Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.184 CCAによる再生可能エネルギー供給

2020年4月30日
京都大学大学院経済学研究科特定講師 中山琢夫

はじめに

 電力購入契約(PPA: Power Purchase Agreement)による、再生可能エネルギー発電所開発の多くは、買い手企業がオフテーカーとなって、プロジェクトを推進するような、コーポレートPPAが代表的である。一方で、PPAに関するアメリカの最近の動向を見ていると、再生可能エネルギーの買い手オフテーカーは企業だけでなく、CCA(Community Choice Aggregation)という主体によって、PPAを用いて発電プロジェクトのファイナンスをオフテークしているような事例も見受けられるようになってきた。

 今日アメリカにおいて、CCAと呼ばれる主体による再生可能エネルギー供給の増加している。本コラムでは、CCAがどのような主体で、どのような取り組みを行っているのかを概観したい。

市場ベースでフレキシブルかつローカルなCCA

 CCAは、市(City)や郡(County)内の家計・企業・地方政府の電力需要を集約して電力を調達したり、発電事業者と協力して電源開発する。複数の市・郡が連携してCCAを設立する場合もある。中西部や北東部では、Municipal AggregationやGovernment Energy Aggregationと呼ばれることもある。CCAは、カリフォルニア州、イリノイ州、オハイオ州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、バージニア州で法的に認可されており、いくつかの州でも法案が検討されている。オハイオ州などのいくつかの州では、ガス需要のアグリゲーションも行っている。

 このように州法に基づいて設立されるCCAは、市営・郡営の小売電気事業者のような組織である。非営利公共機関(non-profit public agency)として運営される場合が多い。ではなぜ、このような州においてCCAを設立しているのだろうか。それは、CCAを通じて地方自治体と地域住民・企業が、さまざまな分野の目標を達成しようとしているからである。まず、競争的で安価な電力料金を得ることが目的とされる。CCAの電力料金は平均的に、各地の電力市場の状況と電力源に応じて、大手ユーティリティと比べて2-20%節約しているという。

 また、よりクリーンで、効率性に優れた電力供給に転換することが挙げられる。顧客(需要家)が契約メニューを選択する自由度や、ユーティリティから消費者を保護することなどに関して、ローカルなレベルで制御することも目的とされる。また、ローカルな雇用創出や電力レジリアンスの向上も目的とされる。ネットメータリング・省エネ・屋根上の太陽光発電・コミュニティーソーラー・EVへのインセンティブ、DR技術などの補完的なプログラムもCCAは提供している。そして何よりも、新規の再生可能エネルギー発電所の開発が最も重要なポイントになる。

オプト・アウト方式とオプト・イン方式

 顧客(需要家)のCCAへの移行は、州法に応じてオプト・アウトまたはオプト・イン方式で実施される。オプトは顧客(需要家)による選択のことを指すが、ここでいうオプト・アウト方式は、自動的に移行されるCCAから、顧客が選択して脱退する方式を意味する。一方オプト・イン方式では、日本の新電力との契約方法と同様に、顧客が選択してCCAに加入することを意味する。

 一般的に最も成功しているのは、オプト・アウト方式だといわれている。イリノイ州やオハイオ州では、地方レベルの住民投票が行われた後、顧客は自動的にCCAに登録される。カリフォルニア州などでは、地元の選挙で選ばれた市議会や郡委員会の代表者が、CCAの設立・参加を承認した後、顧客は自動的にCCAに登録される。

図1 Marin Clean Energyの住宅向け料金プラン
図1 Marin Clean Energyの住宅向け料金プラン
出所:Marin Clean Energy HP as of Apr. 2019

 図1は、オプト・アウト方式を採用している、カリフォルニア州のMarin Clean Energy(MCE)の標準的な住宅向け料金プランを示している。もしナパ郡・マリン郡・コントラコスタ郡・ソラノ郡内に住んでいるならば、何もしなくても自動的に“MCE Light Green”プランに加入することになる。もしこのプランに不満があるようであれば、料金は少し高くなり再エネ比率も下がるが、既存IOUのPG&Eのプランにオプト・アウト(OPT OUT)することができる。

 また、100%再生可能エネルギーの電力を希望するならば“MCE Deep Green”プランに、さらに地産の太陽光100%にこだわるのであれば“MCE Local Sol”プランに、料金は高くなるが、オプト・アップ(OPT UP)することもできる。

 一方で、オプト・イン方式は自発的なCCA参入方法ではあるが、そのためどうしても参加率は低くなる。その結果、規模の経済性が働かないことで、CCAグループによるエネルギー調達の価値は低くなり、経済的な優位性を持つことが困難になる。その点において、オプト・アウト方式の方が、CCAグループによる効果的なエネルギー調達を可能にすると言える。

 もちろん需要家(顧客)はいつでも、かつてのユーティリティとの契約にオプト・アウト(CCAからスイッチング)することができる。顧客の選択は自由であるが、CCAからのオプト・アウト率は3-8%で、多くのプログラムでは5%未満と少ない。CCAの顧客は、CCAが提供する100%再生可能エネルギープログラムなど、さまざまな追加的なオプションを楽しんでいるという。

自治体ユーティリティのベネフィット

 非営利の自治体ユーティリティ(Municipal Utility)は、伝統的な投資家所有のユーティリティ(IOU: Investor Owned Utility)よりも、平均して15-20%低い料金体系で、信頼性の高い電力供給を行うことができる。CCAはコスト効率性、柔軟性、ローカルな制御を可能にする。しかし高価な電力インフラの資産を評価・購入・維持するといった、資本集約的な裾野の広い課題には直面しない。

 CCAはその点において、多くの場合地域独占的なIOUと、自治体(もしくは組合)ユーティリティの間にあるような、ハイブリッドアプローチを提供している。CCAは、時として古くなったユーティリティのインフラを購入して維持するといった金銭的な問題を抱えることなく、電力供給と発電を制御するベネフィットを享受する。電力供給を制御したいが、ユーティリティを所有することで財政的・運営的な負担を望まない自治体にとっては優れたオプションとなっている。

CCAと既存ユーティリティの関係

 CCAは、既存のユーティリティ(多くの場合IOU)とのパートナーシップによってエネルギーを供給するモデルである。CCAは、発電事業者からの電力調達・需給調整、顧客とのコミュニケーションを担当する。IOUをはじめとする既存のユーティリティは、電力系統のメンテナンス・託送、検針・請求書の作成や集金、その他顧客サービスなどを継続して行う。省エネプログラムやネットメータリング(余剰売電)プログラムは、CCAとIOUの両方による共同作業となる。(表1)

表1 CCAとIOUの役割分担(カリフォルニア州の例)
表1 CCAとIOUの役割分担(カリフォルニア州の例)
出所:UCLA Luskin Center for Innovation (2017) based on California Public Utilities Commission(2014)

 CCAは、政府の補助金を受けることなく、料金収入が基本となる。したがって、自立して経営することになる。つまり、顧客が発電事業者やIOUに支払う電力料金は統合されてローカルなCCAに支払われ、CCAグループの電力調達をサポートするように振り向けられる。IOUには託送料のほか、検針・料金請求・集金代行にかかる追加手数料(Additional Charge)が支払われる(表2)。

表2 カリフォルニア州におけるCCAの料金例
表2 カリフォルニア州におけるCCAの料金例
出所:O'Shaughnessy et al.,(2017)

 自由化州では、発電と送配電が機能分離されている。この状況では、既存のユーティリティの送配電の役割は確立されており、小売部門の競争もすでに存在する。こうした州では、既存のユーティリティはCCAコミュニティと喜んでパートナーシップを結ぶ。小売電気事業者は、CCAによる電力調達の市場価値を理解しており、顧客獲得において戸別レベルで競争するのではなく、自治体レベルのCCA単位で競争することになる。

 あるユーティリティが地域独占状態を保っているような、部分的な自由化州における卸電力市場では、CCAに対する反応は好意的ではない。CCAによって電力市場の独占状態が崩されるからである。しかしながら、垂直統合型のユーティリティの顧客には悪影響が及ぶことはない。また、ユーティリティ自体は、コスト回収賦課金(または、退出料金)と呼ばれるメカニズムを用いて損失する費用を回収できる。いずれにしても、送配電インフラの所有権と託送事業、電力系統管理事業、料金請求および顧客サービス機能は、既存のユーティリティに残る(US LEAN, 2015)。

カリフォルニアにおけるCCA

 カリフォルニア州では、2002年に州議会によってCCAの設立を承認し、それ以来、21のCCAが州内で発足している。州内のCCAは、2016年にCALCCAをいう組織を構成し、カリフォルニア公益事業委員会(California Public Utility Commission)、カリフォルニア州エネルギー規制委員会(California Energy Commission)、カリフォルニア州大気資源局(California Air Resources Board)など州の規制機関に、州内のCCAを代表して参加している。

 カリフォルニアのCCAは、州内内外に新しい再生可能エネルギー発電所への投資を順調に進めている。これまでに、主として10年間以上の長期電力購入契約(PPA: Power Purchase Agreement)を通じて、3,600MW以上の再生可能エネルギー発電容量を獲得している。その内訳は、新規太陽光発電が2,369MW、新規風力発電が978MW、新規蓄電池が240MW、新規地熱発電が14MW、新規バイオガス発電が12MWとなっている(HP CALCCA as of Apr.27, 2020)。

 このように、カリフォルニアにおけるCCAは、PPAを用いて積極的に発電所の開発を行っている。太陽光発電や風力発電のシステムコストは大きく減少しているとはいえ、発電ディベロッパに建設時にかかる巨額の費用を、PPA契約によってCCAがオフテイクしていることがよく分かる。また、変動性の発電所だけでなく、かなり大きな規模で蓄電池の導入が進んでいることも、気候変動対策に熱心なカリフォルニア州の特徴を示しているといえるだろう(CALCCA CCA Renewable Long-Term Power Purchases as of Nov.7, 2019) 。

まとめ

 本コラムでは、アメリカにおいて導入が進んでいるCCAの動向について概観した。CCAの特徴をまとめるとすれば、それは自治体レベルのローカルな管理下のもとで、再生可能エネルギー比率の高いクリーンなエネルギーを、競争的に安価な価格で供給するための主体ということになるだろう。CCAは、競争的な価格で再生可能エネルギーを獲得するために、PPAを盛んに用いながら、蓄電池を含む再生可能エネルギー電源開発を行っていることは、カリフォルニアの例が象徴的に示している。

 IRENA(2019)などでは、世界中で人気が高まっているCCAの例として、日本における自治体新電力も挙げられている。群馬県中之条市が60%所有する中之条電力では、町営の太陽光発電システムから電力を購入し、東京電力よりも安い料金で学校やコミュニティセンターなど30の公共施設に小売販売している。また、山形県においても、やまがた新電力によるCCAが設立されたと紹介されている。料金請求については、日本における自治体新電力は料金請求等を自前で行っており、アメリカにおける多くのCCAがユーティリティに任せている点で違いがある。

 こうした日本の自治体新電力の多くは、再生可能エネルギーの地産地消を掲げてビジネスをスタートしているが、多くの顧客を獲得し、成功している自治体新電力ほど、再生可能エネルギー電源の調達に苦労していることだろう。日本でも新しい再生可能エネルギー発電所が必要である。そのために、日本でも自治体レベルの地域の家計・企業・政府部門の需要をアグリゲート(集約)して、比較的ハードルの低いPPAを活用しながら、新たな再生可能エネルギー発電所の設立を需要側から働きかけるべき時代がやってきているのではないだろうか。

キーワード:CCA PPA 自治体新電力