Research Project on Renewable Energy Economics, Kyoto University

京都大学経済学研究科

再生可能エネルギー経済学講座

本講座(第2期)は、2024年3月31日をもって終了いたしました。

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2023年3月27日(月)部門C研究会 議事録

2023年3月27日(月)
於:法経東館B1F 三井住友ホール(ハイブリッド)

 2023年03月27日(月)15時30分~20時、再生可能エネルギー経済学講座部門Cの研究会が、三井住友ホールにて開催されました。今回は、京都大学の杜依濛先生、千葉商科大学の中山琢夫先生、尚絅学院大学の東愛子先生よりご報告いただきました。

ドイツの再給電指令と当日市場の利用について

杜 依濛 先生

 本報告は、実証分析により、ドイツにおける電力の当日市場(時間前市場)の利用状況が再給電指令に与える影響を解明することが目的であった。

 報告の前半では、ドイツの再給電指令が誕生した背景とその内容を具体的に紹介した。ドイツ国内の主な電力需要地は産業が集積する南部となるが、北部に大量の風力発電が導入されている。そのため、地域間の電力調達による送電線上の潮流量が増加し、深刻な系統混雑が発生する可能性が高い。この問題は、特に冬季に北部から中西部と南部に向ける送電線で発生した。2020年のドイツ国内の実例から見ると、Tennet社管内では系統混雑が頻発している。一般に、混雑処理するための系統運用措置として、「カウンタトレード(混雑を緩和するkWh取引)」と「再給電指令(混雑を緩和する電源出力の変更)」、「系統リザーブ」、「再エネの出力抑制」、「全電源を含む再給電指令」という順番でよく実施される。本研究の焦点となる再給電指令とは、需給調整電源よりも広範囲に長時間大規模に行われる調整を意味し、系統混雑が発生する時にまず再エネの優先給電ルールを遵守し、容量が10MW以上の従来電源に再給電の指示が出されるということである。具体的には、ゲートクローズ後、送電容量不足により、発電計画の一部について送電できないことが判明した場合には、調整力への指令と同じ仕組みにより、一般送配電事業者が混雑系統内外の従来電源に対し、同量の下げ指令・上げ指令を出して混雑を解消することである。ただし、混雑緩和に対する貢献度を考慮し、ドイツ政府が2021年10月1日から再給電指令2.0を開始し、容量が100kW以上の分散型電源も再給電プロセスに含まれて、再エネ電源であっても従来火力電源と同じく出力抑制することがある。

 報告の後半では、実証分析で使用されたデータと変数を説明した後、分析結果を示した。2021年10月1日から2022年12月31日までの秋季・冬季期間に、(1)50Hertzt地域において、当日市場の利用増加が再給電量の引き下げに貢献できる、(2)TransnetBW地域の再給電行動が50Hertz地域の再給電行動と大きく関係している、(3)風力の発電量と予測誤差が大きほど、再給電量が上がる、などの結果が出された。他に、(1)Tennet地域において、当日市場の利用が再給電量に有意な影響を与えていない、(2)TransnetBW地域の再給電行動がTennet地域の再給電行動と大きく関係している、(3)風力の発電量と予測誤差が大きいほど、再給電量が上がる、(4)太陽光発電量が大きいほど、再給電量が下がる、などの結果が明らかにした。また、全分析期間において、50Hertz地域では、風力の予測誤差が再給電行動に有意な影響を与えていない結果が発見された。

 最後に、現在まで研究の限界と問題点を指摘した上で、今後の研究内容を提案した。

pdf発表資料(杜)(6.22MB)

再エネの市場統合プロセス

中山 琢夫 先生

 本報告は、日本における再生可能エネルギーの市場統合プロセスに巡り、各段階の進捗状況及び今後の方向性を議論することが目的とした。

 まず、再生可能エネルギーの導入促進に向けた国定価格買取制度(FIT: Feed in Tariff)政策に言及した。FITの導入によりコストが比較的低いため、再生可能エネルギーは多くの国に普及した。日本において、2012年に「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」の施行によりFITが正式に導入された。ところが、再生可能エネルギーの割合が増加し続けるにつれて、電力市場との統合がますます重要な課題になっている。しかも、再生可能エネルギー市場の統合をさらに推進するためには、FITからFIP(Feed in Premium)への移行に期待された。FIPの導入により、再生可能エネルギー発電事業者が市場取引の経験を蓄積し、市場の統合に役立つことが強調された。

 次に、FIP制度について詳しく説明した。FIP制度の収入はFIT制度と異なり、売電収入とプレミアム収入の2つの部分から構成された。それに、プレミアム収入の算定に影響を与える参照価格とバランシングコストの構成イメージについても説明した。日本ではFIP制度が導入されて、再生可能エネルギーの電力市場への統合を促進するだけでなく、ビジネスモデルの多様性や社会コストの低減も進められた。

 そして、電力購入契約(PPA: Power Purchase Agreement)、特にコーポレートPPAの意味、発展経緯及び類別を紹介した上で、再生可能エネルギー市場の統合への役割を明らかにした。コーポレートPPAとは、電力の需要家(買い手)である企業が発電事業者(売り手)との間で長期にわたって結ぶ再生可能エネルギー電力の購入契約である。近年間、コーポレートPPAが世界で大幅に成長し多くの注目を集めている。コーポレートPPAは「オンサイトPPA」と「オフサイトPPA」に分けられる。オンサイトPPAとは、発電事業者が需要家の敷地内に発電設備を設置し、電力を提供する仕組みである。主に①設置容易、②初期費用ゼロ、③系統増強費用なし、④電気料金が安くすることができる、⑤非常用電源として活用できる、などのメリットがある。ただし、オンサイトPPAモデルには場所的制約の問題があるだけでなく、発電量が企業の電力需要の一部しか満たすことができない可能性があると指摘された。この問題を解決するために、多くの企業がオフサイト再生可能エネルギーの調達オプションを検討している。オフサイトPPAには、物理的な電力の取扱いに応じて「物理的PPA(Physical PPA)」と「仮想的PPA(Virtual PPA)」の2形態が存在する。2つの形態のフレームワークを詳しく説明し、比較を行なった上で、仮想的PPAが大規模なPPA市場において標準になりつつあるという結論が出された。日本における2022年度開始したFIP制度によると、発電事業者の裁量で再生可能エネルギー発電の相対取引が可能となり、FIP制度の支援を受けつつ間接型オフサイトコーポレートPPAを実現することも可能であると強調した。

 最後に、分散型電源(DER: Distributed Energy Resources)の市場開放が再生可能エネルギーの市場統合への推進について述べた。DERの定義を説明し、日本において留意すべき4つの重要な要素を提示した上で、今後の取組みの方向性を提案した。

pdf発表資料(中山)(2.83MB)

ドイツにおける石炭フェーズアウト政策

東 愛子 先生

 本報告は、ドイツにおける石炭フェーズアウト政策に焦点を当てて、文献調査に基づいた結果を提示することが目的とした。ドイツの石炭フェーズアウト政策が大きく「直接的に石炭火力による電力供給を禁止する政策」、「石炭CHPプラントの燃料転換を促す政策」及び「炭素価格付け」の三種類に区別される。

 まず、直接的に石炭火力による電力供給を禁止する政策に関する経緯と内容を紹介した。2007年制定の「Integrated Energy and Climate Program」によって、ドイツは2020年に90年比40%のCO2削減を達成することを目標として定めていた。その時点で石炭や褐炭のフェーズアウトは議論されておらず、主に石炭・褐炭のCCSと組み合わせて気候変動目標を達成することが想定されていたようである。ところが、2014年の「Climate Action Program 」2020によって電力セクターは2020年までに2200万tCO2を減少するという具体的な数値目標が決まったことで、ドイツでも石炭・褐炭のフェーズアウト及び影響を受ける地域の産業構造転換を図る政策が議論されるようになった。また、削減目標を達成するために政府が2015年に「Climate Contribution」という政策を提案した。この政策は炭素税のように発電事業者に追加的財政負担を要求するものであり、負担額は18€/MtCO2が想定されていた。この政策の導入により、最も影響を受けるのは熱効率の悪い古い石炭・褐炭発電所であることが明らかにした。しかし、地方政府や発電事業者、労働組合の反対にあって導入されず、代わって2016年に導入が決まったのが「Coal Reserve」である。「Coal Reserve」という政策が発電所は市場から取り置かれて4年間待機ののち閉鎖されることになっており、1000万tCO2を削減が可能と見込みまれている。閉鎖になる発電所に対して、4年間の待機料や失われる収入機会を補償するために、1億6000万ユーロが支払われることとなっている。これに加えて、2018年に連邦政府がCoal Commissionを設立した。この委員会が提示した政策を基に2020年に施行された石炭火力削減法(KVBG)により、残りの石炭・褐炭発電所のフェーズアウトスケジュールが決まっている。まず150MW以上の褐炭火力に関しては、2020年から2038年までの間に25基約17.2GWを段階的に閉鎖する予定である。一方、石炭火力や150MW未満の小規模褐炭発電所のフェーズアウトは、自主的削減を進めるために、削減目標量に対する2024年までに7回のオークションが実施されている予定である。

 次に、石炭CHPプラントの燃料転換を促す政策に関する内容と残る課題を議論した。CHP法により、高効率のCHPからの発電に対し割増料金(ボーナス)が付与される。さらに、石炭・褐炭CHPを他燃料のCHPに建て替えた場合、石炭ボーナスを受け取れる。しかし、①どれだけCO2が削減できる技術を選択するかはボーナスの評価ポイントに入っていない、②運転の柔軟性、の2点が課題として残した。

 そして、炭素価格付け政策に言及した。最も代表的なのは欧州連合排出量取引制度(EU-ETS)である。「Fit for 55」及び2021年以降のガス供給ひっ迫の影響で、排出枠(EUA)の価格が大幅に上昇した。また、ドイツの石炭クローズに伴ってEUA総量がキャンセルアウトされるのかまだ不明である。ドイツの石炭フェーズアウトとEU-ETSとの仕組みの関係はまだ明確ではないと示した。

 最後に、今後の現地調査の注目点について詳説して終わりとした。

pdf発表資料(東)(1.54MB)