方、資料2は12月12日に提示された「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会の中間整理案」におけるFIP関連個所を整理したものである。これに沿って概要を説明していく。

資料2.再エネ主力化小委員会のFIP案
資料2.再エネ主力化小委員会のFIP案
(出所)資源エネルギ-庁資料を基に筆者作成

肝となるFIP価格・参照価格は調価委に丸投げ

 総論は、冒頭に記した通りであり、「FIP価格」および「参考価格」等の肝となる事項は調達価格等算定委員会(調価委)にほぼ丸投げしている。これで方向性の是非を判断しろと言われても無理である。委員の方々もかなり戸惑ったであろう。もちろん、文章を書きぶりからどのような設計を予想しているのかは何となくわかる。調価委の委員は、その殆どが再エネ主力化小委員会の委員あるいは座長を兼務しているので、「何となく」の意思統一はできていると思料される。。

 FIP価格は、調価委にて決めるか、入札で決めるのかとしているが、入札を強く打ち出しており、それを前提とした議論も行われており、入札ありきなのであろう。調価委決定か入札かはオアなのかアンドなのかも不明である。対象を分けることもあるかもしれない。入札はFIT方式を参考にするとしており、上限価格や募集量(枠)は調価委で決まることになろう。ここは、非常に重要であり、プロジェクトの経験を有する有識者の判断も参考にすべきだろう。

 参照価格はFIP価格とともに最大のポイントのである。期間設定をどこで誰が決めるのかは、報告や委員会資料をみてもよく分らない。「---支援水準、支援期間は調価委の意見を尊重して決める」との記述はある。調価委の委員の権限は大きく、責任は極めて重い。参照価格の設計について、報告案に一応のヒントはある。参照価格の期間すなわち固定プレミアムが持続する期間は、長期を取ることのリスクを強調している。また、市場価格下落時のネガティブプレミアムはないと断定している。当然ではあるが、再エネ事業者のリスクをある程度配慮している姿勢が窺える。

 制度が発足したのちも、時々の状況変化に応じて、適宜ファインチューニングする権限を調価委に与えている。委員会の議事録をみると、FIT制度でしばしば起こった「遡及的な措置」がFIPにいても生じる温床とならないか、との懸念が出ている。臨機応変に適切に対処するということであろうが、予め変更の尤度を決めおくべきとの意見もあった。

市場取引は具体的な議論

 市場取引については、かなり詰めた議論をしている。しっかりと準備しておくことは重要であるが、一方で、導入ありきは明白である。市場での直接販売(kWh取引)は、FIPの前提でもあるので当然であるが、アグリゲーターの創出に向けた整備、厚みがあり公平で革新を伴う市場に向けての整備の必要性が記載されている。ここが2021年までに整うのかが非常に不透明であり、委員の議論も集中している。約定した量と実供給が乖離したときに課されるインバランス料金はFIP事業者にも適用されるが、経過措置が設定される。

 環境価値については、再エネ事業者に帰属する方向である。これ自体はいいのだが、環境価値が帰属しないFIT電源との関係をどう整理するのか、どうして大議論があったにも拘らずFITには帰属しないと整理されたのかよく分らない。FIPの環境価値はFITの非化石価値に合わせる、その分はプレミアムから差し引く方向性が示されている。いずれにしても、複雑になっていく。

大局的見地からは時期尚早、慎重な検討を

 以上であるが、これは当初案であり、委員からの意見等で多少の変更はなされるであろう。また、パブリックコメントにかかることになる。筆者の意見は資料1の通りで、基本的に太陽光や既に入札の対象となっている輸入バイオマス以外は、成熟しつつあるとは言えず、環境整備も多くはこれからであり、時期尚早と考える。しかし、既定路線であるとするならば、そうした現状を踏まえて慎重に進めていく必要がある。

 本論から少し外れるが、地域活用電源の今後のFIT認定の考え方は、大きな懸念を抱えている。地域分散型電力システム構築という考え自体は肯定しうるのだが、地域活用電源なる名称の下に拙速に遍く制約を課すことは、全く時期尚早であり、かえって地域資源の活用を妨げる。より明確な定義や認定基準が分らないうちは、賛同しかねる。これについては改めて考察する。

キーワード:再エネプレミアム、FIP、競争電源、地域活用電源