Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2021年8月30日(月)の部門B研究会 議事録

2021年8月30日(月)10:00-11:00、15:30-16:30、17:00-20:00
於:Zoom会議室(オンライン)

 2021年8月30日(月)に再生可能エネルギー経済学講座部門B研究会が、Zoomオンライン会議にて開催されました。特別講演では、木下斉様(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス)及び清水延彦先生(京都大学)から、研究会では、八木信一先生(九州大学)・荻野亮吾先生(佐賀大学)及び佐無田光先生(金沢大学)からご報告をいただきました。

財政均衡化政策の中で、地方自治は成立しているのか。

木下斉様

 これまで多くのまちづくりの現場でご活躍されてきた木下斉様より、地方自治体の財政政策について、インセンティブ設計の観点からご発表いただいた。

 従来、自治体における公共施設の建設においては、いかに国から補助金を獲得するかが重要視され、結果として高額な公共施設が完成し、維持管理費も高く自治体の財政を圧迫することが見受けられた。また、入居テナント(顧客)の視点が薄く、高額な家賃のためテナントが埋まらないケースも見受けられた。

 本講演では、公民合築施設オガールプラザなどを事例に、公共施設の建設に際しては、入居テナント(顧客)の支払い可能な賃料から逆算して建設費を決定することの必要性や、公共施設と民間施設を合築する財政的効果、テナント&建設主体&自治体それぞれが黒字になる仕組みの構築の重要性が示された。

 また、自治体における「稼ぐ」認識の低さに対する指摘があり、まちを1つの会社と見立てて経営することの重要性が示された。更に、自治体にとって新たな収入は交付税削減にもつながるため、消極的職員が未だ多いこと、自治体経営において財政的自律を目指すことがそもそも困難なインセンティブ設計になっていることが指摘された。

 最後、参加者との意見交換では、自治体とコンサルタント等の関係などが議論され、自治体への地域目線でのアドバイザーの重要性などの指摘があった。

pdf資料(木下)(15.74MB)

運輸部門の脱炭素化に向けた電気自動車の普及可能性の評価

清水延彦先生

 本講演においては、冒頭、EV普及の現状として①新車乗用車販売に占める電動車比率、②EVは伸びつつあるが販売台数・保有台数ともに全体の1%にも満たないこと、③政府目標や自動車メーカー各社の販売目標などが整理された。また、課題として、①高価なEVを補助だけで普及を促すのは財政的に困難であること、②EV普及は税収減少を加速させ自動車関連税の見直しは不可避であること、③安価な軽自動車購入層の負担を考慮する必要があること、④充電設備等インフラの充足等が整理された。

 本研究において、消費者の車種選好の要因が分析された。コンジョイント分析の結果からは、①EVとガソリン車の平均的価格差以上に内燃機関を相対的に強く選好していること、②動力の選好程度は居住地域によって異なり特に⾞の利⽤環境等の地域特性の影響を強く受けていること、③軽自動車を含む⼩型セグメント購⼊層は価格重視であることなどが示された。当該結果から、セグメントや地域特性に応じて普及促進策を評価することが必要であるとされた。

 シミュレーション結果からは、①⼩型セグメントでは特に価格補助の効果が⼤きいこと、②EVの⽐較優位を損なう政策は普及を遅らせる可能性があることが示された。当該結果からEVを相対的優位とするようなガソリン車との負担バランスを制度全体で考える必要があるとされた。

pdf資料(清水)(2.5MB)

地域自治組織設立後における飯田市地区公民館の活動分析

八木信一先生・荻野亮吾先生

 本研究では、飯田市のエネルギー自治において、大きな役割を果たしたとされた公民館について、飯田市における再エネ条例制定前後、まちづくり委員会・自治振興センターの設立前後で、その役割がどのように変化したのかについて報告がなされた。

 本報告では、まず、飯田市における公民館、地域自治組織であるまちづくり委員会、自治振興センターのそれぞれの位置づけが整理され、特に公民館の果たす役割(人材育成、団体育成、関係形成)等が明示された。

 分析にあたっては、公民館における「学級・講座」、「専門委員会等事業」に分けて検討が行われた。学級・講座の分析結果として、①地域自治組織導入直後に、上村・南信濃の両地区では既存事業の見直しが大きく進んだこと、②各地区で新規講座の開設数は少なくなったこと(新規の学級・講座数からみると、地区の課題を組織化していく動きについては、停滞の傾向)、③まちづくり委員会との連携は事例は多いが長期的に連携する例は少ないこと(学級・講座の立ち上げ当初における連携が中心)等が報告された。

 また、専門委員会等事業の分析結果として、①地域自治組織設立後においてプロジェクト型事業が増えた地区が多いこと、②既存の専門委員会による事業(ルーティン型事業)の改善が図られてきたこと、③専門委員会等事業に対するまちづくり委員会の関与は、地区によって異なることなどが報告された。

 質疑応答では、公民館等において耕作放棄地等といった地域課題に踏み込んだ学習が増えることを期待したいという意見があった。

プラットフォーム型経済と地域のプラットフォームに関する検討

佐無田光先生

 本報告では、まず、グリーン・ニューディールの経済学、グリーン成長論批判が紹介され、「成長なき繁栄」のグリーン・ニューディールの可能性について言及された。また、気候変動対策のためには、エネルギー転換だけでは不十分であり、「成長なき経済」への転換を視野におかなければならないことが指摘され、「成長なき繁栄」の経済システムとして「プラットフォーム型経済」の検証の必要性が明示された。

 次に、プラットフォームの定義、近年進展するデジタル化とプラットフォームの先行研究が紹介され、プラットフォームにおいて、「つながる」ことが価値が生むこと、「共感」だけがやりとりもされる場合もあることが指摘された。

 また、プラットフォームビジネスの進展により企業、労働者の変容も生まれていることが紹介された。デジタル・プラットフォームの紹介の後、対面の価値の大きなプラットフォームである「地域プラットフォーム」の可能性が検討された。更に、今後、自治体は、新しい公共私相互間の協力関係を構築する「プラットフォーム・ビルダー」へ転換することが求められるとし、先行事例として米国のPortlandが紹介された。

 最後に、まとめとして、①グリーンニューディールを成長志向やケインズ政策的に考えることを改めることが必要であること、②プラットフォーム型経済では、「生産型企業」が劣位になり、財やサービスの生産で雇用は増えないこと、③これからの地域経済を担うのは、医療・教育・観光部門に加えて、地域プラットフォームを担う非営利部門であること(人々は柔軟で多業的な働き方に)、④地域インフラを支える非営利のプラットフォーマーと、そこに関わる公民協働のガバナンスの仕組みが重要であることが示された。

pdf資料(佐無田)(21MB)