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No.197 梶山経産大臣発言の衝撃と意義 -エネルギ-革新に託す産業政策-

2020年8月6日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 山家公雄

キーワード:先着優先ルール、洋上風力官民協議会、産業政策、石炭火力発電フェードアウト

 今回は、7月入り後の梶山経済産業大臣の発言の意義について解説する。エネルギ-政策と産業政策を両睨みする久方振りの骨太な戦略であること、洋上風力を残された最大の戦略領域として位置づけること、その成否のカギを握る電力ネットワークの革新が進むことがかなり期待できる。

1.7月3日梶山経済産業大臣発言の衝撃

石炭フェードアウトは転換の象徴、より重要な先着優先見直し

 7月3日の梶山経済産業大臣の「非効率石炭火力発電フェードアウト」発言(正確には資源エネルギ-庁への指示)は、エネルギ-政策上の大きな節目となる可能性がある。石炭フェードアウト(休廃止)自身は、中身を見るとそう大きな変更ではない。設備容量で4割程度であり、既存・新規の「高効率」設備が稼働すれば現時点の2030年目標である26%は変わらないとの指摘もある。効率の悪い火力発電は競争力がなく利用されないので、自然に市場から退出する。非効率設備の多くは老朽化が進んでおり、総括原価の適用もあり、相当適度回収が進んでいると考えられる。燃料もほぼ100%が輸入であり、鉱山閉鎖を伴う訳でもない。

 同時に言及のあった「送電線利用に係る先着優先方式を見直し少なくとも再エネが不利にならないようにする」の方がより大きな意味を持つ。2016年から小売り全面自由化が始まっているが、発電の領域では先着優先ルールにより実質自由化されておらず、新しい技術である再エネは不利な状況にあった。先着優先ルールに代わるものとして競争力のある電力から利用できる「メリットオーダー方式」を目指すようだ。海外では、自由化の基本は電気を作る発電事業にあるとの考えであり、その電気を取引する卸市場の整備が最も重視された。電力自由化は「先着優先」の撤廃から始めたということである。日本でも約25年遅れで漸く撤廃される可能性が出てきたが、正しく2周遅れである。

 石炭フェードアウトは、欧州のフェーズアウト(廃止)に比べて弱い措置ではあるが、政策転換の象徴としての意味がある。先着優先は画期的な措置だとしても、電力インフラ(系統)の理解は難ししく、メティアも大々的に継続的に取り上げない可能性がある。メリットオーダー方式と密接に関わるノンファーム型接続の説明はさらに難しい。

2.7月17日梶山大臣発言の意義

洋上風力官民協議会の始動

 7月3日梶山発言と同等かそれ以上に衝撃的だったのが7月17日に開催された「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会(以下洋上風力官民協議会)」である。これは、「大規模電源開発の可能性がある残された唯一の領域である洋上風力開発を積極的に進め、製造業等の国内産業を復興を期する」ことである。エネルギ-政策と産業政策を両睨みするもので、久々に具体的だが骨太の政策になる(資料1)。「再エネ・産業創造プラン」という名称にその意味が凝縮されている。梶山大臣は7月17日の閣議終了後の会見にてそれを強調している。最近のエネルギ-政策は、個別の断片的な課題について、多くの小委員会・WGが乱立し全体像が見えない(見せない)状況に陥っていたが、吹っ切れたかのようであり、そのコントラストは大きい。大きすぎてその意義が伝わり難いかもしれない。

 初回の資料や顔ぶれを見ると期待がもてる。梶山経済産業、赤羽国土交通の両大臣が揃い、両省の幹部(資源エネルギ-庁、製造産業局、港湾局)とともに風力業界をはじめ関連業界団体、金融機関の幹部が勢揃いした。議事も、開発量の目標を定めて予見性を示す、国内産業・インフラ整備等の課題について分化会にて官民で議論し方針を纏めることが決まった(資料1)。また、長期の戦略性に鑑み協議会は単年度で終了するのではなく、状況を見つつ継続されていく方針が窺える。

資料1.国内洋上風力産業の競争力強化に向けた基本的な考え方
資料1.国内洋上風力産業の競争力強化に向けた基本的な考え方
(出所)経済産業省 (第1回洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会7/17/2020)

洋上風力開発目標の提示

 資料2は日本風力発電協会(JWPA)が提示した開発目標と国内ポテンシャルである。

資料2.洋上風力のポテンシャルと目標値(JWPA)
資料2.洋上風力のポテンシャルと目標値(JWPA)
(出所)JWPA資料(第1回洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会7/17/2020)を整理

 年平均風速7.0m/s以上、1事業12万kW以上の想定でポテンシャル(潜在量)を試算し、着床式で約128GW(水深10~50m)、浮体式で約424GW(水深100~300m)とする。これを基に次のような開発目標値設定を提案する。2030年までに年間100万kWの事業計画を採択することで1000万kW(10GW)を目指す。2050年の目標値を90GW(陸上の40GWを含めると130GW)とする。これは、国際公約である温室効果ガス8割削減から試算している。中間時点である2040年は、30GW~45GWとしているが、30GWは現時点の開発計画を積み上げた量34GWを映じたもので、政府の考え方と思われる。45GWは民間投資ベースに乗るという考え方である。

 現行のエネルギ-基本計画の2030年風力目標は10GWであるが、まだ稼働のない洋上だけで10GWを示したことに意味がある。梶山大臣は、締めの挨拶で「当面10年間は100万kW/年、2040年にかけては3000万kWを超える導入量の見通しがあれば思い切った投資ができるものと思っており、引き続き、本協議会で議論していきたい」とコメントされた。また、事業者は長期平均費用(LCOE)で8~9円/kWhまでのコスト低下を目指すと決意表明した。

3.産業政策の復活

再エネ・産業創造プランはどうして登場したのか

 「再エネ・産業創生プラン」の背景を考えてみる。官民協議会を傍聴したあるメティアの方は「むしろ産業政策の色合いを強く感じた」との感想を漏らしていた。日本製造業が追い込まれているということである。

 3大重電メーカーである三菱重工、日立製作所、東芝は、電気事業の進展とともに成長してきた。戦後の焼け野原から高度成長を経て経済大国になるが、急増するエネルギ-需要、就中電力需要を支えたのが電力業界であり、電源開発・流通投資を積極的に行い期待に応えてきた。その膨大な設備投資を国内事業者に発注した。原子力を主に当初は海外の技術を導入してきたが、次第に国産技術開発が進み、メーカーは実力をつけ主要輸出品となるまでに成長した。重電メーカーは世界的な大企業に成長し、すそ野の広い産業構造のなかで、製造業全体の底上げに寄与してきた。いわゆる電力村ともいえる構造であるが、日本経済をけん引したことも事実である。

追い込まれた日本産業

 しかし、成功体験が大きいが故に転換が遅れた。自由化への取組みや再エネ普及が大きく遅れ、エネルギ-構造革新が遅れただけでなく、産業競争力も大きく低下した。重電3社を支えた電力部門、特に原子力、大規模火力部門は危機的な状況である。2019年初の挨拶で、中西経団連会長は「原子力産業は、民間の力だけではどうしようもない」と語った。日立製作所会長である中西氏は2018年末に英国での原発事業断念ともとれるコメントを行った。主力商品であった火力用タービン、ボイラーの売り上げも激減している。

 海外の既存電力会社は、再エネ・インフラ・消費者回り・海外の事業領域への転換を急ぎ、メーカーも再エネやシステム等への転換が進んでいる。危惧され予想されていた「保守的な電力と共に沈没」が現実となったのである。鉄鋼・造船等の素材型も国際競争激化の波にさらされ、苦戦を強いられている。技術を伴う纏まった内需が求められている。再エネ開発に遅れた旧電力会社も残された領域は洋上しかない。

 前述にように、かつての日本はエネルギ-政策と産業政策が密接にリンクしていた。最近は既得権限、既存システムに配慮することもあり、新潮流を傍観していた。新たな産業である再エネやインフラ整備にも及び腰・場当たり的で、太陽光発電の突出した導入も国益に結びついたとは思えない。気が付くと中国・韓国等の海外事業者が活躍する場となっている。

エネルギ-転換とモノづくり復活の最後の砦 洋上風力

 エネルギ-政策の視点でも、世界的に石炭火力に対して批判が高まる中で、フェーズアウト(段階的な廃止)の方向は避けて通れないであろう。その分をCO2フリー電源で賄うことになるが、原子力に大きな期待は寄せられない。新規開発はもとより再稼働も容易ではないし、少なくとも予見が難しい。残るのは再エネとなるが、潜在力・開発し易さからして太陽光・風力に期待することになる。太陽光は、FITバブルで突出し、その弊害も散見され地元調整が難しくなってきている。急激なFIT価格引き下げで、採算面でも一段のコスト低下をみるまでは大規模開発は厳選されることになる。屋根置きを主に着実に普及していくことになろう。

 こうした状況下、残されたインパクトある領域は洋上風力ということになる。幸いにも四方を海に囲まれた日本は大きなポテンシャルがあり、大規模開発が可能である。回転式機械システムは、日本製造業の得意分野であり、大型化に対応できれば十分に競争力が期待できる。海底基礎、長大な羽根(ブレード)、支持鉄塔(ポール)等の大型・重量物は現地生産が適している。海洋土木、海底ケーブル、鉄鋼・造船分野の設備投資に占める割合は大きく、これも日本の得意分野である。メンテナンスは現場の仕事となる。ここで国産化比率を高めるべく産業政策の後押しが重要になる。イギリス、フランス、米国、台湾等多くの国で洋上風力は国内産業政策とセットになっている。

4.成るか、電力ネットワーク革新

打ち出された電力ネットワーク改革

 電力ネットワーク改革の主役として、送電線整備は接続申し込みの都度増強の有無を判断する方式から、統括的・長期的にインフラ整備をマスタープランとして計画する方式に転換することになっている。また、全国に便益が及ぶと判断される増強工事については、当該地域の送電会社だけでなく全国で負担する方式に改まる。さらに、系統運用・接続についても、従来の「接続電源は全て定格容量で稼働、年間で最も電気が流れる一瞬をみる」という超保守的な考え方から、「時々刻々の潮流を予測して容量超過時の出力抑制を前提に新規接続を行う」東電PG方式(ノンファーム型接続)が導入されている。これは梶山大臣発言の「先着優先見直し」と表裏一体であり、2021年の全国展開が打ち出された。ここに、スーパーグリッド構想が登場した。

海底スーパーグリッド構想も登場 -直流送電線で全国に流通-

 17日の会議で、筆者の注意を引いた資料がある。JWPAが用意した参考資料に、北海道・東北・九州から関東、関西へ向かう「ジャパン・スーパーグリッド」構想の絵がある(資料3)。日本海側洋上風力等の適地から全国に流通するインフラとして海底ケーブルを敷設し、需要地と直接リンクさせるものである。

資料3.ジャパン・スーパーグリッドのイメージ
資料3.ジャパン・スーパーグリッドのイメージ
(出所)JWPA (第1回洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会 7/17/2020)

 海底送電線は直流システムが適しているとされるが、これにより50サイクル、60サイクルで東西に分断されている壁を乗り越えることが可能になる。新潟県、福島県、福井県から需要地に直結する既存大容量送電線を利用できれば、ネットワーク構築上も大きなメリットになる。東日本大震災発生以降類似の構想が出てはいたが、参考とはいえ公式の資料では見た記憶がない。梶山大臣は、締めの挨拶で「また、(本日発言があった)直流送電や港湾についても今後議論が必要」とコメントされた。スーパーグリッドが現実になると、流通設備の整備・利用の選択肢が大きく広がることになり、「改革」を超えて「革新」と呼ぶことができる。

決めたら奔流になる日本特性に期待

 以上のように、7月3日梶山発表以降、再エネ主力化実現を期待しうる動きが相次いでいるが、議論はこれからである。政府提案に対する既得権益者の巻き返しも予想される。既に、総合エネルギ-調査会の「電力・ガス基本政策小委員会」「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」や電力広域的運営推進機関の「地内系統の混雑管理に関する勉強会」等において、議論が始まっているが、先着優先ルールの見直しに関しては無難な滑りだしを見せている。コストの低い電気が優先的に送電線を利用する(コストの高い電気から抑制する)メリットオーダー方式の採用については、特に反対意見は出てない。日本は、調整に時間がかかり、電力システㇺや再エネ普及に関して周回遅れとなってしまったが、一度方向転換が決まったら、怒涛のように進むという期待がある。今回は、そうなりそうな予感がする。国も多くの関係者も、ギリギリまで追い込まれているのである。

○参考情報

・経済産業省 総合資源エネルギ-調査会 電力・ガス基本政策小委員会
 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/026.html
・総合エネルギー調査会 再生可能エネルギー大量導入・次世代ネットワーク小委員会
 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/018.html
・経済産業省・国土交通省 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会
 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/001.html
・日本風力発電協会(JWPA)HP 
 http://log.jwpa.jp/content/0000289747.html
・日本風力発電協会公式ツイッター 
 https://twitter.com/JWPA24791889