Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2020年7月20日(月)の部門A研究会 議事録

2020年7月20日(月)
於:Zoomオンライン会議

 2020年7月20日(月)16時半~18時、再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会に関連する特別講演がZoomオンラインという形で開催されました。今回は、京都大学大学院経済学研究科特任教授兼エネルギー戦略研究所株式会社取締役研究所長の山家公雄先生より発表をしていただきました。

新型コロナ禍がエネルギー情勢・政策に及ぼす影響について -EUのグリーンリカバリーとは何か

山家公雄先生

 本日は新型コロナウイルス禍による世界のエネルギー需給への影響とEUにおける復興対策(グリーンリカバリー)について、IEAやドイツで公表されている情報を元に発表する。

IEAとドイツのデータから見る新型コロナ禍がエネルギー情勢に及ぼす影響

 2020年4月にIEAが発表したGlobal Energy Review 2020によると、新型コロナウイルス禍により、ロックダウン等の措置が図られた結果、2020年の一次エネルギー需要は6%減で、戦後最大の減少率となり、資源別では化石燃料は軒並みマイナス(産業用・輸送用需要が大幅減)、低い限界費用ゆえ、再生可能エネルギー(以後、RE)は1%弱増加した。その結果、同年のCO2排出量が8%減、電力需要は5%減(大恐慌以来の減少率)と予測される。2019年に低炭素電源が石炭を上回ったが、2020年は低炭素電源のうち、太陽光・風力の発電が急上昇する見込みである。

 次に、2020年Fraunfoherデータでドイツの新型コロナウイルス禍の影響を検証する。2020年の2月以降、RE電力の割合が毎月50-60%を占めるようになり、2030年目標(RE電力比率65%)を前倒しで達成する勢いである。卸市場価格は2.3セントを割るようになり、過去に例を見ない低下である。低価格の理由は、柔軟性の不足、発電所の採算性が厳しいこと、FIPのマイナス価格6時間ルールによる。

コロナ禍に対するEU、ドイツの復興対策

 EUでは、2020年5月17日に、メルケル首相(ドイツ)とマクロン大統領(フランス)がTV会議による共同記者会見を行い、5000億ユーロ復興基金を提案し、同月27日、ライエン欧州委員長が欧州復興基金「Next Generation EU」(7500億ユーロ)案を発表した。同基金案の内訳は5000億ユーロが返済不要の補助金、2500億ユーロが融資で、次期中期予算案(2021-27年)に組み込まれる。事実上、EU初の共同債で、返済原資は将来のEU収入(2028-58年)が充当される。本基金は、1)投資・革新促進策、2)民間投資促進策、3)新型コロナ危機の教訓措置の3本柱から構成され、1)には、Green DealとDigital Transitionが柱となる「復興・回復ファシリティ(Recovery and Resilience Facility)」が含まれ、総額5600億ユーロ規模となる見込みである。このファシリティは、2020年6月にEU理事会・欧州議会で正式に採択された「持続可能金融規則(タクソノミー規則)」が厳格に適用されることになる。

 一方、ドイツでは、コロナ対策パッケージ(1.3兆ユーロ)の他、復興対策として1300億ユーロが追加され、うち300億ユーロは、RE賦課金の安定化やEV免税など、環境・エネルギー分野への支援に充当される。REへの財政支援はないが、洋上風力目標値の引き上げや太陽光発電EEG上限値を撤廃することで、投資を誘発する。

日本への示唆

 日本のコロナ禍復興政策は止血策が中心で、前向きな施策はまだ見えない。資材調達・行政手続き遅延等で、RE事業は停滞気味であり、2020年3月には、温室効果ガスの排出削減目標の据え置きを決定した。コロナ禍復興を機に、将来有望な環境・デジタル分野への投資を促進し、景気回復を実現させようとするEUとの格差が拡大する懸念を持つ。日本もファイナンス分野を整備し、環境・エネルギー分野への投資を推進させ、経済を活性化させていくことを検討すべきと考える。

注:各種報道によると、7月21日に、EU首脳会議は7500億ユーロの「復興基金」創設に合意した。財政規律を重視する「倹約4か国」の主張「全額融資とすべき」を考慮した形で、3900億ユーロが補助金、3600億ユーロが融資という比率に修正された。

pdf発表資料(2.37MB)