Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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第5回 再エネ講座公開研究会(第2回【部門A】)
『米国型送電システムおよび我が国の実潮流による2050年送電シミュレ-ションと課題』

1.主催

京都大学再生可能エネルギー経済学講座

2.開催日時

7月25日(月)16:00~20:00 <オンライン>

3.プログラム

16:00-17:00
特別講演:
内藤克彦(京都大学)
「フロ-ベ-スの送電管理 (ノ-ダルプライシングとFTR)」

pdf資料(内藤)特別講演(3.28MB)

17:00-17:45
フロ-ベ-スによる2050年シミュレ-ションについて:
内藤克彦(京都大学)
劉 憲兵(リサ-チリ-ダ-)
栗山昭久(研究員)
津久井あきび(研究員)(公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES))
「実潮流に基づく電力系統運用を行った場合の2050年電力需給分析」

pdf資料(内藤)(4.9MB)

17:45-18:30
2050年シミュレーションについて:
小宮山涼一(東京大学)
「再エネ主力電源化に向けた最適電力需給シミュレーション分析」

pdf資料(小宮山)(9.86MB)

18:30-19:15
2050年シミュレーションについて:
穴井徳成(東京電力ホールディングス㈱)
「2050年CNに向けた課題について」

pdf資料(穴井)(2.23MB)

19:15-20:00 総合討論

※終了時刻は若干前後する場合がございます。

4.参加定員

約300名様
※セミナーの録画および録音等はご遠慮いただいております。

5.参加費

無料
※事前のお申込みが必要です。

6.参加のお申込みについて

7.セミナー使用システムについて

ZOOMウェビナーを使用してのオンラインシンポジウムとなります。
主催者側からお送りするURLにアクセスいただくことでご参加いただけます。
※通信料はご参加者さまご負担となりますので、Wi-Fi環境下でのご参加をおすすめします。

8.その他・開催進行について

ご質問は、ZOOMの「Q&A」を使って受け付けますので、「Q&A」に質問事項をご記入ください。可能な限り、回答させていただきます。


※報告資料について
開催当日の9:00以降に講座HPならびに以下リンク先に順次掲載させていただきます。
https://drive.google.com/drive/folders/1FjmWsZrv9pjHxOBpIhFYed1RVbkGSDCy?usp=sharing
なお、登壇者による資料は一部非公開とさせていただいているケースもございます。すべての報告資料が公開されるわけではない点、予めご了承ください。

●録画公開を予定しております。会終了後、準備が整い次第動画のアップロードを行います。

ご不明な点につきましては下記までお問合せください。
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京都大学大学院 経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座
E-mail:ree.kyoto.u@gmail.com
HP: http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/top/
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-3474
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議事録

2022年7月25日
於:Zoom会議室(オンライン)

 7月25日(月)16時から特別講演「フローべ―スの送電管理(ノーダルプライシングとFTR)」、17時~20時まで、第5回再生可能エネルギー経済学講座公開研究会(第1回【部門A】)「米国型送電システムおよび我が国の実潮流による2050年送電シミュレーションと課題」がオンラインで開催されました。今回の研究会では、京都大学の内藤克彦先生、東京大学の小宮山涼一先生、東京電力ホールディングス株式会社の穴井徳成氏から講演を頂きました。

特別講演:フローベースの送電管理 -ノーダルプライシングとFTR-

内藤克彦

 本講演では、ノーダルプライシングとFTR(Financial Transmission Rights)についての説明をしたい。まず、米国型の送電管理を振り返った後、本題に入りたい。米国の電力改革は、1996年に行われ、1)オープンアクセスの確保(電力卸売市場における競争を妨げる障害を取り除く)、2)フローベースの送電運用(実際の潮流ベースで送電を管理;欧米は本方式で運用)が行われた。

 フローベースの送電管理とは、毎時の需要に対応した潮流実態に応じた管理を時々刻々と行う、リアルタイムの送電管理を指す。Point to Pointの送電管理とは、グリッド全体を巨大な仮想電力プールとみなして、全ての取引(送電需要)は本プールへのINとOUTで管理することを意味する。潮流計算で送電制約違反になった場合、身近な発電所から振替送電(Re-dispatch)が行われる。

 振替送電によるノード価格を図で見ると、送電ネックがあるとノード価格が上昇する。ISOやRTOは送電混雑処理を行うに際し、LMP(Local Marginal Pricing)による電力市場を利用した方法を利用している。LMPとはエネルギー料金、渋滞料金、エネルギー損失を足したものである。ノード価格差がある場合、混雑料を受け取った結果としてISO等に混雑レント(Congestion rent)が発生する(混雑がなければゼロ円となる)。混雑すると、ISOは儲かる一方なので、混雑レントを相対契約の相手に還元する行為が発生し、これをFTRという。混雑料やノードの計算は、前日市場、リアルタイム市場、給電指令の際に計算されて判明する。

 FTRで、混雑料を還元する際、相対契約の発電側と需要側で混雑契約(Congestion Contract)を締結することで混雑レントの還元により、混雑リスクヘッジが行える。混雑レントが必ず足りるかについては、ネットワーク送電サービス側は、高いノードに高額の料金を支払っており、混雑レントを還元する必要はなく、混雑レントの方がたくさんある構造になっており、赤字になることはない。FTRとして、いかに混雑レントを還元するかが、ISOの技量の一つであり、変換手法はISOにより異なる。

 最後に東日本送電網の2030年のLMP分析について概要を説明する。詳細はシミュレーションの論文を参照願いたい。原発稼働なしとありで計算し、再エネは2030年目標を参照した。日本の平均的なLMPの値の分布は、9円/kWh位で、原発が入ると7.5円/kWhとなる。関東圏(特に首都圏)が北海道や東北よりLMPが高いのは、大規模な需要地を抱えているためといえる。

実潮流に基づく電力系統運用を行った場合の2050年電力需給分析

内藤克彦

 本講演は、再エネ(RE)比率を高める分析に焦点をあてる。分析背景として、ウクライナ問題の外部要因によるエネルギー需給関係の異常事態を念頭にRE比率を高める分析を行った。基本的に地内送電線の新規増強は想定せず、系統増強、広域利用を考慮した連携線強化を考慮し、2050年には普及しているEVや水素等を調整力とした。

 PROMOD(米国社のシミュレーションソフト)を使って分析し、分析対象は沖縄除く上位2系統とした。需要増に伴い必要となる場所、現在計画・検討されている送電網は含めた。2030年のシミュレーションは計画通りに配分したが、2050年はREポテンシャルの増加の範囲内で送電線の容量や立地点の適正配置を行ってシミュレーションを行った。これらを全ノード別に割り当てた。

 難しいのは需要想定である。既存の電力利用の他、自動車のEV化に伴う電力需要、産業で使用しているエネルギーの電力転換等、エネルギー部門での電力利用を考慮する。非エネルギー分野、船舶・航空分野での活動は考慮しない。新規電力需要は家庭部門の電化、業務部門の電化、乗用車のEV化、産業部門では熱利用に伴う部分の電化、原料としての化石資源利用は別途検討という整理をした。各電力需要の各変電所への按分方法は部門別に既存データを参照した。

 2050年の電力需要量は日本全体で1,252TWhと算定された。電力需要の増加に応じ、送電増強を行う必要がある場所(関東等)は67か所あり、海底ケーブル等も2か所想定した。本シミュレーションでは、全国を1つの制御地域として電力の広域融通が円滑にできるよう想定した。

 調整力はEVを想定し、25%の調整力を使う。地域で台数が異なるため、ノード毎に分配した。調整力としての水素のうち、自動車燃料として使う水素、専燃火力としての水素を考慮した。調整力は短期と長期に分けられ、水素は長期に使われる想定で貯蔵、流通の問題が生じる。欧州ではTSO配管で流通しているが、日本の場合はガスTSO配管がなく、高圧の配管がある場所は限定される。EVや家庭用給湯ヒートポンプは短時間(1日未満)しか使えず、水素やダム系統(水力)が長期で使えるものとなる。

 RE設備容量は、EV容量相当の太陽光を大都市部は導入の想定で、洋上風力で水素を製造すると想定した。洋上風力の設備は東北が弱く、新潟が強いのは水素製造拠点の有無による。陸上風力や太陽光はポテンシャル通りに按分だが、都市部近郊ではEVを考慮した。

 シミュレーション結果は、月別・地域別の変動パターンがあり、出力抑制は日本全体で11%だが、洋上風力の出力抑制は、水素製造拠点の水素製造能力の大きさに左右される。送電線の使用状況は全体に利用率が高くなっているが、運用容量に収まっている。本分析ではEVと水素専燃火力が主な調整力である。グリーン水素を用いた水素専燃火力含むRE比率100%まで高められる組み合わせを想定した。今後の課題は下位系統の送電線の制約、ガス管ネットワークや貯蔵の実現性、産業構造、グリーン水素製造設備の経済性等を考慮する必要があると考える。

再エネ(RE)主力電源化に向けた最適電力需給シミュレーション分析

小宮山涼一

 本講演では最適電力需給シミュレーションを説明する。電力需給情勢を見ると非常に厳しい。本年7月21日までの約1年間の電力スポット価格を見ると、高騰気味である。電力需給運用(九州地域:2022年4月16日から18日)を見ると、RE出力抑制がかなり行われており、RE普及が卸電力価格に影響を与えている。

 電力系統と安定供給については、電力基幹系統の役割として、供給力、電力量、系統安定性、慣性力・同期化力の確保を担っている。電力系統計画はREポテンシャル等を踏まえて計画するプッシュ型が重要である。電力系統の数値シミュレーションは、過去10年間継続し、発電、送電網、電力貯蔵等の投資、運用について総合的な最適化を重視してきた。2050年までの4期間の動学的シミュレーションも行ってきた。

 本日は2050年、カーボンニュートラル(Carbon Neutral:CN)としてシミュレーションしてきた結果を紹介する。分析手法は電力需給モデルを使用し、RE出力変動への対策として、揚水式水力、バッテリー、地域間連係線、RE出力抑制、火力・原子力の出力調整等を考慮しモデルを最適化している。

 CN実現に向けた電源ベストミックスとして、他国事例も踏まえケースを設定した。CN制約は太陽光、風力、水素発電、バッテリー等の導入が拡大される。REは約5‐6割で設備容量は現在2億5,000万位となっているが、容量自体は顕著に増加する。電力需給運用に際し、自然変動電源、水素、原子力、バッテリー、CCUS等の最大限活用による脱炭素化と調整力の確保が重要である。洋上風力発電の設備利用率は高いが、出力変動は安定電源に比べ大きく、無風期間も存在するため、クリーンな火力等での補強が必要である。電力価格はCO2制約により上昇、変動幅も拡大するため、脱炭素化と経済性の両立が課題となる。

 地点別電力限界価格(ノーダルプライス:LMP)を見る。需要の高い都市部で電力価格が高く、REの発電拠点では平均的に低くなるため、ノーダルプライスの制度化が必要と思われる。

 現在進行中の研究は、セクター・カップリング技術の考慮、(基幹)系統慣性に関する制約、電源構成・都市ガス供給、系統幹線の分析等である。

 電力の解析モデルを活用する際、時間的解像度(10分、30分、60分、120分、240分値)に関する分析を行ったことがあるが、時間的解像度が低いほど、調整力(LNG複合、蓄電池)の導入量が減少するリスクがある。電力系統増強の費用対効果は、日本全体で俯瞰的に見ることが重要である。需要家側技術の能動的制御も考慮すべきで、発動指令電源としての電力系統安定化への貢献の可能性が高い。太陽光発電の系統最適接続シミュレーションでは、電力システムの総費用の削減を検討する上で意義がある。

 現在、日本全国の送電系統、潮流制約を考慮した最適電源構成モデルによるCN実現に向けた影響分析を行っており、今後の課題は下位系統への拡張モデル、基幹系統、1時間値或いは10分値、2050年までの各年の投資行動を考慮した動学最適化方モデルを開発することである。

2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた課題について

穴井徳成

 本講演では、カーボンニュートラル(CN)に向けた電力システムの検討課題の全体像、ネットワーク(NW)の広域化・分散化、電力需給構造の変化への対応の3点について現在の取り組みを説明する。

 CNに向けた電力システムの検討課題の全体像(スライド2を参照)を俯瞰すると、1)広域的な電力市場と2)NW広域化(地域間連系線・基幹系統における広域的な利用とNW整備が課題)の整合性を図るとともに、2)と3)NW分散化(分散リソースを活用したNWの効率的な形成が課題)との整合と、分散市場と1)との整合も図っていく必要がある。また、1)と4)需給構造の変化(短期需給の分析・評価)の整合を図りながら再エネ導入と安定供給実現を目指す。

 広域的なNWは、将来の不確実性を考慮したシナリオを設定して形成していく必要がある。国民負担の最小化に向け、電源とNWの一体的な評価を行っていくことが重要である。ノンファーム導入により系統混雑(電源抑制)が今後顕在化していくだろう。今後、地点別限界費用(LMP)を導入することで経済優先のNW利用を実現しつつ、混雑状況や再エネ(RE)抑制状況の定量評価・可視化を行い、公平性・透明性を向上させていくことが必要と考えている。

 NWの広域化とともに、NWの分散化も考慮していく必要がある。PV・電化の進展から配電NWにおける混雑が顕在化する可能性がある。配電用変電所レベルで需要(電化)の想定や再エネ(PV)の導入想定に基づく8,760時間(1時間単位)のフローベースの需給・潮流分析も必要で、配電用変電所の混雑に対しては、分散リソース(DRや蓄電池など)の活用を行う等のNW形成を考えていく必要がある。

 NW広域化とNW分散化の整合は重要であり、一体的な分析・評価が必要である。基幹系統から1次変電所まで、LMPを用いて、NW全体の混雑状況やRE抑制状況を定量評価・可視化するだけでなく、今後配電用変電所まで拡張していく必要があると考えている。

 電力需給構造の変化への対応については、将来1)需給変動量の増大、2)RE電源の増加、3)調整電源の減少の課題が出てくる。足元での需給を継続的に把握することでCNに向けた変化を捉え、需給運用の抜本的・継続的なカイゼン、安定供給とCNの両立のために変化に応じた柔軟な対応、仕組みが必要と考える。