Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2020年10月26日(月)の部門A研究会 議事録

2020年10月26日
於:Zoom会議室(オンライン)

 10月26日(月)14時00分から20時まで、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会がオンラインで開催されました。今回の研究会では、エネルギー戦略研究所の永田哲朗先生から特別講演を頂いた後、ブルームバーグNEFの黒崎美穂氏と菊間一柊氏、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会事務局の恒藤晃氏、大阪ガス株式会社ガス製造・発電・エンジニアリング事業部の福田善公氏からご発表頂きました。

風力発電の情報プラットフォームと産業政策

永田哲朗先生

 風力発電の情報プラットフォームの意義と産業政策について発表する。日本で風力発電の平準化効果を実証するため、中立機関が風力事業各社と秘密保持契約を締結の上、各社より運転実績の提供を受け、効果を集約したところ、電力会社もその効果を確認できた。また、風力・太陽光の設備量の増加に伴い、稼働率向上が焦点となったことを受け、中立機関が診断技術等の高度化、システム開発、プラットフォーム構築を行った結果、運転維持費の低減、事故の低減、設備利用率の向上、保険料の減額というメリットが産業界全体で共有された。英国ではカーボン・トラストが運営する洋上風力開発支援のプラットフォーム「Joint Industry Project:JIP」に、欧州有数の企業群が参加し、個別に取り組んでいた技術・経営管理上の課題を、JIPの場で解決することを目指した。陸上風力で出遅れたオランダではゾーニングの標準化と入札、電力系統への接続保証、買取価格に対する政府補償により、2020年までに2010年比40%というコスト削減目標を掲げた。台湾では風力拡大政策として設置地域と導入量を定め、外国企業を積極的に誘致し、高い国内調達比率を要求した(最近、比率への批判が出ている)。日本では2020年2月、「日本洋上風力タスクフォース」が立ち上げられ、同産業育成やサプライチェーン構築を目指すことになった。英国のJIP方式の有効性、英国や台湾並みの国内調達比率によるコストダウンの可能性、国内・地場産業振興の要請とのバランス等、様々な検討事項がある。

 従来、特許制度、著作権等で保護されていた情報や技術は限界費用ゼロの公共財になりつつあり、情報や技術の集約・蓄積は意図的に収集するプラットフォームか、自動的に収集するGAFAやビックデータ・AI等を通じて行われ、新たな「集合知」を生む。しかし、中立性、成果配分のルール、競争環境の維持(独禁法、自由貿易、国内調達比率等)が課題となるだろう。

pdf発表資料(6.17MB)

グローバルと日本の太陽光発電コスト分析

黒崎美穂氏・菊間一柊氏

 ブルームバーグNEF(BNEF)では、年2回、再生可能エネルギー(以下、再エネ)のコスト分析を行っている。本日は世界市場の風力・太陽光発電のコストと日本の太陽光発電コストの最新分析結果を発表する。

 世界市場では、過去10年間で太陽光モジュール、風力タービン、リチウム電池の価格は低下し、効率性が上昇している。2020年上半期、全世界の3分の2の人口(全GDPの72%)の国々では、再エネは新規の電力の中で最も安価になっている。過去10年間で、安価な再エネ(太陽光と風力)への投資は年々増加し、ガスタービン数を減らす動員力となっている。一方、原油価格の下落により、2020年以降北アジア(日韓)では石炭からガスへの転換が起こっている。アジア市場(特に中印)では、入札制により再エネコスト(太陽光と陸上風力)が低下してきており、発電所の平均的規模が太陽光も陸上風力も拡大傾向にある。2020年上半期のグローバルのCAPEX(太陽光・風力)については、風力は機器コスト比率が大きく、太陽光は機器以外のコスト比率が大きい。最近、系統費用の各国比較を始めたところ、送電線費用がかなりかかっている。一方、洋上風力は累積で3GW入ってくる国(英国等)では、系統費用が下がってくる。

 2020年上半期の日本の太陽光LCOEは、中印豪米独英と比較し、最も高く、その幅も大きい。理由は初期FIT下の未稼働案件から最近の入札によるものまで存在するためと考えられる。MW規模の太陽光発電事業のCAPEXを、韓台と比較すると、日本が最も高い。理由は発電設備のバランス費が高いためである(しかし、設備費用は国内調達比率制約のある韓台より安い)。日本のCAPEXは土地造成費や(大手の)EPCマージン費が高く、OPEXはメンテナンス費用、土地、保険代等が高い。新設太陽光のLCOEは現在一番高いが、2020年台後半からガス、石炭、陸上風力より安くなる見込みだが、運用維持費は2050年に向けても既存石炭火力より高い状態が続くだろう。系統連系費は場所や空き容量次第で価格が変わる。今後導入予定の発電側基本料金が加わった場合、LCOEが8-16%程度上昇するだろう。日本のコストは依然高止まりしているが、中小規模のEPC活用等、発電事業者側がコストを削減する余地はあると思われる。さらに発電所の立地の規制緩和(所有者不明の土地利活用等)もコスト削減の後押しになるだろう。

再エネを主力の電源にしていくために電力市場に関して今後検討すべきいくつかの課題

恒藤晃氏

 本日は、変動性再エネ電源(太陽光・風力)の特性、1)発電量が天候に左右される点、2)発電量の予測が大きく外れることがある点(特に太陽光)に上手く対応する仕組み(電力市場)に関して今後検討すべき課題について発表する。

 1)に対しては、価格メカニズムを通して発電量に合わせ需要をシフトさせることが重要である。需要側が卸市場価格に反応して、価格が高い時に節電し、低い時に沢山使うといった取り組みの拡大で、より効率的に電気が利用されるようになる。現在、スポット市場においては、電力・ガス取引監視等委員会による、適正な取引量の確保、FIT分の入札価格の見直し、事業者への働きかけ等により、再エネの稼働状況が価格に反映されるようになってきた。しかし、時間前市場やインバランス料金については、まだ課題がある。2018年12月以降、エリアプライスが0.01円となるコマが増加しており、太陽光出力抑制の実施が卸市場価格に反映されていると考えられる。時間前市場については課題がある。本来、スポット市場(前日10時)以降に発電・需要予測に変化があった場合、同市場で調整され、価格に反映される。しかし、現状、FIT特例1と3の発電計画は前日12時以降変更しないこととされているため、発電量予測に変化があっても、時間前市場の価格には反映されない。再エネも通常の電源と同様に、発電バランシンググループが自ら発電計画を策定し、時間前市場も活用して直前まで発電計画を精緻化することが好ましい。さらに現インバランス料金は、エリア毎・コマ毎の状況を反映しないケースがあり得、実際にそのようなケースが発生している。そのため、2022年度から、需給調整に用いられた調整力のkWh価格に基づき算出する新たなインバランス料金制度に移行する。また、需給ひっ迫時にインバランス料金が上昇する仕組みを導入し、将来的に価格メカニズムを通じた需給調整が図られるようになることを期待している。実需給において発生した電気の過不足については、送配電事業者が調整用の電源に指令して発電量を調整し、系統全体の需給バランスを維持する。

 2)に対応するために、送配電事業者は調整力として、かなりの量のバックアップ(火力等)を待機させている。現在、変動性再エネ電源の発電量が予測より下振れすることに備え、一定台数の火力をバックアップとして起動させているが、予測が当たった場合、その多くが無駄になっている。この無駄を減らすために火力のバックアップ量を決める仕組みの改善、予測精度の改善、予測外れへの対応コストも考慮した再エネの選択、火力の柔軟性の向上等の対応が必要である。

大阪ガスの再生可能エネルギー電源開発の取り組みと今後の方向性

福田善公氏

 本日は、当社の再エネ電源開発の取り組みと今後の方向性について発表する。2030年度の発電・電力販売は、国内外900万kWを目指す。当社の電力事業モデルの強みは、1)LNG調達、LNG基地、O&M体制等ガス事業バリューチェーンとの連携により、安定かつ低廉な天然ガス発電事業を実現し、競争力の源泉とすること、2)電源最適運用、需要予測、リスク管理等、綿密な需給管理や電力トレーディングにより、収益機会を着実に確保すること、3)ガス事業で培った販売力により、利益率の高い家庭用需要を中心に小売販売先を獲得することである。

 近年、社会の脱炭素化ニーズ、競合の激化、電力システム改革の進展、再エネ開発の拡大など、事業環境は大きく変化しており、当社のビジネスモデル転換の必要性が生じている。当面の主力電源であるLNG火力と、将来的に主力電源となり得る再エネを組み合わせた電源ポートフォリオを形成しつつ、他サービスとの組み合わせなど、現在の強みに新たなチャレンジを取り込み、ビジネスモデルの転換を図ることで持続的成長を実現する。今後、再エネ電力調達(電源開発・電力買取)の拡大、低環境負荷やエネルギー分散化など、多様化する需要家ニーズに応える販売メニューの準備、及びそれらのニーズを持つ顧客へのアプローチが必要と考えている。

 当社では、FIT導入以前から再エネ開発に取り組んでおり、現在までに陸上風力発電、バイオマス発電を中心に国内50万kWを超える規模(建設中含む)まで再エネ容量を拡大している。今後、卒FIT後を見据え、限界コスト目線で考えた場合、太陽光、陸上風力、洋上風力という順になるが、一方でベース電源としてのバイオマスも引き続き一定の役割を担う。FIT終了以降のバイオマス電源の競争力確保を見据え、余剰材などの国産材を安価で安定的に確保することを目的とした「グリーンパワーフュエル」を設立した。森林管理が行き届いていない山林へのアプローチや、安価な燃料種(建廃、RPF等)を通じ、卒FITも見据えた持続可能な燃料供給の礎を築く。

pdf発表資料(3.33MB)