Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2021年1月25日(月)の部門A研究会 議事録

2021年1月25日
於:Zoom会議室(オンライン)

 1月25日(月)17時00分から20時まで、第2期再生可能エネルギー経済学講座部門A研究会がオンラインで開催されました。今回の研究会では、京都大学の内藤克彦先生からご発表頂いた後、そのコメンテーターとして、東京電力ホールディングス株式会社の穴井徳成氏、東京大学の小宮山涼一先生からご発表頂きました。

実潮流に基づく送電系統運用による東日本の再エネの導入可能性評価

内藤克彦先生

 本研究では25年前の米国の電力改革で示され、日本以外の先進国で導入されている実潮流ベースの送電管理を日本の送電線に適用したら、空き容量が無い部分が多い日本の送電グリッドに再エネがどのくらい接続できるようになるかを評価する。実際に東電管内でも想定潮流から実潮流・リアルタイムが試みられているが、本研究の対象は東日本とし、米国等でよく用いられている日立ABBパワーグリッド社のPROMODというソフトウェアを用い実潮流による送電系統運用のシミュレーションを実施した。北米や欧州、豪州太平洋地域で計300件超の利用がある。同ソフトでは各変電所の需要、送電制約、発電制約に基づき、各時刻の給電指令を解析する。

 実際のシミュレーションでは入手し得る最新の電力需要データ、発電・送電設備に関するデータを用いた。データの整理手順は、トポロジーを設定(上位2系統を対象)し、各変電所に接続される既存発電所及びポテンシャルを特定し、各変電所の2018年度の電力需要と接続される発電所を特定した。東日本エリアのシミュレーションは2通りの分析シナリオ(①2030年再エネ目標、②再エネ目標+原発6基稼働)に基づき、実施した。暫定結果は、東日本の2030年断面では、関連発電協会・官民協議会が目標とする風力・太陽光発電を既存の送電設備に導入した場合も、実潮流に基づく送電系統運用を行うことで、出力抑制は両シナリオとも風力1%、太陽光はシナリオ①で2%、シナリオ②で3%となり、ほぼ全ての電力の需要地まで送電でき、東日本全体で再エネ比率33%、風力・太陽光比率が26%程度接続可能と示せた。また、北海道から東北の北本連系線の運用容量の上限に達する時間帯があり、原発を稼働した場合、ゼロ炭素比率は40%程度となる。今後、より明確な分析課題の設定、より詳細なデータの整備、蓄電池やDRのモデル化等、分析の精緻化を図り、対象を西日本に拡大する。

pdf資料(5.16MB)

脱炭素化に向けた再エネ拡大とグリッドの方向性

穴井徳成氏

 電力グリッドの課題は(1)再エネ等の非化石電源とエネルギー消費地をつなぐ空間的ギャップと(2)出力が変動する再エネと電力需要の時間的ずれを調整する時間的ギャップをいかに埋めるかである。東電では、分散型エネルギー(以下DER)の価格低下とGHG排出の制約(2050年80%削減)を考慮し、2050年のエネルギー需給全体を最適化するシミュレーションにより将来のエネルギーポートフォリオを試算した。

 空間的ギャップに関しては、需要に対して再エネ適地が偏るため系統増強が必要となるが、系統増強コストを考慮した電源立地誘導による全体最適化が重要であり、全体コストの最小化を志向した系統増強により連系線稼働率は一定以上を維持する。系統利用の最適化を図るため、混雑解消実施主体は卸電力市場の閉場前後で異なり、バランシンググループと送電会社が各々の役割を果たすことでメリットオーダーを達成できる設計が必要となる。再エネと電力需要の時間的ギャップに関しては、EVの蓄電池などDERの活用や、火力・揚水など系統電源によるバックアップが必要で、需要の低い春秋にはより多くの再エネ余剰が発生する。供給信頼性を確保するため、EVの蓄電池をピークの供給力として活用したとしても、バックアップのための火力発電が必要となる。

 今後の電力グリッドは、系統整備面では、発電コストだけでなく、系統/CO2コストも含めたエネルギーコストの最小化に向け、需要地近接電源、電源近接需要を誘導し、エネルギーコストの低減やイノベーション創出に資する系統の計画的整備が求められる。系統利用面では、系統利用のDX化により、CO2コストも含めた発電コストの安価な順で、限られた送配電空容量をリアルタイムに割り当てる仕組みへ移行する必要がある。

pdf資料(2.46MB)

電力需給分析の視点からのコメント

小宮山涼一先生

 内藤先生の報告書「実潮流に基づく送電線運用による北海道地域の再生可能エネルギー導入量推計(2020)」についてのコメントを行いたい。基幹系統(275kV)、8,760時間、実潮流を踏まえており、地域間連系線のみ考慮した多くの既存研究と異なり、有意義である。地内線の考慮は再エネ分析にとって重要である。送電線実潮流を踏まえた現実性のある電力負荷を想定している。

 設備容量所与でのメリットオーダー分析は適切な需給分析結果を示せている。例えば、風力発電から石油、石炭の順に代替していくこと、揚水式水力、一般水力、石炭による需給調整は適切と考える。

 北海道に着目した点も意義がある分析と考える。同地域の再エネ潜在量が大きく、系統規模は小さいため、需給運用や電力ネットワーク運用は、容易ではない。北海道の電源起動停止計画やネットワーク増強は重要な課題と認識している。

pdf資料(1.48MB)