Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.167 真庭バイオマス発電所
~順調な稼動の理由と今後の課題~

2020年1月9日
真庭バイオマス発電株式会社 代表取締役社長 中島浩一郎

 真庭バイオマス発電所が所在する真庭市は、岡山県中北部に位置し、鳥取県との県境にあります。中国山地のほぼ中央に位置しており、総面積は約828km²で、森林率は約80%であり、豊富な森林資源を有しています。そのため、昔から林業が盛んな土地であり、現在でも、多数の森林所有者、森林伐採業者、製材所、木材加工工場などが存在します。特にヒノキの生産量は2012年以降、2017年を除いて日本一です。しかしながら一方で、大量の林地残材や木質系廃材などが有効に活用されずに、処分や放置されていました。そこで真庭市は2006年に、これらの未利用木質資源の有効活用を目的として、バイオマスタウン構想を発表し、国からバイオマスタウンに認定されました。

 このような状況のもと、真庭市や地域の林業関係事業体など10団体が出資を行い、2013年2月に真庭バイオマス発電株式会社が設立され、2015年4月に真庭バイオマス発電所が稼動を開始しました。コンセプトは「木を余すことなく使う」です。発電出力は1万kWで、一般家庭約22,000世帯分の需用電力に相当します。燃料は主として地域の森林から出る間伐材や林地残材、また製材所などで発生する木屑などを破砕した木質チップです。計画値の段階では、必要な木質チップは年間約15万トンで、地域の木材収集能力を分析した結果、稼働率は70%程度と予測されていました。しかしながら、2019年12月の時点で稼動開始から約4年半経過しましたが、予想以上に木質チップが供給され、順調に稼動しており、実際の年間稼働率は95%に達しています。2018年度の総売上は約23億円でした。

 現在、国内ではすでに100件以上のバイオマス発電所が稼動していますが、燃料不足により、出力を落としている発電所もある一方、燃料として主に輸入チップやペレットを用いているところも存在するのが実情です。そのような中で、真庭バイオマス発電所は主に地域の未活用木材を燃料として使用することで、地域の森林所有者、林業関係者への利益還元、また雇用増などの波及効果を生み出しています。今回のコラムでは、真庭バイオマス発電所が順調に稼動している理由について述べるとともに、チップ供給者側から見た、発電所設立前後の状況の変化、および発電所の今後の課題について述べます。

(1)順調な稼動の理由

 真庭バイオマス発電所が順調に稼動している大きな要因の一つとして、同発電所の株主でもある真庭木材事業協同組合(製材所の組合)が運営している、バイオマス集積基地の存在が挙げられます。真庭バイオマス発電所は現在、1万トン/月のチップを使用していますが、この集積基地から40%程度を購入しています。集積基地は、地域の木材資源の収集・加工・供給を目的として2009年に設立されました。複数種のチッパーを所有し、幹の部分から樹皮・枝葉まで、木のすべての部位をチップにすることができます。集積基地は、自社の伐採部門で木材を集めるほかに、チッパーを有していない林業関係業者から木材を購入する役割も担っています。それにより、広範囲な地域から木材を集めることが可能となり、発電所稼動開始後、想定以上に木材が集まってきています。真庭バイオマス発電所から1km以内にあるため、運搬費も小額ですみ、ショック・アブゾーバーという位置づけで、必要な量の調整はこちらで行っています。現在のチップ生産量は6,000トン/月で、岡山県南や鳥取県のバイオマス発電所にもチップを運搬しています。バイオマス発電所を運営するにあたり、近隣に木材収集能力のあるチップ供給業者があることは非常に重要です。

 もう一つの要因として、真庭バイオマス発電所のボイラーがストーカー方式であることも挙げられます。他のタイプのボイラーでは、燃料として切削チップ(樹の幹の部分をチップにしたもの)しか使用できないなどの制約がある場合がありますが、ストーカー方式の場合、樹皮・枝葉も燃やすことが可能で、実際に、現在使用している燃料の30%程度は樹皮・枝葉です。発電所稼動前は、切削チップは製紙用として需要がある一方、樹皮・枝葉は一部堆肥に利用されるのみでしたが、発電所ができたことで、エネルギー資源として有効に活用されるようになりました。これは真庭バイオマス発電所のコンセプト、「木をあますことなく使う」にも合致しています。木のすべての部位が使用できることも、燃料の供給不足に陥っていない要因の一つです。

(2)チップ供給者側から見た発電所設立前後の変化

 現在、真庭バイオマス発電所にチップを供給している業者は十数社で、前述の真庭木材事業協同組合のほか、真庭森林組合、地域の原木市場、森林伐採業者、製材業者などです。今回、業種ごとに、チップ供給者側から見た発電所設立前後の変化について、ご意見を伺いました。

① 森林伐採業者

・以前は伐採時に出る林地残材はほとんど山に放置していたが、有価になることで持ち出せるようになったので、山が綺麗になった。林地残材の放置は、下草が生えにくくなることから土壌の脆弱化につながり、災害の原因になることがあるが、これが解消され、また再造林がしやすくなった。

・森林を伐採した後、用材として使用できる木は60~80%程度で、残りはチップになるが、製紙用の場合、品質が厳しく問われるので、発電所で燃料として購入してくれるほうが効率的。

② 原木市場

 以前は構内に樹皮がたまり、作業の妨げになっていたが、ほとんど発電所に持って行けるようになったので、それがなくなった。樹皮は一部堆肥業者にも出荷しているが、季節ごとに変動があるので、発電所に一定量持って行けることは非常に助かる。

③ 製材業者

 以前は製材の工程で出るおがくずやかんな屑の処分に常に困っていたが、発電所に一定量持って行けるようになったことで、処分法を考えることが不要になり、また増収益につながった。

 このように、地域の林業関係者にとって、近くにバイオマス発電所がある意義は大きいですが、しかしながら、すべての供給業者が懸念していることは、固定価格買取制度(FIT)終了後にどうなるのか?ということです。バイオマス発電のFITの契約期間は20年で、真庭バイオマス発電所はすでに4年以上経過しています。FIT終了後、万一真庭バイオマス発電所が稼動停止になった場合、チップ供給業者の経営のみならず、地域の森林の環境にも悪影響が生じる可能性があります。

(3)今後の課題

 前述のように、真庭バイオマス発電所が最も考えなければならないことは、FIT終了後に稼働を続けられるか、ということです。そのためにはやはり、発電所の運営コストを下げる努力とともに、チップそのものをより安価で効率的に供給できるよう、地域の林業そのものを改善する必要があります。林業は裾野の広い産業ですが、バイオマス発電はその川下であり、用材として使用できない部位をエネルギー資源として利用する、というスタンスを保つためには、やはり木材の需要を増やし、木材自給率の向上を図るとともに、林業の効率化と生産性の向上を図り、燃料となるチップもより効率的に大量に製造できるような体制を整える必要があります。

 一方、真庭市では現在、地域を挙げて、広葉樹をエネルギーとして活用することにも注力しています。日本では1950年代くらいまでは、薪や炭など、燃料として広葉樹が使用されてきましたが、その後、化石燃料が台頭するとともに、広葉樹林は放置されるようになりました。近年、日本の森林蓄積量70億m³のうち半分は広葉樹であり、成長量は年間約1億m³で、広葉樹の蓄積量がどんどん増加していることがわかりました。これを有効に活用する方法として、エネルギー資源として使用することが考えられます。広葉樹はもともと針葉樹より水分率が低く、また密度も高いので、燃料として針葉樹より効率的に使用できる可能性があります。しかしながら広葉樹は枝が横に広がって成長するため、針葉樹より伐採の手間やコストがかかります。そこで真庭市では、市と地域の林業関係者が協力して、より効率的に広葉樹を伐採する手法や体制を作り出すことを考えています。これが真庭市内で上手くいった場合、全国的に広葉樹が有効活用できるようになる可能性があります。

 このように、今後も真庭バイオマス発電所は、バイオマスタウンの一員として、地域の林業関係者の方々とともに、林業の先駆的なモデルケースとなれるよう、また国内林業の発展に貢献していけるよう、邁進していく所存です。

キーワード:真庭、バイオマス発電所、FIT終了後問題、広葉樹活用