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No.176 米国で動き出す蓄電池事業
~プロジェクトファイナンスの視点から~

2020年3月12日
株式会社日本政策投資銀行
企業金融第5部兼ストラクチャードファイナンス部
調査役 荒木 宏文

1、はじめに

 前回は、米国の蓄電池プロジェクトを概観した(「米国における蓄電池投資の最新動向 ~イノベーションの最前線から~」http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0175.html)。その中で、「プロジェクトファイナンス」「ノンリコース」「プロジェクトストラクチャー」などの言葉を用いた。今回は、ファイナンスの観点から、米国の蓄電池プロジェクトを、プロジェクトファイナンスの視点で分析する。

 本稿では、Standaloneの蓄電池を取り上げる。前回、蓄電池プロジェクトを、太陽光や風力などの再エネ併設型(Renewable +)と、単体で系統や消費者にサービスを提供するStandaloneに大別した。Renewable +は、太陽光や風力という再エネ収入が中心である場合、再エネの分析手法を応用できる。蓄電池ならではの話があるのは、Standaloneの蓄電池プロジェクトと思われる。

 プロジェクトファイナンスは、プロジェクトに対して融資を行い、そこから生み出されるキャッシュフローを返済の原資とする手法である。企業の信用力に依拠するコーポレートファイナンスとは異なり、プロジェクトに出資する企業に債務保証を求めないノンリコースファイナンス(ノンリコースローン)となっている。

 プロジェクトファイナンスでは、プロジェクトを、複層的な視点から分析する。ここでは、分かりやすさを重視して、収入、建設、運営・保守、の3つの視点で記述する。分かりやすさを理由にしたが、3つの視点は、欠かせない視点でもある。プロジェクトの分析は、突き詰めれば、「どう稼いでいるか」「どう作るか」「どう運営するか」の3つに収斂すると言うこともできる。

2、収入

 初めに考えるべきことは、プロジェクトの収入構造である。プロジェクトが、何をやって、どのような対価を得るか、ということになる。

①長期契約に基づく収入 vs マーチャント収入

 収入を大別すれば、長期契約に基づく収入があるものと、市場から収入を得るもの(短期のスポット契約も含む)に分かれる。後者は、俗に「マーチャント収入」と呼ばれる。

 マーチャント収入は、売電量・売電単価とも、日々の市場の動きの影響を受けるため、リスク・リターンは高い。マーチャント収入によるプロジェクトファイナンスは、将来価格を予見できるほど成熟した自由化市場で成立する。発電プロジェクトの場合は、米国のPJM・NYISO・ISO-NEなどの一部の地域でマーチャント収入によるプロジェクトファイナンスが成立している。

 筆者が知る限り、Standaloneの蓄電池で、プロジェクトファイナンスが組成されているものは、長期契約に基づく収入があるものである。本稿は米国の話だが、英国や豪州でも蓄電池プロジェクトはあるとは聞くものの、マーチャント収入のものでプロジェクトファイナンスが組成されているとは聞かない。米国でも、2010年代前半、東海岸を主とする独立運用機関であるPJMにRegulation Dという需給調整用の市場があり、そこから収入を得る蓄電池もあった。しかし、急速に供給が増えたことで市場価格が下落した。この例からみても、足下は米国もマーチャント収入のプロジェクトファイナンスが成立する市場ではないと理解している。

②長期契約に基づく収入がある蓄電池の事例(Consolidated Edison)

 米国における、長期契約に基づく収入がある蓄電池プロジェクトのうち、ここでは、契約案が公開されているNYISOエリア内におけるConsolidated Edisonの事例を取り上げる。NYISOはニューヨーク州をエリアとする独立運用機関である。

 Consolidated Edisonは、ニューヨーク州の送配電事業者であり、蓄電池サービスプロバイダーから長期にわたるサービス提供を受けるため入札を行う。同社が2019年7月に公開したRfP (Request for Proposal)によれば、同年11月が入札期限、同年12月に落札者決定、落札者は2020年6月までにConsolidated Edisonとの間で契約を結ぶことになっている。契約において、落札者は、2022年12月までに蓄電池の建設を完了して運転を開始して、運転開始から7年間Consolidated Edisonにサービスを提供することが義務づけられている。7年間経過した後は、Consolidate Edisonに蓄電池を譲渡する義務もなく、自由に蓄電池を使うことができ、市場取引等で収入の上積みを狙うこともできる。

 7年間の長期契約で、蓄電池プロジェクトがConsolidated Edisonに提供するサービスは、単純化して言えば、蓄電池を「使用可能な状態」に保つことである。蓄電池を運用するのは、Consolidated Edisonである。蓄電池プロジェクトは、Consolidated Edisonが蓄電池を運用できるよう、蓄電池を設計・建設して、「使用可能な状態」に保つための運営・保守を行う。収入は、「使用可能な状態」への対価である。この対価は、実際にどれだけ蓄電池が使用されたか(充放電量等)に関わらない、固定の対価である。

 このような「使用可能な状態」に保つことで、固定の対価を受け取るという収入構造(ビジネスモデル)は、珍しいものではない。Capacity Paymentや、Availability Feeなど、プロジェクトや人によって言い方は異なる。例えば、容量市場において受け取る対価(容量を提供できる状態を保つことで発電量に関わらず対価を得る)や、PFI(Private Finance Initiative)で公共施設を整備・運営することの対価(実際にどれだけの人が公共施設を使うかに関わらず対価を得る)は同種のものであり、プロジェクトファイナンスの世界ではよく見られるものである。

③長期契約に基づく収入がある蓄電池の事例(その他)

 同種の事例として、同じニューヨーク州で、Consolidated Edison以外の送配電事業者が実施している蓄電池入札も挙げることができる。現地では、同州最大の送配電事業者であるConsolidated Edisonの入札に関心が集まっていたが、規模は小さいが他の送配電事業者も似たようなRfPを公開している。

 また、他州の事例では、ハワイ州のHECO(Hawaiian Electric Company、ハワイ電力)が実施している蓄電池入札を挙げることができる。こちらは、HECOが2018年8月に公開したRfPで契約案が示されている。落札したStandaloneの蓄電池プロジェクトは、HECOとの間で、最長20年の長期契約を結ぶことができる。蓄電池を「使用可能な状態」に保ち、HECOが要求する場合に蓄電池を充放電することで、HECOから固定の対価を受け取ることができる。

④長期契約に基づく収入(リスクと対策)

 以上、ニューヨーク州とハワイ州の事例を挙げたが、1つ補足する。「使用可能な状態」に保てば固定の対価を受け取ることができると聞くと、なんだか簡単そうである。しかし、長期契約上「使用可能な状態」について求められる条件は詳細に定められており、契約相手方が長期にわたり確実に支払いを行うかもチェックが必要である。前者の、契約上の条件の例としては、Capacity(出力)、Availability(稼働率)、Round-Trip-Efficiency(充放電の効率)、などが挙げられる。筆者が5年間も使っているi-Phoneも、どんどん電池の持ちが悪くなり、そろそろ買い替えようか悩ましいが(どうせ電話、メール、ラインくらいしかしないので、最新の機能は要らない)、大型の系統向けの蓄電池であっても劣化は発生する。想定された以上に劣化が進むと、「使用可能な状態」を満たすことができず、対価を減額されたり、ペナルティを課される場合がある。そこで、「使用可能な状態」を満たすためにどのような対策をするか、対策のコストを含めてプロジェクトの採算はどうか、という点を考えながら、プロジェクトファイナンスを組成する。

3、建設工事

 誤解をおそれずに言い切れば、蓄電池は建設の難易度は高くない。ガス火力発電所では、タービン・ボイラなどの主要機器、基礎・建屋の土木工事、ガス関連・環境関連工事、系統接続工事などの複雑な工程を、数年かけて行い、試運転期間も十分に取る。試運転で性能未達があれば追加工事を行う。完工遅延が発生することも珍しくない。それに比べると、蓄電池は、工場で組み立てられた蓄電池を現場に輸送して、据え付けるのみである。勿論、土木工事、温度等を適切に保つコンテナの設置、系統接続などもあるが、複雑さは、ガス火力発電所の比ではない。出来上がったものを運んで据え付けるという点では、太陽光発電所に近いと言う人もいる。

 相対的に難易度が高くないとはいえ、勿論ポイントはあり、土地の選定、蓄電池の納期が守られるか、責任分担が曖昧にならぬよう契約で明確化されているか、などをチェックする。土地は、造成や系統接続が難しくなる要素が含まれていないか、確認する。蓄電池の納期は、蓄電池サプライヤーが受注を多く抱えていると間に合わなくなる可能性もあるため、受注状況や製造体制を確認する。責任分担は、例えば、試運転で性能未達が発生した場合、蓄電池を納入した蓄電池サプライヤーと、ソフトウェア含めて全体を取りまとめたシステムインテグレーターの、どちらに責任があるか曖昧になる可能性がある。そこで、複数の工事関係者がいる場合は、責任分担が曖昧にならぬよう、建設リスクを最もコントロールできる関係者が完工遅延や性能未達の責任を負うよう、契約で明確化を図る。

 その他、実績と財務状況が十分な関係者を選定する、技術アドバイザーを活用しながら適切な工程や予備費を設定する、保険アドバイザーを活用しながら適切な保険が使われているか等一通りチェックする。

4、運営・保守

 運転開始してから投資回収するまで(投資家の立場)、又は借入金を完済するまで(融資金融機関の立場)、長期間にわたって、誰がどのようにプロジェクトの運営と保守を行うのかは重要である。適切な運営・保守が行われないと、長期契約に基づく収入が減少、又はペナルティが課される可能性があるし、トラブルにより緊急の修繕費等が発生する可能性もある。

 運営も、保守も、発電プロジェクトに比べると特徴がある、というのがこれまで見聞きした印象である。

①運営

 運営は、収入構造(ビジネスモデル)が、長期契約に基づく収入か、マーチャント収入かで異なる。マーチャント収入の場合、どの市場でどう売るか、という判断が伴うし、それに合わせてどう電池を動かすか考える。他方、長期契約に基づく収入の場合、前述のニューヨーク州やハワイ州の事例では、「使用可能な状態」に保つことで固定の対価を得るため、運営といっても「使えるようにする」ことである。

 「使えるようにする」ことは、難しいことではなさそうだ。米国では太陽光発電所の例を挙げる人もいた。長期契約がある太陽光発電所の運営は、放っておいても日が出れば発電されるため、留意すべきは除草したりパネルに積もった塵を落とすなどの作業となる。分かりやすさのため単純化してしまっている点はご容赦願いたいが、難易度は高くないという点は、蓄電池を「使えるようにする」こととも共通するよう思われる。

②保守

 保守は、蓄電池の場合はAugmentation(容量の追加、増設)がポイントとされる。メンテナンスフリーとまで言うと言いすぎなのかもしれないが、蓄電池は特別難しい日常的な保守も、ガス火力発電のオーバーホール(数年に一度のタービン分解点検)のような大規模修繕もない。他方、年数の経過や充放電により劣化が進むため、劣化が進んだ際にAugmentation(容量の追加、増設)を行う必要がある。

 Augmentationは、平たく言えば、劣化した分だけ蓄電池を増設するものである。キャッシュフローの観点からは追加Capex(追加投資)となる。それでは、将来のどこかの時点で、いくらの追加Capexが必要になるのか、ということが論点となる。

 5年後、10年後のAugmentationに必要となる金額を的中できるか、という問について、答えはおそらくは否であろう。蓄電池の価格は、中長期的に下落すると思う人であっても、いくらと問われて当てることは難しいだろう。短期的には、蓄電池の部品に含まれるレアメタルの価格が上昇する可能性を指摘する人もいる。

 このように、将来Augmentationに必要となる金額を予測することが難しいことを受けて、どのような対策を施すかがポイントとなる。1つの方法として、蓄電池メーカーやシステムインテグレーターとの間で、Augmentation込みの長期サービス契約を結ぶ方法がある。この場合、彼らからすると、日常的な保守を行いつつ、蓄電池の使用状況を把握できるため、設計外の使用が行われていないことを確認できる。彼らは、蓄電池プロジェクトの収入源である長期契約の条件に基づき設計を行い、長期契約の期間にわたり、一定の性能を保証して、性能劣化が想定よりも進んだ場合にはAugmentationを行うこととなる

5、その他

 以上、代表的な見方として、収入、建設、運営・保守、という3つの視点を取り上げた。プロジェクトファイナンスでは、他にも多面的な分析を行う。

 プロジェクトを牽引するスポンサーが十分ノウハウを持っているか、土地の権利関係や許認可の取得に懸念はないか、中長期的な規制・政策変更リスクがないか、使われる技術が商業上も確立されているか、建設や運営・保守を担う関係者の実績・財務状況はどうか、地震・津波等の不可抗力が発生した場合の対策はどうか、キャッシュフローの余裕度がどれだけあるか、全ての資産に担保設定が可能か、などを一つ一つチェックしていく。

 プロジェクトファイナンスは、教科書的な考え方がある一方、現実には事例に応じて千差万別の設計である。それでも、具体的な事例を紹介することで、米国蓄電池の分析の視点についてイメージが湧くきっかけとなれば幸いである。

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