Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.204 容量市場入札① 1万4千円/kWになってしまった容量市場価格

2020年9月24日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:容量市場 米国PJM Net-CONE 広域機関

 9月14日に電力広域的運営推進機関は、創設後初となる容量市場入札結果を発表した。約定価格は約1万4137円となったが、これは新設ガス火力発電の固定費を5割上回る水準で、既存設備を含めた全電源に適用される。この海外でも例を見ない高値の結果が「市場入札」によりどうして生じたのか、本稿はこれを論考する。なお、容量市場入札に関してはシリーズで解説する予定である、本論はその第1回である。

1.第1回容量市場入札結果とその解釈

2024年容量市場入札で通年価格スパイクが決定

 容量市場は4年後の2024年に必要となる発電可能量と価値を示す曲線を電力広域的運営推進機関(広域機関)が試算・提示し(需要曲線)、これに発電事業者が発電設備単位で応札し(供給曲線)、両曲線の交点で約定価格と規模が決まるものである。発電可能量の価値とは、オペレーターの指令に何時でも対応できる待機価値である。約定価格は14,137円/kWであり、これは約定した全ての電源に適用される(シングルプライス・オークション)。落札率は97%、応札容量の3/4は火力であり、平均応札価格は2,182円/kWである。落札価格は平均応札価格の6.5倍となり、多くの落札設備にとり「濡れ手に粟」とも言える結果となった(図1)。

図1.容量市場の需要曲線・入札供給曲線(2024年度)(約定付近の拡大図)
図1.容量市場の需要曲線・入札供給曲線(2024年度)(約定付近の拡大図)
(注)約定価格に対応する調達量約17,650万kWは、約定総容量1億6769万kWにFIT分約900万kWを加えた数字。
(出所)広域機関「容量市場メインオークション約定結果資料」(9/14/2020)に加筆

 約定総容量は168百万kWであることから(除くFIT分)、約2.4兆円もの価値が生まれたことになる。経過措置の割引きを除くと1.6兆円が発電事業者に支払われる。負担するのは電力小売り事業者であるが、発電事業者との既存相対契約の見直し(基本価格と従量価格の組み換え)、小売り料金への転嫁に向けた交渉が行われるであろうが、生販(発電・小売り)一体型の事業者以外は経営不安に陥りかねない水準である。小売り事業者は、需要家に対して安定供給責任を負うことから発電可能量を確保する義務があるという建て付けである。

米国PJMでは4000円程度で指標価格の1/3以下

 約定価格の14,137円/kWはほぼ上限価格(14,138円/kW)であり、指標価格である9,425円/kWの1.5倍に相当する。指標価格は、新設のコンバインドサイクルガス火力発電(CCGT)が40年間平均の固定費を回収できる水準である。従って、2024年の1年間は、約定された全ての電源について厚い利潤が保証される。落札設備の殆どは既存設備と考えられる(肝心の新規投資の情報は開示されていない)。

 米国東海岸から中部におよぶ独立運営機関であるPJMの容量市場を参考に設計されたが、PJMの約定価格は4000円/kW前後、そして指標価格の1/3以下で推移してきている。これはPJMだけでなく、容量市場を採用しているケースでは概ね同様である。日本も、当局の説明振りからも2000円~4000円を想定していた節がある。しかし、1万4000円となった。

 なお、本家のPJMでは、容量市場の課題が表面化し、2020年1月以降入札は止まっている。日本は、知ってか知らずか、強行したともいえる。また、形は真似ているが、本質や精神がかなり異なる。エッセンスは最後の方で解説している。

敢えて解説を省いた入札結果図

 この結果は、政府や広域機関にも想定外に高値だったようである。入札結果発表は、当初は8月31日であったが、9月14日に延びた。広域機関の発表資料は、敢えて分り難くしてるのはないかと思われる箇所が散見される。図1は、広域機関の資料に筆者が加筆している。原図は需要曲線と供給曲線だけであり上限価格、約定価格、指標価格、約定総容量、目標調達量の文字と数字は出ていない。上限価格と約定価格が1円しか違わないこと、指標価格よりも約定価格がかなり高いことが分かり難くなる。約定価格に対応する調達量は約定総容量ではなく、入札に参加しないFIT分を含むものとなっている(図1の注)。また目標調達量を少し下回っているが、それも気になったのではないか。

明らかに失敗した官製市場

 要するに、あり得ない高額の約定価格が成立してしまったのである。日本だけが突出して発電能力が不足しているという説明は聞いたことがない。一部で問題視される再エネ普及は日本の方がかなり遅れている。少なくとも今回は失敗であった。多くの前提の下に机上で設計される官製市場であるが、制度設計が間違っていたと言わざるをえない。では、どこが間違っていたのか。

 容量市場にかかる問題は、自由化の進捗状況や電力制度全体の設計思想に規定される。容量市場は自由化が進捗する過程で創設されてきたが、自由化が途に就いた時点で設計する場合は思想的に混乱する。また、発電可能需要量を要素ごとに前提をおいて積み上げる、需要曲線を人為的に描く、発電能力を発電種毎(デマンドレスポンスを含む)に利用率等の前提を置く、発電事業者がオファーする所要コストの範疇に恣意性が入りうる等の特徴がある。市場とは言っても市場参加者の自由な入札にて決まる市場とは異なり、人為的な細かい決まり事の積み上げで構築される。それぞれ少しずつ不自然・不都合な前提があると、全体としてはとんでもない結果を生むことがありうる。以下では、市場取引の考え方の相違すなわち思想的混乱は簡潔に記述し、制度設計に焦点を当てる。思想的混乱は次回以降で解説する。

2.容量市場が必要とされる理由

電力が有する価値と3つの市場

 電気には3つの価値があるとされる。通常時に使用する電気は「エネルギ-」価値(kWh)、非常時・緊急時に迅速に対応できる電気は「調整力・柔軟性」の価値(ΔkW)、長期的に備えておくべき「発電能力」価値(kW)である。発電設備はこの3つの価値を有しており、それぞれの価値に見合う対価を受け取れるとする。その価値を判断する市場が必要であり、kWhは(一社)日本卸電力取引所(JEPX)が運用する「卸取引市場」、ΔkWは送配電事業者が2021年度より運用する予定の「需給調整市場」、kWは広域機関が運用する「容量市場」であり今回初めて入札が行われたところである。需給調整市場はΔkWとkWを扱うのであるが、重複するとしてkWは全て容量市場で扱うが、柔軟性をもつリソースは基本的に送電会社が需給調整市場にて利用すると整理された(図2)。

図2.時系列でみる電力市場と電力の価値(日本)
図2.時系列でみる電力市場と電力の価値(日本)
出所)筆者作成

容量市場誕生の背景

エネルギ-の多くは卸取引市場で約定される。前日市場では、平常時は限界費用(燃料費)の低いものが採択され、需給均衡点に位置する「限界設備」の限界費用が均衡価格となる。限界設備は燃料費しか回収できないが、ミクロ経済理論的には合理的行動となる。限界設備以下の約諾された設備は、燃料費プラスアルファの収入を得るが、固定費用を含め全費用を回収できるものもある。しかし、総括原価で全費用回収が保証されたシステムと異なり、全設備・全費用回収の保証はなくなる。柔軟性のある設備は、需給調整市場での運用が可能であり、その収入も見込めるが、それも入札で決まるので補償されるとは限らない。

 一方で、電源開発は長いリードタイムと巨額の投資を伴うので、短期的なシグナルだけでは投資判断が難しい、という意見も従来システムや設備の信奉者を主に出てくる。自由化に伴う環境変化に加えて自然変動電源VREの普及によりこの懸念は一層強くなる。VREは、燃料費ゼロであり、卸市場では優先的に選択され、限界設備候補である火力は非効率なものから市場外に押し出されることになる。より固定費回収が見込めるシステムを構築してもらわないと投資ができない等の主張が発電側よりあり、それに応えるのが容量市場である。発電側の主張が通ると需要側の利益は下がる。

 容量市場が存在しない国は地域は多い。代表はテキサス州の独立運用機関ERCOTである。また、名称や形は容量市場でも、考え方や機能はかなり異なる。日本モデルは、日本が参考にした米国PJMと比較しても、外見は似ているが考え方やシステムはかなり異なる。これらについては、回を改めて解説する。本項の最後にPJMと日本との本質的な差異を記述している。

3.容量市場の制度設計と課題

 容量市場は、将来に必要となるであろう発電能力の規模と価格(需要曲線)を人為的に定めことから、他の制度にもまして設計がカギを握ることになる。「発電能力」であるが正確にはリソースの能力である。供給力として、デマンドレスポンスや省エネもカウントされるが、これを含めて「リソース」と称されるが、本稿では発電あるいは電源と表現する。PJMにおいてはデマンドレスポンスの役割は大きい。

4年後の所要発電可能容量を確保

 数年後(日本では4年後)に必要とされる発電能力を予想して、必要量を予め確保しておこうという考えである。4年後の想定ピーク需要に、様々な不確定リスクに対応する予備力を乗せて所要発電可能量kWを試算し、それに見合う設備を確定する、発電事業者に入札を通じて確約してもらうシステムである。

 貯蔵が困難で常に周波数を一致させる必要のある電気は、需給の変動に対応できる供給システムを維持する必要がある。需要は常に変動するが、特に大規模工場が事故等で稼働停止したとき、予想を超える猛暑・厳寒が生じたとき、雷・台風・地震等の自然現象にて経済活動や供給設備に大きな影響を受けるときを想定して、それでも供給に支障が生じないような備えが必要となる。供給側もメンテナンス、事故、自然災害等により常に定格容量を維持できる訳ではない。

所要発電能力の想定が過大ではないか

 最も過酷な状況を想定し、それでも対応可能な供給体制を整備しておくことが安定供給(信頼度維持)の基本となる。ピーク需要時に上述した全ての変動リスクを織り込んだ発電能力(アデカシー)を確保するという発想が出てくるのは自然である。問題はそのリスクをどの程度織り込むかである。厳格に過ぎると所要予備力が大きくなり、コストがかかり、国民負担となる。冒頭で、今次容量市場入札にて、落札価格がほぼ上限価格となったことを紹介したが、所要発電能力規模の想定が過大であった可能性がある。

 例えば、地震等の大規模災害リスクへの対応は小売り事業者の責任範囲ではなかったが、北海道ブラックアウト発生により急遽容量市場がカバーするリスクにカウントされた。またメンテナンス等による停止、設備利用率、需要反応の程度の想定も重要である。ピーク時は停止を避ける、利用率を上げる、需要反応を高める等の行為が生じるが、これをどの程度見込むかも大きく影響する。容量市場のないテキサス州では、卸市場価格機能で想定以上の良い反応が確認されている。ピーク時に予備力が不足し、価格高騰が予想される場合は、発電設備は最大限稼働できるように、需要は削減できるように、前もって準備するのである。

需要曲線の考え方

 需要曲線の価格は、確約するkWに対する対価である。価格の考え方であるが、目標調達量に対応する価格は新規設備の設備費・固定費を回収できる水準とする。新設固定費用はコーン(CONE;Cost of New Entry)と称されるが、卸市場や需給調整市場からの収入を差し引いたネットコーン(Net-CONE)を指標に用いる。日本ではコンバインドサイクル天然ガス火力発電(CCGT)が実耐用年数の40年間稼働する前提で、9400万円/kW・年と試算された。100万kWの場合は年間94億円の収入となる(図3)。

図3.日本の容量市場・需要曲線(2024年度)
図3.日本の容量市場・需要曲線(2024年度)
(出所)資源エネルギ-庁「容量市場について(2020/5/29)」 筆者一部加筆

 指標価格・目標調達量を起点に、それより減ると価格が上がり、増えると価格が下がる右肩下がりとした。また、起点から離れるほどに勾配を設ける下に凸型のカーブを描くことにされた。大手発電事業者の価格支配力行使を防ぐ等の視点から上限価格を設けるが、Net-CONEより1.5倍の水準とされた。これは法定耐用年数である15年償却前提にほぼ見合う。また、下限はゼロ円とし、最大募集容量を設けてそこを終点とする。このカーブは、広域機関が想定したものであり、(発電可能容量)需要曲線と称される。米国PJMでは、この需要曲線や核となるNet-CONEは、毎年検証され変更が加えられる。日本でも、今回の結果を受けて、見直しは必至である。

発電事業者はどう判断するか

 この予め公表された曲線を睨んで、発電事業者は入札するが、入札を低価格から高価格に並べた右肩上がりのグラフを供給曲線と称する(図1)。需要曲線と供給曲線が交差する点で価格と数量が決まるが、高値入札で外れた電源は対価の支払いはなくなる。ここで、発電事業者はどのように判断するのであろうか。メリットは容量に応じて収入が発生することである。懸念点は、2024年度に稼働できる状況に維持する、特にピーク時等ひっ迫時に稼働できるようにしておく必要があることだ(リクワイヤメント)。

 既存設備で継続稼働を考えている場合は、少額でももらった方がいいので、確実に落札できるようにゼロ円を含め低価格入札を行う。新設あるいは廃止を考えている事業者は、判断が難しい。新設は、固定費負担が重い一方で高効率であるので、卸市場や需給調整市場で平均以上に稼げるはずである。一方で、価格は2024年度の1年間を保証するもので、それ以降は不透明である。指標価格かそれより少し低い価格で札を入れる可能性が高い。落札できなければ投資を断念すればいい。老朽化が進んで廃止を考えている場合は、稼働する場合は償却済みの低コストで約定価格収入を得られる一方で、リクワイヤメントに対応できずにペナルティが課される懸念がある。

市場支配力のある事業者の行為

 そして、市場支配力ありと指定された事業者が、出し惜しみ、価格つり上げの行為に出ないかという問題がある。今回は旧一般電気事業者、電源開発が市場支配力ありに指定された。ここが最も懸念されるところである。こうした行為は、自由化に舵を切った一方で従来の市場構造が残っている状況で生じる可能性が高い。現状では、旧一般電気事業者および電源開発の発電および小売りに占める割合は非常に高く、しかも生販(発電・小売り)一体の事業体制が認められており、東電と中部電力以外はこの体制を選択している。市場取引を経由せずとも自社内取引は可能である。市場機能が浸透し、スポット価格が指標性をもつようになると相対取引もスポット価格に規定されるようになるが、日本はまだそこまで至っていない。「ベースロード市場」という世界に類のない市場が存在することはその証左ともいえる。

経過措置の盲点:石油火力が約定決定設備となった可能性

 応札価格14,000円以上の応札容量は929万kWであり、石油64%、LNG31%と併せて95%を占めた。石油火力発電は1979年以降新設禁止となっており、現存する発電設備は50年以上経過している。償却終了しているにも拘らず高い応札価格となったのは、メンテナンスコストだけでは説明がつかない。2010年以前に稼働開始した設備は、償却が進んでいることから、約定価格から一定率を割り引くが、その逆数をかけて入札することが認められた。その結果、約定価格を大幅に引き上げる役割を果たした。経過措置とそれのリカバー策という特殊条件が影響した訳であり、電力・ガス等市場監視委員会(監視委員会)は、今回の結果を受けて改善の可能性について指摘している。

入札ガイドラインの盲点

 監視等委員会も入って策定されてあ「ガイドライン」には、「維持管理コスト」と称する固定費の範囲が明記されており、不自然にコストを膨らませることはできないが、コストの範囲が曖昧なところもあり、想定外の解釈で織り込まれる(膨らむ)懸念がある。監視員会の評価でも、その懸念が滲み出ている。直ちにバツとは断言できないが、精査する必要があるようである。

米国PJMと似て非なる設計

 日本の容量市場は米国独立運用事業者であるPJMの制度を参考にしているが、似て非なるところがある。PJMでは発電能力を有する設備は容量市場に参加しなければならない(マストオファー・リクワイアメント)であり、出し惜しみはできない。落札電源は、PJMの前日市場に参加する義務を負い、緊急時等の稼働指令に対応できないような設備は、容量市場参加はリスクが大きくなる。また、容量市場で十分な容量調達ができそれが前日市場にオファーされる場合は、卸価格は低下する。

 一方日本は、容量市場参加は強制ではない、また短期市場参加の義務はない、さらに落札した設備の差し替えも可能である(それらしき表現はあるがルールではない)。PJMは容量市場と卸市場両方を管理・運用しているが、日本は容量市場は広域機関、前日市場はJEPXの所管となっている。容量と卸が分離している場合、容量市場で得た利益が設備投・維持に回らない、あるいは調達容量が多くてもそれが卸市場価格低下に結びつかないこともありうる。多くある設備の中で、当て馬的に高価格入札する誘因も生じるだろう。今回は、複数の設備が約定価格14,137円/kWで応札したが、上限価格14,138円と僅か1円差である。

最後に

 注目を集めた第1回容量市場入札であるが、「結果失敗」は明らかである。市場機能で先行している海外からはどう見られているのだろうか。今回は、その原因について、制度設計の思想を含めて俯瞰的に考察した。仕組みの理解が難しいことから、メディアの反応は大きくない。しかし、新電力はもちろん、あるいは分社化した東電・中部電力小売り会社の経営に深刻な影響が出る懸念がある。虎の子の卸市場の機能低下を含め電力システム改革が頓挫したら、もう一サイクル遅れるだろう。

 次回以降は、海外市場との相違、より具体的な評価等について解説する。