Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.225 ドイツにおける容量メカニズムの議論(5)
進化・複層化するメカニズム

2021年1月14日
ドイツ在住エネルギー関連調査・通訳 西村健佑

キーワード:戦略的予備力、容量予備力、系統予備力、制度の柔軟性

容量市場に対する評価

 ドイツでも度々容量市場の導入は議論に上る。ただし、EUの状況は日本と異なるので、これが戦略的予備力の失敗を意味するとは限らない。また、容量市場は必ずしも再エネの成長に伴って必要となるのではない。例えば、再エネ比率が10%強のフランスはすでに容量市場を導入しており、EUも導入を認めている。理由は国内の容量が不足しているからであり、再エネがその不足の原因ではないことは明らかだろう。そして2023年からはドイツの電源もフランスの容量市場に参加することが認められる予定である1。ただし、フランスの容量市場は日本のそれとは制度が異なる点は注意が必要である。

 EUにはフランス以外にも容量市場の導入を検討する国がいくつかある。これまでに述べたように補助金である容量市場は、長期的には系統でつながる隣国の電源の経済性を悪化させる可能性がある2。そのため、どこか1国が容量市場を導入すると補助金バラマキ合戦に陥ることは十分考えられる。容量市場の有用性に自国電源を国際競争から守るという観点も含まれる点は重要ではないだろうか。

 いずれにしても今後隣国で容量市場導入が進めば、ドイツも対抗措置を考える必要は出てくる。そこでEWI3は、電力市場2.0における安定供給の課題という調査の中で再度容量市場を検証した4

 EWIは電力市場2.0で議論された前提を現在の市場制度が満たしているとは考えておらず、脱炭素化の前倒し、様々な容量メカニズムの導入、現下の環境では新規電源投資への見通しが立たないことが従来電源の容量を必要以上に縮小させ、電力市場2.0実現を難しくしていると考えている。

 連邦エネルギー経済省はモニタリング報告の中で容量は十分にあると結論づけているが、独占監視委員会は容量市場の導入も視野に入れた追加の容量メカニズムの導入が必要と考え始めている。それでもEWIは集中型で包括的な、日本式の容量市場は現在の市場デザインに根本的な変更を迫り、過剰な容量を抱え込むリスクがあるとしている。また、卸市場による調整機能が働き、必要な容量が市場を通じて十分に調達されることになれば、容量市場に比べて戦略的予備力はより柔軟に調整、廃止が可能とも述べている。

 まとめると、EWIは電力市場2.0が前提としている理論的な卸市場の機能は現時点では十分に発揮されず、今後も発揮されないリスクを警告している。そのために、ドイツが現在導入している戦略的予備力(ドイツ語では容量予備力)に追加のメカニズムを検証することを推奨している。その理由の1つに、隣国との電力取引制度の将来に関する不透明性がある。ドイツの立場から穿った見方をすれば、フランスなどが容量市場によって自国の電源を補助金で保護し、EU大の卸市場を歪めることになれば、ドイツ国内で安定供給に必要な容量やその能力も影響を受ける。もちろんフランスにもドイツのFITやFIPが市場を歪めているという主張はあってしかるべきである。

 いずれにしても追加の容量メカニズムは卸市場の機能を重視した設計が必要であり、そのためにも日本のような容量市場の導入は考えづらいだろう。

戦略的予備力

 これまで詳しくは触れてこなかったが、ドイツの容量は予備力として確保される。「予備」である以上、普段は休止していることが前提である。これが日頃から稼働して収益をあげることが認められる容量市場と異なる点である。

 予備力は契約期間が2年間であり、2年毎に行われる入札に立て続けに参加することも可能である。契約終了後は他の市場で電力を販売することも可能だが、需給調整市場への参加には若干の制限がかかる。

 電源はコールドスタートから12時間以内に求められる出力に到達できる能力が必要である。

 戦略的予備力の入札には上限価格が設けられており、その価格は1年あたり1MWあたりの価格で10万ユーロである。約定はシングルプライス方式で行われる。

 落札した電源が稼働するかどうかは、前日市場の取引結果と需給調整電源の稼働状況を見て判断され、予備力は再エネの変動に対して最終手段として機能する。

容量予備力(戦略的予備力)の稼働メカニズム
容量予備力(戦略的予備力)の稼働メカニズム
出典:電力改革研究会、「ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第10回」、(2016年)

 2019年12月1日に最初のオークションが開催された。調達期間は2020年10月1日から2022年9月30日までの2年間である。

 募集容量は2GWとされたが、参加した電源が少なかったためか、落札容量は1,065MWにとどまった。他方で価格は6万8000ユーロと上限価格に届くことはなかった。次回の入札は2021年1月から4月にかけて実施される。

 落札結果はTSOが共同で運営するウェブサイト「Netztransparenz5」で公開されている。

落札結果の一覧
落札結果の一覧
出典:(https://www.netztransparenz.de/EnWG/Kapazitaetsreserve)

 落札結果は、事業者と発電所登録番号と容量が示される。落札価格はシングルプライスなのですべて同じで68,000ユーロ/MW年である。発電所は登録番号で示されているが、少し調べればすぐにわかる。ほとんどがガス発電であり、起動はかなり短時間ですむので12時間前に起動させる必要はないだろう。これらの電源が稼働すればその情報も同ウェブサイトで公開される。2020年10月1日から運用が開始されているが、実際に稼働したことはまだないようだ。

系統予備力

 ドイツの安定供給にとっての不安は、変動性の再エネの増加とともに、制御可能な電源が停止していくことがある。そのため、系統の安定供給に欠かせない電源については2013年から別途に「系統予備力」として確保されている。これらの電源は主に太陽光の発電量が少なくなる冬季に必要とされるため、冬季予備力とも呼ばれる6

 この電源は主に発電事業者が経済性悪化などを理由に停止を申請した発電所のうち、系統の安定運営に必要とTSOが判断したものが指定される。系統予備力は待機にかかるコストが支払われ、その原資は託送費である。これらの電源も系統予備力に指定されている間は一般の電力販売は禁止される。系統予備力に指定された電源は停止申請が出されていた電源であり、普段は停止しているため、容量予備力入札への参加も認められている。

 連邦ネットワーク規制庁は系統予備力の容量需要を2020/21年冬は6,596MW、2024/25年冬は8,042MWと見積もっている7。24年の容量需要の方が大きいのは脱原発の影響があるだろう。

 また、連邦エネルギー経済省は、系統予備力も含めた冬季の再給電指令に必要な上げ容量について2020/21年冬季は13.4GW、2024/25年冬季は11.1GWと見積もっている8

 再給電指令とは、需給調整電源よりも広範囲に長時間大規模に行われる調整を意味し、ドイツでは再エネの優先給電ルールに従って、従来電源に指示が出される。一般的には電力が余る北部では従来電源に出力抑制が、電力が不足する南部では出力増加が求められる。上に示した11.1GWはこの出力増加の再給電指令に必要な容量である。

 これまでドイツ政府は再エネの優先接続に従って、再給電指令の対象から再エネ電源を除外してきたが、2021年10月1日からは再エネ電源も対象とした新たな再給電指令「Redispatch 2.0」がスタートすることになっている。再エネ優先給電を前提としつつ、安定供給の枠組みに再エネを統合していく取り組みの1つとなる。

まとめ

 ドイツでは変動する再エネに対して、市場の価格シグナルを通じて柔軟性の増強を図る。しかし、卸市場だけでは対応できない変動については需給調整市場を通じて対応する。需給調整市場は元来取引が終了するゲートクローズ後のインバランスを調整する役割があるが、将来は主に再エネの変動を瞬時に吸収する役割を果たす。その意味では容量メカニズムの一端を担う。ただし、需給調整市場は短時間の柔軟性のみを確保するため、これに追加して容量を確保することが求められている。

 ドイツの現在のピーク負荷は例えば2012/13年の冬季で81GW程度であり、通常は65-70GWの間である9。年間最大負荷は約80GWと考えればよいだろう。

 これに対して、2018年は需給調整市場で1次調整力620MW、2次調整力(上げのみ)1,907MW、3次調整力(上げのみ)1,419MWが調達されており、合計で3,946MWである10

 これに加えて戦略的予備力として2GW(実際の落札容量は1,065MW)が確保されており、合計で6GW弱が確保されている。

 一方、系統予備力を8,000MWと考えれば、系統予備力と戦略的予備力は兼ねることが可能なので保守的に系統予備力と需給調整電源の和を確保済み容量と考えれば12GW弱が確保されている。

 またドイツ政府が再給電指令に必要な電源容量としては13.4GWから11.1GWを見積もっており、卸市場取引外で稼働指示が出される可能性がある容量は、需給調整電源と再給電指令対象電源を加えて15GW前後となる。

 つまり、ドイツはピーク負荷の7.5%(需給調整電源+戦略的予備力)から15%(需給調整電源+系統予備力)を容量メカニズムを通じて確保していると言える。また、柔軟性に乏しいという課題はあるが、これに加えて停止・待機している褐炭発電所2.7GWを加えてもよいだろう1112

 変動再エネが50%を超えるドイツだが、ピーク負荷に相当する容量を容量メカニズムで確保するようなことはしていない。それは、エネルギー転換の実現には4D13を満たす電源が必要であり、既存のベースロード電源では安定供給のリスクになるとみなしているためである。また、確保している容量の中で、普段から稼働しているのは需給調整電源の4GW弱であり、多くは予備力として待機していることもドイツを始めとする戦略的予備力を導入している国の特徴である。補助金は市場を歪めるので、市場外で収入を得る電源は普段は市場に参加させないのである。

 製造業大国であるドイツがこの方法で安定供給を実現し続けることができるかは、EWIの調査報告を見る限り予断を許さない。それは、市場が理論通りに機能しないリスクとともに、自国の安定供給がEUや隣国の政策に左右されるという事情がつきまとうためである。少なくとも中期的にはドイツの容量確保の手段は修正が必要になる可能性は高い。しかし、アデカシーの観点からドイツは容量(kW)だけを過剰に確保する仕組み、すなわち集中型で包括的な容量市場を導入することはまずないだろう。

 いずれにしても、まずはコスト効率的で柔軟な容量メカニズムからスタートしたドイツには軌道修正する余裕がある。軌道修正は、市場がうまく機能せずに市場外での容量確保を強化する方向になることもあれば、市場がうまく機能して容量を市場外で確保することを完全に取りやめることもありうる(電力市場2.0はもともとそういう視点の政策である)。もしドイツが包括的な容量市場を導入していれば、このような軌道修正はより困難となっていただろう。

 ここまで紹介してきた一連の議論で明らかな通り、ドイツは現在理想通りに進展しているとは言い難い。しかし、ドイツとEUの事情、柔軟性の技術革新に対応する手段として、容量メカニズムの制度を理論に忠実に愚直に設計してしてきたことはおわかりいただけたのではないだろうか。


1 https://www.energate-messenger.de/news/207537/frankreich-wird-kapazitaetsmarkt-fuer-deutschland-oeffnen
2 Mauricio Capeda et. Al, “Generation capacity adequacy in interdependent electricity markets” (2011)
3 Institute of Energy Economics at the University of Cologne
4 EWI, “Diskussion zukunftiger Herausforderungen von Versorgungssicherheitim Strommarkt 2.0“ (2020)
5 https://www.netztransparenz.de/EnWG/Kapazitaetsreserve
6 https://www.next-kraftwerke.de/wissen/netzreserve-kapazitatsreserve-sicherheitsbereitschaft
7 https://www.bundesnetzagentur.de/DE/Sachgebiete/ElektrizitaetundGas/Unternehmen_Institutionen/Versorgungssicherheit/Netzreserve/netzreserve-node.html
8 https://www.bundesnetzagentur.de/DE/Sachgebiete/ElektrizitaetundGas/Unternehmen_Institutionen/Versorgungssicherheit/Netzreserve/netzreserve-node.html
9 https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/energiewende/spitzenlast-614922
10 BNetzA, “Monitoringbericht 2019” (2019)
11 https://www.next-kraftwerke.de/wissen/netzreserve-kapazitatsreserve-sicherheitsbereitschaft
12 ただし、褐炭発電は起動に時間がかかるため、ドイツが考えるアデカシーの観点からは不適格の可能性がある。褐炭の待機への支払いについてはアデカシー確保ではなく雇用政策であると批判する声もある。
13 第4回を参照。