Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.292 検証洋上風力入札⑤ 資本費(建設費)は現実的か

2022年1月31日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、資本費、三菱商事、由利本荘

 洋上風力入札シリーズの5回目である。前回は、三菱商事グループの応札価格はIRRゼロの欧州コストに相当することを示した。今回は資本費(建設費)に焦点を当てて、風車以外のコストがいかに切り詰められているか、日本の関連事業者が対応できる水準とは考え難いことを解説する。

IRRゼロの欧州コス

 前回の論考を振り返ってみる(「No.289 検証洋上風力入札④ 12円はIRRゼロ前提の欧州コスト」)。日本の洋上風力事業ラウンド1は、FIT制度の下での入札となったが、上限価格は29円/kWhに設定された。その算定基礎となったのは英国の2019年指標であり、一部日本様にアレンジされ、長期平均調達費用(LCOE)はIRRゼロ前提の12円/kWhが示された(表)。

表 洋上風力に係る調達価格比較表(FIT制度)
表 洋上風力に係る調達価格比較表(FIT制度)
(出所)調達価格等算定委員会資料より作成

 「NEDO試算」は、ラウンド1に係るFIT上限価格算定の参考として、経産省の要請によりNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)がアジア航測株式会社に委託して取りまとめたものである。この「2019年度成果報告書(洋上風力発電の発電コストに関する検討)(2020年1月)」のベースは、英国のCrown EstateによるGuide to an offshore wind farm(January 2019)である。

 12円と29円差は、内外価格差9割(1.9倍)、IRR10%、陸上変電所から系統接続点までの接続費0.5万円/kWである。「由利本荘」の落札価格は11.99円で、IRRゼロの欧州コストと一致するが、27.67万円/kWの資本費を検証してみる。

風車代、接続費用は見える

 英国のCrown EstateによるGuide to an offshore wind farm(January 2019)によれば、資本費は、日本ベース(洋上変電所を含めない)だと合計£2,215million/GWであり、内訳は①Development and Project Management £120M、②Wind Turbine £1,000M、③Balance of Plant(BOP)£480M、④Installation and Commissioning £615Mとなっている。当時の£・円換算レートは127円/£と記載されている。すなわち資本費の45%は風車(Wind Turbine)である。由利本荘では、三菱Gが採用したGE12MW機種は日風開グループ、JERAグループが採用しており、この2グループは能代地区にも、そして日風開チームの一員であるオーステッドは東電RPと組んで銚子にも応募している。GEが異なる値段を提示しているとは考え難い。

 また、由利本荘は系統接続点までの距離が長く、接続費は嵩むと言われている。前回も説明したが、陸上の接続費用はNEDO試算には含まれておらず、日本固有の費用として0.5万円/kWが織り込まれている。調達価格算定委員会資料では、10万円超/kWを予想する事業者も存在するとのことであるが、これは由利本荘のことだと考えられる。三菱Gの運転開始時期は先行グループよりも2~3年遅い。特に由利本荘は2030年12月と8年を要する計画となっているが、これを裏付けていると考えられる。

残差のBOPは極端な低価格になる?

 即ち、風車および接続以外のところで極端な低価格になっていることが推測される。風力発電施設を建設する場合、リスクはBOP(Balance of Plant)にありと言われている。BOPは、風車本体以外の全て、土木工事、電気工事、輸送・据付がリスク対象となる(上記英国の例ではInstallation and Commissioningを含む)。この重要な領域で極端に低い値決めが出来るのであろうか。応募に際しこれらの事業者および地権者と調整しているのであろうか。これから交渉だとすると、合意できるか、合意するまでに長い時間を要するだろうと思われる。あるいは全て欧州、中国等の外資を予定しているのかもしれないが、日本が現場であり非現実的である。また、国内サプライチェーン整備への貢献は重要な評価ポイントになっており、かねてより地元コンソーシアムを形成し準備してきている秋田の期待も大きい

 以上から、三菱Gの価格での実現は大変な困難を伴うと考えられ、仮に実現できたとしても、国内産業の育成、地域振興が可能となるか非常に懸念される。

欧州入札価格と比較する際の留意点

 一方、萩生田経済産業大臣は、1月7日の「違う顔も見てみたい」会見で三菱Gの価格は「これでもまだ欧州と比べると高い」とも発言されている。また、欧州の大規模洋上風力事業の落札価格は2015年以降急速に低下し、現状6円前後となっている。これは事実であり、洋上風力の可能性を示すものとして勇気付けられる。

 しかしながら、欧州と比較する際には注意が必要である。20年もの先行した歴史や日本の数倍の年次市場規模、そして日本より1~2割良好な風速(数字によっては3~4割)があって達成できるものである。また、我が国では洋上風車から海底ケーブルで陸揚げし、陸上の送電事業者の接続ポイントまで事業者の負担であるが、ドイツ、オランダなどは洋上風車から洋上変電所までが事業者の負担で、洋上変電所までは送電会社負担となっている。要するにSCOPEが異なる。

 日本は価格と産業振興、そして地元経済の発展との異なる3つの分野の鼎立を目指している。このチャレンジが洋上風力官民協議会の提言である。どれか一つが突出し、どれかが犠牲になることは国益に沿うのか、という視点が非常に重要である。

 このシリーズ発表により、最近少なからぬ情報が届くようになったが、「この価格では無理」「プロジェクトファイナンスを組むことは難しい」というのが殆どである。前回は最後に以下のような表現を締めとしたが、再掲する。

 「官民協議会目標である国内調達率60%を達成し、地域貢献の実現により地元関係者と良好な関係が構築・維持できれば、大変な快挙である。結果が表に出るまで早くて6~8年かかる。このままだと予見性に影響が出て、国内投資が滞る可能性も否定できない。早期にデータに基づく根拠や見通しを示し、疑念を払しょくしていただきたい。特に、政府には説明責任がある。」今後の状況を引き続き注視していきたい。