Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.270 洋上風力発電のカーボンニュートラルにおける役割

No.270 洋上風力発電のカーボンニュートラルにおける役割

2021年10月7日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 荒川忠一

1.はじめに

 経産省は第6次エネルギー基本計画(素案)をまとめ、その中で、再エネの2030年における電源構成を36~38%と謳っている(1)。しかしながら、これまでの目標22~24%を上回るものの、2050年のカーボンニュートラルを達成するためには、さらなる上積みが必要と判断している。風力発電は、政策強化ケースとして、2030年の陸上および洋上風力発電をそれぞれ17.9GW, 5.7GWの設備容量を目指すとしていて、発電電力量はそれぞれ340, 170億kWhとなる。電源構成では、総発電量を9,300~9,400億kWhと小さくしているため、風力発電全体としての電源構成はおよそ5%と計算される。従来の目標が1.7%と異常に小さな数値であったことを考えると、風力発電への期待が大きくなったことは歓迎すべきであるが、欧州の現在の風力発電の電源構成15%に比較すると、相変わらず周回遅れであることを認識する必要がある。因みに、昨年末の風力発電の日本の導入量は5GW弱に留まるのに対し、世界は743GWに成長している。後述のように、国連機関が予測する2050年の風力発電の世界の設備容量は6000から8000GWであり、国内の数値は2桁ほど小さくなる。

 産業界と議論を進める「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」において、政府は2040年に洋上風力30~45GWの目標を定め、NEDOは「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ(案)」を4月に発表している(2)。また、自然エネルギー財団も、「洋上風力発電に関する世界の動向[第2版]」を公表し、洋上風力発電の重要性を訴えている(3)

 このような背景を基に、本稿は、日本で最も将来を期待される浮体式洋上風力発電を見据えながら、洋上風力の国際的な評価を詳述し、再エネのロードマップを議論する機会を創出したい。

2.洋上風力発電の国際的動向

 国際的には、この7月末にナポリで開催されたG20気候・エネルギー大臣会合の閣僚声明において(4)、「我々は、海洋エネルギーを含む洋上再生可能エネルギーの大きな可能性に留意する」と海洋エネルギーが特筆された。これを受けて、国連機関である、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)およびIEA(国際エネルギー機関)が発信する、浮体式洋上風力、および海洋エネルギーの資料が改めて注目されている。

 IRENAの上記G20閣僚会議への提言資料(5)には、洋上風力発電のみならず、潮流、波力、温度差発電、あるいは浮体式太陽光発電などを詳述、その海洋再エネの大規模普及を提案している。この中で、洋上風力発電は、現在の34GWから2030年380GW、2050年には2000GWに急増すること、また、その他の海洋再エネは2030年70GW、2050年350GWに成長すると予測している。コストについて、着床式洋上風力を除いて、まだ10円/kWh(1USD=110円換算)を超えているものの、現在、浮体式洋上風力は18円、潮流は22円、波力は33円、浮体式太陽光は40円などと報告し、2023年には浮体式洋上風力14円を推測し、その普及を提言している。

 洋上風力の普及、あるいは浮体式洋上風力の将来の普及には、経済性が重要な課題であり、そのコストを下げるためには設備利用率(Capacity factor)を大きくすることが重要事項である。現在の最大規模の浮体式洋上風力であるHywind Scotlandが55%を叩き出し、将来の高い経済性を暗示している。国内では陸上風力の設備利用率は25%程度、洋上風力では30%と想定さることが多い中で、50%越えの設備利用率はその将来性を物語っている。

 IRENAの海洋再生可能エネルギーのロードマップによると、浮体式を含む洋上風力の設備容量は2050年1000GWであり、その中で浮体式は50~150GWを占めている。また、コストは3~7円/kWhと低廉な数値を予測している。

 提言書の結びとして、「G20参加国に、ブルー・エコノミーの発展、島々のエネルギー戦略、沿岸地域社会の保護、脱炭素化」を提言し、ブルー・エコノミーとエネルギー転換を訴えている。

 なお、IRENAの2050年ネットゼロに向けたロードマップによると、再エネによる電源構成が86%を占めること、その中で発電量として風力が最大であり、全電力の2/3以上の規模となり、設備容量は6044GWと推定している。

 同様に、IEAも2050年ネットゼロに向けたロードマップを発表している。伝統的なエネルギー政策を取っていたIEAも、この5月にネットゼロに向けたロードマップを提案し(6)、電源構成における再エネの2030、2050年の割合を、それぞれ61%、88%と記載している。世界の電源構成の推移と予測において、風力発電は太陽光と競争しあい、2030年はそれぞれ20%、2050年は30%強の電源構成となっている。現在議論されている政府のエネルギー基本計画では、2030年再エネの電源構成比38%、2050年50%を示唆しているが、その目標が如何に小さいかを示している。風力発電の2030年のおよそ5%の日本の風力目標は、世界の20%目標と比べれば、わずか1/4となる。なお、IEAにおける風力は2050年8000GWとなる。

 以上のように、国連のもとに活動しているIRENAおよびIEAが示す再エネ、風力発電、洋上風力発電、さらに浮体式洋上風力のロードマップは、2050年カーボンニュートラルを支える中心的役割を果たしている。誤解が無いようにしていただきたいのは、決して産業界のロードマップではなく、中立的立場の国連機関の提言ということである。。

3.浮体式洋上風力発電の技術とその将来性

 浮体式洋上風力は、水深の大きな50-200mの海域を目標として開発が進んでいる、浮体の上に大型風車を設置した発電方式である。詳細は省略するが、浮体の形式により、バージ、セミサブ、スパーと呼ばれ、順に深い海へ対応できることになる。また、係留の方法により緊張係留(TLP)と呼ばれる形式もあり、普通はカテナリー形状の係留が利用されるのに対し、海底から一直線の係留で浮体を拘束する。つまり、係留の影響範囲が小さくなるため、漁業などへの影響が小さく、また、深い海への対応が期待される。現在、経済性などの観点から一つの方式に絞れる段階ではなく、水深を考慮しながら、それぞれの技術の実証を行いつつ、世界的には、10機程度のウィンドファームとして、営業運転を始めたところである。なお、国内でも、再エネ海域利用法に基づく洋上風力の第1号案件として、長崎県五島沖の事業者が確定し、ウィンドファームが近々建設される予定である。

 筆者が浮体式洋上風力を期待する最も大きな理由は、日本の排他的経済水域が世界6位と広く、その多くが水深50m以上の浮体式洋上風力の海域にあるためだ。IEAの見解では、日本は国内電力消費量の10倍のポテンシャルを洋上風力に期待でき、その多くは浮体式洋上風力の海域にある。 

 浮体式洋上風力の普及に欠かせない要件は、発電価格である。現在、国際的には、先行する着床式洋上風力の発電価格はおおよそ10円/kWhを切ったところであるが、スタート直後である浮体式はその2倍以上とも言われている。一般的に、浮体式は着床式より沖合に設置されるため、風速が大きく、出力は風速のおおよそ3乗に比例する特性から、経済性を改善することができる。しかし、その改善はまだ十分ではなく、政策と技術の進展が必要である。

 政策的には、再エネ海域法を改正しながら、浮体式洋上風力の市場を確保することである。現在、再エネ海域法は、その適用範囲を領海としているため、12海里およそ20㎞の離岸距離の海域に限られている。洋上風力は経済活動であるため、200海里の排他的経済水域(EEZ)での利用が可能である。一日も早く法律を改正し、膨大な広さを有するEEZを浮体式洋上風力で利用できる体制を整える必要がある。現在の2040年の洋上風力45GWといった政府・産業界の目標を、一桁大きくできる可能性がある。

 また、新しいアイデア、イノベーションで、浮体式洋上システムの改良を図り、経済性を向上させる努力が必要である。個人的には、日本の深い海を考量すると、スパー型の発展に期待をかけているが、波浪による揺動のため、風車本体を水深が大きい沖合の海上でタワーに搭載することがむずかしいことが多い。それを避けるため、陸上や岸壁でタワーと風車を一体として組み合わせ、運搬船に搭載して現地に移動し、浮体システムを一気に海中に倒立させるシステムなどが考えられる。また、運搬船の甲板面積を最小にするため、風車は3枚翼ではなく、比較的廉価となる2枚翼風車が期待される。いずれにせよ、多くの新しいアイデアを導入しながら、経済性に優れるシステムの確率が重要である。そのためには、法律に基づいた広い海域の設定、大きなマーケットの創成が必須である。

4.洋上風力発電の政策とまとめ

 海洋再生可能エネルギー、洋上風力、浮体式洋上風力の展望とその可能性を述べた。国際的には、陸上風力発電を10年ほど遅れる形で洋上風力発電が追いかけていると期待されている。幸いなことに、日本は海洋王国、造船大国だった歴史もあり、浮体式を含む洋上風力発電の基礎技術には国際的に一日の長がある判断している。残念ながら、風力発電に対する理解と期待が日本ではこれまでほとんどなかったため、諸外国に後れを取ってしまったものの、必ずや復活することができると信じている。また、当初問題だった、漁業者をはじめとする利害関係者との議論も地域の方々の努力の積み重ねで進みつつある。政府も、再エネ海域法の制定、ネットゼロ、グリーンイノベーションなどで、風力発電を含む再エネを主力電源の一つとして、正面から取り組み始めた。

 あえて個人的に考えている数値目標を掲げるなら、2050年カーボンニュートラルに向けた風力発電の電源構成について、現在の2030年の政府目標5%を、IEAあるいはIRENAが掲げるように、2050年40%を目指した数値に引き上げることである。洋上風力発電を中心とするとき、電源構成40%はおよそ150GWの設備容量に相当する。政府のロードマップを作成するときの基本方針は、いわゆる「積み上げ方式」でこれまでの実績に基づくが、国際的な長期戦略は「ダウンキャスティング方式」が取られることもある。将来の目標であるネットゼロをスタート地点にし、それを実現できる新しい技術を積極的に取り入れながら、時間軸を逆に移動し、現在に近い将来の目標、そして現在の戦略を決めていただきたい。

 カーボンニュートラルに向けて大きく動き出した環境の中で、排他的経済水域の広さが世界6位の日本が、その地理学的特徴を最大限に活用し、いわゆる「ブルー・オーシャン」として洋上風力の経済活動を活性化し、国内のみならず、国際的なエネルギー・環境問題に大きな貢献を行っていただきたい。

参考文献

(1)2030年におけるエネルギー需給の見通し、参考資料、令和3年8月4日、資源エネルギー庁

(2)洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ(案)、2021年4月1日、洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

(3)洋上風力発電に関する世界の動向[第2版]、2021年6月、自然エネルギー財団

(4)エネルギー移行と気候の持続可能性ワーキンググループ、G20エネルギー・気候合同大臣コミュニケ、2021 年 7 月 23 日

(5)Offshore renewables, An action agenda for deployment, A contribution to the G20 presidency, IRENA, 2021.

(6)Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector, IEA, 2020.