Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.211 北海道におけるフロ-ベ-スのシミュレ-ション
-現況送電線で、需要の46%の再エネ導入が可能-

2020年10月29日
京都大学大学院経済学研究科特任教授 内藤克彦

キ-ワ-ド:シミュレ-ション 送電管理 再生可能エネルギ- 北海道

1.はじめに

 我が国においては、送電キャパシティの管理は最悪事態として想定される一点で年間の全ての時間の送電利用を規定してしまうが、欧米においては、年間全ての時刻における潮流計算を行い、各時刻毎に送電キャパシティの判断を行うというフロ-ベ-スの管理が行われている。

 送電線の運用は、単に発電施設に接続先送電線の送電キャパシティを割り振るという問題ではなく、①送電線に接続される各地の電力需要を満たす為にどの発電施設に発電指令を出すのが合理的かという問題、②一連の発電指令が送電線網の全ての区間で送電キャパシティの制約内に収まるかという二つの問題を同時に解決する最適解を求める問題である。各地の需要は刻一刻と変化しているので、この最適解は毎時刻毎に異なるものとなる。計算能力の進歩した現代では、日本以外の先進国においては、この最適値を求める潮流計算をリアルタイムで行い、一連の発電指令を決定するということが行われている。

 我が国では、送電線のキャパシティの問題が、送電線のハ-ドウェア中心に議論されることが多い。しかし、実際の給電において送電線に流れる潮流は、送電線の物理的キャパシティだけではなく、どのように電力需要を発電施設に割り振るかという送電管理ソフトにより大きく影響される。欧米の電力改革では、正にここに着目して送電管理ソフトの技術的な改革が制度面の改革と併行して行われた。この技術的な改革の部分として重要な位置を占めるのがフロ-ベ-スの送電管理である。

 本稿においては、米国で用いられている送電管理シミュレ-ションソフトを用いて、我が国の現況送電線の運用を行った場合にどのようになるのかということを北海道電力の管内において検討した事例を紹介する。

2.経緯

 フロ-ベ-スのシミュレ-ションを行うには、フロ-ベ-スの送電運用を再現できるシミュレ-ションソフトがまず必要となる。米国等においては、例えば、テキサスのISOア-コットはABB社のEMSソフトで送電管理を実施しているということもあり、ABB社製の送電シミュレ-ションソフトPromodが広く用いられている。Promodは、2017年には、北米で272件、欧州で27件、豪州太平洋地域で11件等の利用があり、欧米の電力ビジネス等の現場で広く実用に供されているものである。このABB社の送電部門は、現在、日立の傘下に入り、日立ABBパワ-グリッド社となったために我が国でも利用しやすい環境が整ってきたと言えよう。

 一方で、この本格的なシミュレ-ションソフトを動かし、フロ-ベ-スのシミュレ-ションを行うには、変電所・開閉所といった送電の結節点毎に整理した年間8760時間分の需要デ-タや各送電区間のインピ-ダンス等の送電諸元が不可欠である。この点についても幸い2018年のデ-タから各電力会社から情報公開され、変電所・開閉所における年間8760時間の潮流デ-タや送電諸元が利用可能となった。

 このように条件が整いつつある中で、シミュレ-ションの実施に向けて各方面に可能性を探っていたところ、環境省の外郭団体である地球環境戦略研究機関(IGES)においてPromod利用の予算化が実現され、内藤、陳及びIGESの劉、栗山、津久井により研究チ-ムが発足され、研究が開始されることとなった。先般、地球環境戦略研究機関(IGES)は、北海道において実潮流のシミュレ-ションを行った結果を論文「実潮流に基づく送電線運用による北海道地域の再生可能エネルギ-導入量推計」として取りまとめ公表したので、その概要をここでご紹介する。

3.北海道におけるIGESシミュレ-ション

 このシミュレ-ションでは、北海道の27.5万V以上の全ての基幹送電線を対象として、8760時間の年間の実潮流シミュレ-ションを実施している。シミュレ-ションの基になる潮流デ-タ、送電諸元等は、北海道電力の2018年公表デ-タを用いている。

 なお、27.5万V未満の送配電線には混雑がないとして計算している。

 このシミュレ-ションでは、米国等で広く用いられている日立ABBパワ-グリッド社のPromodというソフトウェアを用いている。このPromodでは、各変電所(ノ-ド)毎の需要、各送電区間の送電制約、各発電所の発電制約に基づき、年間8760時間の毎時刻の給電指令をシミュレ-トすることができる。給電指令は、メリットオ-ダ-による経済的ディスパッチを基本とするが、ベ-スロ-ド運転の設定もすることが可能である。

 つまり、Promodを用いると米国流の実潮流(フロ-ベ-ス)の送電管理を我が国の送電線に適用した場合の結果を見ることができることになる。

 シミュレ-ションに必要となる各変電所に紐づけられる毎時の需要デ-タは、公表されている潮流デ-タ等から年間8760時間分を変電所毎に作成し、火力発電所等の既存発電所の諸元については、Promodの付属デ-タとしてABBより、出力等、ランプ速度、経済性諸元、水力の季節変動デ-タ等が提供されており、これらを各種資料により検証したうえで用いている。

 再エネについては、風力発電協会、太陽光発電協会から提供された位置デ-タ、出力デ-タ、将来の導入ポテンシャルについては、環境省の導入ポテンシャルに基づき設定した。水力発電については、貯水式の発電、揚水式の発電は、調整力としても用いる設定としている。

 再エネの大量導入ケ-スの設定は、本シミュレ-ションが北海道内に限定されるシミュレ-ションであることから、北海道内の需要規模(最小2.457GW~最大5.422GW)と比較して相当程度大きな量となる導入量として、
・風力: 1,950MW(2019年実績の4.3倍)
環境省ポテンシャル(風速8.5m/s以上適地)の1/4、風力発電協会の北海道における陸上風力発電の2030年~2040年頃の導入量と整合し得るレベル。
・太陽光:1,855MGW(2019実績の1.2倍)
環境省ポテンシャルレベル1の1/4
・合計 3.805GWの再エネ導入
を想定している。

 再エネ大量導入ケ-スの再エネの時間変動に関しては、気象庁公開の風力デ-タ、日射量デ-タをノ-ド毎に整理して用いている。

表1 再エネ大量導入ケ-スのノ-ド毎の再エネ想定設備容量(MW)
表1 再エネ大量導入ケ-スのノ-ド毎の再エネ想定設備容量(MW)

4.フロ-ベ-スシミュレ-ションの結果

 実潮流によるシミュレ-ションの結果は、再エネ大量導入ケ-スの場合、表2のとおりとなっている。シナリオは、石炭ベ-スロ-ド運転のケ-ス、メリットオ-ダ-(原発なし)、メリットオ-ダ-(原発あり)の3つのシナリオでシミュレ-ションしている。

表2 再エネ大量導入ケ-スの再エネの出力抑制
表2 再エネ大量導入ケ-スの再エネの出力抑制

 苫東等の石炭火力発電をベ-スロ-ド運転した場合には、再エネの出力抑制は高い比率で発生するが、しかし、風力発電に関しては4.8%と許容範囲と思われる数値となっている。つまり、この程度の量の再エネの場合には、実潮流の送電管理を行うと石炭ベ-スロ-ド運転でも4.8%の出力抑制を前提に再エネの接続は可能ということになる。完全にメリットオ-ダ-による経済的なディスパッチを行うと、再エネの出力抑制比率は、さらに下がり、風力は0.01%となり、ほとんど出力抑制を必要としないことがわかる。泊3号機を運転した場合にも風力の出力抑制比率はあまり変わらず0.08%とほとんど出力抑制を必要としない。これは、後に説明するように原子力により置き換えられるのは、メリットオ-ダ-では、石炭火力であって、再エネは原子力と強い競合関係は無いことをしめしていると見てよいと思われる。

 この時の送電線の状況を「空き容量なし」とされている北新得-南早来間のデュレ-ションカ-ブでみると以下の通りとなる。

図1 北新得⇒南早来の送電線のデュレ-ションカ-ブ
図1 北新得⇒南早来の送電線のデュレ-ションカ-ブ
注 デュレ-ションカ-ブ: 8760時間の毎時の潮流データを潮流の大きい方から大きい順に並べ直したもの

 北新得-南早来間は、「空き容量なし」の区間とされているが、南早来から北新得方向への送電量が運用容量に近づくのは年間で一瞬の間だけであることがわかる。空き容量なしとされている区間であっても、再エネ大量導入を行っても、ほとんど出力抑制無しで送電管理をすることができることがわかる。

 発電種別の発電指令の状況を最も再エネが大量に入る4月下旬でみると、図2の通りとなっている。この図でみられるように風力、太陽光の両者の発電量が多い時に、揚水発電によりピ-クを吸収し、風力発電量の少ない日の夜間に揚水から電力を供給している状況がシミュレ-トされている。

図2  3.805GW再エネ導入時(メリットオ-ダ-(原発なし))における再エネ比率の高い4月21日前後の北海道全体の電力供給状況
図2  3.805GW再エネ導入時(メリットオ-ダ-(原発なし))における再エネ比率の高い4月21日前後の北海道全体の電力供給状況

 各シナリオにおける年間の発電種別の発電量は図3の通りとなっている。IGESの今回の研究の程度の再エネ導入想定量では、基本的には石炭火力のウェイトはあまり変わっておらず、2018年は原発が止まっていたために石油火力の稼働率が高くなっていたものが、再エネに置き換わるという結果となっている。北海道電力にとっては、オペレ-ションさえうまくやれば、再エネを大量導入し石油火力を止めた方が全体としてコストダウンを図ることができることになる。この場合の再エネ比率は46%となる。

 泊3号機を稼働させた場合には、メリットオ-ダ-で優位となる原発が石炭火力と置き換わる。この場合、再エネ比率はあまり変わらず、非化石比率は69%にもなることが明らかとなった。

図3 発電種別の発電量
図3 発電種別の発電量

5.まとめ

 以上のように、北海道の実潮流シミュレ-ションによって、27.5万Vの基幹送電線については、現況送電線のままでもほとんど出力抑制をせずに大量の再エネを導入できることが明らかとなった。昨年公表された東京電力の佐京連係ラインにおいても既に同様の結果が公表されているところである。

 我が国の送電線は、どこにおいても基本的には需要Max時に合わせてキャパシティの設定がなされているとすれば、他電力の管内においてもおおよそ同様の傾向となることが容易に想定される。我が国においても、欧米では一般的となっている実潮流(フロ-ベ-ス)の送電管理を導入し、現況送電線の効率的な利用をまず最初に徹底すべきであろう。

 最後に付け加えると、出力抑制対象の発電施設もメリットオ-ダ-で出力抑制の対象となりうる電源の中から経済性の悪いものから順に出力抑制の対象とするのが欧米の考え方で、ここでは徹底的に先着優先の考え方が排除されていることを付記しておく。

参考文献

地球環境戦略研究機関(IGES)(2020)「実潮流に基づく送電線運用による北海道地域の再生可能エネルギ-導入量推計」
https://www.iges.or.jp/en/pub/psa-hokkaido/ja