Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

TOP > コラム一覧 > No.301 検証洋上風力入札⑧ 日本風力発電協会が選定評価の早期見直しを提言

No.301 検証洋上風力入札⑧ 日本風力発電協会が選定評価の早期見直しを提言

2022年3月7日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力入札、日本風力発電協会、情報開示、事業性評価、セントラル方式

 日本風力発電協会(JWPA、協会)は、3月3日に「洋上風力発電事業者の選定結果を踏まえた今後の公募に向けて(提言)」をHPに掲載した。2月22日に経済産業省資源エネルギー庁、国土交通省港湾局及び経済産業省製造産業局に提出しており、3月1日には政府に対して説明を行っている。業界内に選定評価に関する疑問・懸念が多いことを理由に、定性(実現性)評価の比率引き上げ、定性要素による価格の再評価、地元評価によるスクリーニングを提案し、早期の議論着手とラウンド2からの見直しを要望している。また、政府が初期開発を実施するセントラル方式の早期実現、それまでは経過措置として見直し後基準による評価の採用を要望している。今回は、この提言を解説する。

始めに 背景と概要

 JWPAは、本件に係る最大の関係者であり、関連のデベロッパー、メーカー、工事会社等が加入する業界団体である。風力発電への高まる期待を背景に会員数は拡大してきており、現時点で500社を超えている。昨年12月24日に洋上風力入札結果が発表されて以降、本コラムそして多くのメディアが当問題を取り上げてきており、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟でも議論され(筆者も講師として招集)、国会でも秋本真利議員、福島伸享議員が予算委員会にて質問に立っている。政府より一般向けの情報公開が行われていないなかで、最大の関係者といえる協会の意見および提言は、1次情報として非常に重要である。

 JWPAは、本提言公表の趣旨について「洋上風力発電に係る我が国の基本的な考え方は、官民が一致協力して導入促進を進めつつ、新たに国際競争力のある洋上風力関連産業を国内に創出するという、環境・エネルギーを統合した経済・産業政策であると共に、事業の実施に当たっては地元の方々の理解・協力を得ながら地域・漁業等との協調・共生を図っていくことが重要であるとの認識のもと、今後の占用公募制度がより効果的・効率的な仕組みとなるようにとの考えから提言を取りまとめました。」としている。

 以下、提言本文に沿って解説する。「」内は提言の文章であるが、筆者が簡潔な表現としている。また、下線は協会によるものである。

1.洋上風力導入推進の基本的な考え方

 まず、洋上風力官民協議会にて2020年12月15日に取り纏められた「第1次洋上風力産業ビジョン」の3つの目標と認識を確認している。

 ①導入目標:2030 年までに 10GW、2040 年までに 30~45GW の案件を形成
 ②国内調達比率(LCOE ベース)目標: 2040 年までに 60%に
 ③着床式発電コストを 2030~2035 年までに 8~9 円/kWh に

 「これらの目標は、官民が一致協力して洋上風力発電の導入促進を進めつつ、我が国で新たに 国際競争力のある洋上風力関連産業を創出するという、環境・エネルギーを統合した経済・ 産業政策であったと認識している。」

 次に、「このビジョンがグリーン成長戦略および第6次エネルギ-基本計画に反映され、エネ基においては『2030 年度までに洋上風力 5.7GW の導入を目標とし、更に高みを目指す』ことが決定された」との認識を示している。さらに、「コスト低減を着実に進めていくと共に、我が国に新たな産業を創り出すという官民で合意した共通の目標実現に向け、地域・漁業等との協調・共生を通じて 地域経済・雇用創出への貢献と国内産業基盤の形成を確実に進展させることが重要である」との認識を示している。

2.業界内の疑問・懸念

 本節では、会員企業等から寄せられた多くの疑問や今後を懸念する代表的な声について、以下に紹介している。

・発表されたのは評価結果の点数だけで、評価がどのように行われたのか不明。評価内容詳細の公表・開示を求める。
・事前 Q&A からは、運転開始予定時期は早い方が高く評価されるように理解していたが、運転開始予定時期の遅い案件が選定された。運転開始予定時期は評価の対象になっていたのか。
・評価の配点は価格点と非価格点が 1:1 との説明だったが、価格点が圧倒的な比重を占めた。地元との協調・共生という発電事業の実施に重要な点を軽視する結果になりかねないことを懸念。価格さえ安ければ落札できると言った誤ったメッセージを関係者や業界に与えた。
・選定事業者の価格は圧倒的に低い価格で、日本には基盤が整っていない関連産業の採用・育成やサプライチェーン構築に支障を来たすと懸念。

3.今後の公募に向けて

 本節では、協会会員等からの疑問・懸念を踏まえた要望と提案を記しており、これをラウンド2から適用することを要請している。

(1)適切な情報開示

 政府は未だに一般的な情報開示および結果説明を行っていないが、要請事項の筆頭に挙げている。「次回の公募に応じる意欲を減退させない/ 風車及び関連機器・基礎・ケーブル製造業者、建設工事業者、O&M事業者の参入等を停滞・後退させない/ 関係者の納得性を高める/ ために、ラウンド 1 の 評価の経緯やポイントなどについて、可能な限り詳しく公表・開示することが適切」としている。これは、現実に公募や事業への参加意欲が減退していることを示している。外資も日本政府の情報非開示の姿勢に驚き、憤っており、一部は今後の不参加を示唆しているという。

 具体的には以下の開示を要望している。

・「事業の実現性」に関する下表の要素に係る「確認の視点と確認方法に基づいた講評」の開示
・結果の総括。価格と事業性とが1:1 となるための評価点配分、項目重要度・優先度等の見直し(下記(2))。
洋上風力関連事業者および地元利害関係者が結果をどのように受け止めているかを詳細に把握する。理解度調査と広報を実施する。

表 現行の公募占用指針における事業実現性に関する要素の配点
表 現行の公募占用指針における事業実現性に関する要素の配点

(2)供給価格と事業実現性の評価点の配分

 「ラウンド 1 における評価基準の基本的方針は、入札価格の最も低い応募事業者が 120 点満点を獲得できる。一方、事業実現性に関する評価項目については、項目ごとに 5 段階の階層を設けて採点し、応募した計画が相対的に評価される方式である。価格と事業実現性の配点は 1:1 であったが、実質的には価格に重点が置かれた。」、「コスト低減を進めるとともに、新産業としての洋上風力関連産業の創出・育成を実現しながら導入目標を達成する。これが極めて重要であるとの認識に基づいた公募実施を切望する。」とし、以下の案を提示している。

案① 「最低入札価格」を「評価後最低価格」に 入札価格を定性要素で再評価

 「入札価格は、施工計画など事業実現性と深く関連しており、事業実施能力と整合した評価が必要(各応募事業者のレベリング)。これにより正当に評価された価格の比較が可能になる。」、「事業実現性評価における重要な要素(例:運転開始時期)を反映した価格(評価後最低価格)にて評価を行うこと等が考えられる。」としている。

 価格と定性とは、独立して評価することは考え難い。地元調整・調査が不十分だとコスト増や工期延期が生じる、新機種風車は出力は大きいが非認証や停止リスクを抱える、運開時期が遅いとカ-ボンニュ-トラル実現や経済波及を阻害する、等の負の影響が懸念される。それらの要素を織り込んだ価格に再評価し、そのうえで最も低い価格を「評価後最低価格」として認定しようとするものである。

案② 価格120点、事業実現性120点の配点

 協会は、価格評価と定性評価の1:1原則を重視し、最低価格が満点をとる方式を定性評価に適用することを提案する。「価格と事業実現性の配点については、セントラル方式が公募に適用されるまでは実質的に1:1 を確保する。事業実現性に関する得点は各項目の総和とせず、各項目の総和の最多得点者が満点:120 点を獲得できることとし、次点以降の得点は比例的に見直す。」としている。これは、配点案としては穏やかなものと感じる。他の見直しとセットでの実施を想定しているものと考えられる。

案③ 事業実現性についての評価の手順  地元による1次選抜

 案3は、地元評価に関してである。今回は地元評価の配点が低い、地元(市町村、漁協等)が評価する事業者が選ばれていないとの不満が大きく、見直しは必至の状況にある。協会は地元(市町村、漁協等)が評価する事業者をまず複数社を選ぶ(スクリーニングする)ことを提案する。「地域との共生に関しては、現状都道府県知事に参考聴取した意見を踏まえて評価を実施するプロセスになっている。発電所建設からその後の運営に際して、地域との共生、地元利害関係者との友好な関係は必須である。例えば、地元利害関係者が協調・共生の観点から複数の者 (3~4 応募者)を選び(ショートリスト)、その選ばれた者の応募計画における事業実現性の評価・採点を行い、価格点と合算する方法が考えられる。」としている。

 協会は、価格と定性の評価配分を適正に変えることで洋上風力ビジョンの目的に適うことになる、と改めて強調している。「洋上風力導入推進の基本的な考え方に沿うことは、地域・漁業との協調・共生や国内産業基盤の形成を確実に進展させ、より多くの事業者の市場参入を可能とし、早期に安定した競争力のある市場を形成することに繋がるものである」としている。

(3)セントラル方式の早期実現

 欧州において洋上風力事業のコストが急低下した要因として、20年におよぶ経験・サプライチェーンの整備に加えて、初期開発を国が行うセントラル方式の導入があったことは周知の事実である。日本も、官民協議会等において「日本版セントラル方式」の早期導入が合意されており、政府は実証事業を進めているところである。セントラル方式が導入されるまでの間は、事業者が主体となる従来型の電源開発方式となり、実績や地元調整を含む開発力が評価されることになる。セントラル方式導入後は、価格評価が主になっていく。しかし、ラウンド1では、セントラル方式導入前の段階にも拘らずほぼ入札価格のみで決まってしまった。関係者や地元の驚きは、この認識ギャップに由来する。セントラル方式の早期導入と導入時期の明示が適切な評価方法決定に大きな影響を及ぼす。協会は、この論点を提案の締めに位置付けている。

 「ラウンド1では、政府から提供された風況観測や海底地盤調査等のデータは精度の高い建設工事費の見積りには不十分で、応募事業者によってはデータ取得のための調査を自主的に実施しており、見積ベースは必ずしも統一されていなかった。」 としているが、国は風況と海底地盤調査に関しては、それぞれ1地点のみの調査とデータ開示に留まっていた。これをそのまま採用してコスト・時間を見積もった事業者と、きちんと納得行くまで自腹で調査し見積もった事業者とに分かれ、混乱の原因となった。そしてセントラル方式に係る提言となる。

 「国等が調査し管理するデータ(風況、気象・海象、海底地盤、環境アセスメントに必要な情報、漁業の実態等)、および国による確保済の系統が提供されるセントラル方式適用のできるだけ早期の実現。この実現により、精度の高い見積、入札価格に重点を置いた評価方式・配点見直し等の検討が可能になる」、「具体的な適用開始時期と、数年先までの具体的な公募案件の計画の公表」、「セントラル方式への移行に際して、適切な経過期間の設定と必要な経過措置を講じる」としている。

最後に

 日本風力発電協会は洋上風力事業の最大の当事者である。洋上風力を含む風力事業への注目は大きく専門事業者、メーカー、建設事業者等に加えて旧一電や商社、外資の大規模事業者も加入している。業界団体としてのラウンド1入札結果に係る認識や提言が待たれていたが、3月1日に漸く発表された。ポイントは①入札結果への疑問と懸念、②官民協議会、グリーン成長戦略および第6次エネ基等で示された政策目的が判断基準、③入札結果の早期情報開示の提言、④事業実現性の適正な評価とラウンド2からの見直しの提言、⑤セントラル方式の早期導入とそれまでの経過措置の提言、である。

 冒頭でも述べたが、業界内に選定評価に関する疑問・懸念が多いこと、そして定性評価の比率引き上げ、定性要素による価格の再評価、地元評価によるスクリーニング、セントラル方式の早期実現と改訂評価による経過措置の設定を提案している。そして早期の見直し議論着手とラウンド2からの実施を要望している。口幅ったいが、これらは筆者がこれまで本クラムにて考察・主張してきた内容とほぼ一致する。JWPAの認識・提言をもとに活発な議論が生じ、政府による早急な情報開示やラウンド2からの評価方法の見直しが行われることを強く期待したい。