Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.181 「石炭を減らし再エネを増やす」という国際動向を計測する

2020年4月9日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 安田 陽

 気候変動に対する対策は喫緊の課題であり、その具体的な行動として「石炭の低減」と「再生可能エネルギー(以下、再エネと略称)の増加」の2つの大きな方針が世界中で掲げられています。これまでも、世界中の多くの国や地域で「石炭の低減」と「再エネの増加」という傾向や動向を見ることができますが、この「傾向」や「動向」が単に主観的・抽象的な表現に留まる限り、懐疑的な人々を説得することは難しそうです。

 そこで本稿では、この「石炭の低減」と「再エネの増加」という2つの潮流を単なる抽象的な「傾向」や「動向」に留めず、それらを可視化し定量化することを目的として、石炭火力=再エネ導入率相関図(以下、C-Rマップと略称)および石炭=再エネ指標(以下、CR指標と略称)という2つのツールと指標を提案し、定量分析を試みました(本稿は、近日公開予定の京都大学再生可能エネルギー講座ディスカッションペーパー「OECD諸国はどのように石炭を削減し再生可能エネルギーを導入してきたか? -石炭=再エネ指標の提案と分析-」の要約版です)。

C-Rマップによる可視化

 石炭と再エネの動向という2つの変数を同時に見るには、2次元相関図で可視化するのが便利です。そこで、横軸に石炭火力導入率(その国の年間消費電力量に対する石炭火力の年間発電電力量の比率)C、縦軸に再エネ導入率(同、再エネの年間発電電力量の比率)Rをプロットした図(ここではC-Rマップと呼ぶことにします)を作成してみました。図1に経済協力開発機構 (OECD) 加盟国36ヶ国の1990年から2018年にかけての推移の様子をC-Rマップを示します。



図1 OECD加盟36ヶ国の1990〜2018年にかけての石炭・再エネ導入率の推移(C-Rマップ)

出所:IEA (2019), IEA(2020)のデータより筆者作成

 図1は情報が多く読み取りづらいですが、多くの国の矢印(ベクトル)が画面左上方向を向いており、これは過去約30年間でOECD加盟国の多くが石炭火力導入率を減らしながら再エネ導入率を上げたことを示しています。また、いくつかの例外的な国はベクトルの向きが他の多くの国と異なり特異な方向を向いており、例えば日本と韓国は画面右側にベクトルが向かっています。これは過去約30年間で石炭導入率を増やしたことを意味しています。

 図1の「傾向」をさらにわかりやすく可視化するために、全ての国の矢印(ベクトル)の始点を原点に集めて再描画したマップを図2に示します。この図から、OECD加盟各国の動向がより視覚的に明らかになります。すなわち、ベクトルが画面左上方向(すなわち石炭を減らし再エネを増やす)を向くのはOECD加盟36ヶ国中31ヶ国で圧倒的多数であり、残り5ヶ国のうちチリ、トルコ、メキシコは画面下方向のベクトルとなっており、石炭導入率の増減はわずかであるものの再エネ導入率を相対的に減らしたことが読み取れます。さらに日本と韓国のみ比較的長いベクトルが画面右方向に向いており、OECDの中でもこの2ヶ国の特異性が顕在化していることがわかります。



図2 OECD加盟36ヶ国の1990〜2018年の石炭・再エネ導入率の変化
(図中、国名はいくつか代表的な国のみ表示)

 なお、日本ではしばしば基準年を1990年ではなく2000年とすべきという議論もありますが、仮に2000年を基準としたとしてもベクトルの方向(すなわち石炭火力の増加傾向)は変わらず、データの詳細に見ると実は2011年の原発事故以前から一貫して石炭火力の導入率を増やしてきたことがわかります。国際的な比較という観点からは、日本というOECDの中でも特異な傾向を示す国が独自で基準年を定めたとしても、恣意的で公平性を欠いた基準と見られても仕方がないでしょう。

CR指標による定量化

 図1や図2により、OECD加盟各国の動向が可視化されましたが、これらは一目してわかりやすいものの、依然として視覚情報による定性的な「傾向」に過ぎません。そこで、石炭導入率と再エネ導入率という2つの指数を統合したCR指標というものを本稿では提案します。

 このCR指標は、数学的には図3に示すように、C-R空間のベクトルを–45度線((C, R) = (1.0, 0)と(C, R) = (0, 1.0) の2点を結ぶ右下から左上に横切る直線)上に正射影したもので、座標変換の式はCR = – (C – R + 1)/2となります。



図3 CR指標の概念図

 この座標変換によって算出したOECD加盟各国の1990〜2018年のCR指数の変化を大きい国から降順に並べたランキングを図4に示します。図より、過去約30年間で最も「石炭を減らし再エネを増やす」傾向が強い国はデンマークであり、ついでエストニア(エストニアは現在でも石炭火力導入率が100%を超え輸出超過ですが、この30年で輸出分を大幅に減らしつつあります)、英国、アイルランド、ギリシャ、ドイツ、スペインといった国々が上位にランキングしていることがわかります。



図4 OECD加盟36ヶ国の1990〜2018年のCR指標変化(ΔCR)ランキング

 一方、ランキング下位の国を見てみると、チリ、メキシコ、日本、トルコ、韓国となっており、これは図2でみた特異なベクトル方向を示す国と一致します。

 このように、本稿で提案するC-RマップとCR指標によって、「石炭を減らし再エネを増やす」という国際動向が可視化・定量化でき、この「傾向」を客観的に示すことが可能となりました。

キーワード:石炭火力、再生可能エネルギー、導入率