Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.259 第6次エネ基考察②:「電力コスト」減少
発電コスト検証は再エネ最小

2021年8月5日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:エネ基、発電コスト検証 電力コスト 再エネの時代

 7月12日に、発電コストの改訂案が示された。4年ぶりの改定案は、原子力・火力のコストは横ばいないし上昇となる一方で、再エネコストは大きく低下する。再エネコスト低下は3Eの一つであるEconomy効果を発揮する役割をも担うことになる。7月21日に公表されたエネルギ-基本計画素案では再エネコストの低下、再エネ増による燃料費支出減により「電力コスト」は減少する。特に、太陽光・陸上風力は原子力よりも低くなる。エポックメーキングな事件としてメディアも挙って「太陽光は原子力より低くなった」をヘッドラインとした。今回は、これを解説する。

1.2021年発電コスト検証のポイント

 発電コスト検証委員会にて、7月12日に素案がそして8月3日に取り纏め案が提示された。表1は、今次改訂された2030年断面の電源別発電コスト試算の概要である。列は電源種を示す。第1行は発電コストで括弧内は政策経費なしの数値である。以下、設備利用率、稼働年数と続く。政策経費は原子力を主とする電源3法交付金、研究開発予算、再エネのFIT賦課金等である。発電コストは設備費用、運転費用等により構成されるが、稼働年数や設備利用率の影響は大きい。特に設備利用率の前提は大きく影響する。2倍だとコストは1/2になる。例えば、石油火力のコストが高いが、30%と低い利用率が主因である(これでも高めに設定されている)。

表1.2030年の電源別発電コスト試算の結果
表1.2030年の電源別発電コスト試算の結果
(出所)発電コスト検証WG(2021/8/3)

火力・原子力に利用率のゲタ

 一見して気が付くのは、石炭・LNG・原子力の利用率が7割と高く設定されているところであり、この影響は決定的である。相対的に高い燃料コストにより実際のLNG利用率は低い。いわゆるミドル電源の宿命でもあるが、再エネが普及するより前から低水準である。原子力・石炭のベースロード電源とされてきた設備は、定検期間延長、計画外停止等により7割を維持することは考えにくい。特に原子力は、定検中に不具合が見つかり稼働延期となる例が相次いでおり、司法判断による稼働停止も散見されるようになっている。再稼働の見通しも不透明である。最近は石炭火力の計画外停止も増えてきている。2020年度冬季需給ひっ迫の要因として石炭火力発電の停止がある。現実に即して利用率を定めると火力・原子力のコストは大きく上がることになろう。

幅要因:火力は燃料費、太陽光・風力は設備費用の見通しの差異

 火力、太陽光・風力は、コストに幅がある。火力の幅は、IEAの2つの見通し(政策シナリオ、持続可能シナリオ)による燃料費の相違による。太陽光は、やはりIEAの2つ見通しの設備費の差異による。風力は、IRENAの見通しによる建設費低減率の差異(10~47%)による。どの機関を選ぶかの判断はあるが、いずれも代表的な国際機関の見通しをそのまま当てはめている点で、一定の信頼性は認められる。

大きな転換点:太陽光・風力が原子力・火力を下回る

 原子力は、国内データを諸元としており、最も低い値であった前回(2017年5月)からのコスト増を反映させている。「主力の主力」として期待される洋上風力であるが、26.1円とバイオマス専焼に次ぐ高値となった。足元のFIT価格が29円で稼働まで長期を要するからとの理由であるが、事業者からは高すぎると疑問の声が上がる。モデルプラントの容量35万kW、設備利用率33.2%はそれぞれ小さすぎるという指摘である。欧州では現状100万kW、40%程度が一般的となっている。

 そのうえで、発電コストを概観すると、特に最小値に焦点を当てると、太陽光・事業が最小(8.2円)で、太陽光・住宅(8.7円)、陸上風力(9.9円)が続く。大規模電源では小さい順にLNG(10.7円)、原子力(11.7円)、石炭(13.6円)となる。メディアがこぞって「太陽光が最も安く、原子力は最低コストの地位を明け渡した」という見出しを付けた。まさにエポックメーキングであり、メディアの取り上げ方は妥当であった。

2.前回との比較

 前回は、既に再エネの低コスト化、原子力の高コスト化は世界的にはトレンドとなっていたが、原子力は最も安い電源を維持し、再エネはかなり高く設定された。前回と今回とでどこが変わったのかについて分析する。表2は、前回(2017年5月)と今回(2021年8月)を比較したものであるが、ポイントをクリアにするために大規模火力、原子力、太陽光、風力に絞っている。

表2 電源別発電コスト比較表(2017年度、2021年度)
表2 電源別発電コスト比較表(2017年度、2021年度)
(出所)発電コスト検証WG報告書をもとに作成

世界の規模拡大を映じ急低下した太陽光

 まず、最も低いコストとなった事業用太陽光をみてみる。今回は8.2円~11.8円と前回の12.7円~15.6円より大きく下がった。設備費低下のトレンドは累積設置容量が2倍になると20%低下するという「習熟効果」を織り込んでいるが、これは前回と同じである。違うのは、設置容量の増加が大きく引き上がることである。IEAの想定容量をみると、政策シナリオでは前回647GWに対して今回は2,019GW、持続可能シナリオでは前回856GWに対して今回3,125GWである。また、設備利用率が14%から17.2%へと2割強上がっているのも効いている。

世界の建設コスト低下を映じ低下した陸上風力

 陸上風力は、今回は9.9円~17.2円と前回の13.6円~21.5円から大きく下がった。建設費低下のトレンドはIRENAの10~47%を採用しているが、前回はIEA見通しであった。太陽光と同様に、世界の勢いを細工をせずにそのまま反映させたと言える。なお、政策費用抜きだと8.3円~13.4円とかなり低くなる。2030年断面では新設のFIT・FIP賦課金はかなり下がっているはずであり、賦課金の計算の仕方に課題があると考えられる。稼働期間が20年から25年と25%延び、設備利用率も高くなっている(まだ低いが)ことが効いている。

前回以降のコスト増を映じ増加した原子力

 原子力は、前回以降判明したコスト増加を織り込み、コストは上がった。前述のように、利用率70%はゲタをはいており、実際にはより高いものとなる。

IEAの燃料価格見通しを映じ増減した石炭、LNG

 火力は、CO2対策費、燃料費についてIEAの見通しを採用している。CO2対策費は40ドル/CO2トンと前回の37ドルとほぼ同じである(政策シナリオ)。燃料費は政策シナリオ、持続可能シナリオの間の乖離が大きく、石炭・LNGのコストは燃料費見通しによりほぼ決まる。石油のコスト高は低い利用率により説明ができるが、前回よりも利用率を上げている。

3.小さくなった統合コストの取扱い

VREの統合コストは織り込まれていない

 表1には「統合コスト」は基本含まれていない。統合コストとは、自然変動電源(VRE)が普及する際に調整力確保や送電線整備が必要となるが、それにはコストを要するという診たてによるものである。前回から詳しく分析されるようになった。今回は、電源立地や系統制約を考慮しない場合および考慮する場合の試算が、参考として掲載されている。それぞれ研究機関が試算したものである。前者では、全体としてVRE比率15%程度で年間8,470億円、25%程度で1兆4,780億円を示している。後者では、電源ごとの統合コストを試算している。

 海外でも統合コストの議論はあるのだが、再エネの課題を解決する視点としてポジティブに捉えるものとの見方がある。また電源間の分担や供給側と需要側の分担に関する評価が容易ではない。報告でも「電力システム全体のコストについては、比較的新しい概念であり、研究途上であることから、以下の点に十分留意する必要がある」として分類不完全、分類非独立、既存ミックスにより変化が大きい、定量化困難、分析手法・結果への信頼不足を挙げている。統合コストは、前回かなり大きく取り上げられたが、筆者は、再エネ最低値が提示された中では、再エネ最優先原則が明示された中では、厳格に捉える必要性は薄れたと考えている。やはり再エネ普及のための留意点としてポジティブに捉えていくべきであろう。

統合コストはVREだけの問題ではない

 調整力は、VREのような短期変動に対応するものだけでなく、運転ミス・燃料調達ミス・メンテナンス不足・災害等による停止のような中長期を含む変動に対応するものもある。原子力・火力等の既存大規模電源は、頻度は小さいが停止した場合の影響は大きい。東日本大震災、北海道地震、近年の本州における台風は大規模電源停止を引き起こし、甚大な影響をもたらすことが再認識された。どこまで天災か人災かの線引きの問題はあるが、膨大な費用が生じる。一方、再エネ等分散型電源への影響は小さい。

 災害と無関係でも計画外停止等により巨額の「調整費用」が生じることがある。2020年度冬季需給逼迫は、原子力、石炭火力等のを主とする計画外(想定外)停止が最大の要因であり、調整力確保のために送電会社や広域機関は電圧低下運転等の禁じ手を多発し、インバランス単価は高額に長期間張り付き、調整コストは天文学的となった。市場が高騰した約1ヶ月をみると、卸市場平均単価は72円/kWhで、約定総額は1兆7000億円を記録した。これは年間の取引総額に相当する規模である。「気候変動」「大規模既存電源の経年化」等により「既存電源の統合コスト」は増える。

4.エネ基素案にみる電力コスト 再エネ効果で減少

 エネ基の骨格は3E+Sであるが、発電コストはEconomy(Energy-Efficiency)の主要な要素となる。電源ミックスでは再エネ36~38%、原子力20~22%、火力42%(LNG20%、石炭18%、石油等2%、水素・アンモニア1%)となっており、これと発電コストを掛け合わせると電力コストが算出される。エネ基素案では以下のような記述となっている(抜粋、下線は筆者追加)。

電力コストは再エネ効果で1兆円弱の減少

 「これらの需給の見通しが実現した場合、-----経済効率性を測る指標である電力コストについては、コストが低下した再生可能エネルギーの導入が拡大し、燃料費の基となるIEAの見通しどおりに化石燃料の価格低下が実現すれば、前回想定した電力コスト(9.2~9.5兆円)を下回る約8.6~8.8兆円程度の水準を見込む(FIT買取費用は3.7~4.0兆円が約5.8~6.0兆円程度に上昇、燃料費は5.3兆円が約2.5兆円程度に下落、系統安定化費用は0.1兆円が約0.3兆円程度に上昇する)。なお、徹底した省エネルギー(節電)の推進による電力需要の減少により、1kWh当たりの電力コストで見ると、前回想定した9.4~9.7円を上回る約9.9円~10.2円程度を見込む。---」

 すなわち再エネコストの低下と、再エネ拡大に伴う燃料費削減により、「電力コスト」は前回よりも0.4~0.9兆円下回るとしている。燃料価格や統合コストの見通しは変動も予想されることから「再生可能エネルギーのコストを低減させ、再生可能エネルギーの自立的な導入が進む状態の早期の実現に全力で取り組む。」としている。

シミュレーションの性:着地点から逆算

 発電コストは、2030年度の電力コスト総額を電源構成を睨んで逆算したとも考えられる。火力の燃料費・カーボンプライスをIEAの想定に委ねたうえで、原子力と再エネの費用を一定の範疇に収める必要がある。そうしたなかで原子力と再エネの前提が導かれたのであろう。統合コストも「研究として確立していない」なかでは、参考値として柔軟に設定できる。本来、シミュレーションは合理的な前提に基づき粛々と計算されることが理想であるが、実際は着地点を想定して、現在とのギャップにより逆算し、不自然にならないように全体を調整することになる。着地点の想定が鍵を握ることになる。前回に比べて再エネコストは大きく下がったが、辻褄はあっており、また世界的には何ら違和感はない。

最後に 「再エネコスト最低水準」は政策転換の象徴

 発電コストで再エネが最低水準となった、少なくとも最小値での比較では最も低い水準となった。これは、ガラパゴス的に再エネを低く評価してきたわが国にとり、エポックメイキングな大事件である。メディアは挙って「太陽光が原子力を下回って最も低い電源に」をヘッドラインに掲げたが、前提条件が多く、数字に幅があり、分り難い報告のなかで、直感的に歴史的な大転換を感じたと思われる。「原子力から再エネへ」である。7月21日に提示されたエネ基素案も、このコスト評価を前提に構成されている。

 2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」が出されたが、その後も、2050年再エネ割合5~6割、再エネ100%のときの非現実的な前提による超々コスト高の試算発表等のネガティブな動きもあり、どちらを向いているのか分り難いところがあった。しかし、今回のコスト試算はエネルギ-政策に関して歴史的な転換点となる。筆者は、政策当局は再エネ主力化を本気で決断したと理解した。あとは「既存エネルギ-や素材型に代表される一部産業界の経営者の頭切り替え」にかかっている。

(終わり)