Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2019年10月28日(月)の部門A研究会 議事録

2019年10月28日(月)
於:京都大学法経済学部東館 地下1Fみずほホール

 2019年10月28日(月)15時~18時、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A第3回研究会が、京都大学にて開催されました。今回の研究会では、東京電力ホールディングス株式会社経営企画ユニット系統広域連系推進室長 穴井 徳成 様と東京理科大学工学部電気工学科 准教授 山口 順之 様に発表をしていただきました。

再生可能エネルギーの電力システムへの統合のための新たな取り組み

穴井 徳成 様

 今回の取り組みが決まった経緯に、まず発送電分離(法的分離)が決まったことがある。2013年に社内での分社化、2016年に正式な分社化が実施された。垂直統合の分離により、今までのように発電送電系統の一体の設備形成・運用ができなくなり、効率化に限界があると感じた。では今後はどう効率化していくか。東電は2017年のエネ庁研究会にて、今回の千葉の取り組みの考え方を提案した。千葉方面では再エネの連系需要が多くあった。当時はまだ混雑管理や費用対便益評価のルールが全国的に確立していないので、試行的な取り組みを実施した。

 発送電事業者間の役割分担について、今後は発電事業者は需給・系統制約による影響を自ら評価して銀行に説明して資金調達を行い、投資の意思決定を行う。送配電事業者は、市場参加者への(系統制約に関する)情報を開示する。それを用いて各市場参加者は需給のシミュレーションを行う。発電事業者も需給・系統制約による影響を自ら評価・判断し、多様な事業戦略を選択する。送電会社は実績データを開示する。不確実な送電線投資計画・作業停止の情報も公開する。10月1日から情報を順次開示し始めた。発電に関する情報は、守秘義務契約を結んだ上で開示している。

 日本版コネクト&マネージ(C&M)について。費用対便益の低い設備増強は回避し、電源・流通全体でのコスト最小化を図る。混雑管理(電源差替・再給電)をすれば、系統増強をしなくても再エネを接続できる。基幹系統に関しては、現行ルールでは最も過酷な条件で想定潮流を計算していた。しかし今後は混雑があれば、全額特定負担で増強を認めるが、それに加えてエリアごとにC&Mを行う。年間8760時間の実潮流の想定(シミュレーション)・費用対便益評価・系統信頼度評価を行う。

 具体的な取り組みとして、今回は佐京連系を対象に、実潮流ベースで評価した。なぜ千葉に適用しようと思ったか。もともとは空き容量ゼロのエリアだが、接続要求は洋上風力も火力も太陽光からも沢山来ていた。従来は発電所から千葉県外への電源線を新設するので、800~1300億円かかると回答していたが、これは事実上の事業断念を引き起こしていた。他方で低圧に関しては、容量が小さいのでこれまではすべて受け入れていた。しかし総計すると60万kW以上にもなり、合計容量は大きくなっていた。これまでは最も過酷を想定し、平常時に系統混雑を起こさないという考えで想定潮流をみていた。今回は、全国メリットオーダーシミュレーションを1時間ごとに1年間実施して潮流を計算した。全国の発電機はユニットごとに模擬して、AFCは2%をエリア毎に確保するという想定だった。ABBの既にある潮流計算モデルは有名だが、試行錯誤する際に条件・制約を変える必要があるので、今回は自前で作成した。基本的には市販のものを使っても同じような結果が得られる。デュレーションカーブの原型は、月別の潮流計算がある。1月~2月が一番厳しいことがわかった。意外と真夏ではなかった。太陽光や風力が入ってくる状態の系統の需給は、実際に分析してみないとわからない。シミュレーションの条件は公表している。このように、東電は欧米の先進事例を参照しながら、再エネの統合に向けて先進的な検討を進めてきた。このような取り組みは、今後は茨城県のような他のエリアにも広げようとしている。

pdf発表資料(2.67MB)

分散型PV余剰電力取引システムにおける配電系統混雑管理
~ブロックチェーンの使い方の一検討~

山口 順之 様

 今後も太陽光の導入が見込まれるが、現行の系統運用ルールの下では、既に系統に接続されている火力発電所やベースロード電源は出力抑制されず、新たに系統に接続される再エネが出力抑制される。太陽光発電が余っている時間帯に出力抑制することはもったいないことだ。そこで、追加的に電気を使ってくれる人(電気設備)を探すことで、需要を時間的にシフトさせたい。例えば空調や換気・上下水処理が対象になる。さらに将来は、EVや蓄電池のような電力設備を賢く使いたい。今までも、電力会社は負荷平準化し、やれるところはしっかりやってきた。今後は、「電気を安く売る。電気が余ることを連絡する。売り手と買い手をマッチングする。自動的に制御する。精算をする。」といったニーズがある。これらの課題に応えるものとして、仮想通貨の基盤技術であるブロック・チェーン(BC)を使って電力取引をするというアイデアが考えられる。

 BCとは、分散型台帳技術のことだ。台帳を分散して持つということだ。メリットとして、改ざんが極めて困難になる。さらに、どこかが壊れてもどこかが動いているのでゼロダウンタイムであるという点もある。どこまで安くできるかは未知だ。これまでは真ん中にサーバーがあったが、これからは全部のデータを各主体が持つ。過去の情報を暗号化して、書き込んで次の情報にするチェーンのような処理をしている。スマートコントラクトとは、プログラミングできる契約のことだ(例:自動販売機)。メリットは、契約内容は改善できないこと、訂正の上書きはできること、契約に基づき自動的に送金できること、仲介者は不要になるため、詐欺や二重売買などの仲介トラブルは減ることなどだ。

 私の研究室では、Ethereum(イーサリウム)というスマートコントラクトが使えるBCのシステムを研究している。これを電力取引に応用しようとしている。イーサリウムはトークンを発行できる。これを余剰電力と等価として結びつける。例えば1時間前に太陽光に20%の抑制命令が出たら、PV容量20%分のトークンを付与する。ここからはイメージはトランプのババ抜きのようなもので、トークンの保有者が1時間後までにトークンの売り先を決めなければ結局出力抑制される。イーサリウムは、仮想空間上に配電所ごとに取引所を(スマートコントラクト市場)をつくる。買い手は、蓄電池や電気自動車の充電に使う。系統側からみると抑制されているように見られるので、迷惑をかけない。

 ノーダルプライスを用いて最適潮流計算を行うことができる。ただし従来の手法では、最適潮流計算・約定処理に多額の手数料がかかった。さらに外部取得した情報には真正性が無かった。しかしオラクルを用いれば、安価で真正性のある情報を外部取得可能になり、外部の情報と中のものをつなげることができる。オラクルを介して、気象データや潮流データをイーサリウムに入れればいいのではないかと考えている。

 実験モデルを用いた分析によると、配電線の制約を逸脱しないように取引できることがわかった。ノーダルプライスにより、電圧の制約条件をみたして取引できる。日本のデータは利用可能でなかったので、マンチェスターの配電系統のデータをもらって計算した。

 まとめると、私はBCによる取引市場の構築を進めている。これまでのシステムが抱えている、適正コストで運営されていても証明が困難な点、大量の小口取引の処理が必要な点、送電制約の考慮が必要な点などの問題に対処することができる。今後の課題としては、
 ・需給予測が外れた場合の補填の検討
 ・BCとスマートメータなどの外部デバイスとの連携手法の検討
 ・電力取引後の電力消費・出力抑制を適切に行えなかった場合のペナルティの検討
といったものがある。

pdf発表資料(3.86MB)