Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.277 地域トラブル160件以上、規制する条例は急増 ~「増えない構図」に陥ったメガソーラー、山下紀明さんに聞く~

2021年11月25日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授  竹内 敬二

キーワード:メガソーラー、トラブル、規制条例、山下紀明

 メガソーラーへの反対運動は全国で160件を超え、同時に、建設を抑制・規制する自治体の条例が急増し約130件になっている。国の政策では、太陽光発電は再生可能エネルギーの主役だが、このまま「地元では嫌われる存在」が広がれば、日本のエネルギー転換も危ういものになる。地域トラブルへの準備が全くないまま、再エネの固定価格買取制度(FIT)によるメガソーラー急増時代に突入したツケといえる。この問題の特徴と解決の展望を特定非営利活動法人「環境エネルギー政策研究所」(ISEP)の山下紀明・主任研究員に聞いた。

トラブル急増、160件以上に

―なぜ全国のトラブルを調べているのですか。

 私は2003年から自然エネルギー(再生可能エネルギー)を増やす活動をしてきました。2012年にはFITも始まり、誰もが太陽光発電にポジティブなイメージを持っていたが、その後トラブルが増えた。国の期待と地元の反発のギャップは大きい。推進してきた責任もある。何が原因でどういう状況になっているかを調べようと思った。

―どうやって調べているのですか?

 新聞記事検索を中心に調べているが簡単ではない。「トラブルがある」という記事があっても、その後、計画が消えれば報道されていないこともある。個別に自治体にも聞くが、全国のデータの把握が難しい。

 ただ確かに増えている。2016年に公表した調査結果では、把握できたトラブルは全国で40件だった。18年のデータでは65件。今回の調査では、より多くの地方紙を検索対象に加え幅広く調査したところ、160件が確認できた。発電規模が小さいものではもっと多くのトラブルが起きていると思う。場所は長野県、山梨県、静岡県などが多い。日射量が多く、開発対象となりやすい山林が多い地域です。



写真1【静岡県函南(かんなみ)町でもメガソーラー計画への反対運動が起きている。2021年9月撮影】



写真2【静岡県函南町のメガソーラー予定地を望む。山の稜線に近いところ。2021年10月撮影】

土地所有者が知らないうちに…

―トラブルの理由、内容は何ですか。

 初期は「景観の悪化」や「地元への説明不足」が多かった。最近は、土砂崩れや水害など自然災害の懸念、建設に伴う下流域での水質汚染など生活環境への懸念が目立つ。

―風力発電への反対とは異なりますか?

 異なります。風力発電の立地場所は検討がつくし、騒音や鳥の衝突といった苦情も以前からあり、県のアセス条例などの対象になっていた。太陽光発電は小規模から大規模まであり、問題の質もさまざまです。土地所有者の知らないうちに計画が進んでいたということもあった。急にトラックが増えたと思ったら建設場所の伐採が始まっていたとか、自治体との調整が不十分で、住民の指摘であわてて自治体職員が現地確認に行った話もある。

 FITでは太陽光発電所に標識や柵、塀などを設置することが義務付けられているが、それもきちんと守られていない。



【条例を導入した自治体の数。2021年途中までの数字。「調和・規制条例」が134、「届け出条例」が28。制定は16年以降に集中している。トラブル数と同様、静岡、長野県に多い。山下紀明さんによる】

―こうした事態になった原因は。

 自戒を込めて、本当に準備不足だったと思う。メガソーラーは環境アセスもなく、規制が緩い中、「ビジネスとして儲かる」という形になり、FITで参入が一気に増えた。地元や自治体との調整など綿密な制度の提案を私たちもしてこなかった。

 メガソーラー問題は土地問題です。共有地や里山の管理費用に困っており、そこが10年、20年に一度、リゾート開発やゴルフ場開発を持ち掛けられる。今はメガソーラーです。こうした日本が抱える難しい土地問題の一部として考えなければならないが、我々も勉強不足だった。

 ドイツの状況はかなり異なる。日本より先に太陽光発電が広がったが、ドイツの人に聞くと、「ソーラーでの大きな問題はなかった」という。ドイツでは、自治体の自然保護計画、都市計画の中で厳しく規制され、承認されなければならない。

規制条例が増加。新規計画は難しくなっている

―国や自治体の対応は。

 2017年のFIT法改正によって、「各地の条例を遵守する」という項目が入った。これによって、自治体の規制条例が有効になり、条例に違反すればFITを取り消す道筋ができた。実際には「条例違反だから取り消し」という例は聞いていないが。また20年4月から「4万キロワット以上」の大規模な太陽光発電所に国の環境アセスが義務になった。

―自治体では設置を規制する条例がどんどん増えていますね。

 その通りです。自治体の条例と言えば、当初は、2001年に北海道がつくった「省エネ新エネ促進条例」のように、「再エネを増やしましょう」と後押しする理念条例がたくさんできた。2011年のFIT成立以降はとくに増えた。

 しかし、FIT以降、現実に各地で問題のあるメガソーラーが出現するようになってからは、がらりと変わった。建設を抑制する「規制条例」が増えた。2014年に公布された大分県由布市の条例が最初だった。「景観、生活環境への配慮、そして地域住民と良好な関係を保つ」とある。これを代表例として、私たちが「調和・規制条例」と分類している条例は現在134条例ある。さまざまな理由をつけて、再エネ発電所、とくにメガソーラーがつくりにくい内容となっている。

 本当に厳しい内容のものもある。仙台市の条例では森林地域においては設置面積が1ヘクタール以上という小規模発電所で環境アセスを課している。岩手県遠野市では「敷地0・3ヘクタール以上で建設抑制」、静岡県伊東市では「0.1ヘクタール以上で原則禁止」と、相当の小規模でも太陽光発電所は難しい。この規模では、市民参加でつくる小規模の再エネ発電所も難しい。

再エネと共存のイメージが必要

 また条例の内容を調べてみると、各地の規制条例は、近くの自治体(先行)の条文の引き写しが目立つ。近隣でメガソーラーの環境問題がぼっ発するのを見て、慌てて作っている感じだ。こういう条例が増えると、日本全体でメガソーラーにネガティブな雰囲気が広がる。

―条例では「建設して欲しくない姿勢」が明確ですね。

 本来、再エネはエネルギー転換に欠かせないもので、日本全体で適宜規制しながら増やす必要がある。しかし今、メガソーラーに対しては「こういう形で増えていったらいい」という「理想イメージ」が描けない状況になっている。バランスが必要なのに、「太陽光でトラブルが起きてはだめだ、面倒だ」という雰囲気が広がっている。

―どうすればいいのか。

 メガソーラーについては、社会全体の受容、コミュニティーでの受容レベルが落ちているように思う。環境問題は単純に白黒がつけられない問題だ。環境保全と再エネ利用は、場合によってはトレードオフもある。バランスよく考え、最適なところを探ることが重要。

 今年改正された温暖化対策法に期待したい。改正法では、自治体が、経済性や地形、地域の了解などが満たされている場所を「促進地域」に決め、計画を誘導することができる。そして、建設の手続きについては、自治体において「手続きのワンストップ化」を行うとしている。

―しかし、自治体で「つくらせない条例」が急増している中で、末端の自治体が積極的に「ワンストップ化」を担う動機が生まれるでしょうか?私は効果に少し疑問を持っています。

 確かに規制条例があるところで、促進区域の話はしにくいかもしれない。しかし長い目で見れば、10年、20年かかっても、国、県、市町村が連携したゾーニングをやり、日本として着実に再エネを増やす必要がある。各地域のポテンシャルを考えて、国全体の再エネ目標を満足させるようにしなければならない。試行錯誤しながら社会的に解決策を見つけていくしかないでしょう。



【写真3;山下紀明・環境エネルギー政策研究所、主任研究員】
 山下氏によるこれまでの調査と分析は、来年3月に新泉社から出版予定の「どうすればエネルギー転換はうまく行くのか」(編者は丸山康司、西城戸誠)に所収されるほか、環境エネルギー政策研究所ウェブサイトでも随時公開される。

(終)