Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.237 再エネ市場統合と直接市場家、VPP

2021年3月18日
京都大学大学院経済学研究科特定講師 中山琢夫

キーワード: 再エネ市場統合、市場プレミアム、管理プレミアム、直接市場家、VPP

はじめに

 日本における再エネの電源構成は、2019年の段階でおおよそ20%の大台に達成する時期に差し掛かっている。ここにきて、これまでFIT(Feed-in Tariff)によって導入が推進されてきた日本の再エネも、2022年度よりFITに加えて市場連動型の変動型FIP(Feed-in Premium)制度を導入することが、本格的に議論され始めた。

 FIPは、発電事業者が卸電力取引所等に直接販売する再エネ電力に対して、特定技術ごとに定められたプレミアムを付与する制度である。従来型の大規模集中型発電所とは異なり、多くの再エネ発電所は比較的小規模分散型である。さらに、FITの適用を受ける再エネ発電事業者は、一般送配電事業者に固定価格で全量買取されていたから、卸電力の市場取引になれておらず参入へのハードルが高い。

 分散型の再エネ電力を直接市場取引するために、その再エネ電力を取り纏めて、卸電力市場や需給調整市場でトレーディングを行うようなプレーヤーが重要な役割を担う事になる。ドイツの市場取引では、このようなプレーヤーが多数生まれ、彼らはアグリゲーターや直接市場家(ダイレクト・マーケッター; Direktvermarkter)と呼ばれている。さらに、こうしてアグリゲートしたアセット(リソース)としての物理的な発電所群をあたかもひとつの発電所として制御する、仮想発電所(VPP: Virtual Power Plant)が数多く生まれ、その後統廃合が進んだ。

 2012年、ドイツの再エネの電源構成は22%と言われた。この年の再生可能エネルギー法改正で、直接市場取引を行う発電事業者に対してプレミアムが支払われる市場プレミアム制度が導入され、2014年からは本格的なFIPの適用へとつながっている。その後もドイツの再エネは成長を続け、2018年には40%を越えたとも言われている。本格的に導入が議論される日本のFIPも、ドイツ型が応用されている。

 日本でも近年、FIPを見据えたアグリゲーター、VPP事業者の育成が注目されようとしている。ドイツにおけるアグリゲーター、直接市場家、そしてVPP事業規模の増加は、2012年の再生可能エネルギー法(EEG2012)において市場プレミアム制度が導入されたことが直接的なインセンティブとなっている。本コラムでは、再エネの直接市場取引とVPP事業がドイツにおいて盛んになってきたこの時期に焦点を当て、EEG2012で再エネ取引がどのように設計されていたのかを振り返る。

再エネ市場統合と市場プレミアムスキーム

 2010年代前半、再エネ発電が拡大し続けるヨーロッパにおいて、EU加盟国は、再エネとくに変動性再エネの増加を、既存のエネルギーシステムや電力市場に統合するという課題に直面していた。同時にこの時期EU加盟諸国は、2020年目標に合致させるように、様々な取り組みを行っていた。

 ドイツにおける2012年の再生可能エネルギー法(Erneuerbare Energien Gesetz: EEG)(EEG2012)では、2020年までに最低35%の電力供給を再エネでまかない、2050年までにはその割合を80%にまで上昇させることを目的としていた。そのためには、大規模なベースロード発電所を中心とした集中型エネルギーシステムを、小規模分散型の再エネ技術のミックスに置き換えていかなければならない。こうした技術は、風力発電や太陽光発電の変動性電源が重要な役割を担うが、当時はまだかなりの課題を持っていた。

 まず、電力系統の安定性の確保と経済効率のためには、発電事業者に対する短期だけでなく長期の市場シグナルが重要となる。ところが、この時期の多くの再エネ技術は、当時の市場価格ではまだ競争力が十分ではなく、依然として公的支援が必要であるとされてきた。投資に十分なインセンティブを提供しながら、再エネ発電を市場の価格シグナルに合致させる方法を模索していた。

 再エネの特定技術毎に価格を定める固定価格買取制度(FIT)は、再エネ拡大・導入促進のために成功した手段であることは明らかである。しかしながら、優先的な買取や給電ルールと組み合わせて政府によって管理される固定価格買取制度は、価格的にも量的にも、発電事業者を市場の価格シグナルから保護する結果となっている。

 費用効率的なエネルギーミックスを実現するためには、再エネ技術を永久に競争から切り離したままにすることはできない。投資と発電の決定を希少性のシグナルと整合させる必要性が、再エネ市場統合のチャレンジとして浮き上がってくる。つまり、全てのエネルギー技術に適用される電力価格を通じて、電力市場の配分プロセスに再エネを含めることが重要とされた。

 このような再エネの増加によって、システム統合のための追加的な課題がもたらされる。つまり、再エネもまた電力系統安定性に関する責任を受け入れ、バランシングサービスを提供し、発電を需要に合わせて調整する必要がある。もっとも基本的な問題は、再エネの市場導入体制から体系的に統合された市場価格体制へ、どのように制度的移行を設計するかにある。

 このような課題に対処するための政策オプションとして、再エネ発電事業者に対し、卸電力市場価格にプレミアムを上乗せするプレミアムスキームが、EU加盟国においていくつか実施されている。しかし、このようなスキームの設計は、再エネ支援のための国内政策と同様に、国毎に大きく異なっている。市場プレミアムの目的は、再エネ発電事業者に市場取引を経験させ、市場の需要を考慮する発電に対してインセンティブを提供することにあった。一方で、小規模施設など一部の再エネ発電所は、直接市場取引が困難になる可能性があるため、以前の固定価格買取制度も引き続き有効とされた。

 この並行的な市場統合のためのオプションとしての市場プレミアムは、再エネを支援するという根本的な目的を変更することは意図していない。市場ベースの体制への近い将来の移行のための基盤を準備することを目的としていた。以下、変動型プレミアムスキーム(Sliding Premium Scheme)の例として、ドイツの2012年の再生可能エネルギー法で導入された、市場プレミアムスキームの大枠と、直接市場家やVPPが誕生する背景を検証する。

EEG2012における市場プレミアム制度

 2012年再生可能エネルギー法(EEG2012)が施行されてから、再エネ発電事業者は固定価格(FIT)の適用を受けるか、月次ベースの変動型市場プレミアムを受け取るかを選ぶことができた。特定の要件を満たしていれば、発電事業者は再エネ電力を直接市場に販売することで、プレミアムを受け取ることでき、利益を得ることができる。再エネ発電事業者はまた、優先的な系統アクセスルールの恩恵を受け続けたまま、直接市場取引を選ぶことができた。

図1 ドイツの市場プレミアム制度の概要
図1 ドイツの市場プレミアム制度の概要

出所:Gawel and Purkus (2013)

 FITのスキームで固定価格買取された再エネ電力は、TSOの責任においてスポット市場に卸売りされる。一方市場プレミアムのスキーム、または相対取引等別の方法で直接販売する事を選択する発電事業者は、自分たちで電力を卸売りしなければならない。

 市場プレミアム制度では、発電事業者には、FIT価格と市場平均価格(MV: Market Value)との差額が、ネットの市場プレミアム(MPRNet: Net Market Premium)として支払わる。さらに、直接市場参加から生じる追加の費用をカバーすることを目的とした管理プレミアム(MMP: Management Premium)を受け取る。これには、実際の発電が予測から外れた時に発生するバランシングコストや、市場取引を取り扱うためのコストが含まれる(図1)。

 つまり、市場プレミアムスキームにしたがって発電事業者に支払われるプレミアムの合計は、特定技術毎のFIT価格の差として決定される変動型のネットの市場プレミアム(MPRNet)と、管理プレミアム(MMP)で構成される。

 管理プレミアムもまた、ディスパッチできるものとそうでないものに分類される。ディスパッチできない変動性再エネ電源については、大幅に高いプレミアムを受け取ることができた。しかしながら、管理プレミアム価格は毎年著しく低下しており、風力・太陽光についてはその後さらに引き締められている。

 さらに、市場プレミアムスキームは、再エネの市場統合およびシステム統合のための枠組みを改善することを目的とした、いくつかの手段によって補完される。例えば、バイオガスプラントの場合、柔軟性プレミアムによって追加的なインセンティブを得ることができる。このプレミアムは、より柔軟な発電のために必要となる、追加的なストレージ(貯蔵設備)や発電容量への投資コストを補償する。

EEG2012の市場プレミアム制度の結果

 2012年に市場プレミアム制度が導入されて以来、直接市場参加の数は成功裏に増加している。2014年には、EEGによる支援が適用可能な導入容量の49%が、市場プレミアム制度の下で市場参加している(図2)。

図2 市場プレミアムモデルによる導入容量(2012-2014)
図2 市場プレミアムモデルによる導入容量(2012-2014)

注:ここでのガス(Gases)には、埋立・下水ガス等が含まれる。
出所:Purkus et al., (2015) based on 50Hertz et al., (2014)

 ドイツでは当初、特に風力発電の大部分が市場プレミアムに切り替えたが、他の再エネ発電の参加も増加した。2014年4月には、おおよそ60%のバイオマス発電も市場プレミアムモデルに優位性をもっており、太陽光発電の参加も13.3%となっている。ドイツの変動性市場プレミアムは、参加量的には市場統合目標に貢献しており、成功したといえるだろう。

再エネ電源の効率的な市場、直接市場家と管理プレミアム

 固定価格のFITの下では、平準化スキーム規程(§2, AusglMechV)に従い、TSOによって再エネ電力は前日または当日のスポット市場で取引される。このFITと比較して、変動性再エネ電源に対する市場プレミアムは、以下の場合、より効率的な市場取引となるだろう。

(a)直接市場取引によって、市場の取引費用が減少する場合
(b)再エネ発電のフィードイン量のより正確な予測と発電所ポートフォリオのよりよい管理の結果として、エネルギーのバランシング費用が減少する場合(例:発電所を遠隔制御する等)
(c)市場取引形態をより革新的にし、取引する市場の選択を最適化することによって、再エネで得られる価格を高くできる場合(例:当日市場や前日のスポット市場、需給調整市場、相対取引等)

 この条件を満たす市場プレミアムモデルが実現できるかどうかには注意が必要になる。まず、多くの再エネ発電所の設置事業者は、エネルギー分野で確立された従来型のプレーヤーではない。つまり、彼らのほとんどは、中央的な電力市場に発電した電力を直接販売するために必要なインフラも、知識も持ち合わせていない。

 結果として、再エネ発電所のオペレーターを市場に誘導するためには、電力を取引するトレーダーを介することによってのみ可能であったと言われている。このトレーダーは、直接市場家と呼ばれている。直接市場家は、再エネ発電所設置事業者へのサービス提供者として機能する。その機能は、発電・系統流入量予測、TSOとのコミュニケーションスケジュール、予測誤差の価格補償など、広範囲に及ぶ。

 直接市場家は、再エネ発電量予測と電力市場価格に基づいて、FITスキームの適用範囲内に留まるか、あるいは直接市場販売するかについて、再エネ発電所の設置事業者に代わって最初の決定を行う。直接市場販売を選ぶ場合、彼らは再エネ電力が売りに出される時間・量・市場を決定する。直接市場家は、電力取引所における取引を可能にするのに必要な特定のインフラにアクセスすることができる。

 取引費用の削減について、TSOを介したFITスキームでの販売に比べると、当初は追加的な費用が発生しているともいえる。さらに、あらたな市場取引費用の大部分は固定費が占めるため、この費用は規模の経済の影響を受ける。管理するポートフォリオが大きいほど、エネルギーのバランスを取るためのコストが低くなる。ポートフォリオが大きいほど、予測の精度が高くなるためである 。このことは、取引費用の観点からは、大規模な直接市場家はTSOに近づいてゆくことを示唆している。

 市場プレミアム制度のもとで、直接市場取引による追加的な費用のおおよその部分は、管理プレミアムによって提供される。2012年には、この費用は約4億6700万ユーロに達したものの、2013年には管理プレミアム料の引き下げにより、推定3億5400万ユーロから4億ユーロが支払われた(50Hertz et al, 2014; MaPrV, 2012)。

 ただし、この管理プレミアムは、実際の取引費用ではなく、主として直接市場取引に関連する追加的な支援のための費用として機能している。とりわけ、2012年には直接市場取引のための費用を過剰に支援することで高収益が発生した。その後、変動性再エネ電源の管理プレミアム料金が大幅に引き下げられることが判明した。ただし、EEG2012に準規した管理プレミアムは、直接市場取引のビジネスモデルの基本となっている。管理プレミアムが減少する制度設計は、市場家にとってのコスト圧力を増大させている。

 風力発電および太陽光発電の直接市場取引において使用される主たる市場チャンネルは、前日および当日スポット市場であり、TSOが使用するものと同じである。スポット市場価格は、市場価格(MV)を算出するために使用されるため、この市場そのものが市場プレミアム制度によって支援されているといえる。

 変動性の再エネ電源の場合、この頃急速に拡大にしていた仮想発電所(VPP)ネットワークを構築することで、再エネ電力の直接市場取引に革新的な変化が見られる。風力発電・太陽光発電の直接市場取引によって達成された効率の利点は、主として、新しい設備だけではなく既存の設備にとっても、遠隔制御機能を付けることで、リアルタイムの発電量を管理するためのインセンティブを与えたということになる。

 一方、ディスパッチ可能なバイオマス(バイオガス)設備は、需給調整市場にも多数参加している。バイオマスCHP設備は、原則的に熱利用と組み合わせて利用できる柔軟性オプションがある。他の再エネ電源と違ってより特徴的な概念が必要となるものの、柔軟性オプションの分、直接市場取引は効率を高める可能性が高い。

 調整力を供給することのできるバイオマス・水力発電を除いて、再エネ電源が使用することのできる市場は、TSOによってすでに採用されているものとほとんど同じである。2014年頃には、再エネ電源の直接市場取引は市場取引コストの増加につながるとも言われていた。この取引コストをTSOのみが市場取引する場合に匹敵するレベルまで下げることは、主として規模の経済性を活用することによって達成される。直接市場家間の強い価格競争は、集中を促進させる可能性があるとも言われていた。

まとめ

 ドイツでは、FITと市場プレミアム(後のFIP)が選択できたEEG2012の段階から、市場プレミアムを選ぶ発電事業者が着実に増えている。その大きな要因として、EEG2012における市場プレミアムの価格設定においてFIT水準にネットの市場プレミアムを設定した事に加え、直接市場取引に切り替えることで新たにかかるであろう費用を、管理プレミアムとして追加的に上乗せして補償することで、発電事業者が追加的な収入を得るチャンスを付与したことが挙げられる。

 結果としてこのプレミアム制度を活用した直接市場取引は、発電事業者単体で実現するのは困難であり、新たなトレーダーとしての直接市場家やVPP事業者の参入によって成長している。こうした直接市場家やVPPは、市場価格に管理プレミアム、さらに上乗せされる柔軟性プレミアム(Flexibility Premium)を加えて、FITと比較した増収部分を発電事業者と分け合うようなビジネスモデルを描いている。アグリゲーター、直接市場家、VPPと呼ばれるプレーヤー大幅に増えるのはこの時期である。

 ただし、ネットの市場プレミアムだけでなく、EEGの制度の下で設定される管理プレミアムや柔軟性プレミアムは、EEG賦課金となって需要家負担になる。ドイツでEEG賦課金が顕著に上昇するのもまた、EEG2012以降の時期になる。EEG2012の早い段階から既に管理プレミアムの引き締めは厳しくなり、結果として直接市場家やVPP間の競争は激化して、統廃合が盛んに行われるようになる。その後、直接市場家やVPP事業者そのものの規模は大きくなり、集中化する傾向にあると言われている。
 
 日本におけるFIPの導入もまた、こうした複雑かつ難しい状況に直面することが予測される。電源の技術特性毎にプレミアムの額を考慮しなければならないだけでなく、そもそもFITに比べてインセンティブが小さければ、多くの発電事業者がFIP制度を採ることはないだろう。低すぎるインセンティブは、再エネそのものへの投資意欲を減退させ、2050年目標の実現可能性を低めることになる。

 とはいえ、2050年には再エネ50-60%を達成して過半数を超える主力電源とするためには、日本でも再エネの市場統合は避けて通れない道となるだろう。だからといって、再エネ市場統合そのものに対して際限なく支援し続けることはできない。ならばFITのままでよかったのではという話になってしまう。ドイツのEEG2012やその後のEEG2014・EEG2017においても複雑な制度変更が行われている。日本の再エネ政策もまた、まさにこれから議論が活発化する時期に差し掛かってくるのではないだろうか。