Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.207 TSO主導型、ゾ-ン型、ノ-ダル型

2020年10月8日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 内藤克彦

キ-ワ-ド:ゾ-ン、ノ-ダル、TSO、ISO

1.はじめに

 送電混雑管理の方法について、我が国の議論がやや正確さを欠いているように見受けられるので、改めて整理することとしたい。特に、TSO主導型、ゾ-ン型、ノ-ダル型と内容の全く異なる方式のように分類されているが、欧米で行われているこれらの管理は、基本的にフロ-ベ-スの送電管理の派生形であり、基線的には大きな差はない。欧州と米国の相違は、エネルギ-市場と調整力市場が、一体的にISO等により扱われているのが米国であり、エネルギ-市場を閉めた後でTSOが調整力を動員するのが欧州型である。いずれの場合も潮流計算の段階では、ノ-ド毎に計算は行われており、ゾ-ン型にする場合は、ゾ-ン内のノ-ド価格を何らかの方法により平均化してゾ-ン価格を算出しているに過ぎない。

2.フロ-ベ-スの計算

 送電混雑を考慮し、かつ、送電線利用の無駄のない発電指令を出すには、時々刻々の潮流計算を行い、これに基づきハ-ドウェアの破綻が起こらないように発電指令を行うことが計算機の能力が追い付くのであれば合理的である。計画値や一定の安全サイドに立った計画断面を用いた発電指令の出し方においては、余裕代を多く見積もることで破綻を回避するが、全ての時間の潮流計算を前提とすれば、このような無駄を省くことができる。近年の計算能力とソフトウェアの大きな進歩に伴い、30年前には困難であったこのような作業か容易に行われるようになった。このように「計画断面を想定する」のではなく「実際の状況に沿って全て潮流計算する」ことによるのがフロ-ベ-スの考え方である。

①潮流計算の前提

 しかし、真の実際の潮流は、実負荷と実発電が揃った瞬間に決定されるので、前もって出される発電指令の段階では、その時点の需要予測と再エネの発電予測に基づき発電指令が出されることになる。前日市場の結果の約定が出される段階では、前日段階における翌日24時間の各時間の需要予測と気象予測に基づく再エネの発電予測に基づき前日市場段階の発電スケジュ-ルが決定され、約定がされることになる。

 この時に送電制約との整合を取るために行う潮流計算では、ここで必要とされる需要予測や再エネ発電予測は、全ての送電結節点(ノ-ド)毎に極力実際に近い形で整理されないと、潮流計算が正確にならない。

②グリッド全体で一斉計算

 また、潮流計算はグリッド全体で一気に行わないと意味がない。一部の送電線だけ切り出して計算していたのでは、ル-プフロ-や迂回ル-ト、当該送電線に直接接続されていない需要や発電施設の影響による潮流の変化を組み込めない。ハ-バ-ド大のホ-ガン教授の多数の論文に指摘されているように、これらの影響は誤差範囲の影響ではなく、かなり大きく影響することが知られている。そこで、欧米においては、この潮流計算はグリッド全体で一挙に行われることになる。欧州においては、欧州全体のTSOが協力して、欧州全体で一気に行われている。

③発電スケジュ-ルとリ・ディスパッチ

 この潮流計算の前提となる発電スケジュ-ルの決め方は、色々な考え方に基づくが、先着優先で割り振る場合からメリットオ-ダ-で市場原理で割り振る場合まで、色々な考え方があろう。ここでは、欧米で用いられているメリットオ-ダ-に基づく優先順位付けで発電指令を出していくとすると、最初は、需要と見合った発電量になるように経済性の高い発電施設から採用し、発電スケジュ-ルに組み込んでいくことになる。

 この発電スケジュ-ルと先の需要予測をノ-ド毎に入力し、潮流計算を行うことで、各ノ-ドの間の送電線で送電制約を超えるところがあるかどうかを確認することができる。送電制約を超えるところがあった場合には、当初のメリットオ-ダ-で選択された発電施設より当該送電線の需要側にある「高価な」発電施設に発電指令を変更し、送電制約を回避することになる。実際の潮流計算では、このような作業を計算機内で繰り返し、送電制約に抵触しないように発電スケジュ-ルの修正が行われる。

 ここで、例えば、発電指令が撤回された発電所が遠方の再エネであれば、再エネには出力抑制がされたということになり、その分代わりに需要地近郊の火力発電の出力アップ指令が出されることになる。この一対の増減両者を総称してリ・ディスパッチと称している。最近のEU指令では、出力抑制という言葉を使わずに全てリ・ディスパッチで整理しているのは、出力抑制とリ・ディスパッチの間のこのような関係に基づいているのであろう。送電制約に抵触する区間を潮流計算で特定し、効果的なリ・ディスパッチを行うためには、当然、潮流計算は各ノ-ドとその間の各送電区間を最小単位としてグリッド全体で一斉に行われなければならない。

④リアルタイムの計算

 リアルタイム市場の段階になると、リアルタイム市場の結果と直近の実需用と再エネの実発電に基づき、前日市場の潮流計算の修正が行われる。この場合の潮流計算も当然ノ-ド毎のインプットデ-タに基づき行われることになる。最後は、5分毎の修正計算に基づき、発電スケジュ-ルの微修正がおこなわれ、実際の受給マッチングが行われることになる。

 ここまでのプロセスは欧米ではほぼ同じように行われており、ここでは例えば、ノ-ド卸売価格のようなものも、全てのノ-ドで一応算出できる状態となっている。これがフロ-ベ-スの運用の基本である。ここから後の主として金銭的処理の段階でゾ-ン制とノ-ダル制は分かれることになる。

⑤エネルギ-市場との関係

 潮流計算により送電制約に抵触する送電区間がグリッド内に存在しない場合には、グリッド全体で同一のメリットオ-ダ-が適用され、グリッド全体がほぼ同一卸売市場価格となる。(「ほぼ」というのはノ-ダル制では、送電ロスに伴うノ-ド価格の変化がわずかに存在するからである。) 潮流計算により送電制約に抵触する送電区間がグリッド内に存在しリ・ディスパッチが行われる場合には、当該区間を挟んでメリットオ-ダ-は異なるメリットオ-ダ-に分裂し、異なるノ-ド卸価格となる。米国等の方式の場合には、エネルギ-市場運営者と送電管理者は同一のISO等であるため、直ちに個々のノ-ド卸売価格が、卸売市場価格として採用されることにより、リ・ディスパッチの費用は市場に転嫁される。

 ところが、ドイツ等の場合には、エネルギ-市場と送電管理の運営主体が異なるため、リ・ディスパッチが、行われた後もエネルギ-市場価格は、グリッド全体で同一のままとなっており、リ・ディスパッチの費用はTSO等が一旦は負担し、エンドユ-ザ-にTSOタリフとして転嫁される。

3.ゾ-ン制

 ゾ-ン制では、どのような事が行われているかというと、送電区域をいくつかのゾ- ンに分けて、ゾ-ンの卸売価格を決定する。この理由は、運営者により種々ある。ドイツ等の場合は、2の⑤で述べたようにドイツ圏で一つの統一卸売価格となっている。ドイツの送電管理者の主張によれば、この方が、市場参加者にとって会計処理も分かり易く市場が機能しやすいとのことである。米国の場合は、ノ-ド制を取るところが多いが、例えば、NYISOは、中小需要に対する卸売価格はノ-ド価格を単純平均したゾ-ン価格とし、工場等大規模需要や供給側に対してはノ-ド価格をそのまま卸売価格としている。この理由は、小売価格にノ-ド価格がそのまま反映されると僅かな地域差で電力の値段が変わり、地域の政治問題となる可能性があるからとのことである。

 なお、ゾ-ンの区割りを決定する時には、送電混雑の典型的な状況が考慮されていることが多いと思われる。同一のゾ-ン内では、ノ-ド価格もほぼ同水準となるような地域をまとめて一つのゾ-ンとし、ゾ-ンとゾ-ンの間に頻繁に送電ネックとなる送電区間が存在するようにゾ-ンの境界を決めるわけである。ただし、混雑処理は先に述べたようにノ-ド単位で行わないと意味が無いので、そのようにした後の会計処理にゾ-ンの概念を持ち出しているわけである。

 ドイツ等で統一卸売価格とした方が、市場参加者にとって会計処理が分かり易いというのは、卸売価格の異なる地点間の会計処理には、「混雑料」の概念が発生することにある。統一卸売価格の場合には混雑料を考えずに、したがって、FTRの概念も持ち出すこともなく簡単に会計処理ができるということは言えよう。

4.ノ-ダル制

 ノ-ダル制は、フロ-ベ-スで得られたノ-ド毎の結果をノ-ド卸売価格も含めてそのまま会計処理にも用いるものである。米国でノ-ド制が良く採用されているのは、ホ-ガン教授によると、発電立地に逆インセンティブが働くからとのことである。例えば、ゾ-ン平均価格よりもノ-ド価格が低い発電過剰立地地域では結果的にノ-ド価格より高いゾ-ン価格は立地補助効果を持ち、ノ-ド価格がゾ-ン価格よりも高い発電過疎地域に立地する発電施設はノ-ド価格より低いゾ-ン価格で損をすることになり、結果的に本来の発電立地誘導すべき方向とは逆向きのインセンティブを与えることになるとのことである。

 しかしながら、送電線は基本的に需要を満たすのに十分なように作られているので、送電制約に抵触するような事態というのは発生しても年間のわずかな時間であろう。年間のほとんどの時間では、ノ-ド価格はグリッド全体でほとんど同一となると考えても良いと思われるる。

 なお、ノ-ダル制の混雑処理も先に述べたように会計処理になる前の段階でおこなわれている。ノ-ド毎に卸売価格が異なるようになる原因は、当該ノ-ド間に送電ネックが存在する故にである。このため、米国ではノ-ド間の卸売価格の差額を「混雑料」と定義している。つまり、送電混雑が発生し、ノ-ド価格の差がついた時にはその差額分を混雑している方向の送電を行う者は負担しなければならないということになる。この「混雑料」の会計処理に際しては、さらにFTRによるリスクヘッジの措置が講じられているが、FTRの説明は長くなるので、別の機会に譲ることにしたい。

5.おわりに

 TSO主導型、ゾ-ン型、ノ-ダル型の用語が、最近見られるようになってきたので、少し詳しい解説を加えた。ゾ-ン型、ノ-ダル型でも、混雑回避の基本的な作業としてリ・ディスパッチは、行われているので、TSO主導型として、区分する意味は無い。しかし、我が国では、今までこのようなレベルの議論がなされたことは無かったので、こういったことが議論の俎上に上るようになったことだけでも大きな前進であると思う。しかしながら、我が国には欧米のフロ-ベ-スの概念自体が長らく紹介されてこなかったため、一般的に十分に理解されているとはいいがたい状況である。特に、送電管理の現場の技術系の人間の間では当たり前のことであっても、送電管理制度を作る側の企画系の人間にとっては理解を超えるということはありそうなことで、本件もその代表的な事項ではないかと思われる。

 このような境界領域の事項については、欧米に見られるように技術の専門家と制度作りの専門家の間での緊密な連携が必要であろう。

(参考文献)
イノベ-ションのカギを握る米国型送電システム(化学工業日報社)