Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

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No.380 洋上風力第2ラウンド、事業意欲を削ぐ価格評価ルール

2023年6月27日
京都大学大学院経済学研究科 特任教授 山家公雄

キーワード:洋上風力、第2ラウンド、ゼロプレミアム、供給価格上限、FIP

 今月末に洋上風力第2ランドの入札が締め切られる。脱炭素・再エネ大量導入の切り札として大きな期待が寄せられる洋上風力であり、第2ラウンドへの関心も高まっているが、事業者は応札すべきか否か苦悩している。入札評価総点の1/2を占める価格評価ルールが極めて厳しいのである。筆者は昨年8月に本コラムにて警鐘を鳴らしていたが、現実となっている。今回は、改めてこの問題を取り上げる。

1.第2ラウンドの肝:ゼロプレミアムと供給価格上限

 ラウンド1は、三菱商事グループが驚愕の低価格で3か所を総取りした。FIT枠組みでのFIT価格(調達価格)を競った訳だが、kWh当り11.99円~16.49円での落札となり「価格評価」で決まった。価格偏重、事業者の多様性、運開時期、地元意向、評価の透明性、港湾利用等多くの課題が指摘され、異例のルール見直しとなった。定性(事業実現性)評価では、いくつかの変更が図られたが、評価点の骨格(構成)は不変であり筆者はあまり改善していないと理解している(「No.323 洋上風力入札基準見直し② 価格総括なしの見直しで増す不透明感」)。迅速性、多様性、港湾利用を主に異様に複雑なルールとなり、当事者でなければ理解途中で匙を投げるようなレベルである。事業者は綿密なシミュレーションと戦略が要求される。

最高評価点価格3円は最小収入保証価格

 一方、価格評価は、「FIP制度」が導入された。「実績のない一般海域での事業に対して時期尚早である」との意見を押し切って調達価格等算定委員会で導入が決まっていた。しかし出てきた案は、「当初はFIT価格を基準価格とする」という日本版FIP方針から大きく逸脱し、「市場価格を十分に下回る最高評価点価格3円」が提示された。FIP基準価格3円でオファーすると満点の120点が獲得出来るので、どうしても落札したいと考える事業者は赤字となっても3円の札を入れることになろう。FIT価格(LCOE+適性利潤)とはかけ離れた水準である。

 これは市場価格がどうあれkWh当り3円の販売価格を保証するというものである。月平均卸スポット価格の実績では3円は最低レベルとなり「プレミアム」は期待できない(「No.330 洋上入札評価見直し④:日本版FIP適用で価格競争激化」)。「国民負担」は生じないとの説明はできる。

FIPの直接販売原則に制約を課す19円

 一方、FIPの場合、卸市場や相対契約での「直接販売」となり、市場価格が高騰する場合はプレミアムなしでも高収益を確保できる、環境(CO2フリー)価値を評価する顧客が高い相対契約を締結してくれることも期待できる等の考え方も理論上はありうる。いずれにしても予想市場価格に規定され、それと事業の実コストとの比較となる。プレミアムゼロで市場に委ねる「マーチャントプラント」的な性格となる。直感的にも、実績のない洋上風力には非常に厳しい前提となることが容易に想像できる。

 最終的に調達等価格算定委員会で提示されたルールにて「供給価格上限額」は19円/kWhとされたが(モノパイル方式)、これは決定的である。ラウンド1の29円/kWhから大きく低下している。その間、ポストコロナ、ウクライナ侵攻等で資材、労働、金融価格は大幅に高騰している。因みに、欧州での風車の製造コストは2年前と比較し、約40%UPしている。日本における現在の風車の購入価格レベルは約20万円/kWである。調達価格等算定員会は、供給価格上限額(19円)の根拠として、資本費(接続費を含む)を35.4万円/kWとしているが、通常、資本費に占める風車の比率は30%前後であり、風車が20万円/kWで、残りのBOPを15.4万円/kWで実施できるのだろうか? 

 どのような計算からこの水準が出てきたのは不思議である。19円/kWhで事業性が確保できるとの根拠は何処にあるのか。市場高騰が長く続きプレミアムゼロでもぎりぎり回収できるかもしれないという「藁をもすがる」希望も打ち砕くものと考える。市場原理を無視した高額な相対契約が登場すると、消費者に転嫁され、やはり「国民負担」が生じる。政府は批判を恐れ、慎重に可能性の芽を摘んだということであろう。

2.風車需給ひっ迫で入手が困難に

ウクライナ侵攻後に相次ぐ再エネ目標引き上げ

 より根本的には風車を確保できるのかという問題がある。ウクライナ侵攻以降、欧州を主に再エネ開発計画は格段に上方修正され、事業当たりの規模も更に大きくなっている。欧州委員会は 2022 年 5 月にロシア産化石燃料からの脱却計画である「REPowerEU」 を発表した(「No.316 欧州の脱炭素・脱ロシア対策「リパワ―EU」)。英国は 2030 年50GW、ドイツ・デンマーク・オランダ・ベルギーは2050年150GWに上方修正するなど、欧州各国・地域において洋上風力発電の導入目標の引き上げが相次いでいる。この流れの中で米国、中国、インド等も目標が拡大している。

 また、欧州等の広いエリアで多数区域での同時入札という「全国区選挙型」と、日本の地元合意ができたところから逐次入札という「小選挙区選挙型」とでは、ひっ迫する風車需給の中で提供してもらえない可能性は高い(「No.378 英国スコットウィンドの公募海域指定時の戦略アセス -洋上風力のEEZ展開③-」)。また、1区域でも最低100万kWは必要となるなか、日本の40~50万kWでは規模が小さい。風車需給ひっ迫は、調達コスト高騰を引き起こす。

 因みに、現在の欧州における風車の調達可能規模は約7GW/年であり、上述の欧州の目標を実施するには年間20GWの規模が必要となっており、風車は逼迫している。

3.待ったなしの事業者意欲を呼び戻す政策

 以上のような状況下で、ラウンド2の入札期限が迫っている訳であるが、事業者の苦悩は察して余りある。外資を含めて応札を見送る判断を行った事業者は少なくない。報道にも見られるし筆者も直接聞いている。脱炭素でも、産業化でも、そして将来の事業面でも、初期のラウンドで落札したいと考える事業者は多いであろうし、ジャイアントによる専業事業者を巡る高額のM&Aも話題になっている。関連産業もビジネスチャンスと捉え巨額の投資を開始している。せっかく盛り上がった期待が急速に萎むことが懸念される。政府は「脱国民負担」一本槍ではなく、民間活力を上手に発揮することにも是非とも留意してほしい。

 あり得ないとは思うが、事業者が誰も応札しないことも想定される。それはそれで非現実的な価格評価ルールへの警鐘効果が期待され、悪いことではない。「成功だった」としてラウンド1落札価格の総括を怠ったツケが回っている。いずれにしても、早急に事業意欲を繋ぐルール、風車を購入できる仕組みの早期実現が不可欠であり、政府が理解してくれることを切望する。