Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.164 COP25、パリ協定の本格始動前に思わぬ停滞/「グレタ現象」にも温度差

2019年12月26日
エネルギー戦略研究所シニアフェロー 竹内敬二

 2019年12月にマドリードで開かれた気候変動枠組み条約・第25回締約国会議(COP25、マドリード)は、失敗に終わった。COP史上最長の会期延長で合意をめざしたが、成果文書に「削減を強く求める文言」は盛り込まれず、市場メカニズムの実施ルールの合意にも失敗した。国連のグテーレス事務総長も「結果には失望している」とコメントしたほどだ。

 地球温暖化は加速し、「1.5度や2度以内に抑えには、早急に排出ゼロに向けた行動が必要」という時期にきている。今やCOPは世界のエネルギー政策に大きな影響を与える会議だが、2020年のパリ協定の本格運用を前に合意の難しさを露呈した。

 COP25では、スウェーデンの16歳の環境運動家、グレタ・トゥンベリさんが注目された。「グレタ・ブーム」の頂点で開かれたともいえるが、称賛の一方で、冷たい視線も目立ちはじめた。「温暖化対策はそんなに簡単ではない」「子供のくせに」という本音と反発がうかがえる。
(写真はCOP25での記者会見。マーシャル諸島など海面上昇に脅威を感じている国が出席。水口哲氏撮影、2019年12月、マドリード)



1.弱いメッセージしか出せず

 COP25の主要論点は、①パリ協定の実施ルールの合意②削減目標の引き上げ機運を高める文書の採択などだった。
 会期は2020年12月2~13日だったが、15日まで2日間の延長を行った。それでもまとまらず、①の実施ルールについては、CO2削減量の枠を国際的に取引する「市場メカニズム」のルールが決まらず、21年のCOP26(英グラスゴー)に先送りされた。
 ②については成果文書に、「可能な限り高い野心を反映するように強く要請する」という抽象的で弱い文言が入っただけだった。



 最近の研究によれば、温暖化ストップには次のような削減が必要になる。(グラフはUNEPによる)
•温度上昇を1・5度に抑えるには、2030年までに排出を45%減らし、50年に実質(正味)ゼロにする。
•2度に抑えるには、2030年までに20%減らし、75年前後に実質ゼロにする。
•2度に抑えるには、30年までに先進国の石炭火力を廃止、50年までに途上国の石炭火力を廃止する。

2.大排出国が動かず

 温暖化防止のカギは「すぐに大幅削減を始め、早く実質排出ゼロにすること」だ。排出ゼロとは温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量を同じにすること。排出ゼロは最近まで「冗談」でしか語られなかったが、今では「温暖化防止に必須のもの」として議論される。しかし、実行は難しく、削減を誰が担うかについて、COPではぶつかり合いが続いてきた。



 COP25でも、排出増加が激しい中国、インド、ブラジル、南アフリカが共同で「我々は国情に基づいてすでに野心的な気候対策を行い、進展している」と発表し、大幅削減の要求を牽制した。(表は主要国の削減目標、COP25の前の段階。WWFジャパンによる)

 削減積極派のEU(欧州連合)は、COP25会期中に「ポーランドを除いて2050年に排出の実質ゼロ」に合意して、やる気をPRしたが、積極的な削減への合意にはつながらなかった。温暖化防止の緊急性は認識されてきたが、大幅削減への合意はまだ遠いといえる。

3.「米国抜き」は2001年と似ている

 COP25がうまくいかなかった背景には、パリ協定からの米国の離脱があるだろう。世界第2位の排出国の米国が後ろ向きでは、他の主要排出国は大胆な削減策をとりにくい。

 2020年はパリ協定の本格始動の年だが、「米国抜き」でのスタートになる。この状況は2001年に似ている。01年3月、米国のブッシュ政権は突然、京都議定書から離脱し、京都議定書は米国抜きでのスタートを余儀なくされた。その後、京都議定書は何とか発効したが、常に「米国がやらないのなら」という雰囲気から逃れられず、中国、インドなど新興国や途上国の十分な削減協力が得られず、議定書は行き詰まっ

 米国が離脱した直後、日本の経済産業省や経済界は「米国抜きで削減義務を持つのは不公平」として、日本で生まれた議定書にも拘わらず、ひそかに「議定書を批准しない」という運動を展開した。その後、日本は何とか批准し、議定書も発効したが、日本はその後も一貫して議定書に冷たく、議定書での削減強化に後ろ向きだった。

 今回の米国の離脱について、「トランプ大統領だからしょうがない」と大統領のキャラクターと重ねて軽く考える向きや、「米国政府は離脱しても、州や産業界は前向きだ」との楽観論もあるが、日本を含め主要排出国の動向が心配になる。

4.日本、石炭火力への依存で2つの「化石賞」

 近年、COPにおける日本の存在感は小さい。しかし、今回は環境NGOのグループが温暖化対策に消極的な国に出す「化石賞」を、会期中に2度ももらったことで話題になった。

 先進国が次々に石炭火力の全廃時期を公表する中、日本では建設、計画中など、現在進行中の石炭火力が22基、1328万キロワット(気候ネットワークによる)もある。30年の電源構成では26%を石炭火力に期待している。この依存政策が外国から強く非難されている。

 小泉進次郎環境大臣は、9月の国連気候サミットで、「温暖化に取り組むことはセクシー」と発言して注目と失笑を招いたが、今回の演説では石炭火力への具体策が注目された。

 しかし、全くのゼロ回答だった。小泉大臣は何がしかの前向きな発言をめざして政府内で折衝したが、政策を簡単に変えることはできなかった。当然ながら「言う内容がなければ言う言葉がない」という結果に終わった。この演説で日本は強固な「親石炭派」とみなされ、「化石賞」を贈られた。

 今後パリ協定の充実に必要なのは、COP26に向けて各国の国内政策を進めることだ。内容のある国内政策がなければ、世界への発言力はない。

 グテーレス国連事務総長は具体的な政策の進展を呼びかけている。①再生可能エネルギーへのシフト②炭素の排出量に応じた価格付け、カーボンプライシングを導入する。③石炭火力発電所の閉鎖、新規の建設取りやめ。

まさに日本に足りない3点だ。

5.会議を盛り上げたグレタさんへの反発も

 COP 25で最も注目されたのがスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんだ。16歳のグレタさんは昨年夏、スウェーデンでたった一人、「学校ストライキ」を始めた。アスペルガー症候群であることを公表し、温暖化対策を求めて学校を休むという誰もが驚く行動だったが、怒りを交えて「何もしない大人たち」を批判する姿が共感を呼び、19年の9月の気候サミット時には、世界で400万人以上が参加する世界的なムーブメントになった。

 米誌タイムは「権力者に真実を語る勇気」を評価し、トランプ氏を押しのけて「今年の人」にグレタさんを選んだ。一時期のメディアの扱いは、ちょっとした「温暖化のジャンヌ・ダルク」的なものだった。

 これに対し、トランプ米大統領は、グレタさんが「今年の人」に選ばれたあと、「ばかばかしい。グレタは怒りのコントロールをしてから、友達と懐かしの映画でも見たらいい」とツイッターで揶揄した。ブラジルのボルソナーロ大統領は、グレタさんのことをポルトガルで「ガキ」を意味する「ピラリャ」と呼んでけなした。

 ボルサナーロ大統領は「ブラジルのトランプ」とも呼ばれる。両大統領の共通点の一つが「温暖化対策嫌い」だ。トランプ氏は「パリ協定は不公平で金がかかるだけ」といい、ボルソナーロ氏は「厳しいアマゾン保護」に反対だ。

 両大統領の行動は、「排出ゼロ」など要求がますます高まる温暖化対策と、16歳の少女に振り回されるような風潮に「やってられない」という本音が出てきたものといえる。グレタさんと「グレタ現象」への反発の象徴的なものといえる。逆に言えば、16歳の少女と賛同者がつくった大きな波が、世界の指導者も無視できない影響力を生み出したともいえる。

キーワード、 COP25、温暖化、グレタ