Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.222 PJM容量市場の現状と課題:和製容量市場への示唆

No.222 PJM容量市場の現状と課題:和製容量市場への示唆

2020年12月24日
資源エコノミスト 飯沼 芳樹

はじめに

電気事業改革の一環として設立された容量市場で初めてのオークションが実施された。結果は、約定価格が予想を遥かに上回る上限値に近い価格になってしまった。需要曲線を決めるパラメーターであるNet Cone等が適切であったかどうかなど、疑問の多い制度設計であり、今後検討すべき課題は多い。

周知のように制度設計に当たっては、諸外国で導入されている容量市場を参考にしている。特に、容量市場運営で経験豊富な米国のPJMの容量市場を参考にしている。同市場が創設されたのが1999年であるので、既に20年の経験がある。自由化前のパワープール時代にも容量の取引がおこなわれていたことを考えると、長期にわたり試行錯誤しながら容量市場を運営してきたことになる。この間に得た教訓や課題は、わが国がこれから容量市場を運営していく上で引き続き参考にすべき市場である。

本稿では、PJM容量市場の変遷をリビューした後、同市場のパーフォーマンスとアデカシーの現状と課題について考えてみたい。

容量市場の変遷(注1)

PJMでは、自由化や事業再編前のタイトなパワープール時代から供給力確保目的のKW市場運営の経験がある。周知のように、PJMは米国で最も古い電気事業者の協調組織である。この協調組織では、1999年に自由化される遥か以前から、実質的な容量市場が運営されていた。運営協定では事業者が十分な供給力を維持するように罰則規定もあり、供給力に余剰がある場合には、供給力を購入したい事業者が買うことができる実質的な市場があった。こうした制度は自由化される直前の1998年まで続いていた。

自由化された1999年に、この義務が新たに参入した小売事業者(LSE)のデイリーの義務となった。自由化され参入してきた小売事業者は需要を満たす十分な容量を確保する義務が課せられた。当初小売事業者は一日単位で容量を確保する義務が課され、容量市場(
CCM :Capacity Credit Market) ではこの義務を果たすため容量クレジットを売り買いする場としての機能であった。しかし、同市場の集中度は高く、市場支配力の問題など問題も多く、現在のルールであるRPM(Reliability Pricing Model)に至ることになる。実際、この時期に容量確保のため容量市場を利用する事業者は僅かであった。容量の9割以上が自らの設備(self-supply)か相対取引によって確保されていた。

自由化後、新規発電設備が多く建設される一方で古い発電設備が多く廃止されたが、予備力は十分確保され信頼度に問題がなかった。しかし、一般的に短期限界費用に基づくエナジー市場ではかなり需要が高まらない限り、発電から得られる収入はリプレース費用以下にしかならないという問題が出てきた。また、PJM管内の東西を結ぶ送電線には制約があり、信頼度維持の面で問題があること、各地域の需給を反映しない単一の容量価格には問題があることも認識するようになった。さらに、自由化直後の市場運営はタイトなパワープールの給電システムを引きついたものであったが、この容量市場は基本的に短期市場であり、新規発電設備に対する投資コストを回収するための収入源については考慮していなかった。このような背景があり、新たな市場として2007年に創設されたのが現在運営されているRPM容量市場である。

RPMの市場設計は、当初主たる市場はエナジー市場とアンシラリー市場であって、容量市場はこれら市場を補完するものと考えていた関係者が多い。主オークションであるBRA (Base Residual Auction)が意味するところは、容量確保は自らの設備か相対取引によって確保し、それでも足りない時に容量市場で調達するということである。だが、2007年に創設されて以来、容量市場は卸電力市場において、考えられていたもの以上に大きな役割を果たすようになっている。これらの変化をもたらしたのは、PJMと発電側の利害であり、消費者側の利害が反映されているわけではない。

容量価格の動向

図1は自由化以降の容量価格を示している。RPM容量市場ができるまでの価格動向をみると、CCM容量市場は、短期市場であり設備にも余裕があり、LSEが同市場でKWを確保する量も僅かであり、2005年頃の容量価格がゼロに近い状況であったことがわかる。

図1 容量価格の推移(1999年~2022年)
図1 容量価格の推移(1999年~2022年)
出典: Monitoring Analytics, PJM State of the Market-2020, 11.12.2020, p304.

RPM市場になり、2007/2008年から2021/2022年までに実施された入札の加重平均容量価格を見ると、最低価格が70ドル/MW/日、最高価格は173ドル/MW/日、全期間の平均は129ドル/MW/日(4,962円/KW/年: ドル/105円)になる。だが、図が示しているように、各年に実施された主オークション、追加オークションの容量価格にはかなりのバラつきがある。これは、地域によっては送電線の制約等の費用がシステムプライスにその分上乗せされるため、地域間でかなりの開きがでるためである。図が示すように、これまでの最高価格となる2014/15の410ドル/MW/日(15,713円/kW/年)のような容量がある一方で、同じ年でも地域によってゼロに近いエリアもある。

容量価格とNet Cone

図2はRPM創設以来のRTOの需要曲線を決めるパラメーターであるNet Coneと容量価格を示している。RPMがフルに運用されるようになった2011/2012から、容量価格は

ドル/MW/日  図2 容量価格とNet Cone
ドル/MW/日  図2 容量価格とNet Cone
出典:PJM, Resource Clearing Price Auction Summary, 7/20/2020 及び PJM, Planning Period Parameters for Base Residual Auction, various issuesから筆者が作成

Net Coneの半分以下で推移している。RTO全体でみると容量価格は比較的安定しているが、2012/2013の主オークションの容量価格が16ドル/MW/日のように、前年の約定価格
である110ドルから急激に下落した年もある。これまでの経験から、規則の変更があると容量価格のボラティリティーが高まる傾向がある。なお、送電線の制約があるメリーランド州のBG&E社やPEPCO社の地域等もRTO全体よりは容量価格は高いが、RTO同様Net Coneの半額くらいで推移している。

理論的には、エナジー価格、アンシラリー価格と容量価格を足し合わせた価格と、新規発電設備を誘引するために必要なGross Coneは等しくなるはずであるが、オークションで使われる推定値のGross Coneは、実際の容量収入、エナジー、アンシラリーのトータルをかなり上回っている。

同様に、容量価格がNet Coneをかなり下回っているのは、一つには需要の伸びが緩慢であることもあるが、新規の発電設備、とりわけガス火力の活発な参入があったためである。このことは、需要曲線のパラメーターであるNet Coneの値が高すぎるのが一因であろう。結果として、予備率がこれまで一貫して目標よりも高い予備率となっており、消費者団体、公営電気事業者などから批判されている所以である。

十分すぎる供給力

自由化前の伝統的な報酬率規制下では、確固たるエビデンスは無いが、アバーチ・ジョンソン効果として知られているような、電気事業者の過大な設備投資による、必要以上の設備保有の傾向が原価主義の功罪の一つとして取り上げられた。自由化後の電力市場、とりわけ容量市場が創設されたことで、こうしたアデカシーの程度はPJMではどうであろうか。

図3は2016年6月~2021年6月のRPM需要曲線作成のパラメーターである1)目標予備率、2)RPMで約定した供給力の予備率、3)目標以上に約定した設備量及び、4)オークションで約定できなかった容量を示している。図から、目標とするPJMの予備率は16%前

MW  図3 予備率の動向
MW  図3 予備率の動向
出典:Monitoring Analytics, The State of Market Report-2019, P266 Table 5-7 及び PJM, 2010/2022 RPM Base Residual Auction Results, P19 Table 6から筆者が作成

後である一方、実際にRPMで達成した予備率は22%~26%と、目標予備率をかなり上回る予備率となっている。加えて、図に示すように、オークションで約定できなかった設備もかなりあり、毎年増加傾向にある。これら設備は容量市場では約定できなくても、エナジー市場には売ることができるので供給力としてはカウントできることになり、実際の予備率はさらに増えることになる。北米電力信頼度協会(NERC)が今月発表した長期信頼度評価でも、今後10年間で予備率がピークとなる2024年時点では41.9%と、全米的にも最も高い予備率になると想定している。

同資料によれば、以上のような傾向は容量市場があるISO-NEなどでも見られる。他方、容量市場の無いテキサスの予備率は16.02%(2024年)とリッファレンス予備率(13.75%)を上回るレベルになっているが、その後は6%台まで下がる想定となっている。容量市場があるPJMは、今後も高い信頼度を維持することになるが、それには高い代償を払うことは言うまでもない。

おわりに

PJMの容量市場が現在抱える課題と、和製容量市場の今後を考える上で考慮すべき共通の課題は多い。例えば、(1)容量価格が様々な電源(ベースロード火力、ピーク用火力、原子力、DR、エネルギー効率)の特質に係らず価格は同じという問題、(2)PJMでは3年先、和製容量市場では4年先の先渡し契約である一方、コミットするのは1年のみという問題、(3)Net Cone算定対象電源コストの妥当性とGross Coneから差し引く他収入の算定方法(PJMでは過去3年間の実績平均)の問題などである。

また、エナジー市場、アンシラリー市場との関係等、電力市場全体の中での容量市場の位置付けをどうするのか、市場設計が実際に機能するかどうかは市場構造にも拠るが、これらもPJM同様わが国にとっても基本的な課題である。なお、中止されていたBRAは来年再開されることになった。中止の理由は、容量市場の入札にあたっての下限価格(MOPR)問題である。連邦と州という米国特有の問題でもあるが、市場と公共政策の兼ね合いの問題であり、わが国にとっての課題でもある。

(注1) PJM容量市場の歴史については、以下の資料によっている。
Joseph Bowring, Capacity Markets in PJM, Economics of Energy & Environmental Policy, Vol.2, No.2, 2013.
James F. Wilson, “Missing Money” Revisited: Evolution of PJM’s RPM Capacity Construct, American Public Power Association, Sep. 2016.