Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2023年4月24日(月)部門A研究会 議事録

2023年4月24日
於:三井住友銀行ホール(オンライン同時開催)

 4月24日(月)13時30分から16時時30分まで、再生可能エネルギー経済学講座部門A特別講演が現地開催とオンライン配信のハイブリッドで開催されました。今回の特別講演では、八田達夫先生と山家公雄先生よりご講演をいただき、再エネ講座メンバーとの議論が行われました。

13:30-15:30 八田達夫先生(アジア成長研究所理事長 )「 内外無差別化の必要性 」
15:30-16:30 山家公雄先生(京都大学特任教授)「テキサスEnergy-Only-Marketの効果と見直し論」

内外無差別化の必要性 価格の歪みへの対処法

八田達夫

 (この発表は、その後、八田達夫 (2023) 「旧一電による相対契約での内外差別は、価格高騰を増幅させる」, 京都大学大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座 ディスカッションペーパー, No. 47, 2023年6月. として公表された論文に基づいている。)

 電力全体の8割ほどの供給を行っている旧一電(以下「大手電力」)の発電部門は、新電力およびそれぞれの各大手電力の小売部門と、相対契約を結んでいる。しかし、大手電力の社内用の相対契約である制限式変動数量契約(以下、UR契約)を、新電力は結んでいない。このことは、①需要家ごとに異なる価格に直面することによる非効率を生み、さらに、②UR契約は、需給が逼迫した際に不必要に価格を高騰させるという弊害も生んでいる。

 このうち弊害①は、大手電力に、契約における内外無差別を義務化することによって解消できる。実は、内外無差別の義務化は、UR契約が引き起こしている弊害②をも、以下のように除去する。小売側によるUR契約の契約条件の遵守状況を発電側が監視するための費用は、社内に対してはほぼ0だが、社外に対しては禁止的に高い。内外無差別が義務付けられると、新電力に対する監視費用を、大手電力小売部門にも平等に負担させなければならなる。このため、新電力も小売部門も、その負担を避けるために、UR契約に入札しなくなり、UR契約は消滅する。結果的に、内外無差別の義務化は、UR契約がもたらす弊害も除去する。

 したがって、電気事業法を改正して、内外差別化を義務づける必要がある。そのために必要な、内外無差別化の具体策を明らかにすることが、本論文の趣旨である。

F契約とUR契約下で小売側が直面する価格の比較

 まずは、大手電力の発電部門と新電力との間で結ばれている典型的な契約である、確定数量契約(以下、F契約)を考える。F契約とは、取引数量と契約料金(基本料金と従量料金からなる)を事前に決める契約である。小売部門は、契約量は必ず買わなくてはならないが、それで不足する場合は市場からの購入で補うことができる。契約量が自部門使用量を超える場合は、その超過分を市場に売却することになる。したがって、いずれの場合にも、小売側が最終的に直面する価格(最後の一単位の購入に支払う金額)は市場価格となる。

 それに対して、現在、大手電力の発電部門が自社小売部門と結んでいる社内相対契約の多くは、「制限的変動数量契約(UR契約)」である。この契約は、まず「変動数量契約」である。すなわち、小売側が希望する需要量を上限量の区間内で自由に決定でき、発電側はそれを供給する義務を負う。さらに、UR契約には「再販売禁止条項」という制限が付けられている。すなわち、この契約で購入した電力の一部を取引所に再販売することは許されない。(これは、発電部門の損失を防ぐためである。仮に、小売部門が自部門の需要量を超えて、上限量まで追加購入して転売することができれば、市場価格が契約価格より高い場合には、小売部門は利益を増やせるが、発電部門はその分の利益を失うからである。)

 日本の大手電力会社は、通常は、UR契約の取引上限値を、小売部門の需要量を上回る高い水準に設定している。したがって、UR契約を結んでいる大手電力の小売部門は、通常UR契約から、自部門の需要量のすべてを購入する。しかも「再販売禁止条項」によって、自部門の需要量を超えて購入して入手した超過分を市場に再販売することは許されていない。このため小売部門が最終的に直面する価格は、市場価格ではなく、契約価格である。

F契約とUR契約の下で達成される市場均衡価格の比較

 ここまでは、市場価格が与えられたときに、各社内契約下で、小売り側が直面する価格を検討してきた。次に、市場価格を内生化した市場モデルを構築して、以下の性質を示す。

 市場価格が契約価格より高く、小売部門の需要量がUR契約の上限量以下の状況では、UR契約の場合には、F契約の場合より均衡市場価格を増幅させる。 (1)

 モデルは次の通りである。①当該大手電力の管区は、他の大手電力の管区と連系されていない。②当該管区では、取引所が機能している。(沖縄のように機能しないことは考えない。)③新電力は、すべての電力を取引所から調達する(相対契約はなし)。④大手電力の小売部門は、社内相対契約の契約条件に基づいて調達し、必要な場合には不足分を取引所から調達する。⑤大手電力の発電部門は、社内とのみ相対契約を行い、新電力とは相対契約をしない。さらに、余剰分は取引所に供給する。このモデルでは、まず次が成り立つ。

大手電力全体の取引所への供給量 = 発電部門の発電量 - 小売部門の需要量 (2)

 このモデルで、(1)を示そう。気温の上昇などのために市場価格が上昇すると、大手電力の小売部門は、F契約の下では高い市場価格に直面するため、大きく節約する。このため、(2)から、大手電力はかなりの電力量を取引所に供給する。一方、UR契約の下では、市場価格が高くても小売部門が直面するのは安い契約価格となり、高い市場価格にもかかわらず、節約の動機がなく買い続ける。このため、(2)から、大手電力全体による取引所への供給量が減少してしまう。このことから、UR契約の下では、F契約の下でも起きた需給逼迫による市場価格高騰をさらに増幅させることを説明できる。すなわち(1)が成立する。

 なお、極端な逼迫時には、小売部門の需要量が上限量を超えてしまい、(1)の前提が成り立たないコマが発生する事がある。しかし、需要量が上限量を超える事態に至る前に、寒波などによって、需要量が上限量をわずかに下回るほど高水準であった期間が続いたとすると、その期間中には大手電力の小売部門には節約の動機が働かないから、LNGが不必要に多く消費されてしまい、LNGの在庫不足が起き得る。この場合、小売部門の需要量が上限量を超えるコマが発生する前におけるUR契約下での節約欠如効果によって、取引所に供給可能な電力量が極端に減少しており、市場価格が吊り上がってしまう。したがって、小売部門の需要量が上限量を超えてしまう場合にも、最初からF契約であった場合と比べて、UR契約は、市場価格高騰を増幅させるのである。すなわち、(1)の結論が成り立つ。

内外無差別化の具体策

 大手電力の社内でUR契約を結ぶことを消滅させる方策である内外無差別化とは、すべての小売事業者が大手電力の小売部門と同一の契約条件の契約を、大手電力の発電部門と結べるようにすることである。具体的には、基本料金は入札者に事前に通知し、従量料金については板寄せ方式で入札にかける従量料金入札スキームを考える。このスキームでは、大手電力の発電部門が、相対契約のタイプごとに従量料金を価格とする供給曲線を示す。次に、電力小売部門を含めた小売事業者は、契約型ごとに自社の需要曲線を入札する。その上で、それらを全市場参加者について加え合わせて均衡価格を決定する。

 UR契約では、小売側に、電力の取引所への再販売禁止等の契約条件を、遵守させる必要がある。これを監視することは、社内取引については容易であるが、社外取引については禁止的な費用がかかる。一方、内外無差別な契約が義務付けられた場合、大手電力の小売部門にも、新電力に対する監視コストに見合った禁止的に高い基本料金を取らなければならない。この費用負担のために、小売部門も新電力もUR契約を結べなくなる。すなわち、内外無差別を義務化することによって、UR契約は消滅する。結果として、F契約のみが残る。なお、内外無差別化によってUR契約が消滅すると、小売部門は市場価格に直面することになる。したがって、市場価格と連動した小売契約が増えることが期待できる。

 内外無差別化は、発販の所有権分離をしなくても実行できるため、優先すべき課題である。

テキサスEnergy-Only-Marketの効果と見直し論

山家公雄

 テキサスにおけるEnergy-Only-Marketの効果と見直し論が今回のテーマである。アメリカの最新電力事業についてEnergy-Only-Marketの特徴と、今テキサスでこれが崩壊するかもしれない動きが起きていることについて説明する。

 アメリカでは、新規電源が毎年増加している。天然ガスや太陽光・風力に加えて、最近ではバッテリーストレージの導入も進んでいる。2022に少し追加量が下がっているものの、これはインフレによる資材価格の高騰によるものである。2021年の追加発電容量を見ると、ERCOTに集中していることがわかる。そこに他のISO/RTO外等がつづいていく。また太陽光の発電設置容量も増加を続けている。2021年6月から2022年6月にかけての一年間は特に大きく伸びており、その内訳を見るとテキサスが大きい。テキサスは風力発電の多いところであったが、太陽光についても大きく伸びている。系統の電源追加予定量をみると、今年度の追加見通しについてはソーラーが目立つ。また、バッテリーストレージは太陽光に次いで二番手に位置付けられている。

 バッテリーストレージ設置容量の推移と見通しを見ると、2020年から増え始め、2025年には30GWくらいになる見通しである。増加のきっかけとしては、2012のPJMにおける周波数調整サービス市場の開始、 2013年のCPUCのダックカーブ緩和の動き、2018年のFERCによる全ISO/RTOに対するストレージサービスの導入指示が挙げられる。蓄電池に期待されている役割についても、アンケート調査によればFrequency regulation, Price arbitrage, Ramping or spinning reserve等、様々あらわれている。

 運用されている場所と確実な計画のある場所をみると、再エネ導入に熱心な地域はストレージ導入にも積極的であることがわかる。またテキサスなどではスタンドアローンでの導入もみられる。先行したこともあってカリフォルニアで特に導入量が多いが、計画まで含めるとテキサスもそれに並びつつある。具体的なプロジェクトを見てみると、容量についてはダックカーブを意識してカリフォルニアではデュレーションが4(MW:MWh=1:4)になっている。一方、テキサスではデュレーションは1である。これは短期調整を期待したものということであるが、将来的にはカリフォルニア同様ダックカーブ効果を意識して大きいデュレーションになってくることも考えられる。

 テキサス州の市場機能について説明する。アメリカ、特にテキサスの特徴として、経済成長・人口増が圧倒的である。多彩な産業があり、日系企業もどんどん進出している。州の電力取引の9割はERCOTが占めており、基本的に低コストとなっている。また、ERCOTは孤立系統となっている。政治的には共和党が強く価格メカニズムが重視されており、透明性のある競争が電力市場に強く寄与しているようである。

 毎年の電源導入の推移をみると、その時々で最も競争力のあるものが出てきている様子が見て取れる。再エネ(特に風力・太陽光)とストレージについては、今後もどんどん増えていく見込みである。2021年までの発電量の推移をみても、石炭と天然ガスが減って、風力とソーラーが増している。そして今年度の予想では、風力とソーラーで4割ほど行きそうになっている。州知事や火力発電協会・化石資源協会からすれば、風量と太陽光が過半数となりそうであることに対して、抑制したいという意向もあるようだ。

 電力市場の仕組みについて、日本やドイツではTSOと電力市場取引がそれぞれ役割分担した運用となっている。一方で、PJMの電力市場では、前日市場では卸市場とアンシラリーサービス取引とは一体運用されている。アンシラリーと卸市場の入札を同時にすることで、最も効率の良いところで決まるようにしている。PJMから容量市場をなくしたものがテキサスのEnergy -Only- Marketとも言え、市場としては最も競争性が高い仕組みと言える。

 ERCOTのAll-in平均リアルタイム価格の推移をみると、一部イレギュラーはあるものの、電力市場価格は限界費用である天然ガスの市場価格とほぼ一致していくことがわかる。そして系統予備率の予想については、今後4割ほどの予備率になっていくのが見える。なお、2023年についての直近の見込みは、需要が増える見込みから低めの算定がされている。

 次に、テキサスERCOTの特徴について説明する。経緯としては、1999年に州法で自由化が規定されたところから始まる。2002年に小売りの自由化、2007年にデフォルトタリフ(日本でいう規制料金)が廃止されている。2001年にはゾーナルからノーダルになっている。2014年に容量市場は否決されている。2021年の大停電などを経て2023年にはPUCからPerformance of Credit Mechanismが提案されている。これは容量市場とEnergy Only Marketを足して二で割ったようなもの。そして4月には上院でガス火力支援・アンチ再エネ法案が議決されてしまった。これが下院でも通ってしまうと大問題である。

 アメリカの市場では前日市場で約定し、リアルタイム市場で実際に動く設備を決める。しかもこれは調整力とエネルギーを同じ主体(TSO/RTO)が調達することになっており、調整力とエネルギーも同時に最適化されて選べる仕組みとなっている。テキサスは容量市場がないので、ギリギリまで市場に調整を任せ、前日市場以降の市場についてReliability Unit Commitmentに対して初めて一日前と一時間前に指示が出せる。

 Operating ReserveのDemand Curveを考える。容量市場に似ているのだが、運転予備力が減ってくると限界費用を超えて価格が上がる仕組みとしており、これによって投資意欲が喚起されている。ERCOTでは柔軟性を高めようとする場合、Operating ReserveのDemand Curveを急こう配にしたりする。

 2021年二月には、120年来の大寒波で電源の半分ほどが凍結した。このときの価格メカニズムをみると、需要予測と実際の需給を見ると、二月初めは予測より寒くて増えていた。しかし、中旬になって価格が上がったことで、実際の需要が減り、予測値より低くなっていった。このとき、火力発電の凍結と、天然ガスの凍結は相乗効果になっていた。ガスを掘るところにも電気が行かなくなって掘れなくなり、ガスが取れない。ガスが取れないから発電が出来ない。発電が出来ないからまた同じところになる。凍結とガスと電気の連携が大きな問題であった。ただ、寒波が済んだら元の価格水準に戻っていることも確認できる。

 この寒波における最大の問題は天然ガス発電の停止であった。停止の原因は燃料制約と発電設備凍結、設備の支障(周波数調整の問題)によるものであった。天然ガスの生産量自体も半分ほどとなり価格が急騰し、電力というよりガスの問題といえるものであった。テキサスは他州に比べガスに頼りすぎていたという議論もでている。

 最後に、停電後のReliability対策と市場改革の議論について整理する。まず、防寒措置がなされていなかったことが大きい。また、ガスと電気の連携が悪かった。容量はあったが動かなかった。容量市場の有無は問題でなかったと考えられる。しかし250人ほどの死者が出たこともあり、政治的にも対応が求められ州議会でPUCT対策提出を含む法案が2021年内すぐに設立している。発電・送電・ガス設備の防寒対策がなされ、電気とガスの連携も指示され、緊急時の電力利用用のガス設備の特定と共有がなされるようになった。またORDCの勾配が急になるようなDispatchableな設備の収益性をあげる措置も取られた。

 そして、Performance of Credit Mechanismが検討中となっている。これはDispatchableな容量に対して小売会社はクレジットを払い、3年後や4年後ではなく緊急時はいつでも供給を受けられるようにするものである。しかし、これについては反対者も多い。制度自体がわかりにくいことや、実装に時間がかかることやコストの高さも課題となる。現状では問題が解消していることも大きい。さらに対案が出ている。省エネとDRは低コストで即効性がある。またDRRS(Dispatchable Reliability Reserve Service)という新アンシラリーサービス案も出ている。

 こうした中で、上院議会は4月6日にproガスアンチ再エネ法を可決している。これはSB6(非常用ガス火力新設の補助・促進)やSB7(アンシラリー創設)、SB1287(再エネ新規接続の費用上限の設定)、SB2012(PUCが創設するPCMのコスト抑制)、SB2014(再エネクレジット排除等の再エネ優遇削減)SB2015(再エネ電力の目標値の50%化)などからなる。これらが通れば、エネルギー転換におけるテキサスの在り方は大きく変わってしまうことになる。テキサスの効率的な競争市場が維持できるか否かは下院にかかっている。

pdf京大講義(山家)テキサス市場の効果と見直し論(2.88MB)