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No.195 EUのグリーンリカバリー -共同債発行で120兆円グリーン投資実現へ-

2020年7月22日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

キーワード:グリーンリカバリー、欧州グリーンディール、欧州復興基金、EU共同債

 新型コロナ禍により、経済活動は大幅に縮小し、失業者、倒産が増えてきている。各国は、大規模なコロナ禍対策を採っているが、収入減少、賃金支払い不足を埋める「止血対策」だけでなく、投資喚起等前向きな「復興対策」を打つ国もある。欧州ではグリーンリカバリ-を目指している。今回は、それを紹介する。

 筆者は、前回のコラム「No.186 新型コロナ禍が進めるエネルギ-革新」(http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0186.html)にて、新型コロナ禍はエネルギ-情勢にかつてないほどの大きな影響を及ぼしていることを紹介した。蒸発との表現もある需要減、それを上回る化石燃料使用減、再エネ増、需要減を大きく上回るCO2排出量減、マイナスを含む市場価格急落等である。特に電力取引において、石炭減、再エネ増、卸価格低下が顕著であり、10年先の状況を体験していることをドイツを例に解説した。こうした傾向は、一時的なのだろうか、トレンドとして転換したのだろうか。温室効果ガス削減対策の強化は不要になった、あるいは困難になったのだろうか。以下でEUの復興対策について解説する。

1.EUのコロナ禍復興への回答は90兆円基金創設

新たなキーワード“Green-Recovery” “Build Back Better”

 新型コロナ禍は、パリ協定が定める2000年代後半にネットゼロ目標に向けて好影響、と断じることはできない。2021年は排出量は増加に転じる可能性がある。IMFによる経済成長見通しでは、2020年は-3%、2021年は+5.8%となっている。また、経済活動縮小への補填や復興対策で巨額の資金が必要となり、環境対策に回らなくなる懸念がある。復興対策の方策を誤ると、排出量が大きく増える可能性がある。

 2009年のリーマンショック時に、即効性を重視し従来ながら対策に走った結果、排出量が大きく増加した苦い経験がある。IEA、国連、IMF、EU等の首脳は、温室効果ガス削減対策の継続・強化を訴えている。この苦境の中、欧州は社会・経済復興のキーワードとして“Green-Recovery” “Build Back Better”(復興後の社会をよりよく)を掲げ、復興対策の中でEU史上に残る決断を行った。

EU共同債90兆円発行で真水が過半の大規模基金を創造、中期予算7割増に

 欧州委員会は、5月27日に総額7,500 億ユーロ(約90兆円)の欧州復興基金 「Next Generation EU」創設案を発表した(資料1)

資料1.欧州復興基金「Next Generation」 EU発表
資料1.欧州復興基金「Next Generation」 EU発表
(出所) EU

 5,000億ユーロの補助金(グラント)と、2,500億ユーロの融資(ローン)から構成される。所謂「真水」は2/3を占める。EU委員会が共同債を発行し、それをグリーンディールや5G等デジタル化に資するプロジェクトに供与する。これはEUの中期予算(2021~27年)の枠組みの中で運営される。中期予算は1.1兆ユーロであり、7割もの増加となる。返済は、EU予算における将来収入(2028年~58年)を充てる。2020年~2040年に発効される予定で、最長で7年据え置き30年返済の超長期金融とも見做しうる。日本では、戦後の大規模電源開発を財政投融資が支えたが、旧開銀融資制度に水力発電を対象とする35年ローンがあった。

 この提案は、7月21日にEU首脳会議にて合意に至った。ただし、グラントは3900億ユーロに減額となった(真水52%)。3900憶ユーロのうち3100億ユーロは新設の「欧州復興ファシリティ」に原案通りに配分され、残りの80億ユーロは既存制度の増強に回った(後述)。

 なお、コロナ禍対策としては、収入減、賃金手当補填等の「緊急止血」対策は、4月に5400億ユーロのパッケージが講じられているが、融資中心で力不足との批判もあった。7500億ユーロの復興基金創設は、別途中期予算に組み込む本格的な復興・投資対策である。

グリーン投資、デジタル投資がターゲット

 この7500億ユーロの中身について、以下で5月27日発表の当初案を見てみる(資料2)。太宗は新規政策である「欧州復興ファシリティ」に5600憶ユーロが割り当てられるが、グラント3100億、ローン2500億から成る(グラントの規模は首脳会議で7/21に合意された)。これは、加盟国や地域への資金供与であり、①国の重要気候・エネルギ-計画NECPs(National Energy Climate Plans)であること、②欧州グリーン投資分類(タクソノミー)上のグリーン投資に認定されること、③SDGs予算との整合性を取ること等が採択の条件となっている。すなわち、国家的重要事業であること、真にグリーンな投資である(グリーンウォッシングでない)ことを証明する必要がある。

 欧州タクソノミーでは、気候変動防止に有効な事業は対象にはなるが、他の環境要素に負の影響を及ぼす場合はグリーンと見做されない。例えば高効率石炭は×で原子力は微妙で検討中である(当初案は×)。グリーンウォッシングで議論の多いバイオマスも条件は厳しくなる。グリーン投資としては建物・インフラの改修、風力・太陽光の再エネ開発、水素開発、電気自動車・鉄道等の普及、化石燃料産業からの転換対策が該当する。最後の技術転換等に関しては、別途目玉政策として用意されている「移行メカニズム」も活用できる(後述)。

復興基金運用の3本柱

 総額7500億ユーロの復興基金「Next Generation EU」はEU政府の中期予算に組み込まれる。中期予算は2021~27年の7年間で約1.1兆ユーロの規模となっているが、これに追加される。復興基金は「投資・革新促進」「民間投資促進」「新型コロナ危機の教訓措置」の3つの柱から成っている(資料2)

資料2.欧州復興基金(Next-Generation-EU)5/27提案の概要(単位:億ユーロ)
資料2.欧州復興基金(Next-Generation-EU)5/27提案の概要(単位:億ユーロ)
(出所) EU資料を基に筆者作成

 「投資・革新促進」の圧倒的な主役は新設の「欧州復興ファシリティ」で5600億ユーロが計上されている。他にも既存の重要措置の増強が並ぶ。格差解消に向けた結束基金“cohesion policy programs”、資源・業態転換を促す「公正移行基金」“Just-Transition-Fund”、農村開発基金“European Agricultural Fund”である。

 「民間投資促進」では、Solvency Support Instrumentが新設される。有望企業の資本増強支援策で€310億を用意し、民間資金誘導を含めて資金規模€ 3000億を見込むが、2020年から直ちに開始する。中期投資計画“InvestEU”は民間投資支援策の骨格を成しているが、戦略投資ファシリティ“Strategic Investment Facility”をInvestEUの特別枠として新設し、質・量ともに大きく補強する。InvestEUの投資誘発規模は1000億から1500億に拡大する。3番目の「新型コロナ危機の教訓措置」であるが、新医療プログラム設置、災害危機管理制度・研究助成の強化、加盟国支援が盛り込まれている。

2.コロナ禍危機、温暖化危機が積年の懸案「債務共有化スキーム」を生む

EU史上最大級のサプライズ、共同債実現

 欧州復興基金の最大のサプライズはEU初となる大規模共同債(Joint-Loan)発行の実現である。EU内の南北格差、東西格差を乗り越えた一体性を維持するために「債務の共通化」はかねてより議論されてきた。しかし、経済・環境の先進国が後進国を支援すること、投資対象が真にグリーンか否かの見極めが難しいこと等からドイツをはじめとして強い反対があった。金融の一体化は進んでも、財政は各国毎の枠を超えれなかった。しかし、コロナ禍による深刻な経済危機、現実化する温暖化問題への懸念がこの高いハードルを乗り越えさせ、EUの一体化を守った。

 グリーン投資の定義について真剣に議論を続けてきていた。近年グリーンの分類(タクソノミー)が固まってきており、その適用を条件とする。EU政府の最大の課題は独自の収入源が少ないことであり、また歳入は加盟国総所得GNI規模の1.2%までという制約があった。

欧州グリーンディール実現の最大課題「資金調達」に目途

 昨年12月に発足したフォン・デア・ライエン新委員長体制の最重要政策であるが、資金調達策を巡り議論が紛糾していた。グリーンディールの骨格は2050年排出量を中立(ネットゼロ)とすることであり、中間目標として2030年までに1990年対比最低で50%、55%削減を目指す。従来の目標が40%であるので、大幅な引き上げになるが、これを確実に達成するべく立法化を進めている。2020年3月4日に、気候法(Climate-Act)案を発表している。

 実現には多額の資金が必要となるが所要投資、グリーン投資の分類等着実にステップを踏んできていた(資料3)

資料3.欧州グリーンディール政策整備に係るタイムライン
資料3.欧州グリーンディール政策整備に係るタイムライン
(出所) 各種資料を基に筆者作成

 2020年1月14日に「持続可能な欧州投資計画」が発表された。これは「欧州グリーンディール投資計画」とも言わ れ、10年間で1兆ユーロ以上の規模になる。同日に化石資源削減の影響を緩和し円滑に移行することを目的とする「公正な移行メカニズム」‘the Just Transition Mechanism (JTM)を発表する。これは7年間で€1000億の規模となる。この膨大な資金需要に対してどう調達するかが最大の課題となる。EU予算、EIB等各種機関の予算を当てることになる。

 ライエン政権は、長期予算の少なくとも25%は気候変動に充当する方針を示しているが、EU予算は加盟国総所得GNIの1.2%との制約がある。EIBはローンが主でグラント(真水)が不足する。次期中期予算(2021~27年)は7年間で1.1兆ユーロであるが、10年間1兆ユーロ、7年間1000億ユーロの資金需要に対しては厳しい規模であり、別途の調達手段が不可欠となる。

 そこで、長年の懸案であった共同債(Joint-Loan)発行の合意が得られるが否かが最大の焦点となっていた。これまで実現できなかったのは、経済効率性、環境対策で進んいる国がそうでない国を支えることに対する疑念、環境投資と銘打っても本当にグリーンなのかへの疑念があるかたである。特にオランダ、オーストリア、オーストリア、デンマーク、スウェーデンのいわゆる「倹約4か国」は強力に反対していた。EU委員会は、予算規模の制約を取り払い、GNIの0.6%分を基金創設に充てることとした。償還資源としては加盟国分担拠出金の増加が図られることとなろうが、独自歳入としてEU排出権取引の排出枠オークション収入増や国境炭素税、法人新税、プラスチック新税、デジタル課税の創設が検討されている。

EU統一の砦を守った独仏首脳の決断

 状況が一変したのは、欧州復興基金案が出る10日前の5月18日にマクロン大統領・メルケル首相が共同で「5000億ユーロ復興基金」創設を提案したことである(資料4)

資料4.ドイツ、フランス5000億ユーロ復興基金計画発表(5/18TV会議共同記者会見)
資料4.ドイツ、フランス5000億ユーロ復興基金計画発表(5/18TV会議共同記者会見)
(出所) ロイター

 5000億ユーロは補助金(グラント)であり、EU委員会が発行する共同債で調達し、将来のEU予算で長期にわたり少しずつ返済する。「債務の共有化」は無理としてもEU共同債で歩み寄ったのである。共同債は、EU全体の信用による高格付けが見込まれ、市場から低利資金が調達できるメリットがある。27日に発表された5000億ユーロのグラントを含む欧州復興基金7500億ユーロ復興基金創設案に結実した。

結束を強く促したコロナ危機、温暖化危機、グリーン投資基準

 どうして、このタイミングで積年の懸案が解決したのであろうか。新型コロナ禍より前から加盟国の債務は巨額であり復興のためとは債務著増は避けたいという財政事情はもちろんある。南欧諸国等の経済危機は深刻であり、破綻回避は時間との勝負となっていた。また、温暖化防止は待ったなしの状況であり、残された期間は少なく、ライエン新政権の最重要施策であるグリーンディールが最後の機会との共通認識、危機感により欧州はぎりぎりで結束したと考えられる。EUグリーン投資基準(タクソノミー)の基準の整備も大きい。原子力、石炭を多く利用している国もあるが、2018年の提案以降、立場の違いを超えて地道に取り組んできた合意形成も大きい。

 7月17日より開始されたEU首脳会議は、久し振りの対面会議であったが、足掛け5日及ぶ交渉を経て21日に7500億ユーロで合意を見た。グラントは5000億ユーロから3900億ユーロに減額はしたが、歴史に残る金字塔である。復興基金7500億ユーロの約3分の1は気候変動対策に充てられ、EU次期7カ年中期予算と合わせると過去最大規模の環境投資を伴う刺激策となる。

 日本への影響については、まずは排出削減の進捗においてより大きな差がつくことが考えられる。再エネ、水素、交通システム等次世代の技術・産業に関しても同様に差がつく可能性が高い。漸く石炭フェードアウト、送電インフラ運用の中立化、洋上風力官民協議会開催等の動きが出てきたが、実現を担保する投資計画、資金手当てを示す必要がある。EUの乾坤一擲ともいえるグリーリカバリー対策は、それを強く示唆する。