Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.190 ドイツにおける新型ウイルス感染拡大の経済への影響とエネルギー関連支援策

2020年6月18日
ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳 西村健佑

 新型コロナウイルスによる影響はドイツでも顕著に現れている。今回はドイツの現状と対策を紹介する。ただし、情報は執筆時点(6月8日)のものである。

ドイツの経済的影響は深刻

 コロナ禍についてドイツは当初楽観的だったと言わざるを得ない。私は2月初めに日本にいたが、ドイツに戻る時に心配していたのは「ダイヤモンド・プリンセス対応に失敗するなど、コロナ禍に見舞われている日本からの入国が認められるか」だった。実際には拍子抜けするほどすんなり帰宅でき、社会としての関心は高くはなかった。

表1 3月末までのドイツの動き
日付 ドイツ国内の出来事
1月27日 ドイツで最初の陽性感染者が発覚
2月3日 日本でダイヤモンド・プリンセスの下船許可が降りず
2月25日 ハインスベルクで感染経路不明の感染が発覚。ハインスベルクはその後深刻な事態に。
3月10日 初の死者が出る
3月16日 学校が閉鎖される、国境も制限が始まる(50人以上の集会は15日から禁止)
3月23日 外出制限と接触禁止が発令

出典:筆者作成

 その後は段階的に外出制限と接触禁止が緩和されてゆき、執筆時点(6月8日)では、かなりの程度日常生活は回復しており、人との距離を開け、マスクを付ければ気になることはあまりない(ただし、映画館などの一部施設は今も営業再開できていないか、入場制限を設けており、完全に戻ったとは言い難い)。

 ドイツエネルギー水道事業連盟(BDEW)の5月22日のリリースによれば、20年第1四半期の経済成長は-1.9%だった。個人消費と設備投資の落ち込みが激しく、20年の通年の経済の落ち込みは-6.2%と政府は見積もっている。シンクタンクには第2四半期の経済の落ち込みを-9.8%と予測する機関もあり、経済への打撃は深刻である。

 電力消費はロックダウンした3月中旬以降、過去4年の同期平均比で落ち込み始め、5月11~17日の週は-7.8%だった。これは主に製造現場の閉鎖や労働時間の短縮によるものだ。

 そうであれば当然過ごし方にも影響が及ぶだろう。BDEWがGoogleの公開データを基に試算したものでは、ドイツでは労働現場、職場で過ごす時間が40%減り、そのために公共交通の利用が50%削減された。余暇のための外出も40-80%の削減となり、代わりに家にいる時間が10-20%増えた。一方でヨーロッパでは比較的コロナ禍を抑え込んでいるドイツでは移動の抑制が隣国と比べて少ないことが伺える。

ドイツのエネルギー消費に見る変化

 ドイツが本格的な対策を開始するのは3月上旬であり、実質的な影響は4月以降の方が大きいだろう。そのため、現在公表されている第1四半期(1-3月)のデータでは十分なことは言えないが、いくつか数字を見てみる。

すでに山家先生が「No.186 新型コロナ禍が進めるエネルギー革新」(http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0186.html)でお伝えしているが、ドイツの第1四半期の電力消費に占める再エネの割合は52%(19年は44.4%)となり、4月は60.5%、5月は58.3%であった。例年この時期は再エネ比率が高い傾向にあるが、それでもこの数値は過去と比べて飛び抜けて高い。19年末の原発の閉鎖、コロナ禍による産業用電力消費の低下による相対的な比率の上昇が主要因であろう。

 ドイツの第1四半期の一次エネルギー消費は(いずれも速報値)全体で前年同期比6.8%減の3,457PJだった。これはコロナ禍だけでなく暖冬も影響しているだろう(天候の影響を除けば6.4%減)。

 エネルギー全体の消費で見ると、褐炭を主に電力部門で30.4%減、石炭は22.1%減(発電部門は1/3減、鉄鋼業は7%減)、原発は19年末の原発停止で16.9%減、天然ガスは暖冬による暖房需要減で5.5%減、鉱油は3.2%減(ガソリンは微減、ディーゼル油は3.4%減、暖房用は石油価格低迷のためストック用として5.7%増)だった。再エネは6%増で風力が22%、太陽光は11%増の一方、バイオマスは1%減、水力は3%減だった。全体でのCO2排出量は11%減だった。



出所:AGEBを基に筆者作成

景気回復対策とエネルギー

 コロナ禍の影響が本当に評価できるのはおそらく来年だろう。現在の評価は暫定的なものであり、様々な評価に分かれているが、大まかな傾向を言えば、資材調達・許認可手続きの遅延等により、風力の新規開発はここ数年の伸び悩みに上乗せして深刻な状況となり、太陽光の成長は鈍化傾向と見られる。

一方で、コロナ禍後の景気浮揚策として、「グリーンリカバリー」がEUでは提唱されている。簡単に言うと、景気回復のための公共支出は経済のグリーン化に資するものに集中すべきというものだ。ドイツでは3月の7500億ユーロ(90兆円)の景気対策は分野を限定せずに行われたが(この対策の内訳はたとえば筆者の「ドイツの対コロナ経済政策について1」を参照)、6月3日に連立与党が合意した追加の景気対策は総額1300億ユーロ(15兆6000億円)のパッケージとなり、グリーンリカバリーの視点も取り入れようとしている2

 エネルギーや気候問題に特に関連する「将来のためのパッケージ」3を紹介すると総額500億ユーロ(6兆円)で、国の近代化を推進し、危機からの強い回復を目指すとしている。特に「持続可能な交通」に力を入れており、自動車業界の構造転換を促し、将来の価値創造チェーンの創出に資することを目的とする。

 具体的な中身としては21年12月31日まで電気自動車購入プレミアムが現行の3000ユーロから6000ユーロに引き上げられる。自動車業界は内燃機関自動車にもプレミアムを求めたが最終的に認められなかった。さらに最新の安全性の高い充電ポストの設置、電気モビリティの研究開発、バッテリーセルの開発に25億ユーロの追加の資金を提供する。自動車関連業界の企業が将来のための投資を行う場合は、20年と21年に限り、10億ユーロを支援する。自動車税は21年よりCO2排出量に応じた税率の調整を強化する。また、電動モビリティ強化のために社会福祉事業や手工業者、中小企業で業務用自動車を電気自動車に切り替える場合は補助が出る。バス、トラックの近代化プログラムとして、電気バスや充電設備に対して2021年末まで支援を強化する。ヨーロッパのプログラムと協調してトラックの新環境基準適合対策の支援、ドイツ鉄道への50億ユーロの出資増によって近代化投資と鉄道網の電化を促進する、航空業界などでの燃料電池とグリーン水素の推進などがある。自動車への措置が手厚いのは自動車業界はドイツで最も重要な産業であり、かつコロナの影響が最も大きく、売上がすでに2/3まで縮小しているからである。

 エネルギー転換と気候目標達成のため、輸出産業にするための水素技術の開発投資、21年の再エネ賦課金を6.5セント/kWh、22年は6.0セント/kWhとするための財政出動(再エネ割合の増加と電力需要低下の影響を受け、21年の賦課金は8.6セントになるという試算がある)、再エネ法に定められた太陽光の支援上限の撤廃と洋上風力の導入目標の底上げ、省エネ改修のための補助金を20年と21年は10億ユーロから25億ユーロへと引き上げることなどが定められた。

課題も残る景気復対策

 ドイツはグリーンリカバリーにも力を入れている。最も影響を受けた自動車業界への支援が手厚いが、自動車業界の意向が完全に取り入れられなかったことは重要である。しかし、付加価値税の減額(7月から半年間19%を16%へ引き下げ)は不要な消費を喚起する懸念がある。

 また、再エネに関して言えば、政府は既に紹介した太陽光の上限撤廃のための法改正の速度が遅く、業界団体が訴える事態になっている。ドイツの再エネ法は買い取り支援(FIT)を受けることができる太陽光設備の上限を52GWとしている。ドイツでは今年1~5月までに合計で2GW弱が新設されており、50.9GWに到達している。再エネ業界は、今後のエネルギー転換に必要な措置としてこの上限撤廃を求めていた。この多くは小型屋根上太陽光であり、発電の多くは自家消費に回るので実際の買い取り量はさほど多くはないという声もある。政府はこれまでに、同時に求められていた近隣の住宅と風車の最低距離を1000mとする規制の導入の取り消しとともにこれらの要求を受け入れたが、この変更を反映するための法改正が遅れており、改正前に設備容量が52GWに到達して支援が止まる可能性もある。

 ここで紹介した経済への影響や支援策はあくまで暫定的なものであり、被害や対策の実際の把握は来年までは不可能だろう。ドイツの支援も気候対策向けとそうでないものが混ざっており、一筋縄ではいかないが、自動車業界が最も欲しがっていた内燃機関自動車購入プレミアムが見送られたことは、コロナ禍を超えてドイツの産業支援の転換点となるかもしれない。


キーワード:ドイツ、グリーンリカバリー、新型ウイルス感染拡大