Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.306 3/22東京エリア電力需給ひっ迫の検証と考察

2022年3月29日
京都大学大学院 経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:需給ひっ迫警報 節電 揚水 東電パワーグリッド

 3月21、22日に、資源エネルギ-庁は、初の電力需給ひっ迫警報を東電エリアと東北エリア向けに発令した。ひっ迫の要因は、3月16日福島沖を震源とする地震による火力発電の停止により供給力が減少している中で、22日に生じた想定を超える厳気象が需給両面からひっ迫を増幅したからである。降雪雨を伴う悪天候により気温が急低下し需要想定が大きく増える一方で、太陽光発電の出力が少量に留まった。揚水発電の稼働、補修中火力発電の稼働、他エリアからの緊急融通等で供給力の調達に努めたが、最大の貢献は需要家の節電による協力であり、計画停電を免れた。今回は、この需給ひっ迫を資エ庁の資料を基に検証し、抜本対策について考察する。

1.東京エリアの需給逼迫状況 3/16地震と3/22厳気象の影響

 マグニチュード6を記録した3/16福島沖を震源とする地震により、東京・東北エリアにて計14機・648万kWもの火力発電が停止し、東北から東京向け500万kW連系線の1/2が運用縮小に追い込まれた。3/22には、複数の発電機で地震による停止が続く中で、降雪雨を伴う冷気が襲った。以下で、東電パワーグリッド・サービスエリア(東電エリア)における需給ひっ迫状況について解説する。

予測外の気温急低下で想定需要は540万kW増加

 東電エリアでは、気温低下・降雪雨を伴う曇天により、予想需要量が540万kW上振れする一方で、1,780万kW容量の太陽光発電設備の出力は最大170万kWに留まった。これに約250万kWの火力発電計画外停止が追加された(地震影響が110万kW、その後生じた計画外停止が135万kW)。

 表1は、3/22の最大需要電力予想値の時系列でみた変化を示したものである。19日20時では、最高気温9.4℃/最低気温6.7℃の見通しの下で4,300万kW(発生時間帯11~12時)であったが、25時間後の20日21時では、最高気温3.8℃/最低気温3.1℃に急低下し需要は4,694万kW(16~17時)へ400万kW増加する。さらに20時間後の21日17時では、最低気温が2,0℃に低下し需要は4,840万kWへさらに150万kW増となった。すなわち2日間弱の間に予想気温が4~5℃低下し、想定需要は540万kW強増えたことになる。

表1.3/22夜の東京エリアにおける電力需給見通しの変化
表1.3/22夜の東京エリアにおける電力需給見通しの変化
(出所)資源エネルギ-庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」(2022/3/25)

 太陽光発電は、東京エリアでは1,780万kWの設備容量があるが、降雪含みの曇天のなかで最大出力170万kWに留まった。前年同期(21/3/16~31平均)は1,075万kWを記録しており、また翌23日は1,253万kWと警報解除の立役者となっている。

火力を主に供給力が500万kW減少

 火力発電は、16日地震の影響により110万kW(新地1号機50万kW、広野6号機60万kW)が停止継続となっていたが、これに電源開発根岸1、2号機120万kW、JFEスチール14万kWの計画外停止が加わり、合計244万kWが新たに計画外停止となった。また、東北→東京連系線の運用容量250万kWは引き続き利用不可能になっている。以上、太陽光を除く供給要因で、約500万kW減少したことになる。

 需要要因で540万kW、供給要因で500万kW併せて1,040万kWのギャップを短時間で埋める対策実施を迫られた訳である。緊急融通を含む連系線利用で310万kW(東から250万kW、西から60万kW)、火力出力増で27万kW、補修中火力の稼働で171万kW(千葉2号系列36万kw、品川1号系列38万kW、富津2号系列97万kW)、大口需要家に要請する自家発焚き増しそして揚水発電(放電)と需要家の節電である。

2.揚水発電と節電・自家発焚き増しで乗り切る

 以上の、手段を総動員して需給をコントロールする訳であるが、基本は利用可能な火力の供給量を所与としたうえで、節電効果を見ながら揚水発電で調整するというオペレーションを行ったと考えられる。

信じられないような節電効果

 図1は、3月22日の東電サービスエリア内需給実績の推移である。茶色の線は3月21日18時時点で想定した需要量、黄色の線は節電の目標とする需要量、その間にある黒い線は実需要量(供給量)である。茶線と黒線の間が節電量となる。需給逼迫警報は、21日の20時に発令されたが、加えて22日(当日)の8:40そして14:45に経産大臣が「節電のお願い」の会見を行った。節電要請効果は徐々に表れ、午後入り後は節電量は拡大し16時以降は「需要実績」と「節電の目標とする需要」はほぼ同量で推移した。下表は節電目標量への達成状況を示しているが、8~15時で39%、15~23時で101%、全体で72%を記録している。これは「信じられないような効果があった」と評されている(東電PG岡本副社長談)。なお、警報発令がルール通りに18時に発せられていれば、早い時間帯から効果が上がっていた可能性が高く、課題として残った。

図1.3/22東電サービスエリア内の需給状況
図1.3/22東電サービスエリア内の需給状況
(出所)資源エネルギ-庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」(2022/3/25)

デマンドサイド協力と揚水活用の組み合わせでオペレート

 図1であるが、供給サイド(某グラフ)をみてみると、緑は揚水除きの発電量実績、青は揚水の発電実績、灰色の直線は揚水を除く供給力、緑の灰色を超える量は自家発焚き増し量を示している。所与の(固められた)供給量を前提に節電、自家発出力というデマンドサイドの協力状況そして太陽光の出力状況を見ながら揚水で調整していることが分る。逆に、デンマンドサイドへの要請量は揚水や(日中は)太陽光を想定して予測することになる。自家発焚き増し量は、節電量と同じような傾向がみてとれる。大口需要家は自家発を利用と節電を同時に実行したと考えられる。予想が難しい業務用、家庭用の協力も大きかったようで、前述のように東電PGより感謝の言葉があった。

 日本は世界最大の揚水発電容量を誇り(最近中国に抜かれたようである)、再エネ・省エネが主役となる脱炭素時代では、巨大なストレージである揚水は需給調整の主役になると期待されている。今回の東電PGは揚水発電を軸とするシステム運用を行ったと考えられる。図2は2/25における揚水発電可能量の推移を示している。残量100%となる10000万kWhで推移した後、7時頃から発電を開始し、23時頃までには3000万kWhを切る水準まで残量が低下した(残量29%)後に増加(ポンプアップ、充電)に転じている(青線)。また、節電要請の時間帯は目標確保量(赤線)に迫った後に超過していることが分る。調整設備としての規模の大きさと機能が見て取れる。

図2.東電エリアの揚水発電可能量の推移(万kWh 3/22)
図2.東電エリアの揚水発電可能量の推移(万kWh 3/22)
(出所)資源エネルギ-庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」(2022/3/25)

3.浮き彫りになる供給力不足

1月6日に比べて稼働中は約700万kW減少

 ここで、東電エリアの火力発電の稼働状況をみてみる。3/22時点の休止を除く供給量(認可出力)合計は約4,400万kWである。うち「計画停止」は570万kW、「計画外停止」は410万kW(うち地震以降は244万kW)、「出力低下」は0万kWで、これらを差し引いた「稼働中の認可出力」は3,420万kWである(図3 左表)。大雪で稼働量が多かった1月6日との比較では、計画停止が340万kW、計画外停止が350万kW多く、出力低下が70万kW少なくなっている。この結果稼働中の認可出力は680万kW減少している。

図3.東電エリアにおける火力発電設備の稼働状況(3/22時点)
図3.東電エリアにおける火力発電設備の稼働状況(3/22時点)
(出所)資源エネルギ-庁「2022年3月の東日本における電力需給ひっ迫に係る検証について」(2022/3/25)

8割が火力 うち8割がLNG

 10万kW以上の稼働中火力発電の認可出力をみると、ガス2,787万kW、石炭513万kW、石油98万kWとなっている(図3 上図)。全発電設備および火力発電設備に占める構成比は、それぞれの68%(82)、13%(15)、2%(3)である。

予想されていた需給ひっ迫

 ひっ迫警報は、実需給時の直前に危険水準とされる供給予備力3%を割り込む状況時に、政府が前日の18時頃に発令することになっている。ここで、東京エリアの冬季需給見通しがどのようになっていたかを確認する。近時、日本の電力需給は余裕度が小さいとされるが、特に東京エリアは供給余力に乏しい数字が示される。電力広域的運営推進機関が策定した2021年度の冬季需給見通しにおいて1、2月は自然体では3%を確保できず、他エリアからの融通、火力増出力運転等に加えて東電PGによる予備力63万kW追加公募実施により辛うじて3%台を確保していた(表2)。しかるに、これまで見てきたように、需給が想定を超えて振れ3%割れ必至の状況となった。3月の最大需要は厳気象時で4,536万kW、予備率7.5%と見込まれていたが、直前に4,840万kWへ304万kw上方修正されたことになる。

表2.2021年度冬季の電力需給見通し(東京エリア 21/10作成)
表2.2021年度冬季の電力需給見通し(東京エリア 21/10作成)
(出所)電力広域的運営推進機関「電力需給検証報告書(21/10)」を基に作成。

3.まとめと所感

政府節電要請に大きな効果

 「信じられない」ほどに政府要請による節電効果が寄与した。日本人は政府からの「お願い」や「警報」により誘導されるときに、大きな効果を生む傾向があるようだ。コロナ禍におけるの政府のお願いも有効であった。需要側による調整の代名詞である「デマンドレスポンス」は、ダイナミックプライシング等の価格機能により機能する。市場が未整備な日本では普及はこれからである。消費者による節電は十分に見込めることが実証されたとも言え、市場整備やメニューの整備を進めて、平時からデマンドレスポンスの相当量実現を期待したい。

急がれる連系線増強、風力開発

 3.11大震災で生じた大規模停電時も、西日本からの融通の制約となる連系線容量不足問題がクローズアップされた。東京・中部間は、現在運用容量210万kWであるが、定検中30万kW・使用中120万kWのなかで、60万kwが緊急融通に利用された。2027年度末までに300万kWまで拡張される予定。東北・東京間は500万kWの容量に対して、地震の影響で1/2の250万kWで運用中であった。2027年度末までに1000万kWまで拡張される予定。どちらも増強中のなかで起きた事故であった。

 連系線や基幹送電線の増強は、カ-ボンニュ-トラル実現ためにも不可欠である。洋上を含む風力資源は東北・北海道で豊富であり、分散型で災害に強く、太陽光を補完することから前倒し大量導入が不可欠となる。

判明した東電PGのオペレート能力

 需給調整のラストリゾートとなる東電パワーグリッドは、供給力不足の中で信頼できるグリッドオペレーターであると感じた。天候変化による需要変動、供給量や揚水の予想、要請する節電・自家発焚き増しの量の想定と実現率の予想等を時々刻々行う。需給に係る予想(シミュレーション)やオペレーションのノウハウを蓄積していることが窺われる。図1にみるように節電、自家発焚き増し、揚水を含む需給状況をリアルタイムで把握し、見える化している。警報発令3日後となる25日の政府委員会に詳しいが分り易いデーターを提供し、今後の議論の参考としている。

常態化する供給力不足 原発未稼働下での電源投資停滞

 今回の「始めての警報」は、特殊な状況下での発令とはいい難い。最大需要は2日前の予想に比べて約500万kW増であるが、当初の3月予想最大値に比べると300万kW増である。地震が発生した18日に比べて復旧が進み地震で停止した発電機は110万kWに縮小していた。しかし、当初想定の3%程度の予備力200万kW弱は備えとしては低水準である。予想の少しのブレでも危険領域に入ってしまう。

 東京エリアの夏季・冬季の予備率は危険ラインとされる3%を切ることが常態化しつつある。福島原子力発電所が廃止となり(第一6機・計470万kW、第二4基・計440万kW)、柏崎苅場発電所(7機・計820万kW)も再稼働実現には遠い状況の中で、火力発電の新設は滞っている。3.11東日本大震災直後は、非稼働原発の代替電源として多くの石炭火力発電が東日本に計画されたが、CO2排出増加への懸念から環境アセスが厳しくなり、その多くは頓挫している。再エネは増えているが、太陽光が突出しており、昼間の天候に左右される。

発揮された揚水効果 導入が急がれる風力と柔軟性

 夜間を含め日照状況に関係なく発電する風力は非常に有効であるが、導入は大きく遅れている。特に東京エリアは風力の適地が少なく、風況のいい東北・北海道との連系線容量不足が制約となる。東北・北海道の前倒し開発に加えて、多少風速が低くとも東京エリア内の立地を誘導することも真剣に考えるべきであろう。また、東京エリア内でバイオマスや水力の開発も価値がある。

 こうしたなかで、大規模容量が存在する揚水式水力発電は、重要な調整手段である。今回はその有用性が確認された。今後、充放電のスケジュール、それを決める予測力、ダムの運用等より一層の改善が期待される。

 一方、日本には柔軟性を専門に提供する中・小規模火力発電の新設が少ない、政策上の位置づけ・イメージも明確でない。卸市場が未整備で、需給調整市場も漸く立ち上がりつつある状況の中では、運用・ビジネスの予見性に欠けるという課題もある。

本当に不足しているかの検証が必要

 一方、本当に供給力は不足しているのかの検証も必要である。市場が未整備で価格機能が不十分であるとされるが、これは予備力や柔軟性の価値を見え難くし、既存設備の回収や投資の停滞を招いているのではないか。供給力にカウントされない休止電源が多く存在するが、価格機能が向上すれば価値を発揮でき供給力に再編成されるものがあると考えられる。また、供給力に含まれるが、燃料制約等により「計画外停止」や「出力低下」に分類して利用可能量から落ちていないか、注視する必要がある。最近の燃料価格高騰のなかで、燃料制約等を理由に意図的に停止・出力低下している大手事業者が存在するとの指摘もある。

最後に 需給ひっ迫の本質:エネルギ-政策先送りのツケ

 日本の電源開発は、総体として停滞している。原子力は、再稼働の見通しが不透明ではあるが、大規模な設備が存在し、政策シェアは2割程度を維持している。一旦稼働すればベース電源として優先的に給電される。他の電源であるが、原発代替のベース電源として開発の動きがあったが環境との絡みで停滞している「石炭」、ブリッジテックノロジーとして活躍する可能性はあるが柔軟性提供の視点に欠ける「LNG」、主力の位置づけにはなったが中途半端で太陽光が突出する「再エネ」と整理できる。再エネは洋上風力が切り札に浮上し期待が高まったが、ラウンド1選考の不手際で冷水が浴びせられた状況にある。

 エネルギ-政策の憲法ともいえるエネルギ-基本計画は、原発とどう向き合うのか、脱炭素や自由化についてどの方向を向いているのか、長年曖昧な状況に置かれている。これが、予見性の低下を招き、供給力不足を招く主因となっている。原子力の曖昧な扱いが代表であるが「真正面からのエネルギ-政策論議を避けてきたツケ」が回っていると言える。

 ここにきて、ウクライナ侵攻等を背景に資源価格が高騰し、安定調達の懸念も生じている。石油危機が想起されるような情勢である。今回の「始めての逼迫警報」は、「需要家の信じられない協力」と東電PGの頑張りとで乗り切れたが、先送りできない構造的な課題の発露・シグナルと捉えるべきである。東京エリア問題は全国問題を先取りしていると考える。エネルギ-問題解決は最大の国策であるとの認識を改めて持つ必要がある。