Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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No.319 ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の現状と可能性について

2022年6月9日
京都大学大学院経済学研究科 客員研究員 末松広行

キーワード:ソーラーシェアリング、営農型太陽光発電、固定価格買取制度、食料安全保障

 現在、再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)において、発電された電気を国が定めた価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付けているのは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスについてである。

 再生可能エネルギーが生産される場所は農山漁村である場合が多く、バイオマス発電以外の再生可能エネルギーにおいても農山漁村での農林水産業との関係が論点となる。

 今回は、ソーラーシェアリングについて、その特徴と課題について記してみることとする。



 太陽光発電は、ソーラーパネルを設置することにより太陽光を電気エネルギーに変えるものであり、要はパネルの面積が発電の多寡に直結する発電方法である。

 したがって、屋根に置くものではなく何らかの土地の上に設置する際は、これまではそれまでの土地利用の用途を発電用の用途に変更することにより発電することとなっていた。

 これに対して、営農とともに太陽光発電を行う例が出てきており、これをソーラーシェアリング、営農とともに発電を行うという意味で営農型太陽光発電という。

  基本的な考え方は、

・農地に支柱を立てて太陽光発電を行う
・設備の下では従来通りの農業を行う
・エネルギー事業で農業者の所得が増加
・農業生産も維持

ということになる。

 いわゆるメガソーラーとの違いは、農地に設置する場合、その土地全体をメガソーラー用の土地に「転用」するのではなく、一部について「一時転用」の手続きをするだけで基本的には農地としての扱いが継続することである。

 営農型発電設備を設置するための農地転用許可件数は増加してきており、今後太陽光発電の中で一定の割合を占めるようになることが想定される。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は農業上マイナスか

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)については、取り組みの促進について、令和2年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画にも位置付けられている。

食糧・農業・農村基本計画(令和2年3月31日閣議決定)抜粋

第3 食糧、農業及び農村に関し総合的かつ計画的に講ずべき施策
3.農村の振興に関する施策 (1)地域資源を活用した所得と雇用機会の確保 ③ 地域経済循環の拡大 ア バイオマス・再生可能エネルギーの導入、地域内活用

 農村の所得の向上・地域内の循環を図るため、地域資源を活用したバイオマス発電、小水力発電、営農型太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入、地域が主体となった地域新電力の立上げなどによる再生可能エネルギーの活用を促進する。(以下略)

設備形態の分類

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の設備形態としては、おおまかにいって藤棚式とアレイ式に分類される。

藤棚式は、

・モジュールを均等に配置
・遮光率が均一化
・施工の手間は増加
・設置コストは比較的高め

という特徴があり、アレイ式は、

・野立て架台の支柱延長
・遮光率にムラが発生しやすい
・施工の手間はそれほど増加しない(いわゆるメガソーラーの設置に比べて)
・設置コストは比較的安め

という特徴がある。





実際に収穫はどうなるのか

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を実施して、実際に農業としての収穫はどうなるのであろうか。

 いくつかの事例が動きだしており、「これまでの農業生産とそれほど遜色のない生産ができている事例も多くある。」ことがわかってきた。

 秋田県において、遮光率31%で行った枝豆の栽培では、慣行栽培で10a当たり1,099kg収量があったものが838kgであった

 静岡県において、遮光率36%で行ったキウイフルーツの栽培では、10a当たりどちらも1.8tの収量が確認された。

 従来どおり、または少し減少するくらいの収穫が確保できるとすれば、その農地は農産物を生産するという農地本来の機能を果たしつつ、電気も生産できるということになる。

 作物の種類と営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の設備によって異なる結果が生まれることから、どのようなやり方がいいのかについては、検討を深める必要がある。

法規制と促進策

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は、営農の適切な継続と農地の上部での発電をいかに両立していくかが取組の鍵となる。

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)設備の設置には農地法に基づく一時転用の許可が必要であり、これをクリアすることが必要になる。

 この一時転用の許可については、平成25年に取扱いを明確化したところであるが、平成30年5月に農地転用許可の取扱いを見直し、担い手が営農する場合や荒廃農地を活用する場合等には一時転用許可期間を3年以内から10年以内に延長することとなっている。

 このように許可制度を整備するとともに、優良事例の周知することも行われており、「いい営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は促進していこう」という政策となっていると考えられる。

収益はどうなるのか

 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が理想的に実施される場合、農業での収益と発電での収益が得られることになり、その土地に関してはそれまでよりも多くの富が生み出されることとなる。

 発電の収益については、発電の主体がどうなるかによって直接の帰属先は異なることとなり、農業者が得る場合と、農業者に賃借料などを払いつつ発電事業者が得る場合がある。

 いくつかの先行事例では、いずれの方式よるかにかかわらず、その農地で得られる収益は増加し、そこで農業をしている農業者の収益も増すことが確認されている。

必ずうまくいくのか

 先行事例の優良事例では、農業との両立ができつつ、収益も増大するということが実現しているが、実際にはトラブルも発生しているし、心配な点も多い。

 一つは、設備設計が不適切で栽培に失敗するということである。

 地域ごとに農作物の生育条件は異なっているが、その状況を踏まえず取り組みを進めてしまうことにより失敗したり、設備の下で営農する側の知識が不十分だったりすることがある。

 また、営農に対する認識が不誠実でサカキ(日陰でも育つ)などが育てばいいという認識で事業に取り組む例もある。

 次に、台風などで設備が損壊してしまうこともある。

 これは架台メーカーや施工業者の知見が不十分であったり、設置後の責任関係が不明確でトラブルが発生することがある。

 さらには、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)といいながらそもそも設備下での農業を行っていない例もあるとのことである。

 このような点を解決して、悪い事例が発生しないような仕組み作りが重要であると考えられる。

政府の動き

 農林水産省では、今後営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が重要であるという認識のもとに、「今後の望ましい営農型太陽光発電のあり方を検討する有識者会議」設置して検討を開始した。

 課題の把握を行ったのちに、今後行政として行うことを検討している。

結びに

 再生可能エネルギーの重要性は今後ますます増加し、太陽光発電についても適地が限られていることから営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は重要な発電源となることが期待される。

 農地は貴重な食料生産のための基地であり、その機能はこれまでの長い投資や制度で守ってきたという背景がある。この機能を壊さないで再生可能エネルギーも生産するといういい事例を積み重ねていくことが極めて重要であると考える。